訪問ライブ顛末記


新川エバーライフ・6月誕生会 /2013.6.19



 隣区の特養(特別養護老人ホーム)での誕生会イベントに出演した。平日だが、GW以降の本業(デザイン系)が開店休業状態なので、臨機応変に対応している。自称「還暦シンガー」ということもあり、いまさらアクセクすることもないでしょ、と妻が言い、実際私もそう思う。
 いつものようにネット経由で依頼はやってきたが、どこかで聞いた施設名だな…、と思って調べたら、6年前に歌った別の施設と同じ系列だった。

 春を飛び越して一気に夏がやってきたので、ライブの構成や衣装にちょっと悩んだが、初夏から盛夏にかけての季節を配慮した構成とし、衣装は調節しやすい長袖シャツにベスト、そして首にはバンダナを巻き、介護施設ライブでは前回初めて使ったハンチングを今回もかぶることにした。

 初めて行く施設だが、いつも通る幹線道路近くにあるので、30分前に迷わず到着。事前に施設の見取図がFAXで送られてきたが、実際に会場に立ってみると、予想を越える広さだった。
 たいていは食堂を利用してライブは行われるが、驚くべきことに専用のホールがあり、ステージまで設けられている。過去にいろいろな施設を訪れたが、これほど立派な施設は初めてだった。

 開始までに余裕があったので、担当のNさんに会場後方に立ってもらい、珍しくマイクテストを事前にやらせていただく。会場が広いことと、ステージ真上が10メートル近い吹き抜けになっており、持参したPAではパワー不足の不安があった。
 誕生会の余興として招かれたので、まず施設側のセレモニーがあり、予定より2分早い14時38分からライブは始まった。アンコールを含め、およそ35分で以下の13曲を歌う。


「憧れのハワイ航路」
「バラが咲いた」
「ソーラン節」
「知床旅情」
「浜辺の歌」
「高原列車は行く」
「二人は若い」
「みかんの花咲く丘」
「さんぽ(となりのトトロ)」
「高校三年生」
「瀬戸の花嫁」
「青い山脈」
〜アンコール
「月がとっても青いから」


 職員を含めて聴き手はおよそ100人。人いきれのせいもあって会場がかなり暑く、開始前にベストを脱ぎ、シャツの袖もめくって準備したが、それでも歌い始めると暑さが堪えた。
 言い訳になりそうだが、ライブに関しては寒さよりも暑さに弱い。多少の寒さは歌えば身体が暖まって気にならなくなるが、暑いときは歌えば歌うほど暑さが増す。

 途中で水を補給しつつ進めたが、やや集中力を欠いた感じで、中盤の「高原列車は行く」の歌詞で「青空〜」の部分がやや出遅れるという失態、さらにはラスト近くの「さんぽ」では、3番の転調部でDのコードを一瞬押さえ損ねるというミスをやらかした。
 どちらも大事には至ってないが、ミスはミス。手慣れた介護施設系ライブということで、気持ちに多少の緩みもあったかもしれない。

 もうひとつの問題として、ステージの高さがあった。80センチほどもあるので見下ろして歌う感じになるが、普段とは違う聴き手との距離感を覚えた。譜面を極力見ず、聴き手に語りかけるように歌い、心理的な距離感を縮めるよう努めたが、自分のスキルの限界を感じた。
 場の印象としては、叙情的な歌を好む傾向があった。「みかんの花咲く丘」「瀬戸の花嫁」で多くの方が一緒に歌ってくれて、手拍子系の曲よりも強い反応があったように思える。

 特養でのライブは、実は今回が初めてである。要介護の度合いが強い方が大半だったが、通所のディサービス利用者が3割ほど混じるという客席構成。その中間の聴き手がなく、対象の絞り方が難しいライブでもあった。
 アンコールは自然発生的なものではなく、担当のNさんから「一通り終わったあとに、私がアンコールを出しますから」と、事前に言われていたシナリオ通りの展開である。
 前回の介護施設ライブで初めて試し、評判のよかった「歩きながら歌う」を今回も試みるべく、事前にNさんに相談してみたが、会場の広さと階段のあるステージ構造の両面から、(難しいのでは…)との判断。ちょっと未練はあったが、諦めて対象の「浜辺の歌」は、普通にマイク前で歌った。

