訪問ライブ顛末記


ツクイ札幌豊平・秋祭り /2015.10.11



 5月に歌った全国展開のデイサービスから再び招かれた。担当のSさんとは2年以上前からのおつき合いで、何度か招かれていたが、思いがけないガン告知で訪問がいったん途切れた。
 その後Sさんが別施設に2度転勤し、長い中断のあとに依頼が復活したという複雑な経緯がある。

 今回は施設で企画した秋祭りイベントの一環で、音楽と美味しい食べ物で一日を過ごそうというもの。アコーディオン奏者との共演で、14時半スタートのステージ部門のうち、私の担当は後半の30分だった。
 市内でも最も遠方の施設で、前回は裏道経由で50分かかった。経路を再検討して広い道を選んだ結果、今回は45分で到着。まだまだ工夫の余地はある。

 前半のアコーディオン演奏が始まったばかりで、機材をセットしながら聴かせてもらったが、担当のNONOさんは私よりも年長のようだったが、巧みなトークを駆使し、聴き手を上手に引きつけていた。演奏とトークが一体となった場のさばきで、私には不足している部分。非常に参考になった。
 譜面をあまり見ないで弾くので、多少のミスタッチはあるが、正しい音をさり気なく拾いなおしてそのまま続行。「間違えました」などの言い訳は一切なしなので、聴き手に無用な気遣いを与えずに済む。流れも中断しない。この手法、見習うべきだろう。

 持ち時間の1分前にNONOさんの演奏が終了。時間にも厳密だ。ただちに機材をステージ位置にセット。ケーブルの接続にやや手間取ったが、ほぼロスタイムなしの15時2分から始めた。
 およそ28分で10曲を歌う。


「高原列車は行く」
「二輪草」
「炭坑節」
「バラが咲いた」
「二人は若い」
「荒城の月」
「まつり」
「星影のワルツ」
「昔の名前で出ています」
「東京ラプソディ」


 普段は45分程度の長いステージを求められる場だが、イベントスケジュールの詰まったこの日は例外で、15時30分までに終える必要があった。
 予定していた12曲のうち、「高校三年生」「ミネソタの卵売り」をカット。先に演ったNONOさんとの曲重複を避け、「幸せなら手をたたこう」を「二人は若い」に差替えた。

 聴き手はおよそ30名。前回と曜日が異なるので、利用者の顔ぶれもガラリ変わっていて、全体的に大人しい傾向。NONOさんが参加型のステージを繰り広げた直後で、聴き手には多少の疲れも見えた。
 そこで無理に盛り上げようとせず、単純に歌そのものを聴いてもらうよう努めたが、これは正解だった。

 無難にまとめて、時間ぴったりの15時30分で終了。挨拶をしていたら、近くで聴いていたNONOさんがついと近寄ってきて、「《知床旅情》を一緒に演りましょう。キーはツェーで」と、突然のコラボ演奏を求めてきた。
「ツェー」、つまりはCである。ドイツ語とは何ともマニアックだ。「知床旅情」は暗譜していて、キーも普段からCで歌っている。問題なくやれる。
 次のプログラムが「美味しいものを食べる」だったので、施設側も延長を了承してくれ、予定外のコラボ演奏をすることに。

 あいにく歌詞カードの用意が施設側になく、1番を2度歌うことになる。NONOさんのリードで前奏が始まり、アコーディオンのメロディに合わせて、アルペジオでギターを演奏した。
 歌詞は咄嗟の思いつきで、ときどきやっている「歌詞指導つき」(直前に歌詞を場に告げる)を私がマイクでやったら、全員がついてきた。予想外にスムーズに進み始めたせいか、1番終了後にNONOさんから「2番を!」との声。とうとう3番まで全員で歌うことに。

 最後に「みなさん、どうぞこれからもお元気で」と締めくくり、拍手喝采。思いがけない展開だったが、大団円のシングアウトとなった。

「突然余計なことしちゃって、すみません」と、終了後のNONOさんは恐縮しきりだったが、場をまとめる眼力と手腕は確かなもの。
「歌だけで場を引きつける力は素晴らしい。私の及ばない世界だ。ぜひまたご一緒しましょう」と、帰り際にNONOさんから硬い握手を求められた。
 何の予告も練習もなしの突発コラボ演奏だったが、うまくさばけて、また一歩前進できた気がする。


