訪問ライブ顛末記


篠路チョボラ会・収穫祭 /2013.9.1



 地域中高年の市民組織による収穫祭イベントに出演。実はこの企画、借りた畑に有志が育てた野菜を収穫し、同じ地域にある児童養護施設(諸事情で親と暮らせない)の子供たちを招いて共に食べて遊ぼうという趣向。
 大変意義ある主旨で、介護施設や街づくりイベントで歌うことを活動の中心軸にしている私にとって、うってつけの企画といえた。

 しかし、2年前に出演した同じ収穫祭で、いろいろな事情から苦い経験をしている。同じ体勢で臨めば、その失敗の繰り返しは目に見えている。依頼を受けた当初、責任者の方にはその旨を充分に説明し、「あくまで子供中心で進める」という条件でお引受けした。

 多忙なライブスケジュールに追われつつも、どんな構成で演ろうか、ずっと考えていた。全曲を子供向けでやることは決めていたが、直前になって参加者の全貌が明らかになる。子供26人、指導者6人、中高年50人という、思っていたより大規模なイベントであることが判明した。
 さらに驚かされたのは、子供の18人が低学年であるという事実。うち8人は4〜6歳の未就学児だった。4〜12歳の子供と50〜80歳の中高年が対象のライブで、完全に未知の領域である。
 すでに選曲は終えていたが、高学年向きの2曲を低学年向きのものに急きょ差し替えることに。

 不安を抱えつつ、会場に向かう。雨模様だったが、会場は地区センターの大会議室で、安全をみて野菜の多くはすでに収穫を終えていた。
 私の出番は10時30分からだったが、実は2日前になって顔なじみの地区センターの女性館長さんと臨時ユニットを組んで1曲歌う、というアイデアを思いついた。館長さんには快諾を得ていたが、リハを全くやっていない。
 5分ほどの短時間に空き室を使って簡単な音合せ。音楽や読み聞かせ等の活動を長くやっている方なので、潜在的アドリブ力に期待することにした。

 少し遅れて、10時35分からライブ開始。悩んだすえに決めた以下の10曲を、およそ35分で歌った。


「カントリー・ロード」
「エーデルワイス」
「パフ」
「ビリーヴ」
「さんぽ」
「幸せなら手をたたこう」
「ピクニック」
「アンパンマンのマーチ」
「翼をください」
「チキ・チキ・バン・バン」


 到着時にはすでに来賓挨拶等が始まっていて、マイクテスト等は一切できない。手慣れた機材なので不安はなかったが、いざ歌い始めると、ボーカルの高音で微妙にノイズが入る。2曲目冒頭でボリュームを少し絞ったが、改善しない。
 原因が分からず、ちょっと困って3曲目冒頭でケーブル類をつなぎ直し、機器を全てリセットし、PAの位置をマイクから少し遠ざけた。これでようやくノイズは消えたが、もしかすると別にあった司会用マイクが干渉していたのかもしれない。

 会場の席は大人と子供、そして職員がバランスよく混ぜて配置されており、前回のようにライブ中の食事は一切なく、少量のお菓子とジュースが並んでいるだけ。歌に集中する条件が整っていた。
 1曲目から反応はまずまずだったが、場が一気に乗ったのは、4曲目の「ビリーヴ」から。子供に受けるらしい情報をネットでつかんではいたが、まるで自信がない。反応が悪ければ省略も頭にあったが、いざ歌い始めると、小さい子までが一緒に歌ってくれるという抜群の手応え。勇気を得て、フルバージョンを歌いきった。
 その後、会場を後にするまでずっと口ずさんでいる子がいたほど。この曲の世界観が、会の主旨にピタリ合致していた気がする。

「さんぽ」「幸せなら手をたたこう」「ピクニック」は、それぞれ異なるタイプの趣向をこらしたが、いずれも当たった。
「さんぽ」は、「何か一緒に歌えるものを」との要望から、歌詞カードなしでも簡単に歌える工夫をした。歌いながら歌詞の間に次の歌詞を素早くつぶやく、という、フォーク系イベントのシングアウトでよく使われる手法。初の試みで、かなりの練習を重ねて臨んだが、多くの子が一緒に歌ってくれた。この手法は今後、別の場でも使える。

