第1部〜その3 土地を買ったら遊ばせない


土地選びのチェックポイント



 土地選びに関しては素人に近い私だったが、今回の騒動で自分なりに勉強し、いろいろな人の意見を聞きもし、目はそれなりに養うことが出来たと思っているので、ここでそのポイントのいくつかを書き並べてみよう。(あくまで私の個人的な意見なので、参考までに)

●角地は買うな
 いきなり「え〜っ」と驚きなさるな。住宅用地が売りに出されると、真っ先に売れるのが角地と言っていいほど、日本人は角地が好きだ。もしかするとその筋の本にも、「まず角地を探せ」などと書いてあるかもしれない。なぜそんなに角地に人気があるのか私には分からないが、どうも日当たりとアプローチのとりやすさにその要因があるようだ。角地だと建ぺい率などにも優遇措置がとられる。
 確かに、南東や南西の角地の場合、日当たりはいい。道路が二方向にあれば、アプローチの手法も様々にとれて便利に違いない。建ぺい率も大きいにこしたことはない。だが、これらは普通の敷地でもほとんど設計で解決出来る問題なのだ。逆にこれらの長所は、「道路からのプライバシーの確保」という新たな問題点を生みかねない。
 さらに、角地が北西や北東の場合だと日当たりの恩恵はほとんど受けず、車庫や玄関の位置に角地の斜めのラインがくることが多く、さまざまな問題が出てくる。
 角地のさらなる問題点は、こうしたわずかな利点のために土地の単価がはね上がってしまうことである。同じ住宅用地でも普通の土地と比べ、数割は高い。お金の有り余っている人、自分で住む気はさらさらなく、土地を単なる利殖として考えている人以外には、角地はとてもお徳な買い物とは言えないのである。

●北側傾斜地は買うな
 土地は本来平坦な土地が設計もしやすく、住みやすいものだ。しかし、もともと宅地の少ない日本では、山を切り崩して造成した土地も少なくない。眺めがいいから傾斜地がいい、という人もいるだろう。だが傾斜地の場合、素人が案外見逃してしまうのがこの北側傾斜地(南が高く、北が低い土地)なのだ。
 理由は簡単で、日当たりが極端に悪くなるからである。北半球では太陽は南を回るから、北側傾斜地だと日の当たる角度がゆるくなり、日射量が落ちる。(屋根のソーラー集熱器は太陽光線を正面から受ける角度に設置されていることに注意)また、断面図を書いてみると分かるが、北側傾斜地で南側に建物がある場合、平坦地に比べて日射量が極端に減少してしまう。
 それやこれやで、北側傾斜の土地はいつも湿っていて健康にすこぶる悪い。建物の寿命も間違いなく短くなるだろう。北国だと雪解けも遅れるに違いない。「北側傾斜地は病人を作る」と、その筋の本にも書いてあるくらいなのだ。

●崖地の上と下は買うな
 これも一部北側傾斜地と重複するが、一般論として日本の崖地はさまざまな自然災害を被りやすい。同じような条件の土地がいくつかあった場合、何も好き好んで崖地周辺を選ぶ理由など、どこにもないだろう。

●軟弱地盤は買うな
 地盤の柔らかい土地の場合、普通の木造住宅でも基礎杭工事が必要になってくる。また、軟弱地盤の土地は一般的に土地の低い地域が多く、水害などの自然災害を被りやすい。
 先に書いたように、私たちの選んだ土地がまさにこれで、現実に基礎杭工事にかなりの出費を強いられたし、万一のときの水害対策にも頭を悩まされた。

●交差点の近くは買うな
 これは一部「角地は買うな」と重複している。しかし、角地でなくても、交差点のすぐそばは避けたほうが無難だ。なぜなら、交差点の近くは必然的に通行車両の停車、発車が繰り返されるものだからだ。それは必ず騒音や排気ガス、交通事故のもとになる。

●幹線道路の近くは買うな
 同じ様な理由で、幹線道路近くの物件も考えものだ。私の経験だとおおよその目安は直線距離で200mくらいで、これ以上近いと騒音、ほこりなどの悪影響が必ず出てくる。
 以前住んでいたマンションは、ずばり国道沿いにあり、ほこりや騒音に17年間悩まされ続けた。

