訪問ライブ顛末記


ベストライフ西・12月誕生会 /2019.12.8



 昨年は3本だったXmasライブ、どういうわけか今年は6本と久しぶりに多い。うち3本はリピート依頼で3本がネット経由による新規依頼と、バランスも絶妙。その第一弾となるライブがあった。
 訪問先は活動を始めた当初から依頼が続く市内西部の有料老人ホーム。足掛け14年に及ぶ長いお付き合いで、細いが確かな信頼関係が続いている。

 先月から居座る寒波で街は凍てつく真冬日。用心してライブ開始1時間20分前に家を出たが、意外に車の流れはスムーズで、約40分で先方に着いた。

 時間には充分余裕があり、控室でスタンバイする。昨年もそうだったが、事前の打合せで最後に施設長さんとコラボ演奏することになっていた。サブのマイクとマイクスタンド、電子譜面もセットする必要があった。
 最近はこうした機会がけっこう多く、古い譜面台を再利用したサブマイクセット一式を袋に入れ、いつでも使える状態にしてある。

 施設長さんと簡単な音合わせをしたあと、14時15分から施設側の誕生会イベント開始。予定よりやや遅れて14時33分くらいから余興が始まった。およそ35分で12曲を歌う。


「ジングルベル」
「おかあさん」(森昌子)
「お座敷小唄」
「ここに幸あり」
「幸せなら手をたたこう」
「高校三年生」(歌詞カード)
「故郷」(歌詞指導)
「君恋し」
「星影のワルツ」
「旅の夜風」
「まつり」
「上を向いて歩こう」(コラボ演奏)(歌詞カード)


 以前は聴き手の嗜好がつかみきれず、苦戦した時期もあったが、「ニギヤカ手拍子系の曲をベースにし、アクセントとして叙情系の静かな曲を時折混ぜる」という方向性にしてから、場の反応はじょじょに安定した。
 この日もこうした方針を踏襲。職員さんの協力もあって1曲目から手拍子が途切れず、共に歌う声や「懐かしいね〜」「いい歌だね〜」といった声も数多く耳に届いた。

 この施設では初めて歌った宴会系の「お座敷小唄」の反応が抜群で驚く。これまであまり歌ってなかったが、いまや冬場のライブには欠かせない必殺曲になりつつある。
「ここに幸あり」「故郷」「君恋し」「星影のワルツ」の反応もよく、全体を通して非常にやりやすい雰囲気だった。

 盛り上がったまま、ラストのコラボ演奏へと突入。昨年も同じ曲を一緒に歌っていて、互いに戸惑いはない。
 打合せ通り、途中からアドリブでのハモリ二重唱(私はユニゾン担当)を仕掛けたが、これが抜群の出来で会場は拍手と歓声に包まれた。

 施設長のMさんとは主任だった14年前からの長いお付き合い。私の還暦ライブにも来ていただいた。長く歌っていると、まるで友人か親戚のような深い関係が築けるものだと、感慨深い。
 終了後に玄関先まで送ってくださった担当のYさんにも、「これほど盛り上がった余興は久しぶりです」と喜んでいただいた。


 

グランウエルネス円山桜通り・Xmas会 /2019.12.14



 ネット経由で初めて引き合いのあったサ高住Xmas会で歌った。系列他施設でも続けて歌って欲しいと請われたが、スケジュールが詰まっていて無理。ひとまず一施設だけで歌うことに。
 事前に情報収集すると、歴史は浅いが市内5ヶ所で事業を運営している。どの施設も高級感ただよう造りで、入居者の介護度は低い。
 過去に似た形態の施設で洋楽を多く歌うよう求められたことがあり、ライブ構成に迷って事前に確認したが、一般的な内容で構わないとの返答だった。

 開始は14時でライブ時間は40分と長め。初めての施設なので早めの13時5分前に家を出る。路面に雪は全くなく、乾いている。40分で先方に着き、会場となる食堂ですぐに設営を始めた。
 10分で終了し、時間まで控室で待つ。やや遅れて14時3分くらいから開始。予期せぬリクエストやアンコールを含め、およそ45分で14曲を歌った。(※はリクエスト)

「ジングルベル」
「おかあさん(森昌子)」
「お座敷小唄」
「バラが咲いた」
「幸せなら手をたたこう」
「高校三年生」
「故郷」
「君恋し」
「神田川」※
「星影のワルツ」
「いい日旅立ち」
「サクラ咲く(オリジナル)」※
「東京ラプソディ」
「月がとっても青いから」(アンコール)


