目に余る『がき大将』選手
はじめてメールさせていただきます。私は小学生の少年団をコーチをしている者です。
少年団は学年別で指導をしているのですが、上手い子と下手な子が一緒に練習メニューをこなしています。その中で上手い子がひとりだけ居るのですが、『がき大将』の性分で下手な子に罵声をあびせ、下手な子はおじけづいてしまって、益々プレーが出来なくなってしまいます。
結果、「○○君が居るから練習したくない!」とチームから離れていってしまい、その学年は完璧定数割れ(11人集まれない)状態に…。
父母懇親会で、本人の親御さんに相談してみたのですが、(父親がサッカー経験者)「じゃあうちの子が辞めたら良いのかぁ!」と怒鳴られる始末。練習中は、その子が罵声を浴びせたり、茶化す行動をとった時は注意して直す事は出来るのですが、普段の学校生活や、練習後の遊びの時間等にネチネチと批判攻撃をしている模様…。
その学年は、入団式の時に15名位居たのですが、今は6名まで減ってしまいました。何か良いカンフル剤があれば教えていただきたいです。特に人数が足りなくなれば、下の学年をメンバーに補強しなくてはならないのですが、悪影響にならないか心配です。
('03.2 /苦しむ指導者)
担当学年の明記がありませんが、もしもその子が原因でチーム人数が半分以下に減ってしまったのだとしたら、これは由々しき非常事態です。その間、他の指導者、父母会はいったい何をしていたのでしょうか?あくまで推測ですが、直接の指導者であり、そのチームをまとめるのに最も責任のあるあなたが、問題を一人で抱え込み、事態を抜き差しならない状態に追い込んでしまったような気がします。
教師として学校所属のサッカー少年団の面倒を見ているのか、あるいはボランティアの地域コーチなのか、はたまたどこかのクラブに雇われているプロのコーチなのかで具体的な対策は微妙に異なると思いますが、どちらにしても事態は急を要します。一刻も早く手を打つべきです。「学級崩壊」という言葉がありますが、このまま事態を放置すれば、たった一人の子のせいで「チーム崩壊」につながりかねないでしょう。
まず、信頼出来る他の指導者なり、監督なり、父母の代表なりに、事態を率直に説明し、助けを借りるべきでしょう。当人の親はほとんど期待出来そうにないですから、学校の直接の担任の力も借りる必要があると思います。とにかく、この子は日常生活が壊れているようですから、まずサッカー以前に、その日常生活から改善すべきです。
私に相談なさった経緯から考え、あなた自身が「サッカーが強ければ何をやってもいい」とは当然考えていないはずです。その信念に確固たるものがあるなら、その子は試合では使わない(あるいはスタメンを外す)という強い方針を早くから打ち出すべきでした。いきなり使わないのではなく、まず日々の練習後のミーティングなどで、子供たち全員の前で毅然とした態度で言うのです。
「一生懸命やっている他の人の文句を言う選手は、試合に出さないよ。サッカーは一人じゃ出来ないんだから。人間は一人じや生きられないのと同じだよ」と…。
個別にその子やその子の親に言うより、集団の場で対象を特定せずに言うほうが効果が高いと思いますし、指導者が真摯な姿勢で語りかければ、たとえ相手が子供でも、必ず真意は伝わるはずです。私は過去に何度もそのことを経験しています。
Jリーグの得点王にもなったことのあるウィルという優秀な選手が昨年横浜マリノスにいましたが、この子と全く同じように試合中にチームメイトのプレーに執拗に文句をいい、ついには暴力まで奮ってシーズン途中で解雇されてしまった事件をご存じでしょうか。実力第一であるはずのプロでさえ、チームメイトを尊重しない選手は、使ってもらえないのです。これは大変重い事実です。
いまからでも遅くありませんので、全指導者や父母を集めた場で、「チームメイトを尊重しないとコーチが判断した選手は、今後試合には出さない(あるいは、スタメンを外す)」という決議を、チームとしてもすべきです。もちろんその前には、先に書いた信頼出来る他の指導者や父母への、充分な根回しが不可欠です。先に書いた子供たちだけへの働きかけがもしまだ有効と判断されるなら、まずそこから入る手段もあります。
理想はこれでその子が考え改めてくれることですが、これでも事態が改善されないケースも充分考えられます。まずその子の親が怒ってやめさせる(あるいはその子自身がやめると言い出す)場合は、そのままやめていただくのがよいでしょう。チームは一時的に弱くなるでしょうが、長い目でみれば、より健全な方向に進むでしょう。
次に何らかの理由でチーム決議が不調に終わったりする場合です。「やっぱり○○ちゃんがいないと勝てないわ」などと、他の父母などから不満が出る可能性もなくはありません。その場合、もしも私なら、自分の信念と刺し違えてコーチをやめます。プロでもボランティアでも、自分の信念にそぐわないチームにはいるべきではないと私は思います。
もしもあなたが教師のお立場なら、すんなりとはやめにくいでしょうが、あたりさわりのない理由を作って、なんとしてもやめるべきです。また、それくらいの覚悟で臨まないと、この問題は解決しません。
勝利第一主義のチームが確かに存在するのと同時に、人間教育を第一に考えているチームもまた数多く存在するはずです。チームをどういう方向にもっていきたいのか、指導者にはその指針を周囲に明確に示すと同時に、それを速やかに遂行する大切な義務もまたあるはずです。