「幸せなら手をたたこう」は大人にリードしてもらうつもりが、なぜか子供たちも大喜びで参加。介護施設用に覚えたが、場所を選ばない曲だ。
「ピクニック」は女性館長さんとの臨時ユニット。かけ声や動物の鳴き声を中心に歌ってもらったが、一部に寸劇の要素も取り入れた。掛け合い漫才のような進行がビタリ決まって、会場は大いに沸いた。こうしたリーダー的立場の方を歌に巻き込むと、間違いなく場は盛り上がる。

 終了後、トウキビやカレーラースを全員で美味しくいただく。「すごく良かった」「楽しかった」「選曲が抜群」等々、たくさんのうれしい言葉をかけていただき、苦労が報われた思いがした。

 ライブが終わって数日経って、責任者の方の礼状が届き、その中に招待した児童養護施設の子供の礼状も同封されていた。絵日記ふうの台紙に、文章とイラストがていねいに描かれている。
「幸せなら手をたたこう」の歌が一番楽しかったこと、カレーライスやトウキビが美味しかったことなど、イベントの感想が分かりやすく率直に書かれている。イラストにはトウキビとカレーラース、そして歌っている私の姿。

 驚きべきことに、弾いているギターには弦が描いてあり、メガネやバンダナなど、細部の表現が素晴らしい。何より、楽しさが画面からにじみ出ている。

 自分の名前以外は全て平仮名とカタカナなので、もしかすると未就学児かもしれない。読んでいて思わず胸が熱くなった。
 責任者の方の礼状にも「私たち大人も子供たちと共に、かけがえのない嬉しい体験をさせていただきました」とあり、確かに通じ合っていたのだなと、感慨を新たにした。
 ストリートライブで通りすがりの方に足を止めていただき、声をかけてもらうのも得難い喜びだが、全く質の異なる喜びといえる。日々工夫をこらし、練習を積み重ねながら活動を続けてきてよかったと、心底から思える瞬間だ。


 

のどか祭り /2013.9.8



 午前中に町内会館の塗装補修奉仕作業、午後からは近隣のグループホームお祭りライブというハードなスケジュールが詰まっていた。暑い陽射しの中で12時までかかってようやく塗装作業が終了。あわてて家に戻り、ペンキで汚れた手を洗いつつ、昼食の準備。
 ソウメンを慌ただしくかきこみ、この日一緒に歌う予定の息子と軽いリハをやるつもりで電子譜面搭載の中華Padのスイッチを入れると、何ということかバッテリー残量がわずか。前日の練習後に充電するのを、すっかり忘れていた。
 やむなく練習は紙の譜面でやることにし、そのわずかな時間に充電。不安のある曲だけを集中的にやり、梱包を済ませてギリギリに中華Padのケーブルを外したら、70%まで充電が回復していた。これだけあれば何とかやれる。

 施設は車で5分の近場にあるので、開演15分前には到着。久しぶりに再会する職員の方に息子を引き合わせ、ただちに機材を組み立てた。

 いつも雨にたたられるイベントだが、この日に限っては例外。暑いほどの陽射しが照りつける絶好の日和である。ライブは屋外に準備されたステージで問題なくやれた。
 2組出演するうちの1番で歌うことになり、少し遅れて13時13分頃から開始。先方の希望通り、20分で以下の6曲を歌った。


「恋のバカンス」
「バラが咲いた」
「カントリー・ロード」
「幸せなら手をたたこう」
「上を向いて歩こう」
「まつり」


 寝不足と予期せぬ暑さ、そして長時間の奉仕作業という三重苦が重なったが、声はまずまず出た。この施設では8年ぶりに一緒に歌う息子の前で、まずい姿は見せられない、という緊張感も自分を支えていたかもしれない。
 遅い夏期休暇をとって2日前から帰省し、入念に準備を重ねてきたので、息子との息はぴったり。ミスは皆無に近く、会場の反応も抜群によい。「バラが咲いた」ではため息が湧き、「カントリー・ロード」では聴き手の一部が涙を流した。「まつり」では歌い終える前に大歓声が上がる。体調は最悪でも、ステージは会心に近かった。