●ゴミ焼却場の近くは買うな
 ダイオキシンの怖さはいまさら書くまでもない。ゴミ焼却場の煙突が見えて風下に当たる場所だと、何らかの影響を受ける(または受けていた)可能性が高い。いまは改善されていても、過去の分が土壌に根強く残っていることが多いらしいので怖い。風の強い日に煙の方向で確認したい。

●高圧線の近くは買うな
 日本ではあまり重要視されていないが、欧米では100m以内では電磁波の悪影響を受けると言われている。(見上げて高圧線が見えるような場所)疑わしきもので、避けられるものは避けたい。

●児童公園の前は買うな
 若い方なら、「子供を遊ばせるのに好都合」とばかりに、児童公園の前は喜んで買うかもしれない。雪国なら玄関前の雪をどかすのにも、家の前が公園だと好都合だろう。それなのになぜ?
 答えは単純で、児童公園というものは雨の日以外は実に騒々しいからである。以前住んでいたマンションの近くにも児童公園があったが、上記の理由で買った人の中に、自分にも小さな子がいるにもかかわらず、「毎日うるさくてたまらない」とこぼしていた人が数多くいた。年をとって我が子が大きくなってしまえば、悩みは増大するばかりだろう。住まいの悩みとは、実際に住んでみないとわからない、実に複雑怪奇なものである。

●土地は雨の日に見よ
 晴れた日にだけ土地を見て決めてしまうのは考えものだ。必ず雨の日にも自分の目で確認してみたい。晴れの日には見えなかった雨水の流れ、土地の水はけの悪さなど、一目瞭然である。

●土地は冬にも確かめよ
 上と同じ理由で、特に北国では冬の雪の積もり具合、風の方向、日当たりの程度など、住みやすさ住みにくさが一目で確認出来る。(ちなみに、冬は最も日当たりの条件が悪くなる)同じ冬でも、晴天の日ばかりでなく、悪天候の日にも確認するのは言うまでもない。
 このためには、土地探しは夏から秋に始め、冬に決めるのが理想と言えよう。

●土地は平日と休日の両方見よ
 土地には必ず人が住み、さまざまな生活を繰り広げている。平日には閑静な住宅地だったはずの土地が、日曜になると隣家で宗教の集まりが催され、終日騒々しくなってしまうことなどはよくあることだ。
 反対に私のいま暮らす町のように、休日は静かな住宅地が、晴れた平日には自衛隊ヘリコプターの演習がやかましく行われる、という困った土地もある。私はこのことを事前に知っていたが、目をつぶった。しかしいまでも十数機のヘリが我が物顔に低空をかすめていくのを見たりすると、「うるせ〜、バカヤロ〜」とつい大人げなくわめいてしまうのだ。

●土地は第一印象で選び、そして二人で確かめよ
 購入を決める前に専門家に相談するにしても、夫婦ふたりだけで決断するにしても、土地はまず最初はひとりで見、そして複数の人と見るのが理想だと私は思う。不動産会社を通して買う場合でも、いきなり相手の車に同乗して案内を請うより、新聞広告やFAX情報、あるいはインターネット情報などで予め土地の場所を確認し、最初は自分ひとりで見に行ったほうがいい。
 相手が業者だと「売らんかな」の姿勢で、丸め込まれることもあるだろう。夫婦で見た場合、見る目が散逸しやすく、土地の欠点をつい見逃しがちである。利害関係のない建築家などの友人でもいればいいが、この場合でもプロとしての自分の好みを押しつけられがちである。
 最初は何の色にも染まっていない自分のまっさらな目で見た第一印象、これが土地を選ぶ大事なポイントである。複数の人の意見を聞くのはそれからで充分だ。老婆心ながら、独断で決めてしまうのは論外である。

 さて、こうして書くと「あれも買うな、これも買うな」の連続で、まともな土地を格安で探すなど至難の技と思えてくる。今回のチェックポイントには、買い物や通学、交通の便のよさなど、日常生活の要素には全くふれてないが、現実の土地選びではこれらも極めて重要な要素になってくるから、問題はなおさら複雑さを増す。
 しかし、こうやって書いている私自身ですら、いくつかの欠点には目をつぶり、あるいは妥協して土地を購入したのだ。特に予算に制限のある場合、すべてに都合のいい土地など皆無、と断言してもいいだろう。
 結局は自分たちの生活と人生の中で、いったい何が重要で優先度が高いかを家族、特に夫婦間で充分に話合い、妥協すべきところは互いに妥協し、結論を出すことが一番である。こうした生き方、暮らし方の再チェックこそが家作りの大切な第一歩とも言えるのだ。