 暑さ対策としてはハンチングはやめて、これまでのバンダナ方式にしたほうが涼しくやれたかもしれない。PAはもっと大型が望ましかったが、ギリギリ足りていたと信じたい。
 まずまず無難にはこなしたが、いろいろと難しい条件が多く、反省点の多いライブであった。アップ写真にも正直にそれが表れている。


 

さつきの里・訪問ライブ /2013.7.23



 2ヶ月前に依頼されたばかりの小規模多機能ホームで、再び歌ってきた。歌ってから2ヶ月も経たぬうちに同じ場でまた歌うことは、普通はない。しかし、担当の方や入居者の方々の強い要望ということで、お受けせざるを得なかった。
 先方が弾き語り系のボランティアをこれまで一度も頼んだことがなかった、という背景もあったと思う。増長していては痛い目にあう。

 とはいえ、頼まれること自体は大変ありがたいので、「前回とは曲を重複させない」という、自らに課したノルマに従い、季節感や起承転結などにも配慮しつつ準備した。

 急増する他のライブなどに忙殺され、構成が決まったのは実施日のわずか2日前。当日は午前中から30度を超える暑さで、会場に入ってみると扇風機はあったが、エアコンは入っていない。
 歌う側も聴く側も大変な酷暑ライブだったが、予定は予定。「菊地さんの歌声で暑さを吹き飛ばしていただきましょう!」という冒頭挨拶と共に、14時ちょうどから開始。開演直前にシングアウトとして急きょ依頼された「青い山脈」とアンコールを含め、およそ40分で以下の14曲を歌った。(※は初披露)


「憧れのハワイ航路」
「埴生の宿」
「ブンガワン・ソロ」
「瀬戸の花嫁」
「高原列車は行く」
「浜千鳥」(ノーマイク)
「草原の輝き」
「幸せなら手をたたこう※」
「われは海の子※」
「星影のワルツ」
「東京ラプソディ」
「りんごの木の下で」

「青い山脈」(リクエスト)
「月がとっても青いから」(アンコール)


 夏系の曲をズラリそろえたが、演歌系の曲が「星影のワルツ」くらいで、ややバタ臭い雰囲気になってしまった感じはする。
 本来なら早めに手拍子系の曲を入れて場を乗せるのが常だが、前回「お富さん」「ソーラン節」を歌ってしまった。「お座敷小唄」は冬の歌だし、「炭坑節」は秋の歌。季節を問わずに歌える手拍子系の持ち歌が少ない。今後の課題だ。
(家に戻って落ち着いて考えてみたら、「皆の衆」が歌えたことに気づくが、時すでに遅し)

 6曲目の「浜千鳥」は、例によってマイクなしで歩きながら歌うスタイル。今回も無難にまとめた。続く「草原の輝き」はアイドル系の曲で、こうした場では冒険だが、歌に合わせてフリをする方が複数登場し、意外な反応にびっくりした。決めつけずにやってみるものだ。
 初披露の「幸せなら手をたたこう」は、「二人は若い」に似た聴き手参加型の歌。予想外に受けて、会場は大いに盛り上がった。この曲は今後使えそうだ。

 同じく初披露の「われは海の子」を歌っていると、思いがけないことが起きた。近くにいた女性が「泣けるよ…」と、突然嗚咽し始めたのだ。ごく普通のメジャー調の唱歌で、いわゆる「聴かせる」歌でもない。もちろん(泣かせよう)などと狙ったわけではない。
 一瞬何が起きたか分からず、正直動揺した。続く「星影のワルツ」こそが悲しい別れの曲で、飛ばしてしまうことも一瞬考えたが、どうにか崩れずに持ちこたえた。
 あとで係の方に「なぜあの歌で…」と確かめたら、「菊地さんの声が泣ける」と、あの方は言っているんですよ、とのこと。つまり、曲調の暗い明るいは関係ないということになる。これに関しては多少の心当たりもあるが、まだ自分でもよくつかめていないので、今後の分析が必要だ。

