縄文の日々をめざして


 
たき火.... 2006/春



 引越した翌年にウッドデッキ内部に作った「外いろり」で、初めてたき火をやってみた。これまではもっぱら市販の炭を使ったバーベキューばかりで、木材だけのたき火はまだ一度もここでやったことがない。「都会の中の田舎」などと言いつつ、周囲はいちおう住宅地であるので、近隣に及ぼす煙や炎などに、一抹の不安があった。
 燃やす薪はDIYで使った残材を捨てずにとっておき、30センチほどに切ったものだ。車庫の一角にオープンの大きな棚があるので、この種のものはいくらでも備蓄がきく。ゴミとして捨てるより、薪として有効利用してやれば、樹木もとことんまでその役目を果たすことになり、広い意味でのエコロジーということになる。

 単に燃やすだけではもったいないので、家の周囲の空地にちょうど食べごろに育っているフキを採ってきて、大鍋で茹でることにした。台所にあるIHヒーターを使えばあっという間だが、停電や万が一の災害時にそなえ、外での原始的なスタイルで炊事が可能なのかどうかも、この際、確かめておきたかった。
 フキを茹でるには大量の水が必要だが、あいにく鍋は外いろりの枠にぴたりとははまらない。外いろりのほうがはるかに大きいのだ。そこでバーベキュー用の金網をまず載せ、その上に鍋を置いた。強度が不安だったが、大丈夫だった。これなら米を炊くのはもちろん、一通りの煮炊きは冬でもここで可能である。
(ちなみに、自宅の床下には非常時に備え、いつも10Kgの炭をキープしてある)


DIYで作ったウッドデッキと外いろり。外いろりは地面深く掘り下げてあり、非常に頑丈


 たき火の要領はバーベキューで炭をおこす手順とほとんど変わらない。細い木から太い木へと順に井桁に積み、下から火をつけるだけだ。写真のように南北に通風口を設けてあるので、あまり神経質にあおぐ必要もない。
 外いろりそのものはブロックとレンガでがっしり作ってあるので、不安はない。気になっていた煙と炎も、ほとんど問題なかった。ただし、火のついている間はそばを離れないほうがよい。気紛れに炎の勢いが弱くなったとき、すかさずウチワであおいでやらないと、かなりの煙が出ることがあるからだ。

 やった時間はちょうど夕方で、時の経過と共に、あたりがだんだん暗くなる時間帯である。ただの残材だが、木は木で、たき火はたき火だ。パチパチと木のはぜる音や、夕闇の中で赤くゆらめく炎はまさに原始の火そのもので、ただ眺めているだけでなぜか心がなごむ。
「趣味はたき火です」と、臆面もなく言ってのけた某放送ディレクターを知っているが、気持ちはよく分かる。火には人に太古の時代の記憶を呼び覚ます、何かの力があるのだろう。



 
針金表札.... 2006/夏



 ふと思い立って、アプローチ車庫の左柱にあるオブジェの上に手作りの表札を作り、取付けてみた。実はこの場所に表札を作るのはこれで3度目なのだが、これまでは耐用面や防水面で問題があったりして、なかなか気に入ったものには到達出来ずにいた。
 最初に作ったのは、単純に板に彫刻刀で文字を刻み、溝を耐水性の強いアクリル絵の具で埋めたものだ。出来映えはまずまずだったが、月日の流れと共に風化が進み、文字の判別が難しくなった。

 次に作ったのは、パソコンとプリンタを使って紙に文字を印刷し、防水用の透明フィルムをかぶせたものだ。周囲は木材で頑丈に囲み、風雨にも充分耐えられるはずだった。何より、文字が美しく映えるのですっかり気に入っていた。
 ところが完成して一月も経たぬうち、暴風雨が襲った。完璧だったはずの防水カバーにあっさり水が侵入し、表札の文字は滲んでぼやけ、みるも無惨。上部に屋根のある場所ならともかく、風雨に常にさらされる場所でのこのやり方には、やはり無理があった。

 レンガやタイルを使って文字を彫り込めば、どんな風雨にも耐えられる表札が出来るはずだった。だが、素人では細工が難しい。外注に頼む方法もあったが、コストが高く、そもそもそれでは目指す「縄文暮し」からは限りなく遠ざかってしまう。
 ダメになった表札の残骸を前に、あれこれイメージを膨らませた。素人でも簡単に出来るのは、やはり木材を加工することだ。しかし、「文字を彫り込むこと」にこだわると、結局はうまくいかないことはすでに分かっているし、印刷することも論外である。

 そうこうするうち、掘ったり描いたりではなく、何かをくっつけるとよいのではないか?と思い当たった。細い木材を文字の形に切って釘か接着剤でつけようかとまず考えたが、文字の美しさや耐水の面でいまひとつの感じがした。
 東急ハンズなどでは、プラスチック素材の文字を任意に加工してくれる。美しさや耐水面では抜群だが、コストがかさむ。前述の「縄文暮し」のコンセプトからもまたまた遠ざかる。
 最後に思い立ったのは、針金である。板に細い穴を空け、針金を加工してその穴に打込んでやれば、文字になるのではないだろうか?捨てるつもりでいた表札の残骸をそのまま使い、さっそく試してみることにした。

 表札に描く文字は、事務所の屋号である「TOM工房」の5文字。まずは板に鉛筆で薄く文字を書き、次に穴を空ける位置を決めゆく。
 文字の直線部分は端部に2ケ所あけてやればよいが、複雑な「房」の字をどうするべきか、かなり悩んだ。単純だが、全て曲線である「O」も手強い。
 穴はなるべく少ないほうが文字が際立つような予感がしたので、文字そのものの支持力が落ちない最低限度の穴の位置と数とを順に決めていった。