 また、土地には用地地域、防火規制、建ぺい率、容積率など、専門家でなければ知り得ない難しい規制が数多く隠されてもいる。これらの規制も実際の住み心地を大きく左右するのが常だ。我田引水のようになってしまうが、購入を決める前に第三者の目で冷静に見てくれる専門家(建築士が最も望ましい)に相談することも極めて重要である。



土地を買ったら遊ばせない /98.12.18〜25



 暮れも押し詰まった12月25日に土地の正式登記は完了したが、家の本格的な設計作業は仕事や大掃除の合間をぬって精力的に続けられていた。第1話に書いたように、基本プランはすでに出来上がってはいたが、あくまで南西道路を意識して作られたものだったので、北西道路に土地が決まった段階で大幅に修正する必要があった。
「ローコスト」「立方体の単純構造」「三角屋根」「人がやっていない」これらのキーワードを再チェックしつつ、修正を加えていく。元来が凝り性で、いったん物事にのめり込むと一気に仕上げてしまわないと気が済まない質だから、まさに年末年始休暇返上で作業は続けられた。

 私が家の設計をことさら急いだのは、物事、特に不動産関係のように対象が大きなものは、気分が盛り上がったときに一気に事を進めることが肝要であることを経験的に知っていたからだ。15年前にマンションを買ったときがまさにそうだった。
 利殖目当てに土地を買い、高い固定資産税を払ってのんびり値上がりを待つ趣味や余裕は私たちにはない。金利が安く、新築住宅への優遇税制措置のあるまさにいまが家の建てどきだ。そんなふうに私は考えた。

 当初行った資金計画から考え、利率の低い住宅金融公庫の利用は必須である。仕事の比較的暇な冬場のうちに設計計画を完全にまとめ、1999年3月に募集される平成10年度最後の第4回住宅金融公庫の申込に、なんとか間に合わせたいと思った。次年度からの金利アップは確実だった。わずかな期間の違いで、総支払額に何十万もの差が出てしまう。急がなくてはいけない。
 金融公庫申込後、約2カ月以内に設計審査を出す(つまり確認申請を出す)ことが義務づけられている。3月上旬に住宅金融公庫申込をしたとして、1999年4月末がおおよその締切と考えていい。住宅設計にはあまり慣れていず、しかもいろいろ凝った計画をまとめなくてはいけないという悪条件のなかで、例年きまって春先に忙しくなる建築パースの仕事をこなしながらの4カ月余という期間は、一見余裕がありそうで実はぎりぎりのスケジュールなのだった。



命名「TOM CUBE」 /98.12.26〜31



 こうして12月末には第2案と言えるスケッチが出来上がった。この時点で私は自分の建築家デビュー作になるであろうこの作品に、「TOM CUBE」と名前をつけた。「TOM」は私のイニシャルの一部であり、建築設計事務所の登録名であり、ハンドルネームの一部でもあり、まさに私そのものである。「CUBE」は立方体を意味し、この家の特徴そのものを示す。引き締まった語感も好きだったし、このホームページのタイトルにも通ずる。2番目の案だから、さしずめ「TOM CUBE2」の完成とでも言おうか。

 ここで「TOM CUBE2」の概略をもう少し具体的に書いてみよう。

●アプローチと車庫を兼ねた4坪の吹きさらしのスペースを玄関前に設ける
 完全に壁で囲われてもいず、それでいて雨風はある程度しのげる、内でも外でもない曖昧なスペースが欲しかった。「内から外」あるいは「外から内」へいきなりでは嫌なのである。四季の移り変わりを屋内〜屋外と続く動線の中で、無理なく自然に肌身で感じとりたかった。玄関前にそれがあれば、車の出入りから屋内への動きが楽だし、冬の風雪からもある程度守ってくれる。