 

ツクイ札幌山鼻・訪問ライブ /2015.10.12



 ネット経由で初めて依頼された都心近くのデイサービスで歌った。3日連続のライブだが、先月で集中した場合の乗り切り方をある程度心得たので、心身へのダメージは以前ほどではない。
 偶然だが、昨日歌ったデイサービスと同じ全国展開の施設で、このところ同じ系列施設からの依頼が相次いでいる。
 口コミによる紹介ではなく、全てネット経由での依頼。登録しているボランティア系NPOの自己紹介記事をこの春に更新したことと、おそらく無縁ではない。

 15時半という遅い開始時間で、時間錯誤をしないよう用心して、携帯のアラームに出発すべき時間をセットして備えた。

 定刻20分前に先方に無事到着。デイサービスにしては珍しく4階建てで、エレベーターで2階ホールへと上がる。
 15時20分にスタンバイしたが、隣接するグループホームの利用者が到着するまでの間、軽い曲で場をつないで欲しいとの要望があり、マイクテストをかねて「浜辺の歌」「ここに幸あり」を歌う。

 聴き手は40名ほど。マイクテストの段階で一緒に歌う利用者が続出。この時点ですでに強い手応えを感じた。
 予定より少し早めの15時28分くらいにスタート。およそ32分で11曲を歌う。


「高原列車は行く」
「おかあさん」
「炭坑節」
「バラが咲いた」
「幸せなら手をたたこう」
「高校三年生」
「荒城の月」
「まつり」
「星影のワルツ」
「青い山脈」
〜アンコール
「月がとっても青いから」


 本番が始まっても場の声援は衰えることなく、1曲ごとに熱い手応えが増幅した。「幸せなら手をたたこう」でそれが頂点に達する。立ち上がって両手を掲げて踊りだす人、職員さんと手を組んで社交ダンスを繰り広げる人まで飛び出す。
 開始前に職員さんから、「利用者さんにマラカスやタンバリンを持たせてもいいですか?」と問われ、「どうぞ楽しくやってください」と快諾。場には手拍子とそうしたパーカッション類の音が終始途切れなかった。

 不思議なことに、ニギヤカ手拍子系の曲と、しっとり叙情系の曲両方に熱い反応があった。傾向としては普通どちらかに片寄るもので、両方が受けるという施設は珍しい。
 特にお願いせずとも、一緒に歌ってくれる方が多数。歌詞カードなしで、ほぼ全曲を歌ってくれた女性もいて驚いた。

 あっという間に終了時刻がやってきたが、自然発生的なアンコールがおこって、ありがたく歌わせてもらう。
 終了後、施設側の都合もあって職員さんがプロ野球中継に切り替えたら、「野球より、歌をもっと聴きたかった」との声あり。確かに30分では物足りない…、という気分が歌っている私にも残った。

「利用者さんがこんなに楽しそうだったことは、かってなかったことです」と、企画担当のHさんからも労われる。Hさん自身も、ライブ中はつきっきりで場を盛り上げてくださった。非常に歌いやすい場だった。
「本当に楽しかった」「きれいな声ですね」「また歌いにきてくださいね」などの声に送り出される。ライブは歌い手と聴き手、そして主催者が一体となって創りあげるもの、という典型例をみた。


 

茶話本舗デイサービスもいわ・秋祭り /2015.10.14



 ネット経由で依頼された札幌南端のデイサービス秋祭りで歌った。最近よくあるパターンで、このところちょっとしたライブツアーのような忙しいスケジュールが続いている。
 偶然だが、施設は長男が通っていた高校の隣りにある。亡き父が数年間過ごした介護施設のそばでもあり、よく知っている場所だった。

 1時間近くはかかりそうだったので、その覚悟で家を出る。途中までは順調だったが、もうすぐ到着という地点で、不意に渋滞が始まる。郊外の空いた道のはずが、大きな事故が起きて一車線通行になっていた。
 予想外のトラブルだったが、ぎりぎり7分前に到着。ただちに機材をセットし、予定通り13時からスタートした。初訪問なので、このところ歌っている秋の定番メニューで臨む。およそ50分で15曲を歌った。

