訪問ライブ顛末記


篠路チョボラ会・収穫祭 /2011.8.28



 自宅近くの農園倉庫で実施された「篠路チョボラ農園収穫祭」の余興に出演。6月末に近隣の地域センターで実施した震災復興支援ロビーコンサートの折、声をかけてくれたOさんからの依頼である。
 Oさんは町内会長のほか、地域の高齢者や施設の子供を対象に「チョボラ」(ちょっとだけボランティア)という名の支援活動を精力的に続けている。

 外は快晴でしかも30度近い暑さ。収穫祭には絶好の天気で、この日は町内会の草刈ボランティア作業の日でもあった。しかし、時間が完全に重なっていて、掛け持ちは無理。代りのいない余興出演を優先とした。
 収穫祭には畑作業に関わった地元の中高年のほか、同じく地元にある児童養護施設の小学生24名も参加している。イベントは午前10時開始で、役員や来賓の挨拶がまずあり、その後トウキビやジャガイモを収穫し、その場で調理して食べつつ、私が歌うという段取りだった。

 あいにく電源が使えず、広くて天井の高い倉庫に、電池駆動のPAを持ち込む。閉鎖空間でならまずまずの力を発揮するが、この種の容積の大きい空間では非力を感じた。だが、そんな泣き言は言ってられない。
 11時からライブ開始。「中高年と子供の両方が楽しめる内容で」という、難しい注文に頭を悩ませつつ、リクエストを交えて以下の8曲を歌った。


「カントリー・ロード」
「憧れのハワイ航路」
「ピクニック」
「大空と大地の中で」
「マル・マル・モリ・モリ」
「高校三年生」
「となりのトトロ」
「上を向いて歩こう」


 結論を先に書いてしまうと、悩んだ割にはまるで手応えのないライブだった。わずかに盛上がりを感じたのは、中程の「マル・マル・モリ・モリ」とラストの「上を向いて歩こう」くらい。
 理由はいろいろ考えられるが、聴き手の大半が子供たちで、しかも小学校低学年。中高年の聴き手は来賓として招かれた方々4〜5名だけで、他の大人は少し離れた場所で調理に忙しく、歌どころではない、といった状況。
 大人の補助なしで低学年の子供を30分も引きつける力量は私にはない。時間がお昼近くで、作業と暑さに疲れた子供たちは、歌よりも食べるのに夢中、といった印象である。
 高齢者対象のライブでも、「空腹時にはやらない」「食事をしながらやらない」という私なりの鉄則がある。人間、年に関わらず、まずは食欲なのである。

 救いは「マル・マル・モリ・モリ」で6〜7人の子供たちがトウキビを置いてその場で踊ってくれたこと。それだけこの曲がいま、子供たちの間で強い、ということだ。
 もうひとつは、調理を続けていた数人の大人がラスト曲になってようやく宴に加わり、手拍子で場を盛り上げてくれたこと。「上を向いて歩こう」の曲の強さにも助けられたが、おかげで最後だけはにぎやかに終えることができた。こうした周囲の大人たちの支えが最初からあったなら、宴はまた別の形になっていたであろう。
 ともかくも、私を買ってくれたOさんへの義理は果たした。「お祭り系イベントに弱い」「子供相手には弱い」という私の弱点をさらけ出してしまったが、もはや克服は困難のようにも思われる。

 かなり落ち込んで帰ってきたところへ、前日参加した「チカチカ☆パフォーマンススポット第1期公開オーディション」の合格通知がメールで届いていた。
 全員合格かと思いきや、合格率は70%前後。公的な場、しかも札幌都心に完成したばかりの晴れやかな場なので、そんなに甘くはなかったということだ。

「引率」してくれた妻からは、終了後に「難しいかも…」と言われていただけに、パッと気持ちが明るくなった。このところライブの浮き沈みが激しく、まるで人生のようではないか。浮いたり沈んだり、いろいろである。


 

のどか祭り /2011.9.10



 9月最初のライブとなる近隣のグループホームでのイベントに出演した。6年前の冬から本格再開した弾き語り活動の当初から、ずっとお付き合いのある施設で、依頼は2ヶ月ほど前にあった。
 時期が9月ということで、てっきり敬老会だとばかり思い、ずっとそのつもりで準備してきた。ところが念のため前日に電話で確認すると、お祭り形式で屋台を出し、近隣の住民を招いてオープン形式でやるという。雨天の場合は屋内だが、原則は屋外会場ということで、つまりは苦手なお祭り系イベントライブなのだった。

