縄文の日々をめざして


 
ぬか床.... 2005/夏



 6年前にマンションから戸建住宅に引越して以来、自らの手でぬか床を作って、大切に維持管理している。田舎育ちということもあって、もともと漬け物は大好物。結婚以来30年間、手作りの漬け物を欠かしたことはない。塩分の取り過ぎにさえ気を配れば、繊維質の多い漬物は身体にもいいという。
 関東に住んでいたサラリーマン時代は、夏はぬか漬、冬は白菜の一夜干漬を主に妻が担当して作っていた。当時、作るのは90%妻だったが、食べるのは反対に90%が私。晩酌の肴や、ご飯のおかず、夜食のお茶漬けにと大活躍だった。

 北海道に戻ってからは、夏は一夜漬、冬はたくあん漬というパターンが定着した。関東では一切やらなかったたくあん漬を手がけ始めたのは、主に気候風土の違いである。たくあん漬はやはり寒い地区に向いた漬物なのだろう。
 相対的に関東では夏に欠かさなかったぬか漬をしなくなったのも、やはり気候風土が大きく影響している。暑い関東ではよく発酵しておいしく漬かるぬか漬も、寒い北海道ではなかなかいい味が出ないのだ。

 ずっと手がけてなかったぬか漬が急に復活した最大の理由は、私の「自家製のぬか漬がどうしても食べたい!」宣言が発端である。自分で設計した新居は、高気密高断熱には充分配慮したし、ユニークな床下暖房によって夏も冬も安定した室内温度環境を保っている。マンションでは進まなかったぬか床の発酵も、この家ならうまく働くのではないか…。
 そう思い立つと、さっそく資料を繰ってぬか床作りにかかった。漬物の主導権はもともと妻が握っていたが、言い出したのは私である以上、自分の責任で事は進める。30年に迫る夫婦の関係を良好に維持するうえで、それはとても大切なあうんのルールだった。

 以下、ぬか床を仕込んだ様子を、当時のメモを元に詳しく書く。仕込みの時期は、暑さがいよいよ本格化するまさに今頃がねらいだ。

まず容器を選ぶ。プラスチック製が最も安いが、ホーロー製や陶製の独特の魅力も捨て難い。我が家ではつい最近まで、直径18センチ×高さ18センチのホーロー製容器(約4L)を使っていた。(現在は6Lほどのホーロー容器に変更)

材料(4L容器のときの数値)
 ・米ぬか800g  ・塩110g  ・食パン1枚
 ・水4カップ  ・昆布10cm  ・赤唐辛子2本

鍋に水と塩を入れて混ぜながら煮立て、手でちぎった食パンを加えて冷ます。

容器にぬかを1/3ほど入れ、冷めた上記の水を少しずつ加えて混ぜる。

輪切りにして種をとった赤唐辛子を加え、ぬかと水を交互に加えてさらに混ぜる。

手で充分に練り混ぜて程よい硬さになったら、昆布を中心に入れる。

手で叩きながら全体を平らに均す。表面に清潔なフキンをぴったり張り付け、蓋をして一晩置く。

翌日、ぬか床を充分にかき混ぜてから、捨て漬け用の野菜(大根葉、キャベツなど)を入れ、汚れた容器の縁を清潔なフキンかキッチンペーパーできれいに拭き取る。
(ここで雑菌を入れてしまうと、カビや腐敗の元になる)

さらに翌日、捨て漬け用の野菜を取り出すと、以降、本格的なぬか漬が可能になる。

 最初に入れる水の代りに、ビールを使う方法もあるらしい。一度だけ発酵促進のために飲み残しビールをコップ1杯だけ途中で入れたことがあるが、なかなかいい感じだった。

 ぬか漬のメンテナンスで最も大切なのは、毎日一回かき混ぜてぬか床に空気をよく入れてやること。我が家では夏でも取り出した直後に混ぜ、翌日分を入れるだけで済んでいるが、(つまり、一日一回混ぜるだけ)暑い地域では、夏は一日2〜3回は混ぜたほうがいい。
 多くの人がこの「毎日何度もかき混ぜる」という作業が面倒で挫折する。だが、うまい手製ぬか漬を食うために、手間暇を惜しんではいけない。

 混ぜること以外で、メンテナンスに常時使っている手段を列記してみる。

昆布、ニンニク、赤唐辛子(輪切)を適宜入れる。これは主に旨味を出すためで、適当な時期に古いものと入れ替える。漬かったニンニクは薄く切ると酒の肴になる。サンショウの実やゆずの皮などもいいと聞くが、試したことはない。

皮をむいたショウガ、細かくつぶした卵の殻を適宜入れる。ショウガはカビ防止、卵の殻は酸化防止の効果がある。

定期的に足しぬかをする。ぬかは野菜に養分を奪われるので、常に補給してやらねばならない。時期は野菜の水分でぬか床が柔らかくなりだした頃、味にメリハリがなくなってきた頃が目安。ぬか10に対し、塩1くらいの割合で塩も同時に補給する。

