NOVEL ... 小説


 小説らしきものを最初に書いたのは20代後半だったが、身の程知らずにいきなり中央の高名な文芸賞に応募したせいなのか、結果は芳しくなかった。
 その後、小説とは縁なき生活が続いたが、40代になって突然また創作の虫が騒ぎだし、一気に書き上げたのが「八月の記憶」だった。この小説は当初私的なパソコン系同人誌に発表したのだが、大変に評判がよく、細部を書き直して札幌市民文芸に投稿したところ、小さな賞をいただいた。
 以来、身辺雑事をテーマに粛々と書き続けているが、結果が良いものは決まって家族と自分の関係を見つめたものである。今後はこの方向で書き続けられたらいいと思う。
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増殖コウカ/30枚・中学生以上
 雪融けのころの北の街。脱サラでデザイン事務所を開業し、10年が過ぎようとしている中年男の身の回りに、経済不況と電算化の波が音をたてて押し寄せてきていた。
 取引先、仕事、そして家族の狭間で迷走し、増大し、そして崩れていく男の不安。
「現代人の抱える漠然とした不安」という困難な課題に、果敢に取り組んだ実験的作品。
(第32回北日本文学賞第四次選考通過作)


流れる夏/30枚・高校生以上
 自宅で小さなデザイン事務所を営む「男」は、長い景気の低迷に身も心も疲れ、精神のよりどころを求めていた。
 ある夏の仕事帰り、不意にカーラジオから流れてきた放送が、眠っていた「男」の遠い日の記憶を風のように呼び戻す。やがて仕事部屋に戻った「男」は、自分のものとも他人のものともつかない追憶の波に、ゆるやかに身をゆだねる。「男」にとってそれは、流れる日常の中で見失いかけていた自己の精神を癒し、身の置き場を回復する確かな手だてでもあった。
(1996札幌市民文芸・第13号優秀賞受賞作)


八月の記憶/50枚・小学校高学年から
 北の寒村の小さな小学校にある年の春、ひとりの転校生がやってきた。都会的な顔だちと優しい性格を合わせ持った由起子という名のその少女は成績も良く、たちまち皆の信望を集めた。出稼ぎの大工を父に持つ直人も、そんな由起子にそれまで感じたことのない不思議な感情を抱く。
 自分と由起子とは遠縁にあたることを直人は知るが、由起子と二人きりの機会が訪れても、直人は自分の気持ちに素直になることが出来ない。
 その年の夏、父が札幌の建設会社に就職することが決まり、由起子とすれ違うように直人は村を去ることになる。引っ越しの差し迫ったその年の八月、由起子が突然、直人の家を訪れる。由起子と二人の最初で最後の夏を、直人はいとおしい思いで抱きしめる。
(平成5年度・札幌市民芸術祭奨励賞受賞作)


コバルトに染まる空/30枚・中学生以上
 中三のブラスバンド部員、誠司は入部前本当はトランペットをやりたかったが、意に反してドラムをやらされていた。
 トランペットのパートは天賦の才能を持つ不良の三隅だった。中二の終わり頃に突然入部して来た三隅は、なぜか部では目立たぬ存在の誠司に接近してくる。
 誠司には兼ねてからトランペットで吹いてみたい曲があったが、三隅ならそれが出来るのではないか、と誠司は考える。誠司の願いは現実となるが、音楽祭の直前にある事件が起き、夢は無残に砕け散る。だが、誠司はもっと大切なものを手に入れたのだった。
(第28回北日本文学賞第二次選考通過作)


冬の行き先/192枚・成人向け
 冬季オリンピックが間近に迫る歳の暮れの札幌の街。十九歳の学生、史朗は深夜レストランで何かに憑かれたように働いていた。彼は無味乾燥な大学生活と、それにただ流されている自分に嫌気がし、刺激と変化を求めてこのアルバイトを始めたのだった。
 史朗の周囲には様々な人間が現われ、それまでになかった人間関係が史朗を取り巻く。店の従業員、夏美もそんな中のひとりだった。仕事に対する厳しさとひたむきさを持つ夏美に史朗は強く惹かれるものを感じるが、なぜか夏美は学生である史朗をひどく嫌う。
 ある夜、夏美が腹痛を起こし、勤務中に倒れる。たまたまそれを介抱したことがきっかけで、夏美は次第に史朗に心を開き始める。
 元日の朝、二人は結ばれるが、夏美は二人の関係が深まることを拒絶する。史朗はそんな夏美の気持ちを疑うが、やがて夏美の行動には別の意味が隠されていることを知る。
(第21回北海道文学賞・第一次選考通過作)