縄文の日々をめざして


 
木壁の塗装.... 2005/夏



 自分で設計した自宅の1階南側外壁材に、無垢材を使っている。木材の外壁は、かって日本中の家屋に広く使われていたが、防火規制やクレームの少なさなどの事情で、次第に安直な工業製品に取って代ってしまった。しかし、自己完結型の地球に優しいエネルギーサイクルを持つ木材の大きなメリット、そして工業製品にはない独特の風合いの魅力で、ごく一部の人々には見直され、熱い支持を得ている。
 このサイトにある家作り記録にも詳しいが、本当は自宅には全面的に木材の壁を使いたかった。1階南側だけで妥協したのは、防火規制とメンテナンスの煩雑さ、そしてコスト面の事情からである。

 外壁の防火規制について簡単にふれると、日本の都市部の大半では、前面道路の中心や隣地境界から1階で3メートル、2階で5メートル以内では、木材のような燃える材料は使えない、と考えたほうがいい。(これに関する詳細は、各地区の管轄部署でご確認ください)
 木材でも、通常の3倍くらいのお金を払うと、防火処理を施した木材が手に入るが、ローコスト住宅ではとても手がでない。苦肉の選択が、隣地からの距離を充分にとった「1階南側」というわけだった。この範囲ならば、ハシゴを使って傷んだ箇所の補修や塗装の塗り替えなども、比較的簡単に出来る。

 これまた家作り記録に詳しいが、1階南側外壁の木材は、すべて自分で塗装した。職人に頼むお金がなかったのだ。木材部分は縦3メートル、横7.2メートルもあり、一人で全部塗るにはかなりの労力と根気が必要だ。しかし、苦労したおかげで、「木材をきちんと塗装する」という一点では、プロなみの技術とノウハウを培うことが出来たと思っている。
 この外壁、木材という「生き物」なので、雨雪や風、強い陽射しにはすこぶる弱い。毎年、長い冬の終わった春先には、こまめに点検してゆるんだ釘を打ち直したり、はがれた塗装を補修したりする「メンテナンス」が不可欠になる。
 私の自宅を見て住宅設計を依頼してくるお客様でも、同様に木材の外壁を希望される方が少なくないが、この「メンテナンス」に対する覚悟を、事前に充分確認してから設計に折り込むようにしている。単なる一時的な憧れだけで安直に木材の外壁を採用すると、あとでひどい目にあいかねないからである。

 今年の冬はいつになく厳しく、雪止めのない南の屋根からは大量の雪が落ち、直下にある木材の外壁をとことん傷めつけた。新築して6年目ということもあり、かなり大規模な補修を施す必要があったが、あいにくそんな年に限って、休む間もないほどの切れ目ない仕事の波が追い立てる。
 例年ならゴールデンウィークのうちに補修を終えるはずが、今年に限っては、すべてを終えたのが6月末という有様だった。以下、2ヶ月余にわたる木外壁塗装補修の顛末である。

外壁にへばりついているツタで、補修の邪魔になりそうなものを除去する。せっかく伸びたツタを切ってしまうのは忍びないが、繁殖力旺盛なので、すぐに復活してくれるはず。

サンダーに木材専用のヤスリ(DIY店で数百円)をつけ、マダラ状にはがれている塗装をはがす。(写真1)
 サンダーを使うと作業が非常に楽だが、高速回転なので怪我には充分注意のこと。今年は誤って自分の左腕まで削ってしまい、(^_^;2ヶ月経ってもまだ傷跡は消えない。

使っている塗料はドイツ製の自然素材塗料、「オスモ・ワンコートオンリー」(色はシーダー)。1回塗るだけで済み、素人むき。ネット通販で手に入り、0.75L缶で4,000円くらい。これ1缶で15〜20平米塗れる。
 難点は、ややねばりがあってハケ塗りが難しいことか。私の場合、試行錯誤のすえ、いまは自作のコテで塗っている。市販のローラーやコテは、高価な割にはすぐにダメになってしまう。
 写真のように古いコールテン(素材はいろいろ試したが、コールテンが最適)のシャツを切って2枚折りにし、取手をつけた木材の端切にビス止めする。交換も簡単で、非常に塗りやすい。(写真2、3)