野菜の水が出てぬか床がさらにゆるくなると、味が極度に落ちる。水を除去するにはスポンジを入れたり、フキンで吸い取ったりする方法があるが、一長一短がある。
 最近、アルミ飲料缶を使った、画期的な手段を発見した。200ccのアルミ飲料缶にドライバー等で直径5ミリくらいの穴を放射状に開ける。このとき、下2センチくらいは穴を開けない。(写真1)
 この缶をぬか容器の底に押しつけておく。するとぬか床の水が穴から入り、缶の底に溜るので、取り出して捨てる。(写真2)DIY店等に同様の製品が売っているが、1000円近くもする。自分でやれば廃品利用でタダ。

 我が家では冬はたくあんを漬けて食べるので、12月〜3月くらいはぬか漬を食べない。長期間ぬか床を休ませるときは、野菜をすべて取り出し、表面に5ミリくらい塩を均等に振って、ビニールで容器全体に蓋をし、外物置(氷点下)に置いておく。
 春がくると室内に入れて塩をすべて取り除き、よく混ぜてやるとすぐに復活する。暖かい地域なら、容器からぬか全体を取り出して二重のビニール袋に入れ、冷凍庫保存するといいらしい。
 使用中に旅行などで数日家を空けるときは、同様に容器からぬか全体を取り出してビニール袋等に入れ、冷蔵庫保存がいいらしいが、我が家は家を空けることがまずないので、試したことはない。

 ぬか漬で一番好きなのはキュウリで、夏以外はふたつに切って切り口に塩をすりこみ、切り口を上にして着ける。(夏は丸ごと漬けるだけ)
 キュウリの値段が高い時期は、カブを同じく二つに切って漬けるが、こちらも捨て難い味だ。最近はこの二種類以外の野菜はほとんど漬けない。ぬか漬を食べるとなぜか心が安らぎ、食が進む。不思議だ。



 
カモミールティ.... 2005/夏



 夏本番だというのに、なぜか熱いお茶のことを書く。いま庭のカモミールが盛りだからで、毎日10個を超える花を次々と咲かせている。(写真1)
 カモミールを植えたのは、越してきた翌年の2000年春だった。妻のお義姉さんから新居の庭にと幾種類かの花の種が送られてきて、その中のひとつにローマン・カモミールがあった。
 カモミールがハーブの一種であることは知っていたが、種をもらわなければ自分で進んで植えることはなかっただろう。こんなふうに、ふとしたきっかけで自分の世界が広がることは、人生でよくある。

 種は首尾よく芽を出し、2年目から白い可憐な花がいくつも咲いた。あたり一面に独特の芳香が漂い、そばにいるだけで気分がよくなってくる。
 カモミールには白い花びらに囲まれた黄色い中心部に薬効成分が含まれている。生でも乾燥させたものでも効用に変わりはないが、我が家では乾燥させたものをお茶として一年を通して常飲している。
 種から花を咲かせるまで育てるのはそう難しくないので、収穫し、乾燥させてから飲むまでの様子を記す。

花の部分だけをもぎとり、窓辺などの陽当たりのよい場所で数日乾燥させる。乾いた分だけ、瓶の中に順に保存する。(写真2)

乾いた花を5〜6個茶こしなどに入れ、上から熱い湯を注ぎ、1分ほど置く。これ以上長いと、苦味が出る。
 多人数の場合は急須などに入れてもいいし、カップに直接入れ、あとから花をスプーンで取り出してもよい。(写真3:左に見えるオレンジの瓶は、昨夏に収穫した分)

普通はそのまま飲むが、好みでハチミツを少量入れてもよい。白いカップに入れると、薄いペパーミントグリーンの色が美しい。(写真4)

 花は特定の虫が好んで食べるので、毎日こまめに収穫している。我が家では週に数杯のペースで飲むが、大きめのジャムの瓶ひとつで一年もつ。年に100杯飲むとして、都合500個の花を摘んでいることになる。計算するとすごい数字だ。
 花は多年草なので、一度植えればずっと咲き続ける。虫以外には非常に強く、放っておいてもどんどん増える。

 カモミールはアンデス地方では、古来より薬として重宝されているという。鎮静作用と消化促進作用、ホルモンのバランスを整える等の多くの効用がある。女性により効果があるようで、我が家でも妻が好んで飲む。
 私の場合、「さあこれからもう一仕事」という夜半には紅茶かコーヒーを、「もう仕事はやめてあとは寝るだけ」という夜には、眠りをさまたげないこのカモミールティを決まって飲む。これを飲みだしてからひどい下痢や不眠症がかなり改善された。可憐な割に、なかなか役に立つ奴である。