《あの時ボクは若かった》
  真夏の行進


           1996.7   菊 地 友 則


 強い夏の太陽が頭上から照りつけていた。風は暑い熱をはら
んでいる。ぼくとケンジは、今にもアスファルトが溶け出しそ
うな石狩街道を歩き続けていた。埃を舞い上げて車が行き交い、
道に沿って流れる創成川の臭いがツンと鼻をつく。
 歩いてマチまで行ってみよう、と言い出したのはケンジのほ
うだった。

「おい、あとどのくらいかかるんだ?」
「まだ二十条だ。たぶんあと一時間くらい」
「なんでこんなにまでして歩くんだよ」

 ぼくはこの行軍に嫌気が差し始めていた。

「一度歩いてみたかったからさ。お前、
 いやなら一人でバスに乗れ」
「いいよ、つきあうよ」

 弱虫と思われるのが嫌だった。ケンジは家
計を助けるため、毎日新聞配達をしている。
だから歩くのは平気だ。ぼくの家も決して裕
福ではなかったけれど、そんな意欲はぼくに
はない。
 ぼくはそんなケンジに一目置いていた。

「マチに着いたら何をする?」
「そうだな。マルイに行って映画見て、トウマン食って、
 ジュースも飲めるぞ」
「トウマンとジュース?」

 ぼくの足取りは急に軽くなる。

「そうさ。何たって、バス賃が二十円も浮くんだ。その分
 うまいものが食える」
「すごいな、ケンジってやっぱり天才だな」

 白い雲がむくむくと巻き上がる。ぼくとケンジ の炎天下の行進
は続く。テレビ塔の電光時計が、だんだん近くに見えてきた。



(この作品は第15回さっしんほのぼのエッセイ賞佳作に入賞しました)