 6曲のうち、初めて合わせる曲が3曲あったが、いずれも無難にまとめた。演奏時間が流動的だったので、全部で9曲準備していったが、歌えなかった3曲は眠らせるに惜しい仕上がりなので、次なる機会のためにとっておく。
 例年は子供の姿も多いので、月初めの子供対象のライブで評判のよかった「ビリーヴ」を5番目に歌う予定でいたが、この日に限って場内に子供の姿は皆無。咄嗟の判断で、無難な「上を向いて歩こう」に差し換えた。
 ユニットとしての魅力を充分に表すべく、予備曲も含めて全曲を二重唱にアレンジして臨んだ。同じ歌でも私のソロとはひと味違って聴こえたはず。アレンジには息子の意見が多く入っていて、互いに議論を闘わせつつ進める。音楽に関する議論に親も子もなく、互いに安易な妥協はしない。

 終了後に声をかけてくださる方が多数いて、「歌も素晴らしいが、こうして親子でボランティア活動をする姿勢そのものが素晴らしい。我が子にもぜひ教えてあげたい」という声が一番うれしかった。
 さらには、若いヘルパーさんから「弾き語りの方法をぜひ教えて欲しい」と言われ、ちょっと考えてしまった。私と息子の関係を知らない数人から、「お弟子さんですか?」と尋ねられたので、そんな話につながったのだろうか。

 以前からこうした依頼は散発的にあったが、今年になって同様の声が急増している。「若い世代に手法を伝えてはどうか」と、中高年世代から進言されたこともある。いろいろ問題はあるが、基本的に教えるのは好き。施設慰問限定なら、種々のノウハウを伝えることは可能かもしれない。


 

ジャパンケア札幌八軒・敬老会 /2013.9.9



 午後から隣区の小規模多機能ホーム・敬老会余興に出演。依頼は昨年の敬老会に続いて2度目で、昨年のライブを施設長さんに気に入っていただけたようだ。
「通い」「訪問」「泊まり」など、さまざまな種類のサービスが受けられるのがこの種の施設の特徴で、聴き手の年齢層も60〜90代までと幅広い。

 2日続きのライブなので喉にやや疲労感を覚えたが、ショウガ湯等で充分にメンテナンスを施したせいか、事前の自宅練習では普通に歌えた。
 敬老会開始は13時からだったが、最初の挨拶に続いて手品のパフォーマンスがまずあり、私の出番は13時50分あたりから。聴き手は職員を含めて30名ほど。要望通りに、およそ30分で以下の11曲を歌った。(※はリクエスト)


「高原列車は行く」
「瀬戸の花嫁」
「北国の春※」
「バラが咲いた」
「幸せなら手をたたこう」
「故郷※」
「高校三年生」
「月の沙漠」
「浪花節だよ人生は」
「ここに幸あり」
「丘を越えて※」


「みなさんと一緒に歌える曲を」と施設側から要望され、事前に選んで歌詞カードを印刷して全員に配るという趣向はこれまでもよくあった。
 しかし、いざやってみると高齢の入居者は歌詞を目で追うことが難しく、歌への集中度は逆に削がれがち。あまりうまくいった記憶がない。この手法なら歌詞カードを準備する面倒もなく、歌い手に注目しつつ全員が充分に楽しめる。
 テンポの早い曲や曲間の短い場合はやれないケースもあるが、1ステージで2〜3曲なら程よいアクセントになるだろう。我ながらいい方法を見つけた。

 歌いながら入居者の方々を順に見回すと、どの顔もいきいきと輝いていている。ライブは水モノだが、うまく運んでいるときの典型だ。

 熱い反応が途切れることなく、ライブ終了。終始笑顔で歌っていた高齢の女性が、待ちかねたように近寄ってきて、「すごく楽しかった。久しぶりに歌って、身も心もスッキリ晴れました」と労ってくれた。
(この女性は帰り際に玄関口までわざわざ見送りにきてくれた)
 多忙の中でのひとつにライブに過ぎないが、手を抜くことなくていねいに歌い、閃きの中からまたひとつ新しいものを見つけられたと思う。少しずつでも前進である。


 

ディPOP・敬愛会 /2013.9.13



 都心にある複合介護施設の敬老会で歌ってきた。さまざまなハンディキャップを持つ、20〜90歳の幅広い年齢層が共に暮したり過ごしたりする施設で、今回は敬老月間にちなんで、高齢者に的を絞ったイベントである。
 一昨年の新年会に初めて招かれ、昨年は夏祭り、そして今年と3年連続3度目の依頼である。いわゆる「3度目の壁」を破った数少ない例となった。

