子育てサッカー相談室 ROOM2

 
精神的な弱さを克服するには

 首都圏に住み、幼稚園年少から小5の現在に至る7年間、息子のサッカーサポートをしている母親です。昨日、インターネットで取り寄せた「父が息子に残すもの…」の本が届き、何度も読み返して「やはり菊地さんのアドバイスが頂きたい!」とメールを送らせて頂くことにしました。
 一言でいうと『メンタルについて』です。

 息子の運動能力は小さいときから高く、どんな種目でも親が親馬鹿になるのに十分な活躍をしてきました。体格も長身で骨太、2〜3歳年上の中に入っても、スキル面とフィジカル面での不安は感じた事がありません。
 幼稚園入園と同時にサッカークラブに入り、小学校入学と同時に地元少年団に入団。練習にも熱心で試合では活躍するものの、キャプテンに推薦されると「ぼくはキャプテンはいやだ」と固持し、結局副キャプテンに収まりました。理由を聞いたら、「目立つから」という答えに、夫婦で唖然としたものです。
 それでも楽しく1日も休む事なく練習に参加し、2年生になると上級生に混じって公式戦にもDFで出場するようになりました。ただ、息子の自分を前面に押し出せない性格がサッカー少年としてはマイナスかもしれない、と不安になり始めたのもこの頃です。

 3年生以降はMF(トップ下かボランチ)で出場。元々周りに気を配る性格が幸いしてか、豊富な運動量で守備をこなしつつパスも出す。数々の試合でチームの勝利に貢献するようになります。シュートよりもラストパスを心がけているのが常。FWが得点できない時や接戦の時はミドルシュートやフリーキックで決勝点をあげるといった調子で2年間が過ぎました。
 ただ、絵に描いたようなシュートが決まっても、息子のガッツポーズは一度も見たことがありません。「なぜしないの?」とある時聞いたら、「自慢してるみたいでやだから」とあくまでも控えめ。どうやら息子は自分に自信は持っているけれど、人に「自信過剰」だと見られることが恥ずかしいようです。

 5年生進級を控えて一つの選択を迫られたときも、その性格が顔を出します。トップチーム選抜のお話があり、息子の意思に任せる事にしたところ、息子は迷う事なく断りました。いろいろ理由を並べましたが、自分がトップのレギュラーになるとしたら6年生を控えにしてしまう、それが1番イヤなんだと言って…。
 新人戦ではあと1勝で地域大会初出場というところまでいき、チーム内では名実ともに司令塔となった息子は間もなく6年生、地区トレセンに参加することになりました。ここでは周りはみんなライバル同士。どの子も目立とうと必死なのに息子は確実に決められそうな位置のフリーキックでも、遠慮してるのか蹴りに行かないそうです。

 やはり性格なんだな、と思います。今のチームでは、FKやCK、PKになると本人が黙っていても周りのみんなが「頼むよ」といいます。そうすると本人も「それじゃあ」と蹴るんですが、積極的に立候補したり自分をアピールはできないんですね。
 素人考えですが、性格からくるプレースタイルは変わらないと思うし、私は息子の常に周りを活かしてゲームを組み立てようとする所が好きなので、直すことはないんじゃないかとも思うのです。ただ、少しでも上を目指すなら「人を蹴落としても自分が上に行くんだ」という狡さや自己主張も必要なのかなと…。それがない以上、今より高いレベルは無理かもしれないとの不安もあります。
 主人はサッカーの経験者でしたが、「あいつの性格はサッカー向きじゃない」と野球をやらせたがっています。息子と遊ぶのはいまだにキャッチボール専門。息子のサッカーについては、公式戦を年に何度か観戦する程度ですが、技術面のレベルアップのために少年団以外に練習したいという息子のために、クラブチームのスクールにも通えるよう手配してくれました。

 本当に長くなってしまいました。 サッカー向きの性格って、あるのでしょうか?精神的な弱さがあるとすれば、それを克服するのに親が手助けした方がいいのでしょうか?それはどんな方法が望ましいのでしょうか?一言でも二言でもアドバイスを頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。
('03.2 /ラブリーママ)

 息子さんとお母さんの7年間にわたる長いサッカー物語、おおいに共感しつつ、読ませていただきました。読み終わってずばり思いました。
「タクヤ(息子の名)の小さいころとそっくりだ!」
 そうです。メールの内容のことごとくが、幼き日の息子の姿と重なるのです。
 息子もキャプテンは進んでやりたがるほうではありませんでしたし、FK、PK、CKなどは監督から指示されない限り、すべて別の子が蹴っていました。5年のときトップチームに抜てきされたときも、あまりうれしそうではありませんでした。シュートを決めたあと、ガッツポーズをした姿など、見たことがありません。連載にあるあの「トルネードボレー」や「奇跡の決勝ゴール」の名場面でさえも、騒いでいたのは周りだけでした。

 いま冷静に振り返ってみると、息子は元来決して「目立つのがイヤ」な性格ではなかったはずです。それではなぜそのような態度をとったのか?これは妻ともよく話すのですが、息子は他からの評価を極度に気にかける性格のようで、周囲が許すという大義名分さえあれば、喜んでヒーローになりたいタイプだったと思います。
 6年生のときにキャプテンになったのは、それまで3年間キャプテンだった子が東京に引越し、監督の先生の指名によるもので、立派な大義名分でした。FK、PK、CKなども監督の指名という大義名分があれば蹴るわけです。5年生のときのトップチームへの抜てきも、結局監督の鶴の一声で決まりました。
 息子に対しては厳し過ぎる言い方ですが、失敗したときに一人で責任をとるのが怖かったのでしょう。思考が根本的にマイナスなのだと思います。他からの指名だとやれたのは、失敗したときの責任が軽い(と本人が思っていた)からでしょう。

 私自身、息子のこうした資質は、あまり好きではありませんでした。私の幼い頃は、同級生に遅れをとるのはとてもイヤな性分でした。ですから私には息子の「おくゆかしい」気持ちが、いまひとつ理解出来ません。ただ、息子の「本当は目立ちたいんだけど、失敗したときの周囲の目が怖い」という資質は、プロとしては通用しないだろうという漠然とした不安はずっとありました。このことは本にも書いてあります。
 はたして息子さんが息子と全く同じ資質なのかどうか、メールを読んだだけでは判断がつきかねます。ただ、とても似ているとは思います。理由はどうあれ、そのおくゆかしさは現段階ではプロとしては通用しないのではないか、と私は思います。このページでもすでに触れていますが、「いい部分も悪い部分も含めて、すべて自分の責任として背負い込む覚悟」、言いかえれば、「大人として自立した精神」がなければ、プロになるのは難しいと思います。