 聴き手は女性を中心に20名弱。男性は2名だけで、車椅子の人は皆無。会場がそう広くなく、リスクを避けてPAのボリュームはかなり絞った。

 余興ボランティアの受入れが少ないらしく、場の反応は硬い。担当のYさんは最初の紹介だけで事務室へと消え、ヘルパーに相当する職員さんはいない。会場は私と入居者だけとなり、歌い手一人で場をまとめる必要に迫られた。
 一曲ごとの拍手は熱いが、曲間の手拍子や歓声等は皆無。MCを多めにして引っ張る苦心の進行だった。

 4曲目の「バラが咲いた」で共に歌う声がポツポツ耳に届き始め、参加型の5曲目「幸せなら手をたたこう」でようやく場がなごみ始める。困ったときには、やはりこの曲だ。

 6曲目の「高校三年生」を覚えた経緯を説明するなかで、自分の弾き語り経歴についてふれたら、20代で盛んに歌った「神田川」をぜひ聴きたいという声が複数あがった。予定にはなかったが、希望に沿って9曲目に歌うと、これが非常に受けて場を完全につかんだ。
「神田川」は先月末のデイサービスでもリクエストがあって歌い、強い反応があった。介護施設でも歌える数少ないフォークである。

 その後、「星影のワルツ」と「いい日旅立ち」では二択リクエストを仕掛け、聴き手の拍手でどちらを歌うか決める趣向をとったが、拍手が拮抗。最前列の男性から「これは両方だね」との声があがり、結局両方歌うことになった。

 残り時間が少なくなり、場に再度リクエストを募ると、「オリジナルは持っていらっしゃいます?」との信じ難い声があがる。「ハイ、あります」と応じると、ぜひ聴きたいという。介護施設で利用者からの求めでオリジナルを歌ったことは一度もなく、これは画期的なことだった。
 考える時間がなく、咄嗟の判断で「サクラ咲く」を歌うことにし、曲名と出来た経緯を告げると、なぜか会場がざわついた。

 久しぶりに歌ったが、これが自分でもなかなかの出来。終わると盛大な拍手が湧いて、「美しいテノールですね」「この施設の名前にも《桜》が入ってるんですよ」「春には外の街路樹に花が咲きます。そのときにぜひまた聴きたい」との声が。
 全く気づかなかったが、確かに施設名の末尾に桜の文字があった。何気なく選んだが、こんな偶然もあるのだ。

 ラストの「東京ラプソディ」では自然発生の手拍子もでて、尻上がりに乗ったライブをにぎやかに締めくくることができた。

 全て終わったあと、担当のYさんが事務室から登場。仕事をしながら歌は聴いていたそうで、「アンコールはないのですか?」と問う。場の拍手が続き、定番のアンコール曲でお応えした。

 その後も場に余韻が残り、聴き手はなかなか去ろうとしない。撤収作業をしながら雑談したが、やはり神田川の評価が高かった。
「洋楽は聴かれますか?たとえば《サン・トワ・マミー》とか《ケ・セラセラ》とか…」と問うと、そんな曲が歌えるんですか、それはぜひ聴きたかったとの声が多数。当初の予想はやはり当たっていた。もし次回があった場合は、さっそく反映させたい。

 終了後、来年2月に系列の4施設で順に毎週歌ってもらえないか、との打診がYさんからある。具体的な日程がその場で決まった。構成は任せてもらえたので、今回のメニューにフォークや洋楽の要素を加味し、修正して臨みたい。
 思いがけないことが続いたが、来年もまた忙しくなりそうだ。


 

ベストライフ東札幌・12月誕生会 /2019.12.15



 足掛け12年のお付き合いがある市内有料老人ホーム誕生会で歌った。この施設では2月にも歌っていて、このところ年2回ペースでの依頼が続いている。
 1週間前に歌った有料老人ホームの系列施設で、人事交流もあるようだ。担当者が移動した先の施設から、新しい依頼がきたりする。場所や人で広がってゆく仕事のつながりとよく似ている。

 開始時間はいつものように14時半。施設側のイベントのあと、14時45分くらいから始める。およそ35分で12曲を歌った。


「ジングルベル」
「二輪草」
「お座敷小唄」
「バラが咲いた」
「365歩のマーチ」
「上を向いて歩こう」
「故郷」
「君恋し」
「星影のワルツ」
「山小舎の灯」
「まつり」
「青い背広で」


