噴水ジュース自販機  /'99.9



 長らく更新をサボっていた「Oh!Retro」根強い継続要請の声から、今回はかって街角で一世を風靡した噴水ジュース自動販売機にスポットをあてます。

 まだ缶ジュースの自動販売機が現れる前、街角に立って子供たちののどを潤してくれた「正義の味方」がいました。それが今回取り上げる「噴水ジュース」です。おそらく、40歳以下の人は誰も知らないんじゃないかな。
 正式の名前は分かりません。でも僕たちはそう呼んでいました。まるでスターウォーズに出てくるR2-D2ロボットみたいなやつで、長方形の白いボディのてっぺんに、透明の半球形のドームがついていた。本体の真ん中に小さな穴が開いていて、そこからオレンジジュースがピューッと勢いよく上に吹き出してくる。ジュースはドームのてっぺんにぶつかって、放射状に滑り落ちてくるんです。
 記憶があいまいだけど、確かこんな感じだったと思うよ。

 で、滑り落ちたジュースは周囲の溝から下に落ち、またまた吹き上がってくる。無限循環ってやつですね。

 ジュースは1杯10円で、重ねてある薄いプラスチックのコップを抜き取り、くぼんだ箱に置いて10円を入れると、ぴたり1杯分だけジュースが落ちてきた。
 いまでもコーラの自動販売機で同じようなのがあるけど、決定的に違ったのは「ジュースが噴水になって自己主張してる」ってとこなんです。要するに、見せる自動販売機だったんだよな〜。
 あまりにもその仕掛けが見事で美しいもんで、お金がなくてジュースが買えないときも、飽きもせずにただジュースが吹き上がって落ちてくる様をボーとして見ていた。たぶん、ポカンと口を開け、よだれでも流してたんじゃないかな?僕はそういう子だったの。

 あるとき、どうしてもその仕掛けが知りたくてたまらなくなった。といっても器械を勝手にバラすわけにはいかない。そこで一計を案じ、ジュースがなくなって交換にくるまで横でじっと待つことにした。いずれ中身がなくなれば、必ず交換しに誰かがやってくる。そのとき、中の様子が分かると思ったんです。
 すると、案外あっけなく交換の人がやってきた。鍵かなんかで自動販売機の横の扉を開けようとしている。いよいよ「噴水ジュース」の謎が解き明かされる。もう、わくわくした気分で待ちましたよ。

 するとね、なんと箱の中からは竹か藤の篭に包まれた、大きなガラス瓶が出てきた。その中にジュースがいっぱい詰まっていて、管のついた吸い上げポンプで循環させてたわけです。

 思っていたより単純な構造だったんでちょっと拍子抜けしたけど、好奇心旺盛な僕を驚かせたのは、中の仕掛けより、オレンジジュースのびっしり詰まった巨大なガラス瓶のほうだった。
(あれだけあれば、もう飽きるくらいジュースを飲めるぞ…)な〜んてね。よほど甘い物に飢えてたってことです。(^_^;
 そのガラス瓶は、「一斗瓶」と呼ばれるやつで、なんと18リットルも入ったらしい。ジュース100杯分というわけね。篭に包まれていたのは、輸送のときに瓶が割れないよう保護するためだった。いまではたぶん骨董品屋でしか手に入らない貴重品でしょう。

 芸術的なパフォーマンスで一世を風靡した噴水ジュース自販機だったが、構造的に雑菌が混入しやすいという弱点と缶ジュースの台頭により、あっという間に街角から姿を消した。もしかするとあれはごく限られた地域の、ごく限られた時間だけに出現した幻の自販機だったのかもしれない。
 もし「私は見たことがある」または「飲んだことがある」という方がいましたら、推定日時と場所をぜひご連絡ください。
 それではまたいつかお会いしましょう。