 ではメンタル面でのもろもろの弱さを、これからどう克服すればいいのでしょう?これはとても難しい命題です。5〜6歳ころからそうした資質に気づいていながら、どうにかしようとして、結局どうにも出来なかったのが私の真実です。いま振り返ってみても、「精神が自立していなかったから、プロになれなかった」ということだけは分かるのですが、「ではどうすれば精神を自立させられるのか?」の問いには、未だに答えを持ち合わせておりません。
 これまた妻とよく話すのですが、人は結局自分で育つものではないでしょうか。たとえ親であれ、「ああだからこうしろ」と百度言われても、「自分でこうしよう」と心底思って歩き出さない限り、人はいつまでも同じ場所に留まっているものなのではないでしょうか。
 またまた自分の話になって恐縮ですが、私が10歳のとき、それまで家族から「ボク」と呼ばれ続けていたのが急にイヤでたまらなくなり、「今日からボクって呼ばないでくれ!」と家族の前で宣言し、強引に実行させました。
 ちなみに、私は姉3人の末っ子で、男の子がただ一人。家族からなめるように可愛がられて育ちましたが、それに甘んじている自分が突然イヤでたまらなくなったのです。もちろん、誰に諭されたわけでもありません。内なる声です。まさにこのときが私の自立への第一歩、大人へのステップを歩み始めた記念すべき日でした。これなどは「自分で育つ」という好例だと思います。

 結局のところ、ひとりの人間の資質に、たとえ親といえども立ち入ることなど出来ないのではないでしょうか。無理に手助けなどせず、現在のままの気配りの出来る優しい息子さんでいいと私は思います。もしも彼自身が「いまのままのボクじゃイヤだ!」とある日突然思い、立上がったときに、周囲が黙って協力してやればそれで充分だと思います。
 ところで、野球をやらせたがっているご主人の評価は、もしかすると見事に息子さんの本質を見抜いているかもしれません。サッカーと違って野球は攻守がはっきりと分かれ、ポジションや打順などの役割分担がはっきりしており、それに伴う責任もより明白だからです。ここがサッカーと本質的に違うところで、息子さんのような資質にはおそらく向いているのでしょう。(本人が野球を好きかどうかは、全く別問題ですが)

 長々と書いた割には、たいした答えにもなっていない気もしますが、何かの参考になれば幸いです。最後ですが、本のお買い上げ、ありがとうございました。

 お忙しい中、丁寧なお返事を頂き、ありがとうございました。菊地さんのご推察どおり、確かに息子は周りの評価を気にしすぎ、大義名分を求めるというのも的を得ていると思いました。
 トップチームへの選抜の際も、親やコーチは「君はどうしたい?」と本人の意思を尋ねましたから、この時点で選択権が自分にあったわけです。活躍できなかったらという不安もあったでしょうし、何より同級生や先輩に配慮して辞退したという方が周りからの風当たりが少ないと計算したのかもしれません。もし『決定』や『命令』という大義名分があれば、違っていたのではないかと思います。
 地区トレセン選出は「君に決まったよ」という決定なので、立派な大義名分がありますから参加しているけれど、息子の中で『目立つ→失敗する→上位地域トレセンには選出されない』というマイナスイメージがあり、様子に表れていたような気がします。かといって『目立たない→失敗しない』でも、結局は上位地域トレセンには選出されないということには変わりないのですが、菊地さんのおっしゃられるように、一人で責任をとるのが怖いから失敗はしたくないというのが根本にあるのかもしれません。

 菊地さんのアドバイスを読み返し、夫の言葉とも照らし合わせて考えますと、今までの私の言動が息子の性格に大きく影響していることに思い当たります。息子が求める周りの評価の最も大きなものは、やはり親からのものに違いなく、プレッシャーにならないようにとは思いつつ大きな期待を寄せ、「あの子ならできる」と常にプラス思考で励まし続けたことは、逆に息子にとって「あんなに期待してるお母さんをがっかりさせられない」とのプレッシャーになっていたとしても否定できません。
 夫やコーチから息子のメンタル面の弱さを指摘されても、私はそれを受け入れきれず、チームプレーに徹する理想的なプレーヤーではないかとさえ思い込もうとしていました。こんな親馬鹿な私の姿勢が息子の「精神的自立」を遅らせる原因になっていたのかもしれません。技術や体力ならトレーニングの機会を親が与えてやることもできますが、ことメンタルに関しては親が心配してもどうにもならないばかりか、結果的にはマイナスになってしまうかもしれないと気付かされました。

 残念ながら息子の将来の夢はサッカー選手でも野球選手でもありませんが、サッカーは年をとっても続けたいと言っています。低学年の頃から通っているサッカースクールでは、社会人やシニアの方々もプレーしていて、息子には実に現実的で魅力的な将来像のようです。本当にサッカーが好きなんだと思います。
 もし高校で活躍できたらプロになれるかもしれない、との親馬鹿な甘い夢も捨て切れませんが、こんなクラブが身近にある事は、私たち親子にとって大変ありがたいと思いつつ、今はゆったりと静かに息子の成長を見守ろうという心境に至りました。

 北海道はまだまだ寒いとは思いますが、どうぞお体を大切に。これからもTOMTOM-BOXを通じて励まされるであろう多くの方々のためにも頑張ってください。菊地さんにご相談できて本当によかったです。ありがとうございました。また、お便りさせていただくこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。

 ご自分の心理、そして息子さんとご主人の関係を実に冷静に分析なさっていることに驚きとともに感動さえ覚えました。
 基本的に子供は親からほめられたい、親の期待に応えたい、と思うもので、ときにそれが子供にとって、強いストレスになってしまうことがあるようです。まずそのことを親が自覚しなくてはならないのですが、本当に難しいことだと思います。
「ゆったりとした子育て」、私も応援したいです。



 
やめたがっている女子選手

 著作「父が息子に…」買い求め、大変感動しました。私の息子もサッカー少年団で頑張っており、共感できる部分が随所にあって、夢中になって読んでしまいました。その息子の学年のチームに急遽問題が持ち上がって、ずうずうしくご相談した次第です。

 息子は現在小学5年生で、この学年のチームは現状で11人ピッタリで、うち2名が女子です。実はこの女子の1人が「限界を感じた」と学年の役員に言って来たというのです。一部のチームメイトから、「女はダメだ」とか「ヘタクソ」といった類いの、プレーに対してキツい言葉で言われることが原因のようです。練習の時も試合待機の時も男子は男子同士、女子は女子同士という傾向があって、チームとしてはひとつにまとまったという感じではありませんでした。ですから、仮に女の子の一人が辞めれば、もう一人の子も辞めてしまうのではないかと予想されます。
 確かに二人の女の子はともにおとなしいタイプの子で、積極的に声を出したりはあまりしません。体も小柄で、プレーも消極的なきらいがあります。キックも遠くに蹴れないし、ボールを相手に取られたりします。それでも、試合で男子と競り合って跳ね飛ばされても、転んでもひたむきにボールを追う姿に、頑張っているなぁ、と感心していました。
 今年のフットサルの大会で、その女の子の一人が息子のアシストで初ゴールを決めて、父母のみんなは大盛り上がりでした。公式試合ではあまり結果の出ないチームでしたが、今年のフットサルのあたりから、予選リーグを突破するくらいの力はついてきました。これから、と期待していた分ショックを受けました。