「高原列車は行く」
「おかあさん」
「炭坑節」
「バラが咲いた」
「幸せなら手をたたこう」
「高校三年生」
「荒城の月」
「まつり」
「星影のワルツ」
「浪花節だよ人生は」
「昔の名前で出ています」
「時の流れに身をまかせ」
「月がとっても青いから」
「青い山脈」
〜アンコール 「函館の女」


 行ってみて驚いたが、利用者が7人しかいない。途中から家族の方や職員も加わったが、それでも合計12人という小じんまりした場だった。
 ごく普通の民家を改装した施設なので、少人数の家庭的な雰囲気を運営方針に打ち出しているのかもしれない。

「なるべく長く、可能なら1時間ほど歌って欲しい」というのが先方の希望だった。しかし、そもそも少人数の場を盛り上げるのは難しい。嗜好が隔たってしまいがちだし、場のノリも概して悪い。その悪条件に加えて、「長いライブ時間」という難しい条件が重なった
 前半は手探り的な進行にせざるを得ず、いつもなら一気に盛り上がるはずの「幸せなら手をたたこう」でも、手応えはいまひとつだった。

 悪い条件は、しばしば重なるもの。狭い空間なので「音が大きすぎるようでしたら、おっしゃって下さい」と前置きして始めたが、いきなり最前列の男性利用者から、「うるさい」との指摘。
 あわてて中断し、ボリュームを絞って再スタート。ようやくOKとなったが、充分なテストなしで始めたツケである。出鼻をくじかれた格好で、以降の歌唱がしばし消極的になった感は否めない。

 場がようやくこなれてきたのは、6曲目の「高校三年生」あたりから。8曲目の「まつり」で長めのMCをとったが、出だしで「うるさい」と指摘した気難しそうな男性が、たまたまこの歌が大好きなことを知る。
「…さん、よかったね」と職員さんが声をかける。これをきっかけに、場の気分はじょじょに高揚していった。

 この男性に限らず、全体的に演歌系の曲に対する反応がよいことを察知し、以降は予定になかった演歌系の曲を連発。ラスト近くでは三択方式のリクエストを募ったが、ここでも圧倒的に演歌系の曲が支持を集めた。
 ラストの「青い山脈」では全員の手拍子が自然発生する。アンコールの「函館の女」は利用者からのリクエストだったが、やはり演歌系。

 絶対数が少ないこともあって、場を盛り上げてくれる職員さんが少なく、悪条件が複数重なって、非常に難しい進行となったが、どうにか経験値で帳尻は合わせた。ライブ時間の要望にも応えて、施設側にも喜んでもらえた。


 

ベストライフ東札幌・10月誕生会 /2015.10.18



 2月に歌ったばかりの市内有料老人ホームから、再び招かれた。利用者が日替わりするデイサービスならともかく、入れ替えの少ない有料老人ホームで年2回のライブはリスクが高い。どうしても飽きられるからだ。
 しかし、担当者は「前回のライブが好評だったので…」という。セルフレポを読み返した限りでは、「手応えが弱く、自己評価としては失敗」とある。それなのに、なぜ?

 自己評価は必ずしも他からの評価とは一致しない。もしかすると利用者ではなく、職員の評価が高かったのかもしれない。ともかくも、買ってくれたのは喜ぶべきこと。あれこれとあまり考え過ぎずに、ありがたくお受けすることにした。

 予定は14時開始だったが、念のため午前中に確認の電話を入れる。夏の某ライブでトラブってから、必ず当日に確認電話をこちらから入れるよう心がけている。
(先方から確認があった場合は、この限りではない)
 すると、開始時間が30分延びて14時半からになったという。確認してよかった。

 早めに着いて機材を準備。横に広い会場なので、PAは久しぶりに2台を持参。設営にはやや時間がかかる。
 依頼内容は誕生会余興だったが、驚くべきことに、会場にはハロウィンの飾り付けがしてあった。クリスマスならともかく、介護施設でハロウィンは初めて見た。時代は進んでいる。クリスマス同様に、いずれ「ハロウィン・ソング」が巷にあふれる日も近いのではないか。

