ディPOP・夏まつり /2012.8.25
昨年1月の新年会で歌わせていただいた、都心にある総合福祉施設に再び招かれた。「菊地さんの歌をもう一度聴きたい」とのお話しである。同じ施設から3度以上招かれるのは稀だが、2度までならよくある。ありがたくお受けした。
しつこい残暑のなか、16時ちょうどに先方に着いたが、会場では入居者やその家族、元職員などによるカラオケ大会の真っ最中で、大変な盛り上がりよう。4人の審査員による採点方式で、出場者も応援も力が入る。私のライブは16時20分に開始予定だったが、審査員全員の総評、上位3名の表彰式や賞品贈呈式などがあり、進行がかなり遅れた。
控室でそんな気配を察知し、マイクスタンドやPAなど、事前に組立て可能なものはセットして備える。終了後ただちにステージに運んだ。
2分くらいでスタンバイ。時計を見ると、16時27分あたり。かなり押していたが、進行の方に確認すると、多少遅れても予定曲は全部歌って欲しいという。挨拶もそこそこにライブを始める。
盛り上がった場の直後で、外は30度を超える暑さ。14時から始まった夏まつりイベントの最後の出し物で、すでに開始から2時間半を経過している。ライブとしては非常に難しい条件だった。
ともかくも予定曲を順に歌っていった。事前の打合せでリクエスト7曲を含めた全16曲を歌うことになっている。時間に余裕があれば中間にMCをかねた軽い休憩を挟む予定でいたが、もはやそんな余裕はない。
慌ただしい気分のなか、50分で以下の16曲を一気に歌った。
(※印は初披露、◎印はリクエスト)
「ブルーライト・ヨコハマ」
「瀬戸の花嫁」
「草原の輝き」
「丘を越えて」
「月がとっても青いから」
「恋する夏の日」
「青い山脈」
「まつり」(北島三郎)※◎
「川の流れのように」◎
「大空と大地の中で」◎
「星のフラメンコ」※◎
「秋桜〜コスモス」※◎
「恋のバカンス」
「酒よ」※◎
「神田川」◎
「また逢う日まで」
カラオケ大会では職員を含めて60名前後の人が場にいたが、私のライブになるとかなりの方々が帰るか自室に戻ってしまったらしく、40名前後に減っていた。場全体が疲弊した印象で、曲に対する反応もいまひとつだった。
とはいいつつ、喉の調子はピークに近かったので、暑さもなんのその、余計なMCも挟まずトントンと歌い進んだ。
「草原の輝き」あたりで、場の反応が少しずつよくなり、特に求めてはいないのに、自然発生的手拍子が起きる。アグネス・チャンの曲はこれしか歌えないが、いつどこで歌っても受ける。非常に強い曲である。
20代から90代までという幅の広い層が居住する複合介護施設なので、リクエストも多岐にわたり、それに伴う構成も難しい。前半9曲までを小さな区切りとし、自分の得意とする懐メロ系を多めにして高齢者向きとしたが、この方向は間違ってなかった。
ただ、聴き手の体力が残っていたのは9曲目の「川の流れのように」までで、ここから場の反応はじょじょに弱くなり、席を立つ方も増えた。「30分を超えると高齢者にとって危険な時間帯」という、これまでの経験から得た教訓はここでも活きていた。
開始35分から終わりまでの時間は、まるで反応の弱いストリートライブをやっているかのようだった。残り4曲になって再度進行の方に確認すると、予定通りにやって欲しいという。私の喉はまだまだ余裕があったが、聴き手は限界を超えているようにも思えた。しかし、要望通りに最後まで歌った。
「神田川」を歌い始めると、ステージの後ろにあるトイレに向かっていた入居者の方が、ドア付近でバッタリ倒れる音がした。職員数人が血相を変えて走る。一瞬歌を中断しようかと迷ったが、怪我はなかった様子。そのまま進めたが、動揺して2番の歌詞を一部飛ばしてしまった。
ラストの「また逢う日まで」ではシングアウトらしく盛り上がったが、全体としてやはりライブが長すぎたのだと思う。
終了後、責任者のNさんが、「いろいろ無理をいって、すみませんでした」と労ってくれた。ライブとしての評価は難しいが、やるだけのことはやった。
個々の歌では、「月がとっても青いから」「まつり」「川の流れのように」の反応がよかった。いずれも前半で、聴き手に余裕があった時間帯である。
「まつり」は初披露だったが、この曲は使える。リクエストだったが、思わぬ拾い物をした。「川の流れのように」は過去にあまり歌ってなかったが、たぶんこの日が最高の出来。歌い終えてライブ録音を録ってなかったことを後悔したほど。この歌の自分なりの歌唱法を、ほぼつかんだと思う。
これ以上ないほど過酷な条件のそろったライブだったが、それなりに収穫はあった。