 思惑が外れ、急きょ決めてあった構成の修正を図る。室内の場合は叙情系とニギヤカ系をおおむね半々で構成するが、屋外イベントとなると、叙情系は難しい。予定していた「この道」をやめ、「丘を越えて」と差し替える。
 子供が来る可能性があるというので、迷っていた「となりのトトロ」をフルコーラス歌うことにし、予備として「マル・マル・モリ・モリ」を準備した。

 明け方まで雨が降っていたが、起きると次第に晴れ間が広がってきた。晴れと雨の両方の体勢でいたが、やはり私は晴れ男であるらしい。屋外の晴れメニューでやろうと腹をくくった。
 午後1時少し前に会場に到着。陽射しは暑いほどだが、風がかなり強い。施設西側にある庭を会場に、1時15分からライブ開始。以下の10曲を30分で歌った。


「高原列車は行く」
「となりのトトロ」
「マル・マル・モリ・モリ」
「瀬戸の花嫁」
「世界の国からこんにちは」
「夕焼け小焼け」
「赤とんぼ」
「高校三年生」
「丘を越えて」
「上を向いて歩こう」


 先月末にやった子供相手のお祭り系イベントライブで大きな失敗をしているので、始めるまでは正直気乗りがしなかった。お祭り系ライブに対する自信喪失もあった。
 今回もライブ開始と同時に焼きそばやトウモロコシ、飲み物などが配られたのは、他のイベント系ライブと全く同じである。(良し悪しは別にして、お祭りで実施されるイベントの進め方は、どこも大差ない)

 会場には3人の子供(小学校低学年)がいて、子供向きの歌が受け入れられる要素はあった。それを見越し、子供向きメニューを早めに用意したが、最初の「となりのトトロ」が、予想外に大人も子供も反応がよい。
(これはもしかして…)ちょっと元気になって、隠し玉の「マルモリ」をここで使ってみる気になった。しかし、いきなりはさすがに怖い。そこで率直に「次の曲はみなさんがご存知でしたら歌います」そう前置きし、タイトルを告げると、子供はすぐに反応したのは当然としても、中高年の集団から予想外の歓声が上がった。
 理由ははっきりしないが、あとで妻が言うには、テレビドラマの主題歌(「マルモのおきて」)なので、ドラマそのものを見ていたのでは?とのこと。私も妻も全く見ていないが、確かにそれはありそうだ。

 結果的に最も受けたのはこの曲である。要するにいまが旬のようで、今年はこの曲で引っ張るべきかもしれない。
 意外に反応が薄かったのは叙情系の童謡2曲。室内だと圧倒的に受けるが、声が風に飛ばされる屋外では、この種の曲は難しい。ラスト前に同じ叙情系の「北の旅人」を準備していたが、無理と判断して歌わなかった。

 そのほかで反応が良かったのは、「世界の国からこんにちは」「高校三年生」「上を向いて歩こう」など。こうした場では、やはりテンポのよい手拍子系の曲が好まれる。
「高校三年生」は珍しく3番まで歌った。「上を向いて歩こう」は子供たちも手拍子をくれた。さすがに強い。「震災ソング」と位置づけられている今年は、極力歌うべきだろう。

 終了後、いろいろな人が声をかけてくれたが、特筆すべきは、2〜3年生と思われる女の子。機材を片づけていると、そばにきて利発そうな目で何か言いたげに私を見つめている。ライブ中にも目を輝かせてじっと聴いてくれていた子で、終始反応がよかった。
 余程音楽が好きなんだなと思っていたので、頬笑みを返すと、「とても上手ね」と声をかけてくれた。「ありがとう、また聴いてね」と返すと、うれしそうな顔をしている。完全に孫の年頃だが、子供からこの種の声をかけてもらうのは初めてのこと。非常にうれしい。
 大人から指図されたわけでなく、自分から進んで声をかけてくる。幼くしてすでに人生の扉の開け方を心得ているのだ。心豊かな女性に成長することだろう。

 帰り際、いつものように手作りの野菜やクッキーなど、たくさんのお土産をいただく。ずいぶん先の話だが、クリスマスライブの予約を早くもいただいた。ともあれ、苦手のお祭り系ライブの進め方に、少しの光明を見つけた日であった。