 歌う曲に対し、さまざまな要望が出るのが特徴で、「幅広い年齢層に楽しんでもらう」という、施設長さんの意向が色濃く反映されている。
 今回は高齢者中心のライブとして数曲のリクエストが出たが、「若い人むけの曲も少し歌ってくださいね」と念を押された。過去に歌った曲との重複を避け、慎重に選曲。リストアップした11曲を事前にFAXし、先方の了解を得た。

 会場に入ると、壁に飾ってあるイベント名は「敬老会」ではなく、「敬愛会」となっていた。想像だが、幅広い年齢層に配慮して、広いイメージのある名称としたのではないだろうか。
 当初の開始予定は12時40分だったが、12時20分に着いたら、早めに始めて欲しいとのこと。すぐに機材をセットし、12時32分くらいから歌い始める。予期せぬアンコールなどあって、結果として約40分で以下の12曲を歌った。(※はリクエスト)


「高原列車は行く」
「バラが咲いた」
「高校三年生※」
「ハナミズキ」
「幸せなら手をたたこう」
「古城※」
「お富さん」
「夢一夜」
「浪花節だよ人生は」
「ここに幸あり」
「青い山脈※」
「圭子の夢は夜ひらく(アンコール)」


 3度目ともなると、場内に顔見知りも多数。昼食がちょうど終わったばかりということもあり、楽しく華やいだ雰囲気のなかでライブは進んだ。若い人むけに選んだ「ハナミズキ」「夢一夜」の2曲も、うまく場に収まった。
 聴き手参加型の「幸せなら手をたたこう」「古城」「青い山脈」の配置も適切だったと思う。「古城」は進行プログラムの一部に歌詞を印刷し、先方のリクエストで歌った初披露曲だが、予想以上にみなさんが歌ってくれた。
 平均年齢が若いので、歌詞カードを目で追う作業に違和感がないせいかもしれない。状況次第では、歌詞カード方式も悪くはないことを学んだ。

「幸せなら手をたたこう」の4番で「幸せなら笑いましょう」というシーンがあり、いつもは会場に笑い方を自由におまかせするスタイルをとるが、この日は曲のリズムにぴったり合わせて「ハッ!ハッ!」という声が突然あがり、初めて耳にするパターンだったので、一瞬たじろいだ。
 場内は大いに湧いたが、つられて私も笑いをこらえつつ歌ってしまう。場の雰囲気は壊してなかったので、許される範囲だったろうと自己弁護。

 この日唯一場になじまなかった曲が、ラスト前に歌った「ここに幸あり」。年齢層の高い施設では非常に受ける曲だが、この場では浮いた印象がした。
 結果論だが、この曲はカットして一気にラストになだれ込んでよかった感じだ。明らかに選曲ミス。

 最近会得した「歌詞指導つき歌唱」で「青い山脈」を歌い終えると、期せずして会場のあちこちから「アンコール!」の声。職員の関与しない、いわゆる「真のアンコール」で、この施設ではそもそもアンコール自体が初めてのことだ。
 早めに始めたので、タイムスケジュールには余裕がある。「《圭子の夢は夜ひらく》をぜひに」との曲名指定が会場からあり、「あの曲を本当に歌っていいんですか?」と一瞬耳を疑う。
 暗いイメージなので介護施設系では一度も歌ったことがないが、もともと得意な曲。電子譜面を繰って歌詞を探し出し、ありがたく歌わせていただいた。

 終了後に食事やビンゴ、じゃんけん大会にまで参加させていただき、最後まで宴を見届けることに。過去3回のうちで、今回が一番の手応えだった印象が漠然とだがする。
 自称「ユーティリティ・シンガー」なので、幅広い年齢層の多岐に渡るリクエストにも、ある程度対応できると自負している。細くとも、長いお付き合いが今後も続きそうな予感。


 

ホーム&ホーム・敬老会 /2013.9.15



 近隣のグループホーム敬老会に出演。初めての施設で、依頼はネット経由であったが、「全曲を歌声喫茶ふうに歌詞カードつきで一緒に歌う」という前例のない要望が当初あり、私の手には負えない感じがした。
 協議のすえ、共に歌う曲は3曲に減らして実施することに。ただ、他の曲もすべて事前にリストアップしてチェックを受けるという条件が追加で出された。
 さらには、実施前に会場調査にも来て欲しいとの要望。この種の条件がいろいろ出ることは稀にある。暇な時期なら大きな問題ではないが、折しも2ヶ月で14本という、超多忙スケジュールのまっただ中。

