シナランバー家具/仕事部屋編 ... 1997.3




 独身時代から自分の身の置き場所、隠れ家のようなものに常にこだわってきた。初めて自分の部屋を与えられたのは中2のときだったが、それまで手をこまねいていたわけではなく、さまざまな工夫をこらして家のどこかに自分の居場所、あるいは城を勝手に作り出しては、ひとり喜んでいた。
 たとえば屋根裏の空間を利用したり、部屋の片隅にカーテンを吊って仕切ったりのたぐいだが、結婚してから妻にその話をすると、妻にも全く同じ経験があったらしく、大笑いしたものだった。
 その後、幾度かの引っ越しや就職、結婚などを経てもこの習癖が変ることはなかった。そして数えて11回目の引っ越しで、私はついに究極の隠れ家を手に入れた。


 入り口のドアの前に椅子を置き、その上から広角レンズで撮った写真がこれである。右手前の接客補助机の一部と左下にあるコピー台が写ってないが、ほぼ私の部屋のすべてである。ここを私は「Tomtom工房」などと名付け、ひとり悦にいっているのだ。
 はっきりいうと、「自宅で仕事をするから」という口実で狭いマンションの一室を占拠しているに過ぎなく、家族にとってはただ迷惑なだけかもしれないが、「オヤジが家にいるから」いいこともたくさんあるはずなので、因果な父や夫を持ったものだと、家族にはあきらめてもらうしかない。



 中央にドンと座っているのがメインの仕事机。天板は600ミリ×1820ミリのシナランバー合板(19ミリ厚)、ウレタン樹脂塗料を薄く3度塗りして仕上げている。
 写真ではほとんど写ってないが、左側はおなじく手作りの袖机(引出し3段)になっていて、天板は右側の棚と左の袖机の上にただ載せているだけである。(このほうがあとでいろいろと改造や掃除などがやりやすい)
 机の右下に見える木箱にはエアブラシに使うコンプレッサとエアタンクが入っている。この箱はむかし現場監督をやっていたときに職人さんからもらった松の矢板(土止めに使う板)にニスを塗って仕上げている。

 左端に見えているのが製図机。ドラフターという製図器械がのっている。これもシナランバー合板で出来ていて、大きさは650ミリ×1420ミリ。これだけの大きさの製図板は市販品にはもない。(特注ならあるかも?)これだけあれば、まずどんな仕事の依頼がきても大丈夫である。
 右側の壁一面に見えているのが1820ミリ×1820ミリの本棚。材料はやはり19ミリ厚のシナランバー合板で、奥行きは300ミリ。接合はステンレスのL字金具とT字金具で木ねじ止めしている。
 棚板は全部で8枚使っているが、L字金具での固定は机の天板を置いている板とその上のステレオセットを置いている板、そして手前のパソコンを置いている板の3枚だけで、ほかは15ミリ×250ミリ、9ミリ厚の木製桟を棚板両側に釘止めし、その上に棚板をただ載せるだけにしている。
 これはいろいろな本のサイズや電気製品などの買い換えにともなう棚の改造を容易にするためで、桟の組み替えだけでほとんど対応出来る。ただし、前記3枚のように、重い加重のかかるものだけはL字金具で固定したほうが無難。
 ちょっと特殊なのがパソコンを載せている板。奥行きが本棚の300ミリだけでは足りないので、苦労して棚板をL字形に切って固定した。パソコンの部分だけ奥行き600ミリになっており、さらに30ミリ×40ミリの角材で床までつっぱりを入れて補強している。
 なお、時間や経費などの関係でパソコン部分以外は基本的に無塗装である。



 この部屋を設計、制作するに当たってイメージしたのは「知識の宇宙船」である。必要最小限でありながら、ただそこにいるだけで気持ちが落ち着き、何かいいアイディアが生まれてくる、そんな創造的空間だ。

 メイン机を中心に左の製図机、右のパソコンと補助接客机、そのすべてが中央の四角い空間(つまりコックピット)に座れば手の届く位置である。この4つの机は全部同じ高さに合わせてある。
 電話、FAX、テレビ、ステレオ、コピー、パソコンセットなどの補助的な電脳機器も周辺のコーナー部分に配置し、同じく立ち上がらずに手が届くようになっている。
 これら一連の流れをよりスムーズにするために、椅子は製図用のキャスターつきエアスプリング式のものを使用。(武藤工業社製)レバーと座席の回転、移動で好きな場所に一発で移動が可能である。私にしてはかなり高い買い物だったが、この椅子ばかりは手作りというわけにはいかない。
 この椅子は特にふかふかというわけでもなく、むしろ固めの座り心地だが、極めて機能的に作られているため、長時間座っていても疲れない。居心地のよい隠れ家にするには、良い椅子は大事な条件のひとつだと思う。

 こうやって機能面ばかり重視してしまうと生活の彩りが乏しくなりがちである。だからとこじつけるわけでもないが、私の部屋のあちこちには変なものがいろいろころがっている。
 出窓の上やら本棚のすみに、おかしな人形やガラス玉や瓶が置いてあるのが見えるだろうか。仕事の合間にこうしたグッズの数々がふと目に入ると、ふっと心がなごむ。実は私は、「かくれテディベアファン」でもあったのだ。
 そうそう、補助机の上には「けん玉」が4個置いてあって、仕事の合間にときどきやっている。(自称けん玉初段)

 さて、いままで幾多の改造を経てきたこの「宇宙船Tomtom号」、今後どこに旅してゆくのかキャプテンである私にも分からない。ひとつ言えるのは、私の趣味や趣向にあわせて、今後も少しずつ変化してゆくのだろうな、ということだ。