●居間から庭へと続く間口3.6m、奥行き2mの縁側(テラス)を設ける
 これも上と同じ理由で、基本的に吹きさらしである。場合によっては上部だけ透明な屋根をかける可能性もある。台所からの動線も最短にしてあるので、サービスヤードのような使い方も出来る。夏は食事に使ったり木の床に寝ころんだりして、「第二の居間」になるだろう。晴れた日に布団や洗濯物を干すもよし。日曜大工や家庭菜園の作業場としても絶好だ。

●半地下室を全面に設ける
 これは友人の建築家エモトさんの助言である。軟弱地盤の低地にあるので、水害対策を兼ねて1階床レベルを1mほど上げ、地盤を1mほど掘り下げて半地下室を設けようというわけだ。豪雪対策としても有効だし、私の好きな工作手作りコーナーにもうってつけである。雨や冬の日の洗濯物干場にもなるだろう。言うことなしのようだが、建築費がかさむのが気がかり。1階にいたるまでの玄関階段の処理も、設計上難しい。

●間取りは4LDK総2階
 1階にはLDKと浴室、トイレの水回り。2階は個室3室に、仕事部屋1室のシンプルな作りである。車庫やテラスを除いた母屋は、3間半(6.37m)の正方形なので、レイアウトは限られている。
 自宅を仕事場に使う場合、2階に仕事部屋をもってくるのは来客の動線を考えると苦しい。たいては仕事部屋を1階にもってきて、LDKと子供個室を2階、夫婦寝室と浴室水回りを1階にもってくるプランが普通だ。しかし、私はあえてこのプランを選択しなかった。普通の家でも「日当たりと眺めがいいから」と、2階にLDKをもってくるのが流行りにもなっているが、私はあまりこれには賛成できない。1階LDKに比べ、一日の階段の登り降りの回数が増すのは確実だからである。
 年齢が30代ならいざ知らず、50歳を迎えようとしているいまになって、一日数十回もの階段の登り降りは妻にも私にもきつすぎる。私の仕事には来客が年に数回と限られているし、仕事部屋は2階で充分だった。

 内外装の材料については、「他ではあまり使っていないもの」という漠然としたイメージがあるだけで、この時点でまだ細かな詰めは行っていない。あくまで設計の基本的な考え方をまとめるだけだから、結論は先延ばしでいいのだ。(このあと、予算や入手のしやすさなどから決めてゆく)
 建築面積、延べ床面積などは重要なのでプラン毎にチェックしておく。今回のプランはもともとコンパクトな住宅の計画だから、地下室や車庫部分を含めても充分な余裕がある。



3D-CGソフトによる検討 /98.12.26〜31



 さて、こうしてまとまった概略案だが、単に紙の上でスケッチを書いただけでは一抹の不安があった。私も一応プロのはしくれなので、間取りから空間をイメージすることはある程度出来る。だが、道路からみた方形屋根の形、半地下の様子などは完全にイメージ出来ない。得意のパースを描けばある程度は分かるが、そのパースをもってしても、居間の窓から見た隣家の様子や2階の窓から見える山のイメージ、隣家の落とす影のイメージまでつかむのは不可能である。
 そこでそのころ導入したての3D-CGソフトをここで使ってみることにした。3D-CGソフトの用途は建築パースなどに代表される3次元立体を描くことで、設計検討は本来の役割ではない。それでも何度か使ってみた経験で、このソフトはもっと幅広い用途に使えると私は見ていた。

 まず、不動産会社からもらった敷地図から街区を入力する。周辺の家をおおよその寸法で入れ、空き地には法律上許される限度いっぱいで建てられたことを想定した家の外形を入力する。
 次にスケッチをもとに設計した家を敷地に慎重に配置する。窓の大きさと高さを想定し、壁をくりぬく。地図をもとに、西に連なる手稲連峰の山々を1/10のスケールで配置する。最後に敷地の方位と土地の緯度(札幌だから、北緯43度)を入力し、作業は完了である。方位と緯度を入力してやらないと、敷地の日照を正確に知ることは出来ない。

 これが3D-CGソフトによって描かれた図のうちのひとつである。ブルーの家が実際に建っている家、グレーに見えるのがまだ建っていない想像上の家である。北側や北西側にも空き地があるが、ここに家が建っても日照に影響しないので、想定していない。
 この図では主に冬至における隣家からの影をチェックした。図は午後12時のものだが、実際には時間を少しずつ変化させて影の動きを細かく見る。これによって1階床面の高さ、敷地境界線からの家の離れなどを最終決定する。
 この他にも視線を家の中のあちこちに配置し、内からと外からの視線のチェックを入念に行った。ドアや窓の数や位置などは、この作業の中で決める。