 事態はこれだけに留まらず、この件について、チームとしてどう感じているか、親子で話し合って欲しいと学年役員から連絡がきました。その翌日、今度は女の子に対してつらく当たる方の子が退団するという噂が出始めました。この子はチームの主力的選手で、昨年のキャプテンでもありました。今週末、父母間で話し合うことになっていますが、こうやって女の子の問題から発展し、それが引き金で、また別の子供が辞める話が出るのはやり切れませんし、親としては女の子も含めた上でチームワークを形成し、向上していくのが理想です。
 息子の方は、今年副キャプテンを任され、このチームが好きだと言っています。男も女も関係ないし、勝ち負けも誰のせいでもない。メンバーが増えるのは大歓迎だけれど、今のメンバーがいなくなるのはいやだ、と言っています。
 私は監督でもコーチでもなく、少年団での役員でもなく、ただの父母の立場でしかありません。ですが、息子とともに小学3年生からずっと見てきた今のチームで、こんなふうに辞めていく子が出てくるのはなんとかしたいと思います。こんなチーム状況に対してなにかアドバイスを頂けたら、とメールさせて頂きました。よろしくお願いします。
('03.4 /サッカーにはまった親バカ父)

 男子の中で少数の女子選手が対等に頑張っているとのこと。サッカーが好きでなければ出来ないことで、かって女子チームの指導を4年間務めた私としても、強く応援したい気持ちです。

 相談者の方はよくご理解されているようですが、男女の性別はもちろんサッカーをやることとは本来無関係なことです。もしサッカーをやることに資格があるとすれば、ただ単にサッカーが好きか?真面目にサッカーに取り組んでいるか?あるいはサッカーを通して相手を尊重できるか?そんなところでしょう。サッカーのうまい下手も、実はたいした問題ではないのです。
 もしもチーム内に、ただ女であることだけでその存在を疎んじる傾向があり、それが今回の退団騒動につながっているとしたなら、単なる人数不足を越えた大きな問題であると私は思います。
 相談者のように理解ある父母ばかりであればいいのですが、残念ながら日本社会はまだまだ遅れていると思います。子は親の考えにおおむね従う保守的な傾向がありますから、女子を疎んじる子は、まずその父親か母親のいずれか(あるいは両方)に、男尊女卑の古い考えがあるのだと思います。反対に、相談者の息子さんが先進的な素晴らしい考えを持っているのは、おそらくはご両親の強い影響でしょう。

 女子選手がやめること、引いてはチームが11人以下になってしまうことと今回の問題は、別に論じたほうが分りやすいと思います。「女子がいないとチームがなりたたない」という消極的な理由で問題を封じ込めてしまうと、根本的解決にはなりません。やめるやめないは別にして、父母会としてそうした差別意識を親子ともどもチーム内から一掃することをまず決議すべきです。それが正論であり、父母会の進むべきまっとうな方向です。決議はきちんとプリントし、欠席した父母にも配るようにしましよう。
 男女共生社会が私たちが進むべき本来の道であることは、世界の情勢を見れば明らかなことで、先進国を自負している日本に住む人間が、「サッカーは男のするものだ」などと時代錯誤な論理にしばられていること自体、陳腐で恥ずべきことです。フィンランドでは大統領と首相の両方が女性で、国会議員の40%が女性だそうです。これに比べると本当に日本は「後進国」と言わざるを得ませんが、それは国を形成する小さな母集団である「家庭」の意識が遅れているからです。

 実は我が家の長女も、小3のときに1年間だけサッカーをやりました。最初は数人いた女子も次々とやめて、1ケ月後には長女一人。周囲の男子からいじめの集中攻撃を受けました。理由は今回のご相談と全く同じです。
「自分でやるといって始めたんだから、1年は続けようね」と諭し、練習日にはいじめに会わないよう、暇を見てはグランドの陰から見守る日々。親にとっても辛い日々でしたが、娘は一日も休まず練習を続け、ついには男子の中でも一目置かれ、レギュラーは取れませんでしたが、チーム内でもそれなりの位置を確保してやりきりました。
 娘は現在26歳ですが、男社会の中で臆することなく、対等にがんばっています。サッカーを通じて得たものは、決して無駄ではありませんでした。
 対症療法のようになりますが、女子選手の親にも練習や試合を数多く見にきていただくと、親子を含めたチーム内での評価はかなり違ってくると思います。子供(女子選手)にとっても、心強いでしょう。ご協力をお願いしてはいかがですか。コーチの方にも事情を話し、いじめが目についたらその場で注意してもらうようお願いすることも必要かもしれません。

 理解ある父母の方々が中心になり、チームをよりよい方向にもっていかれることをお祈りしています。

 お忙しい中、丁寧にアドバイス、ご意見を頂き、本当にありがとうございました。

「サッカーを通して相手を尊重することができるか?」
「サッカーのうまい、下手もたいした問題ではない」
 菊地さんのこの言葉が胸に染みました。親である私も、いつの間にか勝てるようになってきたチームに期待と欲目が出てきて、本当にサッカーを通して子供に学んで欲しいことの根っこの部分を見失い、うろたえてしまったように思います。
 菊地さんの言葉を踏まえ、父母会で話をしていったところ、他の親御さんも同じように考えていてくれたようで、女の子だから、あるいは下手だから、ということでチームメイトを悪く言ったりする行動は、注意し改めていくべきことだ、ということで話はまとまり、このことを監督に進言、相談しました。
 幸いなことに、監督の考え方も基本的には菊地さんと同じで、「サッカーであってはならないことです。子供たちに話します」と、今回騒動になった子供一人一人に話をしてくれました。子供たちも素直に聞きいれたようで、一人の退団者を出すことなく、こじれることなく収拾がつきそうです。本当に良かったと、胸を撫で下ろしています。一度は辞めると口にした女の子も、やっぱりサッカーが本当に好きなようです。