 写真を見ると分かるように、「TOM」の字は青いビニールカバーのついた太めの針金を使った。この素材はクリーニング屋でくれるハンガーをそのまま転用している。(つまりはタダ)打込むための穴は直径3ミリのドリルで空け、打込み深さは板の厚さのおよそ半分である9ミリ前後とした。
 穴はいきなり2ケ所空けずに、まずは1ケ所だけ空け、針金を加工したあとに原寸にあわせて2つめの穴を空けるとぴったり収まる。打込むときは木材の端材で当て木をし、ハンマーで少しずつたたきこむ。

「工房」の文字は、これまた不要になってとっておいた屋外ライトのカバーをバラして使った。こちらは亜鉛メッキの針金だが、少し細めだったので穴空けはドリルではなく、キリを使った。他の要領は全く同じである。
 文字の色を二つに分けたのは、名刺や封筒と全く同じコンセプトである。「TOM」の字を強調したことで、遠くからでもかなり目立つ。

 ほんの試作品のつもりでいたが、完成するとすっかり気に入ってしまい、枠と本体に塗料を塗ってそのまま使うことにした。
 空けた穴の数は「T」が4、「O」が2、「M」が6、「工」が6、「房」が8である。穴の数を減らした都合で文字が全体的に丸みを帯びたが、逆にそれが丸ゴチック風のいい味になった。
 亜鉛メッキの針金は風化が進むと色が濃くなる可能性があるが、それはむしろ歓迎すべき変化だろう。事務所の屋号ではなく、もちろん普通に名字を使って玄関に取り付けることも簡単に出来る。自分だけの遊び心のある表札になるはずだ。



 
手紙メジャー.... 2010/冬



 以前から手紙の重さを計る道具を欲しいと思っていた。100円ショップあたりにあるだろうと調べたが、ない。ホームセンターに行くとあるにはあるが、1,000円前後の高級品のみ。
 私が欲しいのはごく簡単に料金の目安がつくもので、極端に言うと、手紙料金の変わり目となる25gと50gを越えるか否かが分かればいいのだ。

 ネットで検索してみると、最安値で630円。100gまで計測可能で、人間を模したなかなか愛らしいデザインではあるが、感覚的にはちょっと高く、二の足を踏んだ。

 例によって、(もしかして自分で作れるのでは?)と考え、メモ用紙の前であれこれ頭をひねる。市販品と同じく、天秤ばかりの理屈を使えばよいと思ったが、天秤棒に何を使うかがまず問題で、25gと50gという重さを正確に示す分銅も必須だ。

 文具箱を漁るうち、天秤棒には使わなくなった定規が代用できそうな感じがした。支点になる穴をいくつか開け、作用点には対象となる郵便物をクリップで吊るす。
 分銅は水か硬貨だろうな、と思った。水は入れる容器が最終的に邪魔になりそうで、候補から脱落。1円硬貨が1gなのは知っていたが、50個も集めるのはいかにも面倒。そこで他の硬貨の重さを造幣局のサイトで調べた。
 以下、その結果である。

・1円玉=1g  ・5円玉=3.75g  ・10円玉=4.5g
・50円玉=4g  ・500円玉=7g

 これらの硬貨を幾つか組み合わせ、擬似的に25gと50gの分銅を作り、それぞれが均等に釣り合う場所に支点となる穴を開けてやればよい。具体的な組み合わせは、以下の通り。

・25g:5円3.75g×4個+10円4.5g×2個+1円1g×1個
・50g:5円3.75g×12個+50円4g×1個+1円1g×1個

 うまい具合に5円玉は縁起物として、壷の中に大量のストックがあった。これらの素材を元に、以下の工程で作業を進めた。

なるべく厚いプラスチック定規を用意する。今回は3ミリ厚、15センチの定規(実長16.5センチ)を使った。あまり薄いと重さでたわみ、計測に支障が出る。

定規の端に直径2ミリ程度の穴を開け、一端にクリップを止めたタコ糸を通す。

硬貨で50gの擬似分銅を作り、クリップに引っ掛ける。5円玉と50円玉はミシン糸を穴に通し、他の硬貨はクリップではさむ。
 定規を突起のある台に載せ、釣り合い点を調べる。今回は製図用の三角スケールを支持台に使った。(写真1)

釣り合い点にマジックペンで印をつけ、2ミリのドリル(またはキリ)で穴を開ける。この穴を通して本体を画鋲で壁などに仮固定し、定規が水平を保っているかどうかチェック。(写真2)
 もし水平が狂っている場合は、タコ糸の長さを足すか切るかで調整する。

同じ手法で25gの釣り合い点を探り、穴を開ける。同様に水平をチェックするが、この時点で水平が狂っている場合は、タコ糸による調整はできないので、別の位置に穴を開け直す。


 25gの釣り合い点で実際に使っている様子が写真3。定規が左に傾いていれば25gより軽く、右に傾いていれば重いということ。誤差をテストしてみたが、1円玉1個(つまり1g)を追加するだけで、定規は大きく傾く。精度は0.5g以内と見る。

 写真4は完成後の全体図。製図機用の定規を使いまわしたので、穴がいくつも開いているが、ポイントは右下のクリップ用穴と、マジックペンで数字を書いてある支点用の2つの穴。
 25gの釣り合い点が一発で決まらず、右下に穴を開け直した。普段は25g用の位置で止めてあるが、50gを調べたいときは、画鋲をその穴に差し直せばよい。

 定型郵便では25gまでが80円、25〜50gが90円なので、だいたいこれで用が足りる。今後の課題として、定形外郵便で料金が140円に上がる100g用の穴を、必要に応じて開けるかもしれない。
 クリップは洗濯バサミでも、もちろん構わない。定規はどの家庭にも使ってないのがあるはず。あとは楽しんで作れるかどうかです。