倦怠の日々   1971.2 菊地 友則



真冬には似つかわしくないギラギラした太陽が
まだ昇りつめてもいないはずなのに
「工業力学第一」の講義室は奇妙な気怠さに満ち溢れ

その中で僕は
なま暖かい子宮の奥に喉仏までどっぷりと浸りながら
軋んだ椅子の上で「ラグランジェの方程式」を論ずる
額の禿げ上がった中年教授を前に
遠い遥かな海の上に浮かぶビーナスの豊かな髪を
静かに愛し続けていた



『女って弱いものなのよ』
というアイツの言葉が透明なこだまとなって
あばら骨の浮き出た僕の身体を通り抜けても
僕は相変わらず「恋愛詩集」の作成に余念がなかった

北国の春の訪れはあまりに遅すぎたために
すっかりほころびきってしまった僕の背中の思い出袋が
悲しげに海の底を見つめるとき

『人間なんて孤独なものさ』
と僕の足元でつぶやく声が聞こえ
その虚ろなつぶやきが
疲れ切った今日の日の隙間に
ドロドロと吸い込まれてゆく