 冒頭に施設側のイベントがまずあり、14時40分くらいから開始。およそ40分で12曲を歌う。


「高原列車は行く」
「おかあさん」
「お富さん」
「バラが咲いた」
「二人は若い」
「高校三年生」
「荒城の月」
「三百六十五歩のマーチ」
「星影のワルツ」
「時の流れに身をまかせ」
「長崎の鐘」
「憧れのハワイ航路」


 このところ歌っている秋の定番メニューがベースだが、施設側の嗜好を考慮し、微妙に調整を加えた。演歌系とニギヤカ系を少なめにし、平均年齢が高いことを考慮して、曲もやや古めを選択。

 聴き手は60名ほどだが、全体的に大人しいのは前回と同じ傾向。それでも、手拍子や一緒に歌う人もそれなりにいて、前回よりは手応えがあった。
 反応が良かったのは、「二人は若い」「荒城の月」「三百六十五歩のマーチ」「憧れのハワイ航路」あたり。

 ラストの1曲を歌う前に、次の曲で終わる旨を告げると、もっと聴きたいような声が利用者から出た。しかし、時間延長に関して結論を出せる担当者があいにくその場に不在で、結局リクエストやアンコールなしでそのまま終わることになる。
 このあたり、職員との連携がやや悪く、利用者の意向を汲み取れなかった印象はする。惜しいことをした。それでも終了後に声をかけてくれる方が複数いて、間隔が短かった割には、ライブ自体の出来はまずまずだった。


 

ツクイ札幌北郷・訪問ライブ /2015.10.25



 ネット経由で初めて依頼された市内のデイサービスで歌った。前日にハードな24曲ソロライブを終えたばかりで、心身の負担を考慮すると、2日続きのライブは避けたいところだった。
 しかし、先方はこのところ数多く依頼を受ける全国展開の介護施設。システムは熟知しており、連続するライブに対する心身の調整方法も、じょじょにつかみつつある。デイサービスからのライブ依頼が最近の傾向でもあるので、流れに従ってありがたくお受けすることに。

 施設は幹線道路沿いにあり、場所は比較的近い。昨夜からの激しい暴風雪で路面状態は悪い。忙しさに追われてまだ夏タイヤのままだったが、25分弱で無事に先方に着いた。
 14時ちょうどに開始。およそ45分で14曲を歌った。


「高原列車は行く」
「おかあさん」
「炭坑節」
「バラが咲いた」
「幸せなら手をたたこう」
「高校三年生」
「荒城の月」
「まつり」
「星影のワルツ」
「時の流れに身をまかせ」
「月がとっても青いから」
「ろくでなし(リクエスト)」
「青い山脈」
〜アンコール
「つぐない」


 荒天のせいで、聴き手は当初予定よりかなり減って13名。場も全体的に大人しく、手拍子やかけ声もほとんど湧かない。
 同系列とはいえ、施設や利用日ごとに場の反応が大きく異るのはよくあること。不安だった喉の調子はまずまずだったので、淡々と誠実に歌い続けた。

 途中からギターの値段やら始めた時期など、曲間でいろいろと質問してくる男性がいて、その方と応答しつつ進めるようにしたら、場がじょじょにこなれてきた。
 聴き手参加型の「幸せなら手をたたこう」あたりから、さらに反応がよくなる。動きの少なかった職員さんも、積極的にライブに参加してくれるようになった。
「まつり」の歌詞の一部に施設名を入れたり、終盤での三択式リクエストなど、小さな「仕掛け」に対しても、思惑通りの反応がある。

 ラスト前にリクエストを募ったら、その積極的な男性から「何か洋楽を」との要望。前日ライブで評判がよかった「ろくでなし」のことを話したら、ぜひそれを、ということに。介護施設系の場では初めて歌ったが、反応はまずまずだった。
「青い山脈」でニギヤカに締めくくったつもりでいたら、奇しくも職員さんから、「アンコールないんですか?」との声あり。聴き手から要望のあった「テレサ・テンをもう1曲」の声に従った。

 終了後、かの男性が控室までやってきて、「実に素晴らしい声だ。これまで聴いたことがない」と、感激した様子。請われるままに名刺をお渡しすると、次回のチカチカパフォーマンスにも来てくださるという。
 職員さんならともかく、利用者の方とこうした直接のやり取りは極めて珍しい。