高い箇所は「たたむと脚立、伸ばすとハシゴ」という便利な脚立を使う。1階部分の作業の場合、最低150センチの脚立(伸ばすと3メートルのハシゴになる)は欲しい。
 我が家の物は120センチしかなく、上部の補修には手製ハシゴを付け足して何とか間に合わせている。120センチと150センチの価格差はごくわずか。やはり、大は小をかねるのだ。

やってみると分かるが、コテだけでは塗れない箇所がどうしても出てくる。木材の合わせ目にある細い溝や、窓や土台水切との境界部分などで、この部分は古い歯ブラシを使うとうまく塗れる。
 古い歯ブラシはハケよりもはるかに丈夫で、塗料をすくってコテの上に載せるときにも使え、私の塗装作業には欠かせない。(写真3、4)

 今年はちょうど補修を開始した5月上旬に、「外壁の一部にぜひとも木材を使いたい」という方の設計物件が進行中だった。正直に書くと、私は依頼主の木材外壁に対する「覚悟のほど」を計りかねていて、GW休暇を利用してはるばる地方から我が家を見学に来るというご夫婦にあわせ、あえて外壁の補修工事をぶつけた。
「木材外壁の美しさを保つのは、こんなに大変なんですよ」という事実を目の当たりにすれば、依頼主の決意は揺らぐのではないか?と思ったのである。

 結果は思いがけず、「確かに大変そうだが、それでもやっぱり木材にこだわりたい」との意向。ちょっと感動した。私にとっては紛れもなく「お施主さん」であるのだが、「おお同志よ、ここにもいたのか」といった気持ちである。

「分かりました、今後木壁のメンテナンスに関しては、設計契約が完了しても、協力を惜しみません」

 自分の息子や娘のような若い依頼主ご夫婦に、私は進んでそう申し出た。「施主と建築家」といった関係を飛び越えた、同じ遊び心を持つ不思議な仲間意識が、確かに芽生えたのだ。



 
スリットウォール.... 2005/秋



 いちおうは住宅設計のプロなので、自宅をモデルにした住まいに関する創意工夫のあれこれを書き出すとキリがないが、ネット経由でコンタクトをとり、我が家を訪問してくださる方々に人気が高いのが、2階寝室(多目的室)の一部につけた「スリットウォール(縦格子間仕切)」である。
 簡単に書くと、「普段は開いているが、必要に応じて完全に閉じることも出来るし、角度をつけて一方向だけから見えなくすることも出来る、壁のような窓のような開口」ということになる。開いているときは正面から見て10センチ間隔ほどの木材のスリットに見えるので、こう命名した。(写真1)
 単純に固定してある同種のスリット開口はときどき見かけるが、自在に回転するのは一度も見たことがない。もしかしたら、私のオリジナルかもしれない。

 そもそもこの仕掛けは、日本に古くからある「無双窓」をヒントにしたものだ。板戸の縦板に1枚おきに空間を設けてやり、2枚を交互に重ねて引違い戸にすると、空間部分が開いたり閉じたりする。普段は開けておいて夜や雨などには閉めておく仕掛けだ。ガラスのまだなかった時代は、とても便利なものだったに違いない。
(この説明で分からない方は、ネット検索でお調べください)
 いまでもこの無双窓を屋内の通風などに使っている建築家もいるが、仕掛けが複雑で建具としては高価なものになる。DIYでやろうとしても、相当な腕がないと無理である。

 家、特に冬は雪に閉ざされる北国の家は、生活の潤い等のソフト面ではもちろん、カビや結露を防ぐ意味でのハード面でも通風と採光に極力配慮すべし、というのが私の設計持論のひとつである。だが、予算がまるでなかった私の家で、この種の高価な建具をつけることには無理があった。
 苦肉の解決策が間仕切壁を全く設けず、この可動式の「スリットウォール」で自在に空間を区切り、なおかつ通風や採光にも柔軟に対応することだった。