 初めてカズーを使ってラストに歌った「りんごの木の下で」は、こちらが意気込んだほどの反応はなく、やや拍子抜け。ただ、(いったい何が始まるんだ…)と、場を引きつける効果は充分にあった。
 位置づけとしては、ハモニカやフットタンバリンに似ている。しょせんは飛び道具の部類で、忘れた頃にカンフル的に使ってこそ意味がありそうだ。

 あれこれあって、いわゆる「意外に低い2度目の壁(2度目の依頼)」は無難にこなし、確かに喜んでいただいた。チカチカパフォーマンスで会得した暑さ対策も効果的で、最後までバテることはなかった。
 退出時に「次回は秋にぜひお願いしますね」との話も飛び出したが、「はるかに高い3度目の壁」が実現するか否かは、神のみぞ知る領域の話なのである。


 

ツクイ札幌稲穂・訪問ライブ /2013.7.27



 午後から少し遠い場所にある介護施設に歌いに行った。ネット経由でかなり前から依頼されていた、全国組織で運営している施設。札幌市内にも多数あって、調べてみたら過去に3ヶ所の施設で歌っていた。
 今回の施設は初めての訪問。余裕を持って家を出たが、空いている北の迂回路を通ったので、片道23Kmの距離を40分で到着する。この日は20年前に所属していた中年サッカーのチームメイトがネットで偶然私を見つけ、「後学のために」と、ライブを見学にくることになっていた。

 開始は15時からだったが、15分前にそのMさんが到着。いまでも中高年チームでサッカーを続けているそうで、定年後の生き方のひとつに、ボランティア活動を考えているとか。サッカー以外の得意ジャンルである弾き語りをそれに活かせないか…、と思案中であるとか。
 旧知の仲なので、情報提供を含めた協力は惜しまない。まずは自分のライブの一部始終を見届けていただくことだ。

 予定より早い15時2分前からスタート。この日は4日前の介護施設ライブに準じ、夏むきの曲が中心である。ただ、初めての施設なので重複を考慮する必要がなく、メリハリをつけた構成はしやすかった。
 アンコールを含め、およそ40分で以下の13曲を歌った。


「憧れのハワイ航路」
「バラが咲いた」
「ソーラン節」
「おかあさん」
「浜辺の歌」(ノーマイク)
「草原の輝き」
「瀬戸の花嫁」
「幸せなら手をたたこう」
「高校三年生」
「われは海の子」
「ここに幸あり」
「青い山脈」
〜アンコール
「月がとっても青いから」


 歌い始めてみて驚いたが、音の反響が抜群によい。建物の構造に由来するものと思われるが、いわゆる「ナチュラルリバーブ」がほどよく効いている。弾き語り活動を本格再開して足掛け10年になるが、介護施設系でこれほど音のよい場には、初めて遭遇した。
(あとで担当のTさんに聞いたら、同様の指摘をしばしば受けるらしい)

 音のよさに呼応するかのように、1曲目からいきなり手拍子が飛び出し、50名ほどいる聴き手の反応も非常によかった。横に広い会場で、歌いながら順に聴き手を見回すよう努めたが、いきいきと輝く表情を返してくださる方が多数。
 聴き手が乗れば、歌い手もますます乗ってゆく。「ライブは聴き手と歌い手の両方で作り上げるもの」とよく言われるが、この日はそれを地でゆくような進み方だった。

 4日前の施設で初めて歌い、反応がよかった「幸せなら手をたたこう」をこの日も歌ったが、やはり受けた。「聴き手参加型」としては「二人は若い」に匹敵する歌だ。
「浜辺の歌」は得意の「ノーマイク、ウォーキング生歌」。聴き手との距離が間近になるので、どの施設で歌っても好評。いまや私のウイニングショットに育ちつつある。今後レパートリーを増やしたい。

 予定分の12曲を歌い終え、「それではみなさま、菊地さんにもう一度盛大な拍手を」と、進行のTさんのシメの挨拶も終わり、素早く撤収を始めたら、期せずして会場から「アンコール」のさざ波がじわじわと広がる。
 職員は全く関わっていず、作為のない自然発生的なアンコールだったが、当惑したTさんが近寄ってきて、「あのぅ…、アンコールは可能でしょうか…?」と、遠慮がちに尋ねる。それではと再度ケーブルをつなぎ直し、最近のアンコール定番曲である「月がとっても青いから」を歌って納めさせていただいた。

