訪問ライブ顛末記


西の里恵仁会病院・訪問ライブ /2016.5.28



 札幌の南東に位置する近郊都市に歌いに行った。私には珍しい病院訪問ライブで、かなり前からネット経由で依頼されていた。
 千歳空港へ向かう際にいつも通る道沿いにあり、中に入ったことはないが、病院の存在は知っていた。自宅から遠いこともあって事前の現地調査はせず、打合せは電話だけ。
 平均年齢80歳の入院患者が対象で、懐メロを中心に演って欲しいという先方の希望。初めての場でもあり、冒険はせずに老人ホームむけのオーソドックスな構成で臨んだ。

 50分弱で先方に到着。玄関ホール横にあるロビーが会場で、開演までには20分あったが、早くも患者さんが集まり始めていた。
 予定では14時開始だったが、10分前に準備が整う。集まった患者さんは20名ほどで、全員が車椅子。サポートする職員さんも10名ほどいた。
 そのまま待っていただくのも心苦しく、こちらから申し出て開始を10分早めてもらった。先方の希望通り、30分で11曲を歌う。


「憧れのハワイ航路」
「バラが咲いた」
「お富さん」
「二輪草」
「二人は若い」
「高校三年生」
「浜辺の歌」
「旅の夜風」
「瀬戸の花嫁」
「月がとっても青いから」
「青い山脈」


 歌う前から漠然とした予感はあったが、聴き手が非常に大人しい。看護師さんを始めとする職員さんもこの種のライブに慣れていない様子で、場を作るのは困難を極めた。
 聴き手参加型の曲である「お富さん」や「二人は若い」に対しても、場の反応はごくわずか。1曲毎の拍手も弱々しい。
 何らかの病気を抱えている方々ばかりなので、あまり無理を求めることはできない。途中からは単純に聴いていただくことにポイントを移し、淡々と歌い進んだ。

 それでも叙情性の強い「瀬戸の花嫁」で、聴き手が少し反応する気配を感じた。しかし、ライブはすでに終盤である。いかにも立ち上がりが遅い。
 ラスト2曲はニギヤカ系の定番曲だったが、この日一番の盛り上がりだった。

 終了後にちょっと余韻が残り、アンコールが出そうな雰囲気もあった。すると進行の方が、「もしリクエストがあれば、お応えいただけますか?」と尋ねてくる。
 リクエストよりも短めのアンコールがこの場には相応しい気もしたが、ともかくも場から募ると、「曲名は分からないが…」と前置きし、出だしの部分を歌い始める一人の女性がいる。「お〜い、…さん」と。
 一瞬「お〜い中村君」かと思ったが、微妙に違う。「お〜い、船方さん…」つまりは、三波春夫の「船方さんよ」である。曲は知っているが、あいにくレパートリーにない。必死に記憶をたどり、1番だけを無伴奏で歌ってさし上げる。とりあえず場は繕った。

 延べ500回を越える弾き語り活動のなかで、病院で歌うのは今回を含めてわずかに4回目。いずれも苦戦した記憶しかなく、まだまだ手探りの段階といえる。終了間際にかすかな手応えも感じたが、さらなる経験値の積み重ねが必要のようだ。


 

ケアセンター山の手・訪問ライブ /2016.6.18



 かなり前にネット経由でライブを依頼されていた、隣区にある障がい者施設で歌った。場所は異なるが、系列のデイサービスで2度歌ったことがある。今回は聴き手が高齢者ではなく、30〜60代の障がい者で、対象がかなり若い。
 事前にFAXや電話で何度か打合せを繰り返したが、曲の好みがいまひとつはっきりせず、チカチカパフォーマンスで主に使っている315曲のリクエスト一覧を送付し、先方の希望を募る、という手法をとった。

 ライブの2週間ほど前に絞り込んだ55曲がFAXされてきて、その中から私の判断で1時間分を選んで欲しいという。そのほか、中間で休憩を入れて欲しいという要望も出た。

 初めて歌う施設で、事前調査もしていない。用心して早めに出発し、開始30分前の13時半に先方に着いた。
 ステージの位置を確認し、まず機材をセット。すでに利用者の方が集まり始めていたが、縦に長い会場だったので音の通りを事前に確かめたく、珍しくマイクテストをやった。

 予定ぴったりの14時に開始。数分の休憩をはさみつつ、60分で18曲を歌った。(※はリクエスト)