 

ホームあじさい・敬老会 /2011.9.16



 市内グループホームでの敬老会余興に出演。昨年12月にネット経由で引き合いがあり、クリスマス会余興に呼んでいただいた。今回が2度目なので、聴き手の好みは充分把握している。
 平日だが、先方のたっての希望である。平日サービスが基本のディサービスを併用した施設が増えてきて、平日の要望がじわじわ増えつつある。活動日は土日祝が原則だが、仕事が立てこんでいず、自宅から30分前後で移動可能な近隣であれば、お受けするケースもある。

 しかも今回は午前中の依頼。元来朝が苦手で、特に午前中は声がよく出ない。原則として午前の活動はやっていないが、こちらも先方の強い要望なので、結局はお受けした。

 早めに起きて入念に喉の調整をする。彼岸も間近というのに、妙に暑い。屋外寒暖計を見ると、午前10時ですでに27度もある。(その後29度まで上がった)体調を崩してはいけないので、珍しく車のエアコンをつけて施設に向かう。
 11時少し前に到着し、素早く機材を設置。予定より5分早く11時10分からライブは始まった。この日歌ったのは、以下の11曲。前回の経験から、3対1の割でニギヤカ手拍子系の歌をそろえた。


「高原列車は行く」
「世界の国からこんにちは」
「マル・マル・モリ・モリ」
「瀬戸の花嫁」
「炭坑節」
「きよしのズンドコ節」
「夕焼け小焼け」
「赤とんぼ」
「お富さん」
「丘を越えて」
「上を向いて歩こう」


 聴き手は職員を含めて20名強。前回同様、1曲目から調子よく手拍子や掛け声をいただく。職員さんの盛り立ても上手で、実にやりやすい場だった。
 3曲目に歌った「マル・マル・モリ・モリ」は、歌う前に「トトロとマルモリのどちらかを歌いたいのですが…」と会場に尋ねたら、迷わず「マルモリ!」と返ってきた。トトロには無反応だったので、ここでもマルモリは強かったということ。

 途中にはさんだ「瀬戸の花嫁」「赤とんぼ」は、あらかじめ「みなさん、少し手拍子をお休みください」と告げてから歌った。他とは全く質の違う歌だが、別の意味で反応はよかった。全体の中でよいメリハリになった感じだ。

 この日、最も強い反応があったのは、「隠し玉」と位置づけていた「炭坑節」である。あまりに反応がよいので、予定になかった4番まで歌ったほど。過去に1度しか歌ったことがないが、ニギヤカ系を求める場では間違いなく受ける。今後、「ソーラン節」「真室川音頭」に続く民謡の定番曲としたい。

 反省は「上を向いて歩こう」で譜面を見ずに歌っていたら、「悲しみは雲の上に…」の部分で、2度とも「空の上」と歌ってしまった。過去にも確か同じミスを犯したことがあり、私のウィークポイントだ。
 特に介護施設では譜面をあまり見ずに、極力会場を見渡しながら歌うよう努めているが、歌詞のミスはいけない。歌い慣れた曲、という油断があったかもしれない

 小さなミスはあったが、最後まで聴き手との一体感を強く感じた場であったことは間違いない。
「オトウサン(私のこと)いい声だね!」「いい歌をありがとう!」そんな掛け声が終始絶えなかった。「オカアサン(入居者の方)もありがとうね!」そんな掛け声をアドリブで私からも返した。恵まれた場であった。

 終了後、じっと耳を傾けていた同年代の女性が近寄ってきて、実は地域の福祉ボランティアをしているが、年末の地域高齢者の餅つきイベントで、今日のような歌を歌っていただけないだろうか、と打診された。名刺を交換したが、来賓として施設に招かれた方らしい。
 昨年あたりから、こうした施設に属さない地域の高齢者の集まりへの出演依頼が増えていて、そのうちのいくつかはすでに実現している。芸能ボランティアのニーズは急増し、そして多様化しているのは確実だが、活動日と時間、場のニーズへの柔軟な対応、身軽な活動体勢と場への気配りなど、ボランティア側の質と量、そして体勢がそれに追いついていない印象がする。

 ただ自分を磨くだけでなく、芸能ボランティア活動そのものを啓発し、後進を育てることにも今後目を向けるべきかもしれない。やるべきことは山積みである。


 