 写真1のように日中は板を直角に配置し、開口は完全に開いている。回転させて閉じるのは主に寝るときで、上部のランマ部分は空間として開いているが、床から2メートル以下の部分は完全に閉じてしまい、光は通過しない。(写真2)
 2階吹き抜けの上部は大半がオープンだが、このスリットウォールを自作したことで、一部を客間(予備寝室)としても使っている。たまに帰省する息子は板を直角にしたままで頓着しないが、娘の場合は一部を45度にし、階段から部屋の中が見えないように工夫している。やっぱり女の子なんだなと、妙なところで感心したりもする。
(階段側から見たスリットウォール→写真3)
 板を45度にしてやると、通風や採光としての機能は確保しつつ、視線のみを完全に遮断することが可能になる。

 基本的構造はごく簡単で、開口の上下寸法に相当する縦板を切り、一定の間隔で上下の横板に木用ビスで止めるだけである。仕上がり寸法は実際の開口寸法より、2ミリくらい小さく作り、完全に組立てを終えてから開口部にはめこみ、上下を木用ビスで止める。
 縦板は18×105のKD材を使った。この場合の縦板の取付け間隔は95となる。(重なり10とした場合)両端部だけはおよそ半分の50くらいの間隔にすること。

 今年春に完成したお客様にもこの「スリットウォール」を切望され、予算の都合で開口のみを大工さんに頼み、本体は私が作ってプレゼントした。(写真4)
 開口寸法は500×500ほどで、1800×1200もある私の家よりはるかに小さい。18歳の娘さんの部屋に設けたのでプライバシー面でのバランスからあまり大きくは出来ず、親子で相談の結果、この大きさに落着いた。
 やはり階段に面していて、階下の台所とのコミュニケーションがとりやすく、なおかつ部屋の様子が階下から何となく分かるようになっている。はっきり言って、親の側に都合のいい仕掛けなのだが、長い目で見れば子供の幸せにもつながるはずである。

 このスリットウォール、今月着工予定のお宅にも、やはり子供室の一部に何箇所かつける予定だが、開口が200×200と超ミニサイズ。果たしてうまくつけられるのか、やや不安があるが、何とかご希望に添いたいと思っている。
 お施主さんに手作りのプレゼントを差し上げる建築家はあまりいないかもしれないが、何よりの記念とどの方も喜んでくださっている。



 
食器洗い.... 2006/冬



 記憶がはっきりしないが、食後の食器洗いはいつからか私の家事分担となっている。理由はごく簡単で、私のほうが妻より得意だからである。
 おそらくこれは「片づけ全般が大好き」という資質によるものが大きく、家事を分担することにより、老後の妻との関係をより良好に保とうだとか、万が一独り暮しになったときにもあわてふためかないようにだとかの、小賢しい計算からくるものでは決してない。
(結果としてそうなる可能性も否定しないが、現時点ではどうでもいい)

 世間では食洗機がかなり普及してきて、値段が手頃になったこともあるが、「手洗いよりも水道代が節約出来る」という大義名分が大きく影響しているように思われる。 水不足に悩む地域では、食洗機を奨励して補助金制度を設けている自治体さえある。
 住宅の設計という仕事柄、食洗機には無関心ではいられない。打合せの初期段階で食洗機を使うかどうか、使うとすれば据置きタイプか、はたまたビルトインタイプかを明確にしておかないと、設備そのものはもちろん、電気配線や給水給湯排水の設備に至るまで、全く仕様が変わってくるからである。
 本体をビルトインタイプにする場合は、幅450のキッチン収納がなくなってしまうので、台所の収納計画全体を検討する必要がある。据置きタイプの場合も、カウンタートップに置場をきちんと確保しておく必要がある。
 どちらもアース付のコンセントは欠かせないし、ビルトインタイプの場合は排水管に特殊な耐熱管を準備してやらねばならない。あれやこれやで、コストはかなりなものになる。