 1週間前の系列別施設でのセットリストをベースにし、2月に歌った曲との重複を極力避けて臨んだ。重複曲は前回最も手応えのあった「青い背広で」のみ。

 2日続きのライブで、体力や集中力に不安があった。高音はまずまず出たが、低音が安定しない。練習不足のせいか弦を押さえる左手の指が痛く、コードが甘くなった。好調とは言い難い。

 それでも前半の反応は決して悪くなかった。手拍子や共に歌う声も耳に届いた。

 場を自分のペースに持ち込みたい大事な5曲目は、「幸せなら手をたたこう」か「二人は若い」を歌うことが多いが、どちらも過去2回で歌っている。
 そこで今回はこれまであまり歌ってなかった「365歩のマーチ」を初めて5曲目に入れた。これが予想外に好評で、場が一気に弾んだ。5曲目として充分使える。思わぬ拾い物をした。


 勢いに乗ったまま後半になだれこむはずが、懐メロの「君恋し」「山小舎の灯」、昭和歌謡の「まつり」の反応が弱く、すっかり計算が狂った。理由ははっきりしないが、聴き手に疲れが出始めたのかもしれない。
 傾聴型の昭和歌謡「星影のワルツ」の反応は悪くなかったので、後半は静かな曲を中心にすべきだったか。場に応じた曲の構成&配置は実に難しいと再認識させられた。

 ラストの「青い背広で」は前回に続いて好評。自然な手拍子も出た。「最後の曲です。どうぞ良いお年を」と呼びかけたので、聴き手も優しく応じてくれたのだろう。
 終了後、担当のOさんから「いつも助かってます。雪解け頃にも、またお願いします」と声をかけられた。自分で思うほど出来は悪くなかったのかもしれない。


 

第2この実寮・忘年会 /2019.12.19



 ネット経由で依頼のあった、知的障がい者支援施設の忘年会で歌った。会場は市内中島公園近くのホテル宴会場。
 施設そのものは市内南方の山間部にあり、これまでは施設内でXmas会をやっていた。今年は初の試みとして都心のホテルを会場にし、余興にはゲストを迎えることになったという。

 実施前から電話で何度かのやり取りがあり、10日前には吹雪をついて施設を訪れ、担当者と直接面談。歌う曲は入居者の嗜好をふまえて、その場で全て決めるという力の入れようだった。打合せ後に施設内を案内され、何人かの入居者と挨拶も交わす。

 実施日の数日前から当日にかけても、細かい打合せの電話が何度かあった。これほど入念な調整は記憶にない。平常心でいたつもりだが、(失敗は許されない…)と、じょじょにプレッシャーが強まる自分を感じた。
 当初は開会宣言後に歌う手はずになっていたが、直前になって、軽食のオヤツを食べたのちに歌うことに予定が変わる。食べてから聴いてもらうほうがリスクは少なく、この変更は歓迎だった。

 当日は積雪ゼロの穏やかな日和。13時半ころに家を出て、14時過ぎに難なく到着する。
 4階の会場に入ると、入居者もまた予定より早く着いてしまい、開演を待ち望んでいる状態という。14時半の開始が、前倒しして14時20分と早まった。

 会場が広いという事前の情報からPAは2台を準備し、開始前に手早くセットを終えた。
 パーテーションに区切られた位置で控えていると、14時50分くらいに進行の方に呼ばれる。シールドをつなぎ、PAのスイッチを入れてただちに開始。40分弱で11曲を歌った。
(4曲目「瀬戸の花嫁」以降は全てリクエスト)


「ジングルベル」
「おかあさん(森昌子)」
「お座敷小唄」
「瀬戸の花嫁」
「北国の春」
「高校三年生」
「上を向いて歩こう」
「365歩のマーチ」
「見上げてごらん夜の星を」
「まつり」
「大空と大地の中で」


 マイクテストやリハーサルの類いは一切なく、文字通りの一発勝負だったが、会場の広さと同時に天井が非常に高く、前半数曲はPAのボリュームやリバーブの調整を強いられた。
 連続ライブのあと、中3日でのライブとあって喉の調子はパッとしない。前回に比べて低音は安定し、ギターの押さえも改善されたが、今度は高音が安定せず、ピーク時に声が切れそうになって危うくこらえる。