 久しぶりに会ったMさんと終了後に近くのカフェで話したが、「みなさんいいノリでしたねぇ、音程も正確で、ギターの音もいい。よく工夫された構成でした」との感想をいただく。
「実は今日は、過去最高に近い内容のライブでした」とお伝えしたが、いい場面に立ち会ってくれたと、偶然に感謝したい。


 

ベストライフ清田・8月誕生会 /2013.8.18



 札幌の南東にある有料老人ホームの誕生会に招かれ、歌ってきた。いろいろな縁で2007年から年一回ペースで歌わせていただくようになり、今回で7回目の訪問となる。決して太くはないが、強くて確かな信頼関係でつながっている施設である。
 真夏に招かれたのは、実は今回が始めて。普段は歌えない夏メニューの構成で臨んだ。

 札幌北端にある我が家からは、車でおよそ1時間近くかかる。市内では最も遠い施設になるだろう。前線の接近で朝から激しい雨が続いていたが、出かける直前になってピタリ上がって、青空が広がった。

 13時45分に先方に着き、施設側のイベントなどがあって、14時15分過ぎからライブ開始。およそ35分で以下の12曲を歌った。


「憧れのハワイ航路」
「バラが咲いた」
「ブルーライト・ヨコハマ」
「サン・トワ・マミー」
「浜辺の歌」
「涙そうそう」
「幸せなら手をたたこう」
「北の旅人」
「高校三年生」
「われは海の子」
「恋のバカンス」
「丘を越えて」


 新し目の曲でも受け入れてくれる得難い施設なので、前回に引き続き、普段あまり介護施設系では歌わない曲を選んだ。「ブルーライト・ヨコハマ」「サン・トワ・マミー」「涙そうそう」「北の旅人」「恋のバカンス」あたりがそれで、どちらかといえばチカチカパフォーマンスで人気のある曲である。

 聴き手の数は職員さんを含めて、60名ほど。かなりの冒険をしたにも関わらず、場のノリはよかった。前半は自然発生の手拍子を多数いただいたが、聴き手参加型の「幸せなら手をたたこう」を終えたあたりから、場の反応が次第に弱くなるのを感じた。
 理由はあきらかに「暑さ」である。この日の最高気温は31度を越えていて、湿度も80%に迫る不快な陽気。歌う側も聴く側も、暑さとの闘いを強いられた。

 歌う私はこの夏のライブで会得した暑さ対策で何とか対応できたが、特に体力のない高齢者の方々に、この条件下での長丁場は厳しかったように思える。暑さで食欲も減退したのか、おやつとして出されたチョコケーキにも、手をつけない方が多かったように見えた。
 残り2曲になって心配になり、担当の方にこのまま歌ってよいか確認したが、予定通りお願いします、との返答。ラスト2曲は間奏を省略するなどし、短めに切り上げた。

 それでも終了すると、「いつも先生の歌を楽しみにしているんですよ、ありがとうございます」と、近寄って労ってくださる入居者の方が複数いらして、ちょっとホッとした。
(「先生」とはこうした場でしばしば用いられる呼称だが、大きな意味はなく、相手を慮ったある種の敬称と考える。当初は「先生じゃないです」と、都度否定していたが、最近は呼ばれるに任せている)

 非常にタフな条件の場だったが、経験値で無難に乗りきれたと思う。


 

ツクイ札幌八軒・訪問ライブ /2013.8.20



 平日だが、隣区にあるデイサービスに歌いに行った。実はこの施設、今年3月始めにも歌ったばかり。依頼があったのはわずか5日前だったが、急きょ歌うことが決まった。
 8月は夏祭り系ライブ以外、あまりスケジュールが入らないのが常だが、今年に限っては例外。毎週のように予定が詰まっていて、依頼された当初はさすがに気がすすまなかった。
 しかし、前回聴いた利用者の方の強い要望があったことを知る。歌い手にとっては殺し文句に近く、請われるうちが華と、フラフラお受けすることに。