 この翌日、練習試合がありました。3試合行い、うちのチームは3試合とも勝つことができました。女の子二人もスタメンで出場です。心なしか、子供らのなかのモヤモヤも晴れたようで、元気にボールを追っていました。敵のコーナーキックからゴール前の混戦のピンチの場面がありました。このピンチをクリアしたのが、女子選手の一方でした。このときの、女の子の満足げな笑顔が、印象的でした。
「今日のチームの雰囲気は良かった」と息子は言っており、いい方向に船を漕ぎ出したようです。
 子供ですからきっとこの先、忘れた頃にささくれのような言葉のやりとりや、行動をしてしまうことがあるかもしれません。ですが、親としてのスタンスがきっちり決まったことで、見つけたらきちん注意し、直していけると思います。

 あるお母さんが、私の隣でこう言いました。
「ある意味、今こういうことを問題として出せて良かったかも知れない。一緒にサッカーできるのも今のうちだけだし、その中でこの子達は、男と女が協力していくってことを考えるきっかけになったもの」

 長々と書き連ねてしまいましたが、菊地さんにご相談し、アドバイスをいただいたおかげで、私自身の迷いも吹っ切れました。その後のチーム状況の報告とともに、重ねてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

 早い時期での父母会の危機感がバネとなり、チームが良き方向に歩き始めたようで、関わった私としても胸が熱くなる思いでした。サッカーを通してこうした進歩的な親子関係が構築出来るということは、とても幸せなことだと思います。
 この子供達が成長して大人になったとき、いつかどこかで今回のことを思い出し、男女共生社会の担い手となってまた次の世代にその意志を引き継いでくれることでしょう。そんな芽が絶えない限り、まだまだこの日本も捨てたものじゃありません。



 
背が低いとレギュラーは無理?

 こんにちは。いつも楽しみに拝見させていただいています。私は都内在住の中学1年の父親です。中学・高校と私もサッカーをしており、子供が小学校3年生の時、地元クラブチームに入団と同時に、私もお父さんコーチとしてデビューしました。
 当初は下の学年にも負けていたチームだったのですが、練習に練習を重ね、4、5、6年と区内大会でメダルをもらえるまで成長することができました。息子も選抜チームに選ばれ、満足のいける小学生サッカーを終わらせる事ができました。
 そこで中学校も越境し、都大会常連の公立中学に入学したのですが、息子は現在身長142cmしかありません。同じ選抜チームにいた身長の高い子が既に3年生と一緒に春季大会に出ているのをみて、息子同様あせりを感じています。チームをみていると身長の高い子がレギュラーを占めているようです。確かに3年生ともなれば170cm近い選手がゾロゾロいます。
 今、息子の身長で通用しないことは解っているのですが、3年間でせいぜい伸びて20cmがいいところではないかと…。このままでは来年以降入ってくる背の高い子にレギュラーを取られるのではないかと不安でなりません。頭では解っているのですが、試合中ベンチにも入れない息子を見ていると、「もっとがんばれよ」と、小言を言ってしまいます。たまに練習を見に行ったときは、「あそこが悪い、ここが悪い」と、食事中にまで説教してしまいます。
 越境してまで強豪校に入ったことが息子にとって良かったことなのかどうか、悩んでいます。この先どういったことを心掛けて練習していったらいいのでしょうか。
('03.5 /子離れできない親)

 このご相談を読んで私は、サッカーとは全く関係のない自分の青春時代のことを思い出してしまいました。
 小6のとき、地元の有名国立大入学をめざして家族で田舎から札幌に移住したのに、私の成績は伸び悩み、一浪しても結局志望大学には入れませんでした。親からは数年間愚痴や叱咤の声を聞かされ続け、自分でも何とかしたいのに、どうにも出来ない。「もっとそっとしておいてくれ!」と叫びだしたくても、親が自分の身を案じて言ってくれていると思うと、どうしてもそれが出来ません。私にとっては辛い地獄のような日々でした。
 結局私は第2志望の地方大学に進学。怪我の巧妙というか、結果的にやかましい親の束縛から逃れることが出来、人間的に大きく成長することが出来ました。
「子供の教育のためにレベルの高い都会に引越したんだ」と言われ続けたことが、私には重い足かせとなってマイナスに働いたように思います。そのまま田舎にいて勉学に励むか、あるいは都会に引越したあとも、ある程度ゆとりを持って接してくれたとしたら、結果はまた違っていたかもしれません。

 対象がスポーツではありますが、息子さんの場合にもこの例がそっくり当てはまる気がします。私には息子さんの辛い気持ちが痛いほど分かります。息子さんの実力を信じ、強い中学校を選んでしまった事実はもう元には戻せません。「背が低い」という身体的特徴も、ただちに改善されることはないでしょう。だとすればいま親に出来ることは、ただじっと息子さんを見守り、何かサインを出してきたときに手を差し伸べることだけではないでしょうか。
 お父さんのあせる気持ちはよく分かりますが、そのあせりは息子さんにマイナスとなって伝わり、ますます悪循環に陥ってしまう気がします。背が低くともマラドーナ選手のように、他の技術や戦術を磨いて一流になった偉大なプレーヤーはたくさんいます。
 私の身長はいま172cmですが、中1のときは息子さんよりもっと低い132cmでした。高1でやっと154cmです。遺伝なのか、いま176cmある長男も、中1のときは140cmそこそこでした。二人とも高校に入るあたりからぐんぐん伸びました。もしかすると息子さんの場合もいわゆる「おくて」で、伸びるのはこれからなのかもしれません。
「背が低いからダメなんだ」という発想をいったん捨て、親子で「僕(あるいは息子)にしか出来ない優れた技術を磨くぞ!」「高校に入ったらきっと伸びはじめるぞ」というプラス指向で進めば、いつかきっと何かの形でいい結果が出るのではないでしょうか。

 貴重なアドバイスありがとうございました。息子とも話し合い、しばらくそっと見守ることにしました。どちらかというとあせっていたのは子供ではなく、親のようでした。息子はさらりと『技術は負けていないから後は体だけだよ』と言ってのけました。(体だけと思い込むのもどうかと思いますが…)
 いろいろ調べ、今年引退したヴェルディの北澤選手が高校時代、背が低くて試合に出してもらえなかった時、走りこみをしたことなどを参考に話をしました。幸い息子は50人位いるサッカー部の中で持久走は5番以内に入るそうです。得意分野をのばしながら小学生とは違う中学生サッカーを勉強していき、目標を今年より来年、来年より再来年に置き、高校・大学と続けようと約束しました。

 正直に書きますと、このご相談をいただいた最初は、私の手におえないのではないかと返答に躊躇しました。何を書いても、ただの慰めになってしまいそうな予感がしたからです。しかし、ともかくも前向きに父子が歩み始めたようで、ほっとしています。父子が向き合い、本音で話合うきっかけにこのコーナーがもしなったとすれば、私としては大変うれしいです。



