
第1日/札幌市 白石〜比布町 蘭留
1966.8.1(月)曇り時々雨、気温16〜19℃
3:00 起 床〜3:45 出 発
予定では3時半出発のはずが、何だかんだで遅れた。昨夜眠ったのが0時だったから、わずか3時間しか寝ていない。
鰹節入りおにぎり8個を持って出発。母と下の姉が見送ってくれた。二人とも悲壮な顔をしている。父は姿を見せない。
自転車に乗ったら思ったより荷物が重く、ガクッときた。(つまりヨロめいた)ちょっと不安になる。
《出発時の服装》
・ランニング肌着 ・白半袖シャツ ・白短パン ・ナイロン靴下
・黒革靴 ・軍手 ・白キャップ型帽子

出発して90kmほど走った滝川市周辺にて
(荷物の総重量は10kgを超えていた)
3:55 札幌 大谷地
運送トラックに道を聞かれたが、もちろんわからない。
4:05 札幌 厚別
予定より10分遅れ。何だか頭がボンヤリとしている。先は長いぞ、アセるな!
4:48 江 別
やっと予定通りのペースになった。途中、ほとんど車に出会わない。トラックがたまに通る程度。この街を過ぎると、自分にとって全く未知の地へ入ることになる。
不気味な印象の江別橋を列車と競争して渡る。出たときは曇っていたが、じょじょに空模様が怪しくなる。橋を過ぎると、とうとうポツポツ降ってきた。自転車にとっては最悪のコンディションになりそうだ。
早めに雨具の上下を着る。10kmほど進むと、本降りになった。ザアザア雨の中を突っ走る。むき出しの脛が汗でベトつく。ビニール製の雨具は通気性が悪い。それに何だか寒い。やはり北海道で短パンは無理だ。
幌向あたりで雨の中、長ズボンと長袖ジャージ上衣に着替える。面倒なので短パンは脱がず、そのまま重ね着した。
6:15 岩見沢
予定より5分の遅れ。市街地が陸橋工事で通れず、泥のぬかるみ道を2kmほど回り道した。こんなトラブルがあるとは思わなかったが、雨はようやくやみ、足も慣れてきた。
7:50 美 唄
予定より30分遅れている。街が活気づいてきた。市街地で同じ自転車旅行仲間3人とすれ違う。ベルをリ〜ンと鳴らして行った。
あとで知ったが、道で自転車の旅仲間に出会ったときは、挨拶を交わすのが礼儀らしい。道路沿いの店で25円のジュースを飲む。この旅で初めてお金を使った。
9:30 砂 川
疲れた…。美唄からここまでたいした坂もないのだが、いくらペダルをこいでも進まない感じだ。予定より55分も遅れている。なぜだろう?とにかくバテた。
お腹が空いたので、おにぎりをひとつだけ食べる。
10:20 滝 川
も〜ダメダ。予定より1時間15分も遅れた。この調子じゃ1日目の予定地、風連町まではとても無理だろう。
悪いことは重なるもので、市街地を過ぎたころ、後部キャリアが突然ガクッときた。降りて調べると、キャリア下端を固定するボルトが2本とも折れてなくなっている。いくら探しても見つからない。
ボルトナットの予備はない。まだ少しは走れそうなので、えい面倒だ、このまま出発しよう…。自転車旅行仲間が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。さっき追い抜いたばかりの一人旅の男だ。くそ!遅れを取ってなるものか…。
12:30 国見峠(旭川手前の峠)
2時間の遅れ。ドライブインでジュースとフルーツ牛乳を続けて飲む。店のおばさんと少し話をした。とにかく水分が欲しい。それがすべて汗になる。
この峠は初めての手応えのある坂だ。少々バテて、最後は自転車を押して歩いた。頂上からは深川の街が一望できた。
峠を過ぎると、両側は水田だらけ。道路沿いの草むらに寝転び、チョコレートを少し食べる。この辺りで自転車一人旅の男を再び追い抜く。

出発して120km走った景勝地、神居古潭
13:50〜14:30 神居古潭
石狩川の景勝地。絶壁の上を道路が通っている。家一軒よりも大きい岩がゴロゴロしていて、その間を水が轟々と流れ、それらを緑の木々が押し包む…といった感じだ。一番眺めのよい場所を選んで昼飯にする。
おにぎりを2つ食べ、固形燃料に火を点けてコッヘルでお湯を沸かし、吸い物を作る。コッヘルはごちゃごちゃ重なっていて、扱いにくい。案外不便なものだ。フルーツ缶詰を開けて食べる。美味い。
8人の自転車大集団が挨拶をして走り去る。例の一人旅の男にも、また抜かれた。

旭川市内〜旭橋
15:45 旭 川
また予定の話になるが、すでに3時間10分の遅れ。当初の計画に無理があったようだ。 自転車店で後部キャリア下端のボルトナットを新しくしてもらう。太いのに替えたので、もう安心だ。(なぜか修理代の記録がない)
店主との会話。「どこから来た」「何時に出た」「何だ、まだこんなもんか」などと言われ、ちょっと頭にきたヨ。ここでまた飲物を買い込む。
昼飯後は調子がいい。小学校のランドセルを買いに来たとき、父と並んでアンパンを食べた懐かしい旭橋を過ぎ、20kmほど走って旅行中唯一のトンネルを抜けた。
18:00 比布町 蘭留(らんる)
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旭橋にて疲労困憊 |
迷ったあげく、風連まで行くのは諦め、今夜は国道沿いの草むらで寝ることにした。
夕食を食べ、足にエアーサロンパスをたっぷり吹き、日記を書いた。自転車に鎖錠を2つかけ、地面にビニールシートを敷いて寝袋に入る。
盗難が怖く、自転車を枕代わりにした。背中に石が当たって痛いが、どうしようもない。 自宅宛に葉書を書く。きっと心配しているだろう。明日の朝出そう。
夜中に雨がジトジト降ってきた。起きて寝袋の上にビニールの雨具をかける。とにかく今日はひどいスタートだった。
寝ます。
《1日目の走行データ》
・走行距離:161km
・昼食:おにぎり×2、即席吸い物、魚肉ソーセージ、フルーツ缶詰
・夕食:おにぎり×3、魚肉ソーセージ、お茶
・出費:ジュース×3(90円)牛乳×2(40円) /計130円

59年後の追記
初日に少しでも距離を稼ごうと、飛ばしに飛ばしている。前日は精神が高ぶってよく眠れず、体力面では最低だったが、気持ちを奮い立たせた。
日記ではふれてないが、実は走り始めてすぐに心臓の乱れを自覚した。いま思い返せば不整脈の一種で、以降の人生で強いストレスを感じたシーンに決まって登場する厄介な症状の始まりだった。(その後定期的に精密検査を受け、心臓機能に異常はない)
「予定より遅れている」の記載がやたら登場するが、当初の予定を大幅に超える1日160〜200kmを走ってやろうと、主な街までの所要時間を細かく計算していた。
(1日目の目的地に想定していた風連町までは、札幌から200kmもある)
その後の旅で現実の厳しさを思い知り、状況に応じて臨機応変にコースや予定を変更する術を、じょじょに会得していった。このプロセスこそが旅の真髄であったことを知るのは、時を経てからのこと。

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