《前半》
「涙そうそう」
「さよなら大好きな人」
「22才の別れ」
「恋(松山千春)」
「いちご白書をもう一度」
「時の流れに身をまかせ」
「カントリー・ロード」
「カサブランカ・ダンディ」
「五番街のマリーへ」

《後半》
「愛燦燦」※
「なごり雪」※
「もしもピアノが弾けたなら」※
「さくら(直太朗)」※
「春夏秋冬(泉谷)」※
「小春おばさん※」
「2億4千万の瞳」※
「どうにもとまらない」
〜アンコール
「浪花節だよ人生は」


 ライブは出入り自由だったので聴き手は時間帯で変動したが、およそ40名前後。男女比は半々ほどで、大半の方が車椅子だった。
 障がいの程度が重いせいなのか、歌い始めても場の反応は極めて弱かった。聞こえてくるのは私の歌声に合わせたタンバリンやマラカスの音だけ。歌い終えても拍手がほとんどない、という悲惨な状況が延々と続く。

 55曲の絞り込みリストに従い、前半はフォーク、途中からJ-POP系昭和歌謡に転じ、後半途中から演歌系を順に歌うつもりでいたが、あまりの手応えのなさに当惑し、(もしかして演歌を求めているのでは…?)と、途中で予定変更してテレサ・テンを急きょ歌う。しかし、場の反応に大きな変化はなかった。

 打開策を見いだせないまま、ひとまず前半を歌い終える。事前の打合せで、前半終了後に場のリクエストを募ってみる、という手はずになっていた。
 当日に知ったことだったが、入居者の希望だとばかり思っていた絞り込みリストは、実は職員の判断で作業が行われたという。ここに大きな認識のズレがあった。
 いざ場にリクエストを求めてみると、次々と飛び出す。検索が追いつかないほどの勢いなので、出た順に歌っていったが、前半と違って動作や声での反応が会場から出るようになった。

 そのまま後半はリクエストで進めることに方針変更。「春夏秋冬」は譜面がなく、記憶だけで歌ったが、何とか演れた。同様に「小春おばさん」も譜面がなく、こちらはアカペラで歌う。
 全く対応できなかったのが、「ありがとう(いきものがかり)」と「イヨマンテの夜」。どちらも過去にトライしたことはあるが、あまりの難しさに断念した経緯がある。全体的にマニアックなリクエストが多くて驚いた。

 リクエストはどんどん続きそうな気配になったが、終了時刻が迫ったことを告げ、ニギヤカ系の「どうにもとまらない」で歌い納めとした。
 ところが、担当のIさんがいきなり「アンコール!」と手拍子を始める。場も同調する雰囲気。打合せにはなかったが、短い曲で対応した。

 終了後、最前列で聴いていた若い女性が、モジモジしながら車椅子で近づいてきた。動作がぎこちないが、懸命に不自由な片手を差し出そうとしている。そばにいた職員さんがすかさず「握手?」と声をかけている。うなずく女性。
 こちらから近寄って、「どうもありがとう」と手を握る。(歌が全く受けてないのでは…)と、一時は落ち込んでいたので、ちょっと胸が熱くなった。

 これを機に、会場のあちこちから車椅子で近づいてくる姿がある。計4人の方と握手を交わす。自分の足で近寄ってきて、ていねいな挨拶をくれる方も数人いた。
 あとで知ったが、半身不随の方が多いそうで、基本的に拍手や手拍子はできないのだという。多くの方が打楽器を使っていたのは、片手でも音を出せるからなのだった。
 なぜ1曲毎の拍手がまばらなのか不思議でならなかったが、「拍手をしない」のではなく、「したくてもできない」ということらしい。ライブとしては決して失敗でなかったことが、最後の反応でも明らかだった。

 これまたあとで知ったが、弾き語りのボランティア自体が、施設として初めてだったという。そもそも娯楽系のボランティアを受け入れたことがほとんどないそうで、今回は試験的な位置づけだったらしい。職員さんの動きもどこかぎこちなかったが、ようやく納得できた。
 歌い手同様に、聴き手や主催者側にも「慣れ」は必要のようである。


 

ツクイ札幌太平・訪問ライブ /2016.7.16



 近隣のデイサービスで1年ぶりに歌った。一昨年末に最初の依頼があり、以降短い間隔で4度の依頼が続いた。熱心な利用者の方に請われ、オリジナルCDを買っていただいたりもしたが、その後しばらく依頼が途切れた。
 稀に例外もあるが、1年以上の間隔が空くと、そのまま依頼が途切れるケースが大半である。今回はそのギリギリのラインで、よくぞ思い出してくれたものと感謝したい。