 とはいえ、連日の猛暑で中一日でのライブは厳しい。冒険は避けて手慣れた夏メニューとし、練習もほどほどにして、気力体力の温存に努めた。

 開始は前回と同じ14時から。暑さはそれほどでもなく、湿度も低くてカラリとした過ごしやすい陽気。条件としては悪くない。一昨日のライブの反省から、曲数を1曲減らし、およそ35分で以下の11曲をまず歌った。


「憧れのハワイ航路」
「バラが咲いた」
「ブルーライト・ヨコハマ」
「夜霧よ今夜もありがとう」
「浜辺の歌(ノーマイク)」
「涙そうそう」
「幸せなら手をたたこう」
「サン・トワ・マミー」
「われは海の子」
「ここに幸あり」
「丘を越えて」


 前回歌ってから5ヶ月余しか経っていないので、重複曲は避けた。ただ、歌い始めると、場の雰囲気が前回と微妙に違う。反応はとてもよいのだが、空気感のようなものに微妙な変化がある。
 職員さんの顔ぶれは大差なく、ステージの場所も同じ。違っているのは季節だけのはずだったが、それ以外の何か。歌っている人間にしか分からない直感のようなものである。

 あとで担当の方に聞かされたが、実は前回が日曜で今回が火曜。曜日が異なると利用者の大半が別メンバーになるそうで、前回と重複している利用者は、2名だけだったという。
 そうしたデイサービスの仕組みをよく知らず、「利用者の要望」というので勝手に同じ方ばかりと思い込んでいたが、実はその2名の方によるリクエストライブだったということだ。

 いきさつはともかく、ライブとしての出来は悪くなかった。会場には職員さんの手による私のイラストがステージ背景として大きく描かれていて、施設側の力の入れようがうかがえた。

 この日は喉の調子が抜群によく、しかも会場の反響がいい。トントン調子よく進んで、あっという間に歌い終えたが、終了を告げても場には独特の奇妙な雰囲気が漂っている。要は「聞き足りない」という気分が満ち満ちていたのだった。
 爽やかな北海道らしい気候で、聴く側も元気いっぱいの様子。職員さんの「もっと聴きたいですよね〜」の言葉が発端になり、いっせいに「アンコール!」の嵐となる。

 実は前回この施設では、突発的なリクエストが飛び出している。「美空ひばりを何か」と「なごり雪」がそれで、幸いに両曲とも無難にさばいたが、その再燃がちょっと怖かった。デイサービス施設の大きな特徴で、利用者の介護度が低いその分、嗜好の幅が非常に広い。こちらが対応不可能なリクエストが飛び出す可能性が充分にあった。
「何でもいいでしょうか?」と前置きし、準備していた「月がとっても青いから」を素早く歌う。しかし、場の熱は収まらない。「リクエストをしてもいいですか?」との声があり、「曲次第ですね〜」と言葉を濁しつつ、譜面で目についた「高原列車は行く」を続けて歌う。
 いわゆる「Wアンコール」で、曲数をこなせば、場は自然に収まるはずと踏んでのことだが、その考えは甘かった。

 歌い終わると、「長崎は今日も雨だった」との声。ついにリクエスト登場である。譜面があったかどうか咄嗟に思い出せず、首をひねると、「宗右衛門町ブルース」「中の島ブルース」と続けざまに飛び出す。
 珍しく男性からのリクエストで、どうにかお応えしたいと思うが、歌えない曲ばかり。やむなく譜面なしで「長崎は今日も雨だった」のさわりだけを歌い、「この先は分かりません、今度練習してきます」と逃げた。
 するとかの男性、「うまい!では『浪花節だよ人生は』はどうです?」と、重ねて請う。4曲目でようやくレパートリーにヒットした。

 以前に別施設でリクエストを受けて覚えた曲で、譜面はすぐに見つかった。このところ全く歌ってなかったが、無難にこなした。
 この曲が予想外に盛り上がり、ようやく場の気分も収拾。帰り際、「次回はぜひとも『宗右衛門町ブルース』を」と、かの男性から念を押されてしまった。
 以前にある施設でムード歌謡が拒まれた苦い経験があり、介護施設でこの種の歌はタブーと思ってきたが、場によっては当てはまらないらしい。何事も思い込みは禁物である。


 