北区社会福祉協議会 敬老演芸の集い /2011.9.17



 近隣の太平百合が原地区センターでの社会福祉協議会主催、敬老演芸の集いに参加した。昨年も同じ場所の同じイベントに招かれている。
 30度近い暑さだった昨日から一転して、最高気温が20度という肌寒い天気。午前中まで小雨がずっと降っていて、我が「ライブ晴れ男」のツキも、もはやこれまでと覚悟を決めていたら、出かける直前になってピタリ雨がやんだ。
 開始ギリギリに会場に着いたが、来賓挨拶などがあり、1時10分くらいから演芸は始まった。140席用意された椅子は当初70%ほどの入りだったが、開始と共にじわじわ増えて満席となり、すぐに20席ほどが追加された。

 今年のメイン出演者は津軽三味線の竹内獅士丸さん。スケジュールの都合とかで、トップバッターとして登場した。達者な芸と巧みなトークで、50分があっという間に過ぎる。
 メリハリの効いた曲の構成、クイズ形式を取り混ぜたMCなど、プロとしての場のさばきが非常に参考になった。

 その後、地元中学校合唱部から始まり、舞踊、カラオケ、フラダンス、マジック、剣舞など、多種多彩な芸が休みなく続く。
 地区センターで練習を重ねている地元のグループから、幅広く活動をしているプロに近い方など、その芸のレベルもさまざま。しかし、時にキラリ光る芸に出会ったりする。いたるところに芸あり、である。

 午後3時50分から私の出番となる。全11組のラストで、最後に会場の聴き手と一緒に懐メロを歌い、そのリード役を務めるという、重要な役どころだった。
 この時点で時間が10分強押していた。本来は4時が終了時間で、事前の連絡ではシングアウト2曲のほか、他に2曲歌う手はずになっていた。しかし時間が気がかりだ。直前に責任者の方に確認すると、時間は気にしないで予定通り4曲歌って構わない、という。

 前の出演が終わると素早く機材をセットし、幕を開けてすぐに始めようとしたが、どうもマイクの音が小さい。リハなしのぶっつけだが、モニターがないので気のせいかと続けていたら、担当者が舞台袖からすっとんできて、マイクのスイッチを入れてくれた。気づかなかった…。
(この日はPAの関係でギターもマイク取りで、使ったのはモーリス)
 気を取りなおしてライブ開始。時間を詰めるため、MCはほとんどなしでトントン進める。まずは「上を向いて歩こう」、続けて「瀬戸の花嫁」を無難に歌う。多くの人が口ずさんでくれて、反応は上々だ。
 最後にプログラムに歌詞が載っている「青い山脈」「世界の国からこんにちは」をシングアウトとして歌う。2曲とも昨年と同じ曲だが、今年は時間がないので会場との練習は省き、歌が始まる箇所の掛け声だけで一気に進めた。

 終了は4時5分。20分の予定を10数分でうまくおさめ、ほぼ予定通りに終わることができた。大きなミスもなく、主催者にも喜んでいただけた。あわただしいスケジュールのなかでは、まずまずの結果である。
(妻も知人も不参加で係の方も多忙のため、私の写真はありません)


 

ベストライフ清田・9月誕生会 /2011.9.18



 連続3日目のライブとなる市内有料老人ホームでのお誕生会余興出演を無事に終えた。開始は午後からだったが、午前中に予定曲をざっとおさらいしたら、さすがに声に伸びを欠く。歌い込むうちに徐々に回復したが、喉に疲れが溜まっているのは間違いなかった。
 あまり無理せず、適当なところで切り上げる。外は小雨のパラつくはっきりしない天気。自宅からの機材の積み込みは雨に一切濡れずにやれるが、先方の駐車場から屋内への搬入が問題だった。肌寒いので長袖シャツに着替え、祈る気持ちで出発。およそ50分で着いたが、どうにか濡れずにやれた。

 開始直前になって施設長さんから突然、「菊地さん、『ハッピーバースデー』の伴奏をギターでやっていただけませんか?」と頼まれた。
 ときどきこうした依頼があるので、ある程度準備はしているが、胸騒ぎがしたのかつい先日、コードとキーのおさらいをしたばかり。(3カポのC)「いいですよ」と快諾し、PAなしでギターを準備。同時に歌詞と繰り返し回数の確認をする。
 普段はCDでやっているそうで、「やっぱり生演奏は全然違う」と、喜ばれた。

