訪問ライブ顛末記


新川エバーライフ・7月誕生会 /2015.7.15



 先月中旬に歌う予定だったが、施設内に風邪がまん延したことにより、中止となってしまった特養ホーム誕生会イベントに、ひと月遅れで出演した。
 年に一回ペースで招かれていて、今回が3度目。いわゆる「高くて険しい3度目の壁」を乗り越えた施設である。

 会場も進行手段も過去2回と同じだったので、大きな戸惑いはなかったが、盛夏の開催は過去に例がなく、過去のライブレポを参照しながら、慎重にセットリストを決めた。

 連日の30度を超す猛暑が一段落し、この日は比較的過ごしやすい陽気。しかし、冷房が効いてないこともあってか、施設内はかなり暑い。一昨年の6月誕生会でも暑かったと記載があったので、汗対策として作りたての木綿のバンダナを締めていって正解だった。
 施設側の簡単なイベントがまずあり、ほぼ時間通りに12時35分からライブ開始。この施設では「アンコールを含めてピタリ30分」という厳密なルールがある。事前にFAXで提出済みのセットリストに従い、どこをどう省くか?を中心に、何度も練習して臨んだ。

「憧れのハワイ航路」
「瀬戸の花嫁」
「君恋し」
「青葉城恋唄」
「三百六十五歩のマーチ」
「たなばたさま」
「われは海の子」
「旅の夜風」
「夜霧よ今夜も有難う」
「花笠音頭」
「東京ラプソディ」
〜アンコール
「上を向いて歩こう」


 会場にプログラムが配られていることもあり、曲順や曲目の変更は一切できない。無駄なMCは極力省いて進めたが、盛況だった前回(昨年4月誕生会)に比べて、この日は場の反応が非常に弱かった。あえて要求はしなかったが、自然発生的な拍手や共に歌うなどの手応えが、ほぼない状態。
 6〜7曲目の夏の唱歌2曲は、予めプログラムの裏に歌詞を印刷し、一緒に歌う趣向だったが、ステージに届く声はごく小さいものだった。

 聴き手はいつもと同じおよそ100名で、半分は通いのデイサービス利用者。新旧とりまぜた苦心の構成も、まるで空振り。ようやく反応らしきものが出たのは、終盤の「夜霧よ今夜も有難う」で、歌い終わる前に期せずして拍手が湧いた。
 直後の「花笠音頭」「東京ラプソディ」では自然発生的な手拍子も飛び出し、「東京ラプソディ」のラストでは伴奏にかぶせて、「みなさまこれからもどうぞお元気で」とエールを贈ると、歓声が湧いた。

 アンコールは事前の打合せで準備していたが、会場から飛び出した声に従った自然なもの。一時はどうなることかと危ぶんだが、ラスト近くになってようやく帳尻を合わせた印象。

 苦戦した要因として、まず連日の猛暑で、聴き手がかなり疲れていた様子がステージ上からもうかがえたこと。寒さよりも暑さのほうが、特に北海道の高齢者には堪える。
 歌っている私自身も、自宅に戻ってどっと疲労に襲われ、夕方まで仮眠したほど。歌うことと同様に、聴く側にも気力体力が求められるものだ。

 次にMCで場を和らげる余裕がなかったこと。全12曲は明らかに欲張りすぎで、多ければよいというものではない。11曲以下に減らすべきだった。
 さらには、いつも中間あたりで歌う「幸せなら手をたたこう」を今回に限って省いたこと。前回も歌っているのでマンネリを避けたが、この曲は毎回でも歌うべきだ。聴き手をライブにいざなう得難い曲で、代替曲はいまのところ見当たらない。

 あれこれ反省点はあったが、担当のNさんには「来年もまたぜひに」と喜んでいただけた。修正すべき点は次回に活かしたい。


 