 聴き手は入居者40名強、職員30名、保護者を加えて100名弱とかなり多い。食事はフルーツ系のオヤツと飲み物だけで、アルコール類は一切ない。

 自分の不調もあってか、会場の反応はいまひとつで、テーブルによっては歌よりもおしゃべりや食事に興ずる姿もあったりし、難しい進行を余儀なくされた。
 前半は守りの歌唱にならざるを得ず、ようやく落ち着き始めたのは、5曲目あたりから。実は4曲目以降は全て事前の打合せによる施設側のリクエストだった。入居者の嗜好を反映させたもので、じょじょに聴いてくれる人が増えてきた。

 後半の「365歩のマーチ」を歌い始めると、突然入居者の一人(女性)がマイク前に進み出てきて、会場にむかってダンスを始めた。すかさず職員さんのサポートが入る。アップテンポの曲なので、ダンスは合わせやすい。
 一人が踊り始めると、続いて前に出る人が出始めた。保護者の方々の表情がゆるみ、場が一気に盛り上がる。

 続く「見上げてごらん夜の星を」でも同じように歌詞に合わせて踊る人が続出。いわゆる「当て振り」と言われるジャンルの舞踊だった。もしかすると、施設でも娯楽の一環で踊っているのかもしれない。
 突発的な当て振りはその後の「まつり」でも続き、場内の熱気はピークに達する。咄嗟の判断で、歌詞や間奏は一切省略せずにフルコーラス歌った。

 ラストの「大空と大地の中で」を会場の手拍子で締めくくる。聴き手の後押しもあって、この頃には高音の不安も解消していた。
 終了後には1年を写真で振り返るスライドショーが続いていたが、私は途中で退出。一時はどうなることかと思った展開も、何とかまとめられて安堵の胸をなでおろした。


 

デイサービスセンター昔茶屋・Xmas会 /2019.12.27



 自宅から車で20分のデイサービスXmas会で歌った。ネット経由での初依頼で、「忘年会」の間違いでは?と一瞬思った。25日までならともかく、27日のXmasライブはさすがに遅すぎないか。
 しかし、先方はイベントスケジュールの都合で、ぜひともXmas会としてやりたいという希望。そこで1曲目に「ジングルベル」を歌うことで了解してもらった。

 場所はいつもDIY関連の材料を買いに行くホームセンター近く。開始予定は14時15分で、早めの13時50分に着いた。
 会場となる食堂には、確かにクリスマスツリーが飾られている。設営はすぐに終わり、15名ほどの聴き手も時間前に集まったので、予定を早めて14時7分から始めることになった。
 40分弱で12曲を歌う。

「ジングルベル」
「北国の春」
「お座敷小唄」
「バラが咲いた」
「幸せなら手をたたこう」
「高校三年生」
「故郷」
「君恋し」
「星影のワルツ」
「時の流れに身をまかせ」
「まつり」
「東京ラプソディ」


 1曲目から自然に手拍子が飛び出す幸先のよい出だし。やや介護度の重い方もいたが、4人いた職員さんが積極的にライブに参加してくれ、一抹の不安も吹き飛んだ。
 2曲目は当初「二輪草」を予定していたが、客席の顔ぶれを見て咄嗟に「北国の春」に変更。この直感はたぶん当たっていて、中ほどにいた女性が手拍子しながら涙を流している。
 本来泣くような歌ではないが、何かが琴線にふれたのだろうか。一瞬もらい泣きで崩れそうになったが、視線をそらすことで持ち直した。

 以降の曲も手応え抜群で、会場には手拍子や歓声が絶えなかった。8曲目の「君恋し」では、中ほどの女性のほかに、男性でも泣き出す人が複数。この曲で泣かれたこと自体が記憶になく、男性の涙も極めて稀。
 この日は喉の調子が抜群によく、いつもは途中で一度は飲む水も全く必要ないほど。いろいろと「泣く」条件が整っていたのかもしれない。

 施設側からは30分程度の演奏を事前に頼まれていたが、場の反応があまりによく、状況次第では飛ばすつもりでいた「時の流れに身をまかせ」「東京ラプソディ」の2曲も勢いに乗って歌った。

 15時からオヤツの予定があり、当初の希望より長く歌った関係で、アンコールはなし。涙と笑いが交錯する、実に不思議なライブだった。
 今年のライブは31回目のこの日が最後。締めくくりに相応しい大団円である。


 

