018 チカチカ☆パフォーマンス05th
「3つの初めて」 /2012.1.11
ブログやツイッターでは全く予告しなかったが、札幌駅地下歩行空間でのチカチカパフォーマンス夜の部に初めて参加した。
平日だが、うまい具合に仕事も一段落し、取引先の多くが休みである水曜日。正月気分も抜け、街は平穏に戻っている。週末のスケジュールは勤めの合間にパフォーマンスをやり繰りしている他のパフォーマーに譲り、時間の融通が効く自由業の私は、こんな隙間の日にこそ歌うべきではないかと考えた。
外は今年一番の寒気が襲い、強い地吹雪が吹き荒れている。瞬間的に前の車が見えなくなるほどの激しい嵐で、慎重に車を走らせた。
夜の苦手な妻は、今日は家でお留守番。さすがに車の流れは悪く、16時40分に家を出て、都心のいつもの駐車場に着いたのが、17時30分だった。
機材一式を背負い、凍結した道をトボトボ歩く。あとで知ったが、この時間に都心では今年最低の-10.8度を記録したという。まさに凍りつくような寒さで、通りには人影もまばら。とても歌いに行くような天候ではない。
17時50分に事務局に到着。本来は17時開始だが、事務局には少し遅れて始めますと事前連絡してあった。手続きを済ませ、すぐに地下街へと潜る。
この日の会場は3つあるうちで、一度も歌ったことがない北大通西広場だった。地下鉄大通駅出口近くで、ややざわついた雰囲気があるのは、前回歌った北4条広場に似ている。チカチカパフォーマンスも契約期間が残り少なくなり、今後のためにも普段とは異なる時間帯、異なる場所を知っておくべきと考えた。
この日のもうひとつの新しい試みは、歌をすべてフォーク系の曲でそろえてみることだった。先月末の及川恒平さんのXmasフォークコンサートで、熱気あふれる会場の気分を肌身で感じ、これまで地下歩行空間では手応えが弱く、ずっと封印してたフォークをもう一度試してみる気になった。
寒いということと夜の時間に歌うことから、この日はバンダナをやめ、ハンチングにマフラーというスタイルにした。この組み合わせはストリート系の衣装としては悪くない。場に応じて今後使い分けたい。
事務局から北大通西広場へはかなり遠く、持参の簡易三脚で写真を撮ったりして準備にも手間取り、開始は18個10分から。この日は冬の歌を中心に、以下の14曲を休憩なしで一気に歌った。
「冬のロボット」(及川恒平)
「時代」(中島みゆき)
「北の旅人」(南こうせつ)
「Come to my bedside」(岡林信康)
「さりげない夜」(下田逸郎)
「独り」(オリジナル・作詞/まりりん)
「空に星があるように」(荒木一郎)
「めまい」(小椋佳)
「サボテンの花」(チューリップ)
「通りゃんせ」(佐藤公彦)
「河のほとりに」(谷山浩子)
「突然さよなら」(かぐや姫)
「あてもないけど」(かぐや姫)
「別れのうた」(坂庭省悟)
通行人は多かったが、外が吹雪いていてちょうど帰宅時間。歌に関心を示す人は稀で、足早に通り過ぎるばかり。開始の3曲をそばで聴いてくれた若い女性が拍手と共に去ったあとは、ほとんど立ち止まる人のいないなか、孤独なストリートライブが延々と続いた。
フォーク系とはいえ、選曲はかなりマニアックである。やはりフォークはこの空間では無理なのかと思いつつも、喉の調子はよく、自分の歌声が通りに響き、そして風のように流れてゆく感覚は得難いものだった。
他の広場に比べて壁から通りまでの距離が近く、音の返りが非常によい。後部奥にあるマルチビジョンの案内音声は中央の北3条広場に比べてごく小さく、歌っていると全く気にならない。ライブの場としては恵まれていた。
このまま風になりきって最後まで歌いきろうと覚悟を決めたとき、一人の中年男性が立ち止まって柱に寄り添い、ずっと聴いてくれている。それがきっかけとなり、一人また一人と立ち止まってくれる人が増え始めた。
ラストの曲はそんな人たちに感謝の言葉を初めてMCとして入れた。終了は19時ちょうど。聴き手は最大6人で、洋楽や唱歌に比べると少なめだったが、尻上がりに聴き手が増えてきたのが救い。自分のなかでの満足度は高かった。
終了後、一番長く聴いてくれた男性が近寄ってきた。歩いていて「河のほとりに」の歌声がすっと心の中に入ってきた。懐かしい曲が聴けてとてもよかったとねぎらってくれ、缶ビールを差し入れしてくれた。ありがたく、そしてうれしい。
この男性、谷山浩子のファンだそうで、30年近く前のオールナイトニッポンを欠かさず聞いていて、札幌でのライブにも行ったことがあるとか。どちらも私と共通する。
彼女はそうメジャーではなく、ライブハウスや路上で彼女の曲を歌う人など稀であろう。そんな隠れファンの二人が札幌の地下通りで偶然出会う。ストリートライブの限りない魅力をこんなところでも感じた。
漠然とした感触だが、18時半を過ぎた頃からようやく通りをゆく人の足がゆっくりし始めた気がする。帰宅を急ぐ人の足を止めるほどの魅力は、我が歌にはないということなのだろう。夜のストリートライブは時間帯をよく考えるべきらしい。
とはいえ、「初めて妻の引率なし」「初めて歌う広場」「初めての夜時間」「初めてのフォーク系リスト」「初めての悪天候」という初めてづくしのなかでは、まずまずの結果だったと自己評価したい。
数日を経て感じたことだが、この空間では休憩をはさんで30〜40分を2ステージやるより、1時間近くで1ステージを一気にやってしまうほうが何かといいように思えてきた。
下手に休憩をはさむとせっかく掴んだ聴き手が逃げてしまうシーンがこれまで何度かあった。最初は立ち止まってくれずとも、長時間歌い続けることで人はじょじょに集まってくる傾向にある。一気に歌うことで全体時間も短くなり、自分の集中力も増す。
仮に1ステージとなると、場所や時間毎にセットを変える必要がある。現段階で使えるのは「洋楽系(シャンソン、クラシック中心)」「日本唱歌系」「フォーク系」の3つだ。まだはっきりしないが、3つある広場のうち、北端にある北4条広場では洋楽系が、南端にある北大通広場ではフォーク系が、中央の北3条広場では日本唱歌系が場に馴染むような気が何となくする。
それぞれの場の広さ、通りや出入口からの距離、明るさ、椅子の有無、マルチビジョン音響の有無と大きさ、等々が歌の傾向に微妙に関わっている気がしてならない。この場所の要素に時間帯の条件を加味して今後ライブを構成したい。
手探り状態はまだまだ続くが、おぼろげながら札幌駅地下歩行空間でのストリートライブの傾向がつかめてきた気がする。