 昨日あたりから一段と暑さが増し、この日も25度を超す夏日。今夏初めて半袖シャツを着て備えた。
 定番のボイストレーニングのあと、軽く2曲を歌って調整。以前はその日の予定曲を事前に全て歌ってから臨んだものだが、最近は本番での体力を温存するべく、軽めの調整しかしない。加齢と共に、ライブの在り方も変わってゆく。

 定刻15分前に会場入りしたが、施設側の椅子配置が終わってなく、控室でしばらく待たされた。予定よりやや遅れて、14時10分から開始。想定外のアンコールを含め、およそ50分で15曲を歌った。


「憧れのハワイ航路」
「バラが咲いた」
「お富さん」
「二輪草」
「幸せなら手をたたこう」
「いつでも夢を」
「月の沙漠」
「青春サイクリング」
「古城」
「年下の男の子」
「星影のワルツ」
「浪花節だよ人生は」
〜アンコール
「矢切の渡し」(リクエスト)
「青い山脈」(歌詞指導&シングアウト)
「神田川」(リクエスト)


 しばらくぶりだったが、場の雰囲気はあまり変わってなかった。「バラが咲いた」と「幸せなら手をたたこう」は過去にも歌っていて、ここでの人気曲。「いつでも夢を」「青春サイクリング」「古城」の3曲は、普段あまり歌わないが、マンネリ化を避ける意味で歌った。
 いずれも反応は悪くなかったが、やや期待はずれだったのが「いつでも夢を」。「高齢者に人気がある」との情報で歌ってみたが、曲が長すぎた感。もっとはしょって歌うべきだった。

 新しい担当者のAさん(男性)の盛り上げ方が巧みで、この日は喉も絶好調。盛況のまま終えたが、終了直後に「もう少し聴いてみたいと思いませんか、みなさん?」などと、打合せにないことをAさんが言う。時計は14時45分を回っていたが、もしかすると「時間調整型アンコール」だったかもしれない。
 何を歌いましょうか、懐メロでいきますか、それとも…、と迷っていたら、「松山千春か中島みゆきを聴いてみたい」と、再びAさんの予期せぬ言葉。ここで千春を?と問い返すと、あくまで私の希望です、とAさん。
 すると最前列の女性から「矢切の渡し」のリクエストが出た。ここは利用者が優先である。

 その後、「みんなで歌える歌を」との声が利用者からあり、定番曲の「青い山脈」を歌詞指導つきで歌って納めたが、機材を片付けている途中でAさんがインタビューと称し、「弾き語りを始めたきっかけは?」などと尋ねてくる。
 20歳のころに「山谷ブルース」をラジオで聴いたのがきっかけで、こんな曲ですと、ワンフレーズを歌いながら説明。その後かぐや姫の「神田川」のブームが起きて…、と続けると、「菊地さんの《神田川》をぜひ聴きたい!」と、顔見知りのヘルパーさんから突然のリクエスト。
 すでに機材の大半は片付いていたが、PAだけはまだ使える状態だった。「アカペラでもいいので…」との強い要望から、急きょマイクだけをつないで歌うことに。

 アンコールが度重なることは少なくないが、機材を片づけてから再び歌ったことは記憶にない。しかし、いつも言っているように、歌い手は請われているうちが華であろう。
 結果として、アンコール3曲がこの日一番の出来だった気がする。歌っていると汗がしたたる暑い日だったが、場の反応も負けないほど熱かった。


 

新川エバーライフ・7月誕生会 /2016.7.20



 4年前にネット経由で依頼されて初めて歌い、以降毎年1回のペースで誕生会余興に出演している介護施設から、今年も招かれた。
 いわゆる「細いが、確かな関係」が続いている例で、年に何度ものペースで集中的に依頼されるのも決して悪くはないが、結果として長続きするのは、細くとも確かなこうした関係なのだった。

 特養ホームとデイサービスを併設した施設で、専用の舞台つきホールがあり、天井も高くて広い。聴き手も100名前後と多いので、昨年からは音響をサブスピーカーを使ったPA2台方式に改めた。
 駐車場からの移動がスムーズに運ぶよう、機材一式はキャリーカートに積んだ。自宅から25分と比較的近く、開始20分前の14時10分に先方到着。ゆっくり設営して、14時20分にはスタンバイした。

 聴き手もそろったので、予定より早めにイベントを始めることになる。まず施設長さんの挨拶があり、続いて私の出番となった。
 14時32分から始めて、先方の希望通りぴったり30分で11曲を歌う。