 さて、そうやって準備した食洗機が、本当に生活に必要なものなのかどうかは、全く別問題なのである。「世の中の80%くらいの物は、あってもなくてもいいもの」という金言をどこかで聞いた。もしかすると食洗機は、この「あってもなくてもいい物」に類するものかもしれない。
 我が家ではいまのところ食洗機を買う予定はない。どう考えても自分たちの生活に必要ないからで、長年の経験から、機械で洗うよりもずっと少ない水とエネルギーと時間とで食器を洗うことが出来るからだ。

 上の写真はある日の夕食後の流し場である。妻と二人でコップ類が4個、皿と茶碗が大小8枚である。そのほかに箸と包丁など。ごく平均的な最近の我が家の食器数だ。
 普通はこの他に鍋が1個あるが、この日は前日に煮魚をしておいたので、ない。市販の食洗機ではたぶん鍋までは洗えないが、手洗いの場合は同じ水と手間で、鍋まで一気に洗える。
 食事は妻と同時にとるので、後片付けも同時に出来る。食事の時間がバラバラな一般家庭よりはその点、多少は有利かもしれない。

 まず、洗い桶に水を張る。冬でもお湯は一切使わない。基礎断熱工法で家を建てた場合、床下にある配管は常時かなり暖まっている。ましてや我が家は床下暖房システムだ。真冬の氷点下でも、5分はぬるま湯が出る。この5分だけ出るぬるま湯を上手に使い、食器を洗う。これだけでかなりのエネルギー節約になる。
 洗い桶の水にコップ以外の食器をいったんつけ、そのまま5〜10分放置する。コップ類や鍋は洗い桶につけず、個別に洗う。

 台所洗剤をつけたスポンジで、まずコップ類を洗う。水は一切流さない。たいした汚れはついていないので、ほとんどこれで汚れは落ちる。
 コップ類をそのままシンクの空いた場所に置き、次に皿と茶碗を大きなもの、平らなものから順に同じくスポンジで洗い、終ったら洗い桶の外に出す。水につけてあるので、こちらも問題なく汚れは落ちる。油汚れのひどい場合、少しだけ水を蛇口から流すこともあるが、この日は全く水を流さずに済んだ。(写真1)

 洗い桶の汚れた水を全部捨てる。(鍋がある場合は、この水を鍋にいったん溜める)新しい水を洗い桶に張り、箸やスプーンなどの小物を中につけ、すすぐ。コップ類は水を張る途中の流水ですすいでしまう。(写真2)
 洗い桶がいっぱいになったら蛇口をとめ、最後に皿と茶碗をすすぐ。鍋がある場合は、食器類が片づいて広くなったシンクでこのあとで洗う。食器をすすいだ水が使えれば、鍋のすすぎに使って終了。作業に費やした時間はおよそ4〜5分だ。

 この洗い桶は満タンで容量がおよそ4Lだが、この日は洗いとすすぎに各1回使っただけだから、合計8Lで上記の食器をすべて洗い終えたことになる。電気やガス、石油などは一切使っていない。
 ごく一般的な据置きタイプの食洗機のカタログ等に記載されている使用水道量と比べてみると、食洗機の場合は一回で10〜14Lの水を使い、さらに温水に変えるために1000〜1300Wの電力を使っている。洗浄時間はコースによって異なるが、60分前後かかる物が多い。
 つまり、ヤル気にさえなれば、機械に負けない水量とエネルギー量、そして短い時間で食器は洗えるものなのだ。
(食洗機メーカーは手洗いの標準使用水量を100L前後として試算しているが、私がそんなに使うことはまずない)

 市販の場合、機種によっては食器の総数が50〜60点までセット可能だそうで、大家族が一度に食事するような家庭であれば、かなり使えそうだ。だが、少子化や単身世帯、核家族化が社会問題となっている現状で、どれほどの家庭がそんなにたくさんの食器を一度に洗うだろうか?
 結局のところ、メーカー側の仕掛けた一面だけの情報に踊らされ、真の自分たちの生活や生き方を見つめる目を失ってしまうと、モノは際限なく家庭の中に増殖してゆき、お金もエネルギーも際限なく消耗してゆくことになる。