ベストライフ白石・7月誕生会 /2015.7.19



 やや遠方にある有料老人ホーム誕生会イベントに出演。全国展開の施設で、10年前の活動開始当初から、市内5ヶ所にある関連施設から定期的に招かれている。
 今回の施設からは4度目の依頼。数日前の特養ホーム誕生会と規模や入居者構成が似通っているので、反省点は慎重に修正して臨んだ。

 今回はラストに職員さんとのコラボ演奏をやる打合せになっていたので、椅子や譜面台などを予め準備。担当のBさんには事前に自宅に来ていただいて、練習も済ませてあった。直前に細部を再確認する。
 14時15分から開始。施設側のイベントがあったあと、14時21分くらいから歌い始める。およそ35分で12曲を歌った。


「憧れのハワイ航路」
「瀬戸の花嫁」
「君恋し」
「バラが咲いた」
「幸せなら手をたたこう」
「われは海の子」
「長崎の鐘」
「たなばたさま」
「誰か故郷を想わざる」
「夜霧よ今夜も有難う」
「東京ラプソディ」
「あの素晴らしい愛をもう一度」(コラボ演奏)


 数日前の特養ホーム誕生会と基本的には同じ夏メニューだが、そのときの反省もふまえて、一部に修正を加えた。

・「青葉城恋唄」を「バラが咲いた」に変更
・「三百六十五歩のマーチ」を「幸せなら手をたたこう」に変更
・「旅の夜風」を「長崎の鐘」に変更
・「花笠音頭」を「誰か故郷を想わざる」に変更
・ラストで職員さんとのコラボ演奏を演る

 実は曲目の変更に関しては、先月出演した同じ系列の別施設で好評だったものを加味してある。
 経営母体が同じでも、施設が変わると入居者構成がガラリと変わり、施設長さんを始めとする職員さんの顔ぶれも当然変わる。ある施設で好評だったから、それがそのまま系列別施設でも受けるとは限らないのがライブの難しさだ。

 歌い始めると手応えはそれなりで、歌に合わせた手拍子や共に歌う声もそれなり。しかし、記憶にある前回ライブの手応えには及ばない印象だった。先月出演した別施設での熱い反応にも及ばない。

 ひとつ気づいたのは、数日前の特養ホームイベントでも感じた、聴き手の疲労感。この日は27度ほどの外気温で、決して猛暑ではない。しかし、湿度が70%以上もあって、北海道にしては蒸し暑かった。
 全体の進行とコラボ演奏の両方を担当した職員のBさんも、場の反応の弱さを指摘していたが、過去に夏場の室内ライブで、聴き手の熱い反応があった記憶がない。
 しかし、施設側としては毎月必ず誕生会イベントをやらねばならず、真夏もその例外ではない。

 それでも叙情性の強い曲、たとえば「瀬戸の花嫁」「バラが咲いた」「長崎の鐘」などには、会場から「いいねぇ〜」という声援がしばしば飛んだ。これは過去のこの施設での傾向と一致する。苦心して加えた修正がここで実った。
 ラスト2曲は外れの少ない曲で、安心して歌えた。立ち位置から椅子への転換も短時間で済み、Bさんとのコラボ演奏も練習通り、いや、この日が一番よい出来だったかもしれない。

 難しい条件がいくつか重なったが、まずまず無難にこなせたと思う。Bさんの「ライブ初デビュー」も脇役に徹し、上手にサポートできた。これが一番の収穫だったかもしれないが。


 

アリシア34・夏祭り /2015.7.31



 ネット経由で初めて依頼された介護施設の夏祭りイベントに出演。最近急増している「サ高住」(サービス付高齢者向け住宅)という新形式の施設である。
 昨年暮れに別施設で初めて歌ったが、有料老人ホームに形態は似ているが、運営実態は微妙に異なる。扱いは一般の賃貸住宅で、居住者の実情に応じて食事や介護サービスを受ける、というシステムだ。

 さまざまな居住者がいて、介護度もバラバラ。高齢者が対象であることは間違いないが、一般の街づくり系イベントの聴き手とも異なる。傾向として自立度は比較的高いが、つかみどころがなく、歌い手にとっては難しい場だった。
 同じ理由から、かっては苦手としたデイサービス系の場には最近になってようやく慣れてきたが、初めての施設ということもあり、手探りの進行にならざるを得なかった。