かすたねっとclub・サマーフェス /2013.8.24



 隣区にある学童保育所夏祭りイベントに出演。依頼はネット経由でやってきたが、電話を受けたときは正直、気乗りがしなかった。
 理由は明快で、聴き手の中心層が小学生とその父母。「子供むけと大人むけの曲を半々くらいに」との要望だったが、小学生といえば私の孫の世代、その父兄といえど子供の世代であり、中高年を主たるターゲットにしている私にとって、かなり無理な要望のように思われた。

 しかし、先方はぜひにという。打合せに出向いて知ったが、当初予定していた若手のアカペラグループが、突然のキャンセルで困っていたらしい。なるほどと納得。

 とはいえ、演るとなればどんな構成でいくべきか、事前調整は必須である。最初の打合せでは電子譜面に10数曲の候補曲をリストアップし、1曲ずつさわりの部分を歌って選曲を進めた。
 しかし、決まらない。過去にも似た対象のライブは何度か経験していて、いずれも苦戦している。聴き手と歌い手とに世代の隔たりがあるライブは、極力避けたほうが無難なのである。
 先方の希望は転換を含めて30分、7曲ほどだったが、最初の打合せでは「カントリーロード」「グリーングリーン」の2曲しか決まらなかった。

 他のライブに追われながらも、選曲にずっと頭を悩ませていたが、前半3曲を子供むけとし、後半の4曲を30〜40代の大人むけの構成に完全切換えすることに腹を決めた。
 大人むけの曲は80年代以降の曲が中心。これでも私にとっては、充分に新しい。先方のリクエストなどもあり、大半が初披露かそれに近い曲で臨むことが、ライブ直前になってようやく決まった。

 当日は雨模様の不安定な天気。駐車スペースに屋台などが出るため、車は最寄りの有料駐車場に停め、そこから歩いて向かったが、途中からポツポツと大粒の雨が。用心して傘を持参して正解だった。
 会場は1階の体育室で、壁際に一段高くステージが設営されている。私の出番は、子供よさこいダンス終了後の14時20分から。先方が準備してくれた4チャンネルの立派なPAのテストもスムーズに終わり、早めの14時18分から開始。およそ27分で以下の7曲を歌った。(※は初披露、◎はリクエスト)


「カントリー・ロード◎」
「エーデルワイス」
「グリーングリーン※◎」
「やさしさに包まれたなら※」
「夏の終りのハーモニー」
「ハナミズキ」
「少年時代※◎」


 歌い始めると雨はますます激しくなり、外にいて濡れてしまった人たちが次々と姿を消してしまう。会場には30席ほどの椅子が用意されていたが、聴き手は半分の10数人といったところだった。
 この種の場の通例で、モニタースピーカーはない。しかし最近は客席側に向いているメインスピーカーからのわずかな音の返りと、自分の耳に直接届くボーカルとギターの音から、直感的にバランスをとって歌う技を会得しつつある。何事も経験である。

 4曲目の「やさしさに包まれたなら」は子供から大人むけに切り換わるターニング曲。曲としては古いが、「魔女の宅急便」で使われたので、若い層にも比較的知られている。ここから子供(親子連れ)の数がさらに減り、終わりころには大人ばかり数人にまで減った。
 しかし、残ったのは熱心に耳を傾けてくれる人ばかりで、1曲ごとに熱い拍手をいただく。小さな共有空間がぽっかりと一隅にできた感じで、チカチカパフォーマンスでもそうだが、真剣に聴いてくれる方がたとえ一人でもいれば、ライブは立派に成立する。

 この日が初披露の「少年時代」は、打合せ段階でリクエストをいただいたが自信がなく、いったんは辞退した。しかし、適当な曲がないという切羽詰まった状況から歌わざるを得なくなり、必死で練習を重ねて何とかモノにした。

 苦手だった理由は全体的な曲の難しさで、歌詞の世界が深く、転調やフェルマータの連発で、コード展開も非常に難解。ずっとストローク奏法で練習していたが、ライブ2日前になって突然、(やはりこの曲はアルペジオで歌うべき)と考え直し、特訓を重ねて本番は3種類のアルペジオ奏法を混ぜて、しっとりと歌い上げた。
 ほぼ満足ゆく出来だったと自己評価。苦手はこの日で克服した感じだ。これまた何事も逃げずにやってみることだ。