「憧れのハワイ航路」
「バラが咲いた」
「お富さん」
「二輪草」
「幸せなら手をたたこう」
「いつでも夢を」
「月の沙漠」
「青春サイクリング」
「夜霧よ今夜も有難う」
「時の流れに身をまかせ」
「花〜すべての人の心に花を」


 夏メニューということもあって、8曲目の「青春サイクリング」までは、4日前に歌ったデイサービスライブと全く同じ構成である。この日も暑い夏日で、条件としては4日前と酷似していたが、場の反応は大きく違っていた。

 特養とデイサービスの利用者が混在している関係で、聴き手の的を絞りにくい。当初からの傾向だが、場の反応は全体的におとなしかった。場の半分を占める特養の利用者にその傾向が強かった。
 手拍子や共に歌う姿はそれなりにあったが、もっぱらデイサービス利用者からのもの。利用者層が異なる聴き手を前にしたライブは増える傾向にあるので、対応は今後ますます難しくなりそうだ。

 終了後、これまでなら「アンコール!」の声が必ず上がったものだが、今回は進行のNさんが、なぜかイベントの終了を告げてしまう。
「アンコールはないのかい?」とのつぶやきが客席から聞こえたが、そもそもアンコール(この場合はお約束アンコール)の有無を事前に確認するのを、うっかりして忘れていた。

 いずれにしても、自然発生のアンコールが出る雰囲気ではなかったことは間違いない。あとでNさんが言っていたが、必ずアンコールを出す利用者が、今回に限って客席にいなかったという。
 アンコールでシングアウトする心づもりもあり、自分としては消化不足のライブだったが、Nさんや施設長さんからは喜んでいただいた。自分の思いと施設側の評価とは必ずしも一致しない。まずは施設側に満足していただくことだ。


 

ツクイ札幌北郷・訪問ライブ /2016.7.23



 昨年秋にネット経由で初めて依頼があり、以降続けざまに3度の依頼があった隣区のデイサービスから、半年ぶりに4度目の依頼があった。
 最初の依頼で気に入っていただき、その後毎月のように依頼が続く施設は少なくないが、得てしてパタリと依頼が途絶えたりするもの。一気に燃えたものは、時に冷めやすいものだ。

 歌い手としては年に1〜2回くらいのペースが演りやすいが、依頼する側の都合でそうはならないケースも多い。今回はどんな事情があったのか分からないが、間隔としては程よく空いた。
 最初の2回は手応えが弱く、つかみどころがなくて戸惑ったが、3度目の前回で試みた「自由気ままな新路線」が予想外に受けたので、今回もそれに沿った定番無視の大胆な構成で臨むことにした。

 開始15分前の13時45分に到着。14時ぴったりから始め、およそ35分で11曲を歌った。


「憧れのハワイ航路」
「青葉城恋唄」
「カントリー・ロード」
「恋の町札幌」
「時代」
「涙そうそう」
「古城」
「赤い花白い花」
「長崎は今日も雨だった」
「どうにもとまらない」
〜アンコール
「上を向いて歩こう」


 定番曲のひとつである1曲目以外は、介護施設系ではほとんど歌わない曲を連発した。叙情性の強いバラード系の曲が場の好みであることは前回つかんでいたので、そこをまず押え、「夏」という季節感をそれに加えた。
 聴き手参加型の曲は皆無に近く、手拍子のでやすい曲もあまりない。これも前回と同じだった。しかし、場の反応は悪くなかった。

 以前にブログで、《介護施設系ライブは「参加型」と「傾聴型」に大別される》と書いたことがある。その分類法に従えば、今回の施設は明らかに「傾聴型」なのだった。

 歌い進むうちに、聴き手がどんどん寄り添ってくる気配を感じた。「古城」以降の後半に、特にその傾向が強かった。
 前回同様に、ラストで初めて手拍子での参加をうながす。「どうにもとまらない」は介護施設系で歌ったことは一度もなく、かなりの冒険だった。しかし、チカチカパフォーマンスでの「カンフル曲」のひとつで、夏を象徴する歌でもある。それを信じて歌ったが、期待を裏切らない盛り上がりよう。
 1曲目以外は穏やかな曲調がずっと続いたので、その反動もあったに違いない。ときどき仕掛ける「最初と最後だけニギヤカに」という構成、場にもよるが、大きなハズレがない。