 開始予定は13時半だったが、自宅からは近く、わずか20分で着いた。先方の都合で予定を少し前倒しし、早めに始めることになる。13時22分から歌い始め、およそ35分で12曲を歌った。


「憧れのハワイ航路」
「瀬戸の花嫁」
「花笠音頭」
「月の沙漠」
「幸せなら手をたたこう」
「長崎の鐘」
「リンゴの唄」
「バラが咲いた」
「月がとっても青いから」
「知床旅情」
「東京ラプソディ」
〜リクエスト&アンコール
「青葉城恋唄」


 何が受けるか分からないので冒険は避け、実績のある無難な曲でまとめた。ニギヤカ系と叙情系のバランス、さらには年代のバランスも偏らないように工夫した。

 全体として大きな失敗はなく進んだが、施設ができてまだ間もないということもあってか、50人ほどの聴き手はおしなべて物静か。傾向としてニギヤカ手拍子系の歌より、叙情系の歌が好まれたように思える。

「長崎の鐘」を歌う前に、古い曲を求められることもあるので次はそんな曲を…、と話したら、「ここの施設には、そう高齢の人はいませんよ」と、熱心に聴いていた最前列の女性から声がかかる。
 反応次第では飛ばすつもりで曲名を告げると、ああその歌ならいいですね、と応じてきた。まあ、古いといっても、この日のメニューの中では、という比較の問題。私が生まれた年の曲なので、「古過ぎる」ということはないはず。

 先方の要望通りに歌い終えたが、終了後の場に微妙な余韻が残った。うまく言葉では表わせないが、(もっと聴きたい…)という心の叫びのようなもの。歌い手には直感的にそれが分かるものだ。
 しかし、演奏ボランティアそのものに職員も聴き手も慣れていないのか、特にアンコールの声はかからない。ゆっくり機材の片づけにかかり、進行の方がまとめの挨拶に入ったところで、最前列の女性からようやく、「あの…、《青葉城恋唄》が聴きたいんですが…」との遠慮がちな声。

 早めに始めたこともあり、1曲なら時間的にも問題ないということで、ありがたく歌わせていただく。昨年暮れに初めて歌ったサ高住でもアンコールに「大空と大地の中で」が飛び出して面食らったが、曲調は別にし、フォーク系の新し目の歌であることは共通する。
 アンコールで出た要望は、その施設の傾向を概ね示す、と考えてよい。まだまだ手探り段階だが、サ高住ではデイサービスと同様に、街づくり系の場で好まれる昭和歌謡系やフォーク系の曲を中心に据えてよいのかもしれない。


 

ノアガーデン・夏祭り /2015.8.2



 昨年暮れのクリスマス会に初めて招かれたサ高住(サービス付高齢者向け住宅)から再び声がかかって、夏祭りのイベントに出演した。

 前回は真冬とあって会場は室内だったが、今回は施設内の駐車場を使って屋外でやるという。天候や音響など、屋内とは格段に条件が難しくなるが、地域住民にも開放して広がりが期待できる、という利点がある。
 偶然だが、施設は一昨日歌ったサ高住のすぐ近くにあった。好評だった前回の構成をベースに、一昨日の結果も参考にしてセットを組んだ。

 余興は12時開始で、出演は全部で3組。トップはよさこいソーランの踊りで、2番手が三味線&民謡のグループ、ラストが私である。
 13時20分からの40分が私の割当てだったが、早めの12時25分に会場入りすると、まだ続いているはずの踊り手の姿がどこにも見当たらず、テントと椅子が設営された会場は静かだった。

 担当のTさんからお弁当をいただき、食べ始めたとたん、実は進行の間が空き過ぎたので、三味線&民謡グループが予定より10分早く始めたという。
 民謡は予定通りに20分間で終わるので、私の開始時間を15分ほど早め、演奏時間も当初予定から10分増やして50分間にしてもらえないか?との打診だった。