 それでも何とか時間をやり繰りし、先方の要望には全て応じた。当初は入居者9名とその家族が対象という話が、系列の別施設からも参加者がやってくることになり、実施前から難しいライブになりそうな予感がした。

 予め打合せてあった奥の和室にステージ設定。ところが、予想以上に参加者が多く、マイク前ぎりぎりまで椅子がズラリ並んでいる。最前列では音が大きすぎるのが明らかだったので、何とか椅子を下げてもらうようお願いしたが、多くは無理な状況。
 マイクとPAの位置を後方に下げようとすると、今度は左手の壁が邪魔になり、入口付近から全く見えなくなってしまう。結局そのままの位置で始めることにしたが、リスクが高いので、珍しくマイクテストとして数曲歌った。
 入口付近の音はOKだったが、問題は最前列である。「耳が遠いから、多少大きめでもいいでしょう」との声があり、そのまま始めることにしたが、これが最初に犯した間違い。

 人の集まりが遅く、5分遅れの13時35分から歌い始める。ざっと人数を数えると職員を含めて50人近い人で、まさに立錐の余地もない状態。ともかくも、事前提出のリストに従って、40分で以下の14曲を歌った。(※はリクエスト)(◎は歌詞指導)


「高原列車は行く」
「バラが咲いた」
「高校三年生」
「リンゴの唄※◎」
「童謡メドレー:夕焼け小焼け・紅葉・赤とんぼ◎」
「幸せなら手をたたこう」
「ここに幸あり」
「青い山脈※◎」
「お富さん」
「月がとっても青いから」
「故郷※◎」
「知床旅情(アンコール)」


 場の反応はいまひとつ。よく言えば大人しく、悪く言うなら、まるで乗ってない印象だった。実は直前のマイクテストからそんな予感はあって、他の場ならこの時点で盛大な拍手が湧くのが常。しかし、それが全くない。
 いわば「笛吹けど踊らず」状態のままライブは進んだ。歌詞指導つきの曲「リンゴの唄」でもそれは変わらず、一緒に歌う声はごく少数。ここで力んでも仕方がなく、焦らずに淡々と歌い進めたが、場が最も乗ったのは意外にも中盤の童謡メドレーである。
 多くの方が一緒に歌い出すので、咄嗟に予定を変更して歌詞指導つきに切り替えた。

 場の空気からして、そのまま童謡系の歌を連発すれば、大いに盛り上がったのは間違いない。しかし、ここで事前に提出した曲リストが邪魔をした。一瞬迷ったが、面倒を避けて打合せ通りの曲を歌う選択をした。これが2つ目の判断ミスである。

 弱い手応えのままライブは進み、ラストの「故郷」で少し盛り上がって、どうにか終わろうとしたら、職員から「ぜひアンコールを」の声。場がそんな気分でないことは歌っている本人が一番分かっているのだが、時計を見ると予定より少し早い。いわゆる「時間調整アンコール」である。
 無難な曲でまとめ、そそくさと機材を撤収していたら、職員が一人の女性入居者に「今日はどうでしたか?」と声をかけている。ここで予期せぬ言葉が返ってきた。

「私はこういうの好きじゃないね。ただ怒鳴ってるだけじゃないの」

 そんな言葉は想像もしてなかったのか、職員も思わず絶句。当の私は目の前で片づけをしているが、そんなことはお構いなしだ。足掛け9年の施設訪問活動を続けているが、こんな酷い言葉を直接言われたのは、初めての経験だった。
「怒鳴っている」という言葉は、つまりPAの音が最前列で大きすぎた、とも解釈できる。ただ、他にもいろいろ不満はあったのだろう。
「赤とんぼ」で涙を流したり、終了後に「また来てくださいね」と声をかけてくれた方もいるにはいたが、たとえ一人にでも「好きじゃない」と言われてしまえば、そのライブは失敗である。