グラーネ北の沢・訪問ライブ /2020.1.14



 2020年の初ライブとして、市内遠方の老健施設で歌った。昨年5月にネット経由で最初の依頼があり、自由参加形式で小規模な部屋で歌ったが、手応え抜群だった。
 翌月に再度の依頼がある。今度は大食堂で全員参加のイベントとして歌って欲しいとの要望。どのような場でも連続ライブは難しいが、「全曲リクエスト」という新たな形式でやることで受諾した。
 ところがこの2度目のライブで開始時間を間違えるという大チョンボをやらかし、15分遅れての開始。ライブの手応えもいまひとつで、リピート依頼はないものと覚悟した。

 半年後に再びの依頼があったときは正直驚いた。この理由ははっきりしないが、これまでの経緯をふまえ、前2回の午前中ライブから午後ライブに変更して欲しいこと、歌うスタイルを初回と同じ小部屋での自由参加方式に戻して欲しいことを、こちらの希望として申し出た。
 いささか図々しいこちらの言い分は全面的に受入れられ、この日の3度目のライブに至った。

 記録的な少雪で街なかの路面状態は良好だったが、施設は山間部にある。前回の遅刻でこりているので、早めに家を出た。
 快調に走って50分足らずで先方到着。14時の開始までには充分な余裕があった。ゆっくりスタンバイして予定2分前にスタート。50分弱で14曲を歌う。(※はリクエスト)


「上を向いて歩こう」
「二輪草」
「真室川音頭」
「バラが咲いた」
「365歩のマーチ」
「蘇州夜曲」
「仰げば尊し」
「恋の町札幌」
「星影のワルツ」
「瀬戸の花嫁」※
「つぐない」
「君といつまでも」※
「東京ラプソディ」
「また逢う日まで」(アンコール)


 開始時点での聴き手は10名ほど。30席ある会場は閑散とした印象だったが、これは初回と同じ傾向。歌い進むうちにジワジワと人が集まってくるのも同じ流れだった。

 黒豆煮汁での対策が効いて咳喘息の影響はほとんどなく、喉は快調。次第にライブが熱を帯び始めた矢先、3曲目の「真室川音頭」のラストでギターに突然の異音。そう、魔の弦切れである。
 歌い終えて「実は大変なことが起きまして、ギターの弦が切れました。2分くらいで交換しますので、少しお待ちを」と率直に説明。切れたのはまた4弦で、ただちに交換に取り掛かる。
 ちょうどそのとき、5名ほどの聴き手がまとまって部屋に入ってきた。会場にいた知り合いを見つけ、「あら、来てたの〜」などと言葉を交わしている。ライブは中断していたが、この一時的な喧騒が格好の時間稼ぎに結果としてなった。

 何事もなかったようにライブ再開。見渡すと、会場がいつの間にか満席になっている。突然の弦切れでチューニング全体が狂ってしまい、1曲毎に微調整を強いられたが、ツキも味方してダメージは最小限で済んだ。
 以降のライブは熱い手応えのまま突き進む。「バラが咲いた」「蘇州夜曲」「仰げば尊し」「星影のワルツ」「瀬戸の花嫁」では共に歌う多くの声が耳に届いた。
 入退去が頻繁な老健施設という事情もあり、昨年とは顔ぶれが相当入れ替わっていて、今回はどちらかといえば叙情的な曲が好まれた。

 30分が経過して残り10分となった時点で、場にリクエストを募る。声が上がったのは「瀬戸の花嫁」だけで、残り1曲は準備した「つぐない」でつないだ。
(結果として、この日一番外した曲かもしれない)

 そのままラストになだれこむつもりでいたら、最前列で熱心に声援を送っていた女性が「加山、聴きたいね」と、隣の女性にささやく声が聞こえる。これは無視できない。
「もしかして、加山雄三をお聴きになりたいのですか?」と、咄嗟に「君といつまでも」のさわりを歌ったら、「そうそうそれ」と嬉しそうに頷く。時間が迫っていて譜面を探す時間がなく、そのままアカペラで1番だけ歌ったら、大喜び。(歌詞は暗譜していた)
「確かセリフもあったでしょ?」と重ねるのでこちらも披露したが、伴奏なしにも関わらず、会場全体が湧いた。小さな声を拾い上げて正解。

 時間オーバーしてにぎやかにラストを歌い終えると、担当の職員さんからアンコールが飛び出す。打合せにはなかったが、確かに場の気分には沿っている。ありがたくお応えした。

 終了後、近寄って声をかけてくれたり、握手を求めてくる方が多数。「また歌いに来てね」と殺し文句を耳元でささやく女性もいた。
 開始直後の弦切れという想定外のハプニングに見舞われたが、運にも恵まれて好評のうちに終えられた。