 そんな声に押されたのか、施設長さんから来月のライブを打診された。スケジュール調整のうえ、曜日を変えて歌わせていただくことになる。
「またいつかぜひに」との声掛けはごく普通だが、終了後にその場で次回予定が具体的に決まってしまうのも、極めて稀。珍しいことが2つも重なった。


 

ツクイ札幌北郷・訪問ライブ /2015.11.28



 1ヶ月前にネット経由で初めて依頼されたデイサービスで再び歌った。前日から2日続きのライブだったが、最近は連続ライブにもじょじょに慣れてきて、以前ほど大きな負担ではなくなりつつある。
 およそ以下のような対応を目下とっている。

1)ギター以外の機材は2階に運び上げず、玄関ホールに置いたままにする。
2)電子譜面搭載のタブレットとリバーブのバッテリー残量を前日に必ずチェック。
3)セットリストの調整も前日に済ませておく。
4)練習はPAなしの生歌で、出発直前に軽く15分程度。

 介護施設での2ヶ月続きのライブは普通やらないが、施設側からの強い要望である。曜日が変わって利用者が大幅に入れ替わること、秋から冬への季節の変わり目で、前回の秋メニューから冬メニューへと切り替える時期でもあった。
 連続ライブでも場に飽きられる要素が少ないと判断し、お受けすることに。

 定刻よりやや遅れて、14時4分くらいからライブ開始。およそ40分で14曲を歌った。


「三百六十五歩のマーチ」
「二輪草」
「ソーラン節」
「バラが咲いた」
「二人は若い」
「365日の紙飛行機(初披露)」
「高校三年生」
「灯台守」
「お座敷小唄」
「雪國」
「さざんかの宿」
「月がとっても青いから」
「森の記憶(オリジナル・リクエスト)」
「東京ラプソディ」


 前回との重複曲は「バラが咲いた」「高校三年生」「月がとっても青いから」の3曲のみ。曜日は変わっても、全体的に大人しい場の雰囲気は変わらず、手拍子やかけ声等の反応はごく少ない。
 前回熱心に声をかけてくださった利用者のIさんとOさんが、今回も利用曜日を変更して聴きにきてくださって、いろいろと声をかけてくれた。
 ライブはこのお二人を中心に会話のキャッチボールをしながら進める形になり、進行としてはやりやすかった。

 この日が初披露の「365日の紙飛行機」は、AKB48が歌うNHK朝ドラのテーマ曲。覚えたてだったが、新しすぎて介護施設で歌うには、やや不安があった。
 そこで事前に歌うべきか否かを場に問う、という手法をとった。反応がなけば飛ばすつもりでいたが、先のIさんとOさんから「ぜひ聴きたい」との声。強い反応のなかった他の利用者にも配慮し、2番を省略して短めに歌った。

 前回同様に、ラスト前にリクエストを募る。チカチカパフォーマンスや叙情歌サロンのようにリクエスト一覧は配らず、「お応えできる範囲で」と前置きして、場からの自由な声を期待するのがいつもの手法だ。
 すると、ただちにOさんから「森の記憶」をぜひに、との声。一瞬耳を疑った。「森の記憶」は10年ほど前に作ったオリジナルで、「輪廻転生」をテーマにした難解な世界観の曲。介護施設系ではもちろん歌った例がなく、自宅系ライブで数回歌っただけだった。

 実はIさんとOさんは前回のライブで私の歌を気に入っていただき、直後のチカチカパフォーマンスにも来てくださった。YouTubeも一通り聴いたそうで、アップしてある「森の記憶」が最もいい、と意見が一致したらしい。
 難解ではあるが内容的には高齢者むきで、場に相応しいと言えなくもない。長らく歌ってなかったが、結局ご希望に沿うことに。

 自分の歌なので、さすがに忘れてはいない。あとからのOさんのメールで知ったが、聴いていて涙が自然に流れたという。確かに通じるものはあった。
 終了後にIさんからも「今日は《森の記憶》が生で聴けてよかった」との声。利用者全体から見ての評価がどうだったのか判断は難しいが、この一点だけでも歌い手としては充分に満足できる。


「2011.11.6・星の還る場所」ライブ版