「TOM CUBE3」へと進化 /99.1.1〜3



 こうして設計作業は進んでいった。だが、一見順調そうに見えた作業の中で、いくつか不満が出てきたのも事実だった。3D-CGソフトで確かめた方形屋根が、思ったほど美しくない。半地下の基礎も外見的にはいかにも中途半端である。トタンの菱ぶきにする予定だった外壁も、いまひとつピンとこなかった。
 いろいろ思い悩むうち、一冊の運命的な本に私は巡り合った。話は多少前後するが、年末に発売された建築雑誌で、地元建築家が設計した北海道の家を特集したものがあり、幾人かの知り合い建築家の作品が掲載されていたこともあって、迷わずこれを購入した。
 それまで私が蓄積していた設計資料は、計画から材料、構造、断熱、施工に至るまで住宅建築のすべてを網羅していたが、資料そのものが幾分古く、現実の設計に使うとなるといささか心もとない。最新の北国住宅の情報が満載されたこの雑誌は、まさに「熱い鉄」の状態にあった私を大いに刺激し、設計プランに多大な影響を及ぼした。

 細かな経緯は省略して、この時点で修正を加えた箇所を列記する。

●方形屋根をやめ、切妻屋根に変更
 第1話に書いた「立方体」→「方形屋根」(法隆寺と同じ四角錐の屋根)へのこだわりは、この時点で捨てた。切妻屋根との価格差は計算上わずかのものだったし、設計上応用がきいて単純構造の切妻屋根のほうが総合的に見てローコストであるとふんだ。念のため3D-CGソフトで外観を確認してみると、方形屋根よりもはるかに美しい。

●外装トタン張をやめ、木の壁材にする
 購入した本の中に、外装をすべて木にしてある家が一軒だけあり、その素朴な味わいに魅了された。木がふんだんに使われた家、という漠然としたイメージはかねてからあったが、それならばいっそ私も外壁を木にしてみようかと考えた。
 私の生まれ育った家が内外装とも木の壁だったし、気になる防火規制もこの土地にはない。耐用年数はメンテナンスでカバーしよう。何より、茫漠とした風景が広がるこの地には、木の外壁材がよく似合うに違いない。

●車庫スペースを2台分に拡張
 風雪の厳しいこの地で、冬の車の雪落としと雪かきは辛い。価格アップにはなるが、引越し後に車を買う予定の息子の分まで、車庫を確保してやろうと考えた。

●家の中心に縦と横の吹抜けを交差させて設ける
 のびやかな空間を形成する吹抜けは大好きだったが、あまり大きなものは価格アップにつながる。だが、小さな吹抜けならなんとかなりそうだ。
 普通、吹抜けは上下に設ける。これをもうひとつ進化させ、同じ階での部屋相互に共有する空間を作れないかと考えた。家の中心でそれを上下と左右に交差させれば、さらに変化にとんだ空間が出来上がる。家全体の光と風の通り道としても有効だし、何よりこの「空間の共有」こそが、ローコストの狭い家を広く住む決め手になるはずだった。

●2階天井をやめ、屋根裏をそのまま見せる
 構造材を隠さず、あえて見せるようにしたいという願望は、かねてからあった。縦横の交差吹抜けを作るなら、いっそ2階天井を取り払ってしまい、屋根の構造材を室内表しにしてしまおうと思った。粗削りだが、ダイナミックな空間が広がるだろう。

●下地材を内装材として使う
 構造材を見せつけるなら、それにあわせて内装材にも普通は下地材として使うものをそのまま使ってやろうじゃないか、と考えた。このあたりはひとつのアイデアが引き金となって次々とアイデアが生まれてくる、いわば「アイデアの連鎖」である。
 モデルルームによくある小奇麗なクロス張はありきたりでどうにも好きになれなかったし、下地材なら価格も安く抑えられる。(このときの決断が、あとになって家作りを思わぬ方向に進ませることになるのだが、この時点ではまだ見えていない)

