親馬鹿サッカー奮戦記・第1話
 サッカーとの出会い /'96.3



楽しき草サッカー



「父さん、サッカーやろうよ」

 いまはもう大学生の息子がこう誘ってきたのは、確か13年前の夏、息子が幼稚園に通っていたころのことだった。もちろんJリーグなどまだ影も形もない。

「えっ、サッカー?」

 それまで外遊びといえばプラスチックボールを使った野球、と決まっていた息子の意外な言葉に、私は少し面喰らった。聞けば、幼稚園で先生が教えてくれるのだそう。

「年長になったら、試合もやるんだって」

 へえ〜、試合ねぇ。そう言えば幼稚園の案内に、確かそんなことが書いてあったような…。

「ねえ、やろうよ、父さん」
「うん、そうだな。よし、いっちょうやるか!」

 実は私は大の運動音痴で、体育はほとんど3ばかり。サッカーは高校の授業でやらされたものの、年に一度の「クラス対抗サッカー」では、クラスの中で数人だけが補欠にまわされるその「数人」に入っていた苦い記憶しかなく、正直いってあまり自信はなかった。ところが…。

「サッカーって、こんなにおもしろかったっけ?」

 まあ、独立したばかりでたいした仕事があるわけでなし、通勤がなくなって、一日中机に向かう不健康な生活の、軽い気分転換のつもりで始めた「おつきあいサッカー」がやけに楽しいのである。
 息子相手に、公園の片隅でドリブルやらキックやらの基礎練習を続けるうち、近所の悪ガキ(^+^;が臭いをかぎつけて集まってきだし、 野球バットを放りだした彼等と、いつのまにやら「草サッカー」など始めるハメに。そうなのだ。いつの世も子供は本気で遊んでくれる大人を求めているのだ。

「あの人、いったい何者?」

 周囲では、そんな近所のお母さまがたの冷ややかな視線。そりゃそうだわな〜。平日の3時、4時っていえば、カタギの旦那衆なら、家族のために汗流して働いてる時間帯。それをこちとら、汗流して子供相手に、ボール蹴ってるわけだから…。
 しかし、そんなまわりの評価にはとんと無頓着なのがB型てんびん座の特質。かまわず遊び続けるうち、午後の公園は、いつのまににやらガキどものたむろすスポーツ託児所に変身。

「あの人、どうやらタクちゃん(息子の名)んちのお父さんらしいわよ」

 とお母さまがたとも、すっかり顔なじみ。息子やその友達のサッカーはメキメキ上達。ついに私はその公園で、「変なサッカーおぢさん」としての市民権を獲得したのだった。



いざ、決戦のとき



 そして1年後の秋、とうとう幼稚園対抗サッカー大会のときが訪れた。場所は区の大規模公園。市内の6つの幼稚園から選抜された男女のチームが競い、テレビが取材にくるほどの、親にとっても子にとってもまさに大イベントである。
 雪の日も風の日も休まず続けた練習の甲斐あって、晴れて息子は選抜選手。いっしょに公園で遊んだ仲間も、おおぜい選ばれていた。完全にサッカーおたくと化していた私は、仕事も放り出しでの応援。ドリブルの得意な息子のポジションはフォワード。シナリオ通りに行けば、ここはホイホイと勝ち進むはずだったが、好事魔多し。ことはそう簡単にホームページのようには進まない。

 実は初戦の相手が去年の優勝チームだったのである。そのチームは園内にグランドまで持ち、園長みずからが熱心に指導をする強豪チームだった。

「大丈夫かしら」と不安そうなかたわらの妻。
「まあ、そこそこやるだろう」

 そう妻をなだめつつも、息子の技術がどこまで通じるのか、多少の不安があった。

 さて、キックオフ。試合前の不安は当たり、息子の動きに公園の草サッカーのような奔放さが見られない。しかし、こちらの守りがいいせいか、相手も決め手にかけ、7分ハーフの試合は0:0のまま、残り1分。このままPK戦か?と思い始めたころ、こぼれ玉が相手ゴール前に。
 そして両軍入り乱れての相手コーナー付近での混戦の中から、ゴール前でひとり待ち受ける息子の前に、絶好のボールが…。
(親馬鹿だが、「ボールの臭いをかぎつける」つまり、「次にボールの出そうな場所を察知する」という特質を、息子はこの時すでに身につけていた)

(よし、決まった!)

 そう心で思った瞬間、ワントラップ後の息子のシュートは、無常にもゴールポスト右をかすめて場外へ転々…。
 結局、息子のチームはそのあとのPK戦で敗れ、親たちの熱い思いとはうらはら、あっけなく緒戦で姿を消したのだった。

 試合後、泣きじゃくる息子をなだめつつ、

(こんな接戦で決められる選手に、いつかコイツを育てあげるのだ)

 と沈みゆく夕日に固く誓った、どこまでも脳天気な父親であった。



(感動の巨編は次回へと続く→おいおい本気かよ〜)(^_^;