 
諦めない子に育てるには

 小学校5年のサッカーをやっている息子の事で相談があります。最近チームが負け続け、すっかり自信をなくしてしまってる様子です。何があっても負けない諦めない子に育てるには、どうしたらよいでしょうか???サッカーに限らず、なんにでも通じる事なのではないかと思うのです。親として出来ることがあれば教えてください。
('03.5 /力になりたい親)

 またまた難問が飛び込んできました。これまたサッカーを超えた大きな問題ですが、私なりに考えてみました。
 まず第一に考えられるのは、親が一生懸命に生きて、「何があっても負けない諦めない姿勢」をみずから子に示すことです。いわゆる「子は親の背中を見て育つ」論に由来するもので、子供に親を見習う資質があれば、すべてとはいかずとも、おおむね親の生きる方向をなぞってくれます。
 しかし、これで事足りるほど子育てはたやすくはありません。私はいわゆるSOHO、すなわち在宅勤務の創成期をみずから体験してきましたので、3人の我が子の子育てには、深く関わってきました。その結果から言えることは、いい意味でも悪い意味でも、親を見習ってくれる子がすべてではありませんでした。つまり、子供によっては、親とは全く違った資質を持ち、全く違った方向に歩み出す子もいるということです。

 なぜそうなるのかはまだ私にもよく分かりません。隔世遺伝で受け継いだDNAがそうさせるのかもしれませんし、家庭以外の社会環境が何らかの形で関与するのかもしれません。
 以前の相談にも書きましたが、人はある日突然、自分の足で歩き始める事があるということです。その方向は、もしかすると親とは違う方向かもしれませんし、はたまた同じ方向かもしれません。自分の信ずる道を懸命に歩んできた親にとっては、願わくば自分と同じ道を歩んで欲しいものと誰もが思うはずですが、その期待はしばしば裏切られます。
 我が家にもこうした「鬼子」は、間違いなく存在します。しかし、それはそれで事実として受け入れなくてはならないといまは考えています。これも以前に書きましたが、たとえ親といえども、子の人生のすべてに立ち入ることは出来ないことだと思います。

 結論としましては、子がなぞるかどうかは別にして、まずあなた自身があなたの信じる道を懸命に歩み、それを示すことしかないのではないでしょうか。
 個人差はありますが、5年生といえばもう自我が芽生え始める時期だと思います。首根っこをつかまえ、「さあやりなさい!頑張りなさい!あきらめないで!」と百回叫ぶより、そうした親の無言の姿勢が最も心に響くはずですし、それは結局あなた自身の人生に豊かさをもたらすことになるはずです。



 
コーチの厳しさの程度

 はじめまして。色々リンクをしてましたら、「親馬鹿サッカー奮戦記」を見つけて、すっかりはまってしまった親ばかです。こちらでご意見を伺いたいと思いまして、メールしました。

 私の息子は小学校4年生です。年長のころから地元のチームに所属していまして、ポジションはFWです。息子は根っから明るい子で、チームのムードメーカーと周りの人たちから言われています。今回チームの都合でコーチが変わってしまったのですが、そのコーチに変わったとたん、指導内容が変わりました。
 一番大きく変わったところは、子供を怒鳴って指導するところです。前のコーチは自分で考えてサッカーをやろうと言っていました。息子にも指導するところはたくさんあったんだと思いますが、今回のコーチは、
「ちがうだろ!!○○!!」と試合中に怒鳴り、息子は足がすくんでしまいます。でも、負けないように一生懸命取り組んでいます。練習の時も同じです。
 ただ、私は指導にはいろいろ方法があると思うので、それにはある意味目をつむり、息子には「君が上手だからだよ」と言って気持ちを前向きに持たせるようにしました。そんなコーチですが、子供と遊ぶ時はとても一生懸命遊んでくれるので、子供達もコーチのことは大嫌いではないようです。勿論、息子もそうです。

 しばらくして同じ名前の子供がチームに入ってきたとき、息子の呼び名を「お前はばかだからばかと呼ぼう」とコーチが言い出したのです。周りのチームメートも調子に乗って、(子供は仕方ないですけど)「ばか」と呼んできたりするのです。(言いやすい性格なのですが…)
 勿論、冗談だと思いますが、息子は本当に落ち込んでしまって、サッカーものびのび出来なくなってきている状況です。この事は本人からコーチに電話させましたが、その時に「そんなことは深く考えることではない」と、軽くあしらわれてしまいました。ただ、きちんと名前を呼んでくれることになったので、息子は一安心したようです。
 私は他のチームのことはあまり知らないのですが、厳しいコーチというのはこんな感じなのでしょうか?もし、強いクラブチームに進むことになったときに、こういうことは日常的にあることなのでしょうか?とりとめのない内容になってしまいましたが、アドバイスお願いします。
('03.5 /下町の母)

 コーチにはおおざっぱに分けて、試合中も練習中もほとんど声を出さない「沈着派」と、常に大きな声を出してチームを鼓舞する「熱情派」とがあると思います。これはどんなチームに移っても同じで、Jリーグの監督を見てもこのふた通りに別れる気がします。
 私自身は典型的な「熱情派」で、度が過ぎて、ときに審判から注意を受けるほどでした。ですから今回のご相談は、とても人事とは思えません。

 いまの父母の方々は大変我が子には寛大で、自分達が叱ることはもちろん、他人からも我が子が大きな声で叱られることに慣れておりません。私の場合も感情的な指導がときに父母とのあつれきを生んだことがありました。
 ただ、言い訳のようになってしまいますが、大声で選手を叱るからといって、そのコーチが指導者として不適格ということにはならないと思います。もちろんコーチは選手が憎くて叱るわけではありません。
 たとえばルーズボールが相手と自分の間に転がってくる。当然ダッシュして相手より先にボールに触れなくてはなりません。もしそんな局面でぼんやりしている子がいると、私の場合は「こらぁ!ボールに向かっていけぇ!」とすかさず叱咤の声を飛ばします。たとえ相手よりパワーが劣り、スピードに負けても、せめてボールに近寄って相手を邪魔するくらいの気持ちがないとサッカーになりません。サッカーは陣地の区別がなく、基本的に激しいスポーツですから、それがやる上での最低限の姿勢だと私は思っています。
 ただ、何でもかでも怒鳴るという姿勢は控えるようにしていました。ある局面で右にパスをするか、左にドリブルするかの二つの選択肢があったとします。私のイメージで(左にドリブルだ!)と思っても、選手が右にパスを出した。そんなとき、口ではまず「ドリブルだ!」と叫びますが、そのあと「違うだろ!」とは追い打ちをかけず、「おい、パスかよ」と愚痴る程度に留めるように努力しました。