 いわゆる進行が「巻いている」状態で、5人ほどのグループで出演している三味線&民謡では時間調整が難しく、ソロで動きの取りやすい私に声がかかったらしい。推測だが、何らかの事情で踊りのグループが早く終わりすぎたのではないだろうか。
 時間の調整は日頃から慣れているので、快諾。まず予定通りに40分間歌い、その後アンコールの形で時間を調整することに決まる。弁当は半分だけにし、急きょ13時5分から歌い始めた。

「憧れのハワイ航路」
「瀬戸の花嫁」
「お富さん」
「月の沙漠」
「幸せなら手をたたこう」
「リンゴの唄」
「青葉城恋唄」
「まつり」
「バラが咲いた」
「浪花節だよ人生は」
「夜霧よ今夜も有難う」
「東京ラプソディ」
〜リクエスト&アンコール
「くちなしの花(初披露)」
「高校三年生」


 施設側に充分な音響設備の用意がないということで、PAは前回同様、全て持込みでやることになっていた。屋外会場なのでパワー不足の懸念があったが、事前のマイクテストで音割れのないギリギリまでボリュームを上げ、何とか間に合わせた。
 2つの5階建て居住棟に挟まれた場所に駐車場があって音の返りが抜群によく、屋外の割には非常に歌いやすかった。

 問題はステージの位置で、広いスペースが必要な踊りが最初にあった関係で、ステージとテントとの距離が遠く、20メートル近くはあったかもしれない。
 間にも椅子やテーブルは置いてあったが、日よけが全くないので、大半の聴き手は日陰のあるテント下に座っている。この聴き手との距離感が歌い手として難しい条件だった。

 加えて、強い夏の陽射し。50センチほどの高さにあるステージに日よけの類いは全くなく、開始当初は雲に隠れていた太陽が、ライブが進むにつれて雲から顔を出し、じりじりと容赦なく照りつける。
 液晶の明度をいっぱいに上げても、陽射しの反射で電子譜面が過去に例がないほど読みにくい。後半はほとんど勘だけで歌い進める状態だった。

 屋内はエアコンが効いていて涼しいが、外はアスファルトの強い照り返しで、体感30度を軽く超す炎天下。たとえ日陰でも、高齢者にとっては過酷だったろう。抜群の手応えだった前回と比べて、いかにも反応が弱い。参加者も100人を越した前回に比べて、やや少ない印象がした。
 歌い手にとっても過酷だが、ボランティア活動といえど、ある種の「業務」であることは間違いなく、気力をふり絞って歌い続けた。

 不思議なことに、終盤の「浪花節だよ人生は」あたりから、じょじょに反応がよくなってくるのを感じた。前回との重複曲は中盤の3曲だけで、ラスト3曲は初披露。耳新しさもあったのだろうか。

 当初の予定メニューを40分間で終わって、時計は13時45分。打合せ通りに進行の方から、「アンコールお願いできますか?」との打診。期せずして、テント近くにいた職員さんのグループから、「アンコール!」の拍手が湧く。
 いわゆる「時間調整型アンコール」だったが、希望があればリクエストに応えるべく、進行の方2人に会場を回っていただく。何も出なければ適当に見繕って歌うつもりでいたが、以下の4曲が相次いで飛び出した。
「東京ブギウギ」「くちなしの花」「チャンピオン」「高校三年生」

 レパートリーにあった「くちなしの花」「高校三年生」を手早く探し出し、無難にこなす。あれこれやり取りなどもあって、50分間で14曲を歌ったことになる。
 結果として進行の帳尻をうまく合わせることが出来、担当のTさんを始めとする職員の方々からは、とても喜ばれた。
 かってないほど過酷な条件だったが、それなりにさばけて、またひとつステップアップできたかもしれない。


 