 午後2時15分から私の出番。機材をセットしたがPAの音が全く出ない。昨日の悪夢が一瞬頭をよぎったが、ミキサーの電源が入らないせいだとすぐに気づく。電池の蓋を開けてみたら、位置がずれて接触不良になっていた。エネループ電池にしてから収まりが微妙に悪い。入れなおしたらすぐに回復、事無きを得た。

 この施設に招かれるのは実に6回目。施設長さんの信頼が厚く、年に一度は呼んでいただく。
 叙情系の歌が好まれる場で、手拍子や歓声はほとんどないが、いつも静ひつで熱い反応のある場だ。この日は2日前のグループホームとはがらり構成を変え、叙情系の曲を中心に臨んだ。アンコールを含め、歌ったのは以下の11曲。


「高原列車は行く」
「女ひとり」
「浜辺の歌」
「ナポリは恋人」
「見上げてごらん夜の星を」
「おかあさん」
「瀬戸の花嫁」
「この道」
「ブンガワン・ソロ」
「いい日旅立ち」
〜アンコール
「宗谷岬」


 前日までのライブとの重複曲は「高原列車は行く」「瀬戸の花嫁」の2曲だけで、「ナポリは恋人」「見上げてごらん夜の星を」が初披露、「ブンガワン・ソロ」が2度目という、大冒険を結果として試みた。

 いつものように強い手応えを感じつつライブは進んだ。初披露の曲も大きな問題なく、ある程度使えるめどがついた。
「浜辺の歌」では、1番を終えたところで、会場からさざ波のような拍手が巻き起こり、あまりない経験なので、背筋が思わずぞくぞくした。静かな曲では曲間にMCは入れにくいが、思わず「ありがとうございます」と、頭を下げた。過去にはない歌い方ができた感じがする。

 この日は全体的に気持ちが強く入っていたように思う。「おかあさん」でも、2番になってから自然に手拍子がわき起こり、それが最後まで途切れなかった。
 いずれも職員さんのリードではなく、自然発生したもの。最初に拍手や手拍子があり、曲の進行と共に次第に消えてゆくことがよくあるが、それは歌っていてさみしい。だから聴き手に拍手は強いないようにしているが、自然発生ならば非常にうれしい。

 施設長さんの了解をとり、「いい日旅立ち」をラストに歌って30分ちょうどで終わりとしたが、ちょっと場の空気がおかしい感じだった。私があまりに気持ちを入れすぎたせいで、会場がシンとお葬式のように静まり返ってしまったのだ。
 すると突然、施設長さんが「アンコ〜ル!」と両手で拍手し始めた。普段はあまりないことなので、ううむ、やはりそうかと、すぐに納得。このあたりは長いつきあいの中での、あうんの呼吸だった。これまた事前に了解をもらって「宗谷岬」を歌う。意識して軽い感じのストローク奏法でフルコーラスを歌った。イメージとしては場の熱冷ましである。

 終了後、事務室で施設長さんに「アンコールって、珍しいですよね?」と水を向けると、「いや、ちょっと場がしんみりしてたもんでつい…」無理お願いしちゃって、とすまなそうに言う。
 叙情系にこだわる余り、ライブの終わり方に対する配慮が少し足りなかったかもしれない。非は私にあったが、施設長さんの一瞬の判断でうまく収まってくれた。さすがである。
 数年前にも別の施設で一度だけ似たような状況になり、やはりアンコールで凌いだことがある。ライブの終わり方、収め方は本当に難しいと再認識。今日もまた学んだ。


 

上砂川グループホーム敬老会 /2011.9.19



 連続4日目となる上砂川町グループホームでの敬老会ライブが無事に終了。札幌から車で2時間ほどかかる遠方で、今回が初訪問だった。
 依頼されたいきさつが非常に特殊で、7月末に参加した被災地支援ライブ「ALIVEミュージックフェスティバル」を客席で見ていた方が、たまたまグループホームの責任者。私が施設慰問活動をやっていることをMCで知り、ネットで連絡先を調べたすえ、「ぜひとも私の施設に」と突然のメールをいただいたことが発端である。

 これほど遠く離れた場所を訪問したことはかってなかったが、私を強く買ってくれたことは間違いなく、歌い手冥利につきる話だった。その時点で空いていたのが、たまたま9月19日の敬老の日。なんとも不思議な縁ではないか。