 アンコールは打合せにない自然発生的なもの。永六輔さん追悼の意味で「上を向いて歩こう」を歌詞指導つきで歌ったが、ほぼ全員が歌と手拍子で参加。最高のシングアウトとなった。
 この日も27度に迫る夏日で、汗がギターに滴ったが、あれこれ冒険を試みた夏メニュー新路線が当たって、報われた思い。


 

ノアガーデン・夏祭り /2016.7.31



 隣区にあるサ高住の夏祭り余興に出演した。一昨年暮れにネット経由で最初の依頼があり、以降年2回ペースでクリスマス会と夏祭りには呼ばれている。
 最初のクリスマス会での盛り上がりが素晴らしく、職員や入居者の方々に喜んでいただいた。うまく言い表せないが、おそらく施設と歌い手との相性がいいのだろう。

 私の出番は12時40分からの30分だったが、昨年は前2組の出演者が予定よりも早く終わってしまい、早めの出番になったと記録にある。今回も用心して、かなり早めの12時5分には会場入りした。
 会場となる駐車場では、民謡グループが演奏の真っ最中。客席は建物側に張られたテント下だったが、ステージは駐車場真ん中にあって陽射しが照りつける。昨年は暑さに相当参った記憶があるが、幸いに今年は曇り空で太陽は見えない。

 車を裏手の駐車場に置き、ステージに戻ると、なぜか民謡グループはすでに演奏を終えて撤収している。時計はまだ12時15分で、あまりに早すぎる。
 どうやら昨年同様に、全体のスケジュールが巻いて(早まって)しまったようだ。
「トムノさん、すぐ演っていただけますか?」と担当の方が困った顔で言う。ある程度心の準備はしていたので、ただちに機材をセット。会場が広く、PAは2台を準備した関係でやや手間取ったが、予定より15分早い12時25分から始めた。

 アンコール等を含め、およそ40分で13曲を歌う。


「憧れのハワイ航路」
「北の旅人」
「さんぽ」
「恋の町札幌」
「赤い花白い花」
「青春サイクリング」
「草原の輝き」
「古城」
「浪花節だよ人生は」
「長崎は今日も雨だった」
「どうにもとまらない」
〜アンコール
「上を向いて歩こう」
「知床旅情」(リクエスト)


 構成は先日のデイサービスライブで好評だった「夏向き新メニュー」をベースにしたが、施設の嗜好や屋外のお祭り系ステージであることを考慮し、数曲を差し替えた。
 具体的には、「青葉城恋唄」を「北の旅人」に、「カントリー・ロード」を「さんぽ」に、「時代」を「青春サイクリング」に、「涙そうそう」を「草原の輝き」に、といった具合だ。
 年齢層から考えるとやや新しすぎる感じもあったが、4回目の出演なので、定番曲の重複をなるべく避けたいという思惑があった。

 この夏初めて30度を超す真夏日で、湿度も70%を超す不快な蒸し暑さ。中高年には厳しい条件で、歌い始めても聴き手のノリはいまひとつ。昨年と同じような苦しい展開になった。
 悪いことは重なって、風でマイクスタンドが揺れると、仮設のステージがぐらついて歌いにくい。途中から足で押さえてようやく落ち着いた。

 しばらくは我慢のステージが続いたが、場の反応が劇的に変化したのは、ステージも後半の「古城」を歌い始めてから。
 決してお祭りむきとはいえない静ひつな曲だが、私にとっての「カンフル曲」のひとつである。それまで静かだった場が、間奏で突然の拍手が湧き上がった。子細は不明だが、この曲には聴き手に訴える確かな何かがある。

 次の曲は似た曲調の「長崎は今日も雨だった」を予定していたが、咄嗟の閃きでニギヤカ系の「浪花節だよ人生は」を歌った。時間には充分余裕があると分かっていたし、ここで場を一気につかみたかった。
 この判断は大正解で、歌の途中で手を降ってステージに近づいてくる入居者の女性がいる。(リクエストか?)と一瞬思ったが、その右手には白い紙の塊が…。なんと介護施設系では前代未聞のお捻りなのだった。

 これを機に、場は文字通りお祭り状態。もうひとつのカンフル曲である「どうにもとまらない」でそれがピークに達し、「お兄さん、いい歌をありがとう!」などと、お捻りが乱れ飛ぶ。歌に合わせ、手を取り合って踊り出す人も続出した。
 請われるままにアンコールやリクエストにもお応えしたが、時間も程よくなって進行の方がまとめに入っても、まだ会場からは「アンコール!」の声が聞こえていた。
 ちょっと間延びした感じだった場が、結果として大団円の盛り上がりとなり、担当の方々にも大変喜んでもらえた。