ツクイ札幌稲穂・訪問ライブ /2015.8.21



 車で1時間近くかかる遠方のデイサービスで歌った。一昨年夏にネット経由で依頼され、その後年3回ペースで定期的な依頼が続いている。
 いわゆる「3度目の高い壁」も軽々と越え、もはや家族的とも思える親密な関係が続く得難い場となりつつある。

 定期的に依頼されるのは大変ありがたく、歌い手冥利につきるが、問題はライブが度重なることによる「慣れ」と「飽き」。
 デイサービスの利用者は3つほどのグループに分かれてはいるが、私の歌を目当てに利用日を変更する音楽好きな方も多いと聞く。主に歌い手の問題である「慣れ」は、自分のコントロールで克服可能だが、聴き手側の問題である「飽き」に対する対策は、今後回数を重ねるにつれて重要な課題になってくるだろう。

 都合6回目となる今回は、そうした慣れや飽きからくる緩みに打撃を与えるべく、過去に例がないほど思い切った構成で臨んだ。
 およそ1時間で17曲を歌ったが、うち初披露が4曲で、リクエスト曲が7曲。こんな冒険が可能なのも、施設との強い信頼関係があるからに他ならない。
(◎は初披露、※はリクエスト)


「東京ブギウギ」◎
「瀬戸の花嫁」
「おかあさん(森昌子)」※
「浜辺の歌」
「二人は若い」
「嫁に来ないか」◎※
「酒と泪と男と女」※
「まつり」

「長崎の鐘」※
「上海帰りのリル」◎
「夜霧よ今夜も有難う」
「人生一路」
「北の旅人(南こうせつ)」※
「憧れのハワイ航路」※
「愛燦々」※
「昔の名前で出ています」◎
「丘を越えて」


 1曲目は先日のサ高住夏祭りでリクエストが出た曲。当時はレパートリーになかったが、その後覚えて調子のよいリズムが1曲目に使えるのでは…、と判断した。
 ところがいざ歌い始めると、聴き手の手拍子が歌にうまく合わない、という予想外の問題が起きた。いわゆる「前打ち」では合わせにくく、「後打ち」だとうまく合う。しかし、この「後打ち」が高齢者には難しいのだ。
 その後の曲で持ち直したが、大事な1曲目に実績のない曲を選ぶのは避けるべきだと痛感した。

 以降の場の反応はまずまず。リスクの多い初披露の曲は、実績ある曲やリクエスト曲の間にうまく散らした。「上海帰りのリル」「昔の名前で出ています」は今後も使えそうな感じだ。
 前半部、「酒と泪と男と女」までのリクエストは、事前に担当の方から打診のあった曲。「長崎の鐘」は前回のリクエストで応えられなかった持ち越し曲。「北の旅人」以降のリクエストはその場で出たものだった。
「酒と泪と男と女」は前回もリクエストが出たが、聞けば同じ方から再度のリクエスト。余程気に入ってもらえたらしい。

 介護施設系でこれほど多くのリクエストに応えたことは過去に記憶がなく、このところ手がけている地区センターやチカチカパフォーマンスでのリクエスト中心の手法に沿うもの。
 リクエスト中心の我が方向性、しばらくは止められない。


 

ツクイ札幌太平・夏祭り /2015.8.23



 近隣のデイサービス夏祭りで歌った。3日間続いたハードスケジュールの最終日で、一昨日歌ったばかりのデイサービスとは同じ系列の施設。
 こちらも今年3度目の依頼で、累計でも4度目。やはり「慣れ」や「飽き」が課題で、定番ソングだけの正攻法では通用しないのは明らかだった。
 開始は13時半だったが、車で数分の距離なので、移動による負担はない。この日は普段のように私の単独ライブではなく、いろいろな出し物がある夏祭りイベントの一環という位置づけだった。

 数日前に施設長さんから連絡があり、祭りにふさわしい曲として北島三郎の「まつり」のリクエストがまずあり、同時に衣装に関する注文もあった。
 先方の希望は甚平で歌うことだったが、あいにく持ちあわせていない。そこで施設に準備のあるハッピをお借りすることになり、ハチマキ(バンダナ)だけは私が用意することになった。