 あくまで想像ですが、このコーチは非常に探求熱心の熱情派、指導に対して強いポリシーがあり、チームのすべてを統括しないと気がすまないタイプの方なのではないでしょうか。やや軽率な面はありそうですが、子供たちの信望も厚そうで、基本的に悪人とは思えません。
 呼び方の件ですが、ここはつい親が直接電話したがるものですが、バカと呼ばれて一番嫌な本人に直接電話させたのは、非常に適切な対応だったと思います。コーチもきっと胸にこたえたでしょう。(すぐに呼び方を変えたことにそれが表れています)
 何か問題が起こったとき、他の父母の方々とも連係を取り合いながら、やんわりと遠回しに父母の考えをお伝えするようにしてはいかがですか。折をみてコーチと父母を交えた親睦会などの場を設けるのも効果的です。何も手を打たないまま、一方的に事を荒立ててしまうと、こういうタイプのコーチは指導に対する情熱を失い、あっさり辞めてしまいかねません。反対にうまく関係を保てれば、よいチームを作ってくれそうな強い予感がします。
 ボランティアの色が濃い指導体制の場合、あるコーチのやり方が気に入らないからといって、簡単に首のすげかえなど出来ないケースが大半です。ならばこの際、皆が大人になって歩み寄り、多少問題のあるコーチを上手に導くのも、父母会の大切な役目だと私は思います。



 
PKを失敗しないために

 はじめまして、サッカー奮戦記楽しく読ませていただいています。

 我が家の小6長男が入っているサッカー少年団が、この度めでたく念願の全日本少年サッカー県大会に出場が決まり、6月中旬に試合を控えています。ご相談したい事は、その息子のPKの事なんです。サッカー奮戦記を読むと小学校時代のご子息が息子によく似ていて、是非ご相談にのっていただきたいと思いメールをしました。
 息子もやはりここぞの時に力を発揮できず、PKをきっちり決める事ができません。ポジションはFWをまかされています。予選では一度もありませんでしたが、県大会ではPKは必ずあるものと思います。運もあると思いますが、運を呼び込む準備ができるものならさせたいと思います。もう1週間というわずかな日数ですが、練習できることがあったら教えていただけないでしょうか?
 突然のご相談で失礼とは思いますが、妙にその事ばかり心配になっている母の気持ちをお察し下さい。宜しくお願いいたします。
('03.6 /不安でたまらない母)

 県大会ご出場決定、まずはおめでとうございます。FWのレギュラーポジションを得ておられるようで、親としては期待と不安と誇りの入り混じった複雑な心境とご推察したします。
 ただ、試合まであと1週間後に迫ったこの時期に、コーチの立場でもない一人の親が、選手である我が子に出来ることは限られています。私は父親として息子のPK苦手を克服させるのに、分析から試行錯誤のトレーニング、そして実戦での修正まで、およそ1年を費やしました。このことから考え、この時点で技術、戦術的にPK苦手を克服することは、まず不可能と考えていいと思います。すると、残された道はただひとつ。そうです、メンタル面でPKをプラス指向にまず親が考えることしか道はありません。

 一般論ですが、子供特に男の子は母親の期待に応えたいと誰もが思うはずです。この私もそうでした。その母親が不安にうちひしがれているとすると、ほとんどの子は敏感にそれを察知します。(よし、お母さんの期待に応えよう…)と決意しますが、その決意はしばしばマイナス要因となって働きます。親思いの子であればある程、その傾向が強いはずです。口幅ったいですが、この私がそうでした。そして結果はほとんど悪いほうに傾きます。
 私がいろいろな意味で吹っ切れて、自立した人生をそれなりに歩み出せたのは、親特に母親の期待に応えよう…、という重圧を自ら解き放ったときでした。大変残酷な言い方ですが、「母親を捨てた」ときからです。(もちろん、精神的な意味でです)ほとんどの母親は息子を「捨てる」ことなど到底出来ませんから、呪縛から逃れるには、息子のほうから旅立つしかないのです。
 文面と年齢などから察するに、息子さんはまだお母さんから旅立ってはおりません。それは息子さんのあなたに対する愛情と考えていいと思います。息子さんの大人としての「旅立ち」にはいま少しの時間が必要のようですが、現実問題としていまのままでは、目前に迫った修羅場での結果に不安が消えないでしょう。そこでひとつのヒントを差し上げます。

 試合当日、
「PKになったら失敗したっていいんだから、悔いの残らないよう思いっきり蹴るのよ」
 と、送りだす前に必ず声をかけてあげてください。チームメイトの前だと恥ずかしがる年齢ですから、必ずご自宅で。 この「失敗したっていいんだから…」というのが、息子さんを呪縛から解き放つ大切なおまじないです。つまり、「失敗したっていいのよ…」とお母さんが言ってくれるということは、万が一失敗しても差引きゼロ、マイナスにはなりません。もしもうまくいけば、万々歳の大プラス。これは子供にとってとても安心出来ることなのです。
 出来れば出かける前に背中に「失敗してもいい、悔いのないよう思いっきり」と指で毎日書いてあげてください。お母さん自らおまじないを紙に書き、家の中の目立つ場所に貼っても構いません。「さあ、試合にむけてのおまじないを唱えるわよ」などと、夕食前に母と子が一緒に唱えるのもいいでしょう。やり方はおまかせします。そして口先だけでなく、(失敗してもいい、もともとが苦手なんだから、失敗しても何も失うものはない…)とまず親自身が腹をくくりましょう。
 実は失敗するPKの大半は、思いきりの悪さからくるボールの勢いのなさからくるものだと私は思っています。FWのレギュラーをまかされている自分を信じて、思いきり強いボールを蹴ってやれば、少々コースが甘くとも必ず入ります。天もきっと味方してくれるはず。そう信じて、先に書いた「おまじない」をぜひ実行してください。

 早速のお返事ありがとうございます。このおまじない使わせていただきます。ここまできてじたばたしてもしょうがないし、もっと太っ腹でいきます。で〜んと構えようと。
「失敗してもいいよ」なんて言葉、今まで息子に言った事なかったように思います。がんばれ!がんばれ!っておしりたたいてプレシャーかけてきたかもしれません。反省です。勉強になりました。本当にありがとうございました。



 
サッカークラブでのいじめ

 息子は小学5年生です。学校のサッカー同好会に所属しています。息子は小さな頃からサッカーが大好きで、同好会に入団できるのがとても楽しみだったようです。それというのも、亡くなった私の父がサッカーをやっていたので、私自身小さな頃からサッカー漬けであり、息子も洗脳されるがごとく、サッカーを身近に感じる環境だったからだと思います。
 簡単な練習なら私が見ることも出来ますが、やはり素人であるのでコーチに任せた方が変な癖や偏った考えをしないと思い、同好会に入るまで一切教えていませんでした。体も小さく、運動神経も余りよくない子供でしたが、サッカーをやりたい一心で毎日練習に通っています。おかげさまで最近はレギュラーに定着し、本人も三度の飯よりサッカーが好きのようですが、最近になって、同好会の中で問題が起こってしまいました。