 こうしてまたまたスケッチは描き直されることになった。10月末に第1案が完成してから、はやくも「TOM CUBE3」へと進化したわけだ。
 この頃になると家のイメージはどんどん膨らんできて、内壁や床の材料、ドアのデザインや数、作りつけ家具の仕様、照明器具のデザインに至るまで、アイデアは具体的に煮詰まっていった。

 家作りに関して家族からの注文は多くなく、妻からの要求は、「台所は南側の暖かい場所に」「台所に眺めのいい窓をつける」の二つだけで、「そのほかは任せるわ」と極めておうようだった。
 息子たちにいたっては、「個室みたいのがあれば、いいかな〜」とそっけない。どうやら計画に夢中になっていたのは私だけのようだったが、それでも家族に不満のでる家には絶対にしない、との自負だけはしっかり持っていた。


概算見積ジャスト1000万 /99.1.4〜5



 家の概略が固まってきたので、詳細な見積を出す前の準備として、家の構造や断熱などに関する計算をここで行うことにした。特に壁と基礎、屋根などの断熱計算は価格に大きな影響を及ぼすので大切だ。住宅金融公庫の断熱融資を受ける予定でいたので、基準通りの数値になる断熱構造にする必要があった。

 断熱材に何を使うかは、大いに悩んだ。価格が安くて熱に強いのはグラスウールだが、湿度による経年劣化の心配がある。断熱性能と湿度に対する強さを考えると、ポリスチレン断熱材が断然有利だった。だが、熱に弱く、価格が割高という弱点がある。
 考えたすえ、まずはポリスチレン断熱材で家全体を断熱する計画にした。今回の設計すべてに通ずることだが、迷ったときはまず高いほうの材料、工法を選択しておき、最大価格をはじき出してみる。それで折り合いがつかなければ、じょじょにグレードを下げていこうという手法だ。

 木造の場合、屋根や床梁の選定は経験値でも済むが、今回は2階天井を取り払うことにしたため、屋根の裏面(室内側からみると斜めの天井にあたる)を出来るだけ広くみせたかった。ここに屋根梁などの構造材があまりに多すぎると見苦しい。そこで「登り梁」という特殊な梁を使うことにし、構造材の省略化を計った。この登り梁の寸法形状と数の決定にあたっては、特に積雪に対する詳細な計算を行う必要がある。
 もともとが機械屋なので、構造計算や熱計算は得意中の得意である。ひな型を一度作ってしまえば、変更したときや別の家の設計のときにも応用がきくので、計算書として清書し、きちんと保存しておく。

 換気や暖房計画、給排水計画などは手つかずだったが、概算でも見積に大きな影響を及ぼさないので、この時点で選定した材料と構造計画に基づき、詳細な見積を出してみた。すると消費税込で約1000万というきりのいい数値がでた。計画延べ床面積は、建物本体が約25坪、半地下室と車庫が約14坪、合計約39坪まで膨らんでいた。坪単価に直すと建物本体が約32万/坪、半地下室と車庫が約15万/坪という計算になる。
 坪単価で建物を評価すること自体に、実はあまり意味はない。家がコンパクトになればなるほど設備工事や電気工事、屋根、基礎工事にいたるまでの諸工事の比重が重くなり、同じグレードの家でも坪単価は上がってゆく。だから、数値そのものの単純比較が出来ないのだ。
 ひとつ例を出すと、設備工事の中に、「下水道加入負担金」というものがある。家からでる下水管を本管につなぐ加入金のようなものだが、この金額は1000万の家でも、1億の家でも全く同じ金額である。(市町村によって異なるが、10万前後)

 この方程式をあてはめると、はじき出した坪単価は、まるで無謀な数値に思える。坪単価40万以下でやっているハウスメーカーは北海道でも皆無ではないが、はたして注文住宅をこんな数字で請け負ってくれる業者がいるのかどうか、皆目見当がつかない。
 以前にも書いたように、かっては私も建築土木工事の見積を自在にこなしていた。だが、実戦からしばらく遠ざかっていたせいで、内容にはいまひとつ自信が持てない。見積に自信がないまま、夢だけはどんどん膨らんでいく。まるでど素人の家作りそのものである。いや、半端に知識がある分、余計にやっかいかもしれない。
 実はこのときの矛盾が、のちのちになって家作りそのものを大ピンチに陥れることになるのだ。

(第4話「エコロジー住宅への道」へと続く)