 どのような条件下でも柔軟に対応し、場をうまく収めるのが歌い手としての力量だろう。しかし、それを阻害する外部要因があっては事はうまく進まないし、進めようがない。
 活動9年目にして初めて学ぶものがある。依頼を受ける体勢を、少し考え直してみたい。


 

ライラックイースト・敬老会 /2013.9.16



 隣区にあるデイサービス敬老会で歌った。中旬から延々と続く「9日間で5回」という殺人的スケジュールのラストで、ここを乗り切れば敬老月間ライブの大きなヤマは越える。

 とはいえ、かってないほどの失態を犯してしまったのが、つい前日のこと。そのダメージが癒えぬまま、次なるライブに臨むことになってしまった。たとえ1日でも気分転換の猶予が欲しかったが、どうやらそれは許されない状況である。
 慌ただしく前夜にセットリストを組み直したが、つい気持ちが守りに入ろうとする自分に気づく。季節感など無視し、無難な定番曲を並べてしまおうかと…。しかし、それではかえって状況が悪化する予感もした。悪い時期に守ってはいけない。ここは攻めだ。

 思い直して、いったん決めたリストをゼロクリア。この施設では「聴き手参加型の曲をぜひ1曲」以外に特別な注文はなく、細部は一任されていた。(人にもよろうが、私に限っては自由度が高いほど概ね結果はよい)
 熟慮のすえ、リクエストがない限り、普段はほとんど歌わない難曲、「川の流れのように」をあえて歌うことにする。さらには、このところずっと歌っている聴き手参加型の「幸せなら手をたたこう」を外し、しばし歌っていない「二人は若い」に差し換えて気分転換を試みた。

 台風の余波で早朝からずっと雨。初めて訪れる施設だが、普段よく通る道沿いにあるので、事前調査はしていない。
 会場に入ってステージの位置や客席の配置を確認。幸いなことに、奥行きよりも幅が広い横長の空間で、昨日のような縦長の空間より音が平均して届きやすく、条件ははるかによい。客席の前後スペースにも、充分な余裕がある。

 聴き手は職員を含めて25名程度。利用者の約半分が男性という、介護施設にしては非常に珍しい構成だった。(ちなみに、前日の施設は利用者と職員の全員が女性)
 予定より少し早く、13時13分からライブ開始。およそ40分で、以下の14曲を歌った。


「高原列車は行く」
「瀬戸の花嫁」
「リンゴの唄」
「バラが咲いた」
「二人は若い」
「童謡メドレー:夕焼け小焼け・紅葉・赤とんぼ」
「高校三年生」
「川の流れのように」
「浪花節だよ人生は」
「ここに幸あり」
「青い山脈」
「月がとっても青いから」


 前日の反省を踏まえ、この日はPAのメインボリュームを普段より20%ほど絞って臨んだ。聴き手の数が少ないので、大きすぎる音は禁物である。
 反応は決して強いほうではなかったが、何も要求せずとも一緒に歌ってくれたり、自然発生の手拍子も飛び出した。「童謡メドレー」は歌詞指導つきで歌い、普段は2番で止める「高校三年生」も反応がよいので、フルコーラス歌った。

 やや長い正味40分のライブを求められていたので、珍しくMCも長めにとる。「夕焼け小焼け」では、生まれ故郷の少年時代の思い出を語ったりもした。
 場が最高に盛り上がったのは意外にも「浪花節だよ人生は」。この種の場ではおしなべて大人しい男性利用者までもが、拍手喝采。もともとデイサービスでリクエストがあって覚えた曲だが、このことは心に留めておきたい。

 前日のダメージを回復するリハビリ的な側面も多少あった気がするが、大きなキズなく、無難にまとめて責任者からも喜ばれた。

 撤収作業中に利用者の女性から「心に響くやさしい歌声ですね」と労われ、昨日とは正反対の評価だったので、逆にこちらが癒やされた気分になった。
 この女性からは「森進一は歌わないのですか?」とも問われた。ファンだそうで、「おふくろさん」「冬のリビエラ」「襟裳岬」など歌えますよと応じると、「おふくろさん」が聴きたかった。実はリクエストしようと思ってたのよ、今度ぜひ聴かせてね、と再訪の依頼。実現するかどうかは別にし、大変ありがたい話である。
 前日のダメージからは、この日でどうにか回復できた感じがする。人の好みはさまざまであるということか。