 私の父がGKだったので、古い記録から息子もそのポジションにあこがれ、GKになりたいと思っていたようですが、体格や性格を考慮したコーチ達の考えから、チームでは現在MFをやっております。本人も納得していたので、私も安心していました。
 ところが、現在GKをやっている子供が練習に余り熱心でなく、その子の親までもが、「うちの子供は下手だからGKになった」という考えで、その子もGKになる事によって、試合に出られるようになったと思っているらしいのです。
 息子はそんな相手に対し、ある種の羨望もあったと思いますが、あるとき、「キーパーをやる資格がない」と言ってしまったらしいのです。そこで済めば子供同士の口げんかで終わったと思いますが、相手の親がでてきて、大勢の子供の前で我が子を罵倒し、怒鳴りつけたのです。息子の言葉も確かにすぎたとは思いますが、泣きじゃくりながらサッカーをやめたいと語る息子に、なんと言葉をかけてよいのか分かりません。
 サッカーが好きであれば、続けた方がよいのは分かっていますが、このままチームに居ると、風当たりが強くなるというジレンマもあります。その子の母親は役員もしているため、気に入らない人は徹底的にいじめています。自分の子供のことしか考えないので、子供の話を鵜呑みにし、他の子供を呼び出し責め立てる。サッカーに限らず、学校生活でもよくある光景なだけに、子供は今後が怖いし、不安だといっています。
 サッカーが大好きな息子のために、続ける道を模索していますが、田舎のために近隣には学校主体のクラブしかなく、他の学校に転校しない限り、このままで居続けなければならないでしょう。しかし、もう一緒には出来ないと言っている息子の気持ちも本当によく分かります。
 くだらないことで悩んでいると思われるでしょうが、私たち親子には切実な悩みです。どうかよきアドバイスをお願いいたします。その後の練習では、周囲も巻き込み、我が子は孤立した状態です。
('03.7 /切実に悩む母)

 お話をうかがうと、双方ともに子供の背後にぴったり寄り添う親の強い影が見えます。サッカーをやっているのは子供自身ですから、主役の子供より親の姿が目立ってはいけません。お便りを読んでまず第一に感じたのはそのことでした。
 以前の相談でも書きましたが、子供は基本的に保守的で、親の意向に沿い、従おうとします。息子さんがサッカー、そしてゴールキーパーにあこがれを抱いたのも、おそらくは母親であるあなたの想いに沿うようにと考えたからでしょう。それはあなたのお父さんに対する想いにも間接的につながっています。
 ただ、きっかけは何であれ、結果的に子供がサッカーというスポーツを心から愛するようになったのであれば、当分は子供の意向に沿うように、今度は大人の側が周囲の環境を整えてやるのが務めではないでしょうか。

 現在の息子さんと母親であるあなたを取り巻く状況は、住んでいる地域が閉鎖的な田舎であるだけに、悲惨なものであることが容易に想像出来ます。ここではっきりしておきたいのは、事件の発端は、「キーパーをやる資格がない」と言った息子さんの一言にあるという事実です。これは指導者でさえめったに口にはしない、強い言葉です。
 ここからはあくまで私の推測ですが、小5という年齢から考え、息子さんの言葉は自身の考えから出たものではなく、お母さんの強い影響を受けたものではないでしょうか。
 もしあなたが軽い気持ちで、「あの子はキーパーにふさわしくない、やる資格がない」といった主旨の会話を家庭内や親しい友人間で口にし、それが子供の耳に入ったとします。子供はその考えが絶対的であり、正しいと信ずるでしょう。親に対する信頼感が強い子ほど、その傾向があるはずです。これは息子さんがサッカーやキーパーに強いあこがれを抱いたという事実からも裏づけられます。
 息子さんの言葉は、おそらくはあなた自身の言葉でもあったはずです。同時に、息子さんの痛みはあなた自身の痛みです。相手の親が大勢の前で息子さんを罵倒したのは、息子さんへの憎しみばかりでなく、その背後にちらつくあなたの存在を本能的に悟ったからでしょう。役員まで務める親のとる態度としては、いささか大人気ない気もしますが、その親にとってみれば、「愛する我が子を愚ろうするふとどき者」というわけで、我が子=自分自身が非難されたと感じたはずです。

 繰り返しますが、主役は子供です。事件はすでに起こってしまったのですから、大人としてまずあなたがしなくてはならないことは、息子さんのサッカーにかける本当の気持ちを理解してあげることです。チームを移るのは困難なように思われますので、多少のわだかまりが残っても、いまのチームでサッカーを続けたいのか?という意志を、息子さんに再確認してください。
 ここではあまり親としての意見ははさまず、単純に「あなたはどうしたいのか?」を息子さんに問いただしてください。息子さん自身が本心ではやめたいと願っているのなら、ここは腹をくくってやめる選択もあろうかと思います。もしお母さん思いの息子さんが親の意向を汲んで、「お母さんが僕にやらせたいのなら、やってもいい」というふうに本心とは違った結論を出してしまうと、問題の本質がまたねじれてしまいます。サッカーは自分が楽しいからやるものであり、親のためにやるものではありません。
 もし息子さんが万難を排してでもサッカーを続けたい、という強い意志を持っている場合、あなたと息子さんが先方の家に直接出向き、お二人で最初の非礼をまずわびるべきではないでしょうか。虫の好かない相手に頭を下げるのは屈辱的かもしれませんが、先に書いたように、きっかけはあくまで息子さんの側にあります。あなたの側がまず折れないと、問題はいつまでたっても解決しません。
 先方にわびを入れる前に、まず息子さんになぜ謝りに行くのか、分かるようによく説明してあげてください。トラブルの発端が息子さんの口にした最初の言葉であっても、「お母さんにもあなたをそう仕向けた悪いところがあったかもしれない」と、息子さんと一緒に責任を背負ってあげるべきでしょう。

 双方だけで和解出来ればベストですが、先方が図に乗ってさらに横暴な態度を見せる可能性もなくはありません。その怖れがある場合、あらかじめ信頼出来る第三者を間にたて、和解の場に同席してもらうことをお勧めします。この「第三者」は、どちらの側にも立っていないチーム内の役員(父母)がふさわしいと思います。指導者という選択も考えられますが、技術戦術面以外のトラブルの仲裁にまで巻き込むのは酷ですし、かえって問題がこじれてしまうかもしれません。
 問題が子供たちの間にまで波及しているようですので、親の話合いが終わったあとは指導者に事情を話し、子供全員の前で「子供同士の仲直りの儀式」(握手など)をしてもらう必要もあります。ここでも謝るのは、あくまで息子さんの側です。
 災いを通して親子が苦しみを分かち合い、「相手を尊重する」という情操面を再確認し、ときには頭を下げることも人生では必要であることを学ぶいい機会と、問題を少しでも前向きにとらえるべきではないでしょうか。