 さすがに疲れが溜まっていて目覚めが悪く、練習での声の張りもいまひとつ。休暇で家にいた妻に、「起き抜けだからよ。着く頃にはいつもの声に戻ってるわ」と励まされ、機材一式を積んで家を出た。
 札幌から上砂川へは普通は国道12号か高速を使う。しかし、高速無料化もなくなり、どうしたものかと地図を広げてみたら、以前に何度か通った国道275号を思い出した。いわゆる裏道で狭いが、空いている。ここを通って向かった。

 予想通り、道はガラガラ。信号もほとんどなく、75Kmの道のりを1時間40分で先方に着いた。あまりに早すぎて、途中のコンビニでゆっくり昼食をとる余裕。
 予定では午後1時開始だったが、早めにセットが終わって12時55分から開始。「元気のよい歌を好みます」との事前情報を得ていたため、3日前のグループホームでのセットを参考にし、以下の13曲をまず歌った。


「高原列車は行く」
「北国の春」
「夕焼け小焼け」
「紅葉」
「赤とんぼ」
「炭坑節」
「きよしのズンドコ節」
「あなたにメロディ」(オリジナル)
「男はつらいよ」
「瀬戸の花嫁」
「お富さん」
「二人は若い」
「上を向いて歩こう」


「定番曲はある程度歌ってください」とメールにあり、この時期には普通歌わない「北国の春」を、「童謡もぜひに」との要望から、秋の童謡3曲をメドレーで、さらには「オリジナルも1曲」とのことで、「あなたにメロディ」をそれぞれ歌った。

「北国の春」を歌い終えると、ヘルパーさんの一人が千昌夫の物真似で舞台袖から登場し、場を沸かせる。以降、随所でこの突発的なアドリブ歌謡寸劇が飛び出し、ヤンヤの喝采を浴びた。
 場が否応なしに盛り上がるので、歌い手としては大変やりやすい。昨日のライブとは正反対の雰囲気だったが、場によってはこのようなライブがあってもよいと思った。

「男はつらいよ」は初披露だが、実は昨日一日しか練習していない。一昨日の地域センター敬老会で、三味線でこれを演じた方がいた。その際、会場から自然に歌声が上がった。(これはもしかして受けるかも…)と閃き、急きょ覚えた次第。
 直感は当たり、ヘルパーさんが鞄と帽子の小道具を持ち出し、「お兄ちゃん、また行ってしまうの?」「おう桜、あばよ、達者でな」などと、寅次郎と桜役をセリフ付で完璧に演じてくれた。
 セリフの長い部分は私がギター伴奏で適当に引っ張る。いわば即興の歌謡寸劇といった感じで、こんなことが打合せなしに一発でやれるのだからすごい。自宅ライブで時折「歌謡劇」と称して似たようなことを試みるが、まさか介護施設でそれができるとは。

 大笑いの連続ばかりでなく、「瀬戸の花嫁」では静かに聴いていた入居者の一人が、歌詞の途中で感極まっている。ヘルパーさんが歌に合わせて肩を叩くと、こらえきれずに泣き出してしまった。ヘルパーさんがハグでそれをなだめている。
 それを見ていた別の方にも涙が伝染してしまい、そちらにもヘルパーさんがハグに走る。一方では花嫁と弟役のアドリブ寸劇も進行していて、笑いと涙が同居する実に不思議な光景だった。

 普段より少し長い35分で終了としたが、熱くなった場が簡単に収まらない。ホーム長さんの要望で、アンコールとして「高校三年生」をフルコーラス歌う。ちょっと懐かしめの旋律で、思惑ではこれで熱が冷め、場はお開きとなるはずだった。
 ところが寸劇担当の元気のいいヘルパーさんが、もうひと芝居(?)したいような口ぶりである。え〜、まだですかぁ?と、一瞬たじろいだが、それではとっておきの曲、「ソーラン節」を歌いましょうかとすぐに準備。このあたりは臨機応変だ。

 予期せぬダブルアンコールで、45分15曲という私にとっては長くて濃いライブとなったが、施設の方々には大変喜んでいただけた。
 終了後には入居者の女性から、恥ずかしそうに握手を求められた。母親のような年代の方だが、素直にうれしい。長く記憶に残りそうな会心のライブである。