 会場には紅白の幕や提灯などが部屋中にめぐらされ、いかにもお祭り、といった雰囲気。用意されたハッピを着てみたが、色が派手で、やや浮いた印象。(100均で調達したとか)しかし、お祭りなので、多少の違和感は許されるだろう。
 一昨日の施設の系列とはいえ、場が変わると嗜好もガラリ変わる。定番ソングをできるだけ避けつつも、一昨日の構成をベースに、かなりの修正を加えて臨んだ。
 13時半ちょうどから歌い始め、45分間で15曲を歌う。


「高原列車は行く」
「おかあさん(森昌子)」
「炭坑節」
「ここに幸あり」
「二人は若い」
「浜辺の歌」
「酒と泪と男と女」
「まつり」(リクエスト)

「長崎の鐘」
「昔の名前で出ています」
「上海帰りのリル」
「ラブユー東京」
「花〜すべての人の心に花を」
「丘を越えて」
〜アンコール
「高校三年生」


 新たに入れた曲は、「高原列車は行く」「炭坑節」「ここに幸あり」「ラブユー東京」「花」の5曲。お祭りを考慮し、乗りがよくて手拍子の出やすい曲を重視した。

 大事な1曲目は、このところ歌ってないが、実績のある無難な曲。3曲目にはちょっとひねった民謡の「炭坑節」を持ってきた。直前の時間調整で「真室川音頭」を全員で歌っていて、私の直後の日本舞踊では「花笠音頭」を踊っていたので、うまく重複を避けた格好。
 1〜3曲目までは調子よく手拍子が飛び出し、4曲目で叙情系の曲、5曲目で掛け声参加の曲、6曲目で叙情系唱歌という、メリハリを利かせた苦心の構成である。

 ほぼ思惑通りに運んで、前半ラストに相当する「まつり」では、場の気分が最高潮に達する。秋から冬にかけてしか歌わないが、男女を問わず受ける得難い曲なのだ。
 全体を通して唯一の選曲ミスは、7曲目の「酒と泪と男と女」。フォーク系の歌だが、他の場では人気のある曲。しかし、フォークをリクエストなしで歌うには、ちょっと無理があった。反応の弱さを素早く察知し、後半を大幅に端折って歌い終える。

 一昨日初めて歌ってまずまずの手応えだった「上海帰りのリル」は、今回さらに反応がよく、歌い終えると「いいね〜」の声が湧く。難曲だが、かなり歌い込んで、ようやくこの曲の世界観をつかんだ気がする。2番を飛ばしたが、フルコーラス歌ってもよかったかもしれない。
「ラブユー東京」は介護施設では初めて歌った。チカチカパフォーマンスでは抜群の反応なので、(もしやいけるかも…)という、見切り発車だったが、予想以上に受けた。
 ジャンル的にはムード歌謡だが、よく知られていて、何より手拍子がでやすい。未開拓の曲でも、この2点に絞って選曲すれば、まだまだ歌える曲を発掘できそうだ。

 他の出演者の関係もあって、アンコールやその場のリクエストはない、という事前の打合せだったが、終了後に当の担当職員さんがいきなり立ち上がって「アンコール!」の手拍子。「打合せと違ってますよ〜」などと応じつつ、ありがたく追加で歌わせてもらう。
 実はこの職員さん、目下妊娠中だそうで、ライブの途中「お腹の子が菊地さんの声に合わせて、トントン蹴り出した!」との面白いコメント。どうやら歌に反応するのは高齢者ばかりではないようだ。

 終了後、「よかったです〜」との声を幾人かの方からかけていただく。修正を加えたこともあり、結果として出来は一昨日よりも向上したように思える。
 同じ曲を同じような場で同じ歌い手が歌っても、場の反応はその都度微妙に異なる。その微妙さ加減がライブの妙味。だからライブは面白い。