 
最近元気のない次男

 小2になる次男についての相談です。現在チームには幼稚園に通っていた頃からの友達も含め、5人の2年生が在籍しています。兄も同じチームにいたので、次男は5歳の頃から練習に顔をだしており、コーチの方にも遊んでもらいながら練習していました。
 そのため友達の中でも実力はあると思うのですが、他の4人が活発な性格でもあり、(次男も活発ですがそれ以上)他人のミスをなじる子もいたりで、練習、試合と最近元気がなくなってきました。
 親としましては、たまに低学年のコーチも任されることもあり、ついつい次男に強くあたってしまいます。それがますます次男を消極的にしてしまうとは思うのですが、親の目から見ても、実力は低学年では1、2を争うくらいはあるほうだと思います。
 以前のようにもう少し積極的な次男に戻すにはどのようにしたらいいのでしょうか?また最近では剣道もやりたいといって、掛け持ちでがんばってます。サッカーがそのような状態だから剣道を始めたのか、もともと運動が好きだからなのかは父親としてはわかりませんが、サッカーボールを楽しく蹴っていた頃のように頑張って欲しいと願っております。何か良いアドバイスがあればお願いします。
('03.8 /子育てパパさん)

 息子さんの元気のない原因は厳しいお父さんと、チームメイトとの人間関係にあると思われます。私の子育てサッカー記録に、私がコーチを引き受ける際に息子にむかって、「これからグランドではお父さんと呼ぶな」と厳しく宣言する下りがありますが、あのとき息子はすでに6年生で、大人の入口に差し掛かっていました。同じ気持ち、同じ態度をまだ2年生である息子さんに当てはめるのは、少し酷である気がします。
 2年生という時期は、まだ厳しさよりも楽しさを中心にしてサッカーを考えるべきで、チーム内でも「お父さんと息子」という関係のままでいいと思います。むしろ、ミスをなじる他の子に対し、「一生懸命やってるんだから、人の文句は言わないようにしようね」とたしなめるべきで、そうしたもろもろの父親のある種「不公平」な態度に対し、息子さんはいま、(お父さんは僕の味方ではなくなった)と、やり切れない気持ちになっているのではないでしょうか。
 剣道を始めたのも、おそらくはお父さんに対するある種のポーズ、つまりは抗議の気持ちの表れで、本当は元のように楽しくサッカーをやりたい、という気持ちの裏返しの行動のように感じます。

 私としては、しばらくは(おそらくは4年生くらいまで)平等で公平な態度で息子さんや他のチームメイトと接することをお勧めいたします。同学年の他の子があなたのことを「コーチ」と呼んでいるのかどうか分かりませんが、ここはひとまず「いっしょに遊んでくれる面白い○○君のお父さん」というキャラクターで指導にあたってみてはいかがでしょう。「コーチ」として親子のけじめをつけさせるのは、もっと先になってからでいいと思います。
 プロでもない限り、サッカーの原点がまず楽しさにあることは明白で、子供を導く立場にある大人は、その視点を常に見失ってはならないと思います。



 
クラブでのいじめ〜その後

 先日はアドバイスを頂き、ありがとうございました。私自身、胸に応えるお話でした。そこで、同好会の会長さんを間に、親を交えての話し合いを求めましたが、子供同士のことと相手は話に応じてくれませんでした。
 息子は、「サッカーが好きでやってるから、あいつに会いたくてやってるわけではない」と言い始め、他の子供達に無視されても「サッカーが出来ればそれで良い」と言ってくれたので、私がその子に謝りました。
 私の中にも亡くなった父に対する思いが強かったのを、子供が敏感に感じ取っていたのだと思います。けんかの発端の発言については、親御さんにはお手紙で謝りました。うちの子供も練習の後に、全員の前でその子供に謝っていました。しかし、相手の母親はことあるごとに、不要な発言を息子に繰り返し、又、子供同士でのいじめもなくなってはいません。
「僕がいけなかったから…」という息子が不憫ですが、それでもサッカーをやりたいという姿勢には、我が子ながら感動しています。私としては、やめた方がいいのではないかと思うこともありますが、子供自身の考えを尊重し、急がずに答えを出せるように見守るつもりです。
 サッカーが好きなら、今のままで居るしかないことを子供も分かっているのでしょう。他の子供に練習後の片付けを押しつけられても、黙って言いなりにならない息子が、とても強いと感じています。
 他の子供達の中にも、何人か息子の味方がでてきたようですが、相手の親が他の子供へ暴言を繰り返しているのがきっかけのようです。でも、このままではチームとしてバラバラになって行くようで、不安な気持ちもあります。
 親が参加をしない同好会の存在はないのでしょうが、介入しすぎると子供達が分裂してしまう。今回の件で本当によく分かりました。純粋にサッカーが好きでやっている子供を、心から応援したいと思います。ただ、出来たら、向こうの親御さんにも少し反省してもらいたいと思っている。私はやっぱり、いけない人間です。(苦笑)
('03.9 /切実に悩む母)

 その後の展開を気にかけていましたが、おおむね良き方向に進み始めたようで、安心しました。いただいたお便りは、強く胸を打つものでした。間に人をたてる案が不調に終わったのは残念でしたが、あなたは一人で立派に問題を処理されました。
 純粋にサッカーが好きな息子さんの意志をまず確認し、親子で公の場で非をわび、相手の親にも手紙でわびたのですから、あなたに非はもう何もありません。それでも態度を改めない相手の親こそ人間として問題で、しばらくは粛々とお手伝いの当番などをこなし、出過ぎず、目立たずの態度で時を過ごせば、事態は自然に落ち着くべき場所に落ち着くと思います。
 今回の事件の最大の収穫は、あなたが息子さんに人しての進むべきまっとうな道筋を人生の先輩として、そして親として明確に示したことです。文字に記すのは簡単ですが、それを実際に行動に移すのは、並み大抵のことではありません。
 あなたの意志は、息子さんに確かに伝わったと思います。今回のことは親子の記憶に長く留まることでしょう。人生にもし勝ち負けがあるとするなら、金や名誉、力や名声などではなく、情緒とか倫理の部分にあると私は信じています。その意味ではあなた方親子は人生の勝者で、相手の親子は敗者ということになります。それでいいのではないですか。これからも息子さんの良きアドバイザーでいてあげてください。