第2部〜最終話 終わりなき家作り
             /2003.5


 家を建て、住み始めてからはや3年が過ぎ去った。いい部分も悪い部分も含め、ソフト面ハード面で一応の評価が出たので、長期にわたる家作り記録の総括として、思いつくままにその結果を記してみたい。
 家作りの本などによく見られる、「結局自分のやり方が最良である」といった我田引水ご都合主義は好まない質なので、評価は公的数値などを出来る限り引用し、極力客観的になるよう心がけた。



車庫



 セルフビルドで最も苦労させられた車庫の評価をまずしてみたい。連載でも幾度か触れたように、車庫と物置は冬の玄関の出入りを風雪から守るべく、玄関を北陸地方の住宅に見られる「雁木」のように一体化して覆うよう、当初から計画されていた。ところが種々の事情から入居最初の年は施工が間に合わず、結局何もなしで一冬を過ごした。
 工事が終わったのは2年目の秋だから、これがあるかないかの差は、体験的にはっきりしている。結論から言えば、予想をはるかに超える快適さだったので、多くの人にお勧めしたい手法である。

 車庫物置は玄関ドアからまっすぐ道路まで続いている。おかげで冬の辛い雪かきの大半から解放された。必要なのは除雪車が置き去りにする道路脇の除雪と、車のフロント部に積もる雪落としくらいで、たいした手間ではない。どんなにひどい日でも、15〜20分くらいで片がつく。家族に確認したところ、毎朝一番にパートに出る妻は、この冬一度も雪かきをしなかったという。同居する二男がわずかに一度だけ。その程度で済むのだ。大雪が降れば終日雪かきに終われる北国の戸建住宅では、信じられないような話なのである。
 ロードヒーティングや融雪槽などと違い、石油や電気等のエネルギーは全く使っていない。実に安上がりでエコロジーなやり方だと思う。
 ポイントは南側を開放し、床面や屋根に太陽光線がよく当たるように計画することと、北側を壁でふさぎ、(厳密にはスリット壁で、いくぶん風の隙間がある)北からの風雪を食い止めることだろうか。

 欠点としては、開放された南側から風で運ばれてくる雪が多少あること。しかし、これは太陽が当たればほとんど溶けてしまう量だ。おなじく開放された道路側からの雪が車のフロント部分に積もる。試してないが、車の入れ方を逆にしてフロント部を建物側にすれば、かなり改善されるかもしれない。
 積雪1メートルとして部材を計算したので、当然この数値まで構造的に問題はなかった。ところが現実には部分的に吹きだまりのように1メートルを超える部分が出来てしまう。対策として、一冬に一度だけ屋根に昇って雪下ろしをした。時期はいずれも2月上旬だが、毎日の雪かきがこの屋根のおかげで大幅に軽減されているのだから、これに関してあまり文句は言えまい。だが、高齢になるとこの作業は辛いかもしれない。
 いざとなれば雪下ろしを外注すれば済む話だが、屋根の南北に緩い勾配をつけてやり、太陽光線の力で雪を通路の左右に自然に滑り落としてしまう手法を、目下検討中である。次の冬にまでぜひ間に合わせたいが、もしこれがうまくゆけば、この年1回の雪下ろしからも解放されることになる。
 雪の滑りを良くすることと屋根の閉塞感をなくすことの両面から、屋根は全面トタン張などにはせず、屋根材の一部あるいは全部に透明板を使うことをお勧めしたい。

「玄関一体型車庫」のもうひとつの利点として、雨の日に傘なしで車の乗り降りが出来、なおかつ荷物の出し入れが車から玄関ドアへとスムーズに出来ることだった。17年間のマンション暮しの中で、実に煩わしかったのがこの車庫から玄関までの移動距離が長いこと、そして雨の日に車から玄関まで、いちいち傘をささねばならなかったことである。雨が降るたび、そのすべてから解放された有り難みをしみじみ感じる。



外物置



 前述の車庫と一体構造で、スペースとしては非常に小さい。事前に入れるものを綿密にチェックしたせいで、狭さに困ったことはいままでなかった。
 冬の必需品であるスコップはオブジェとして壁面に常時飾ってあるし、妻が乗る自転車は、冬期は物置き上にあるスペースにやはりオブジェのように逆さまにして置いてある。

 唯一困ったのは冬の野菜置場だった。秋口に安売りに出る玉ねぎや大根、ニンニクやジャガイモなどの冬野菜、そしてミカンやリンゴなどの果物類は、暖か過ぎる屋内だとすぐに芽が出たりして傷んでしまう。
 最初は外物置にクーラーボックスをふたつ置いてその中にしまっておいた。ところが、このやり方だと最高気温が氷点下、つまり真冬日になると全く役に立たず、野菜や果物が凍りついてしまうのだ。おかげで外物置を作った最初の冬は、多くの野菜や果物を無駄にしてしまった。

 3年目の冬からは外物置直下の地面に穴を掘り、ブロックと60ミリの厚い断熱材で囲んで簡単な地下ムロをこしらえた。これは実にうまくいった。真冬日が何日続いても野菜類が凍ることはもはやない。ただ、このやり方はあまりおしゃれではない。屋根で覆われているとはいえ、やはり氷点下の戸外である。床面にしゃがんで蓋を取り、野菜を取り出すのは簡単な仕事とは言えず、我が家ではもっぱら制作責任者である私の仕事である。
 結局は予算との格闘になるが、屋内に非断熱空間をあえて作り、屋内から断熱ドアを開けて気軽に取りだせる貯蔵庫がやはり理想だと思う。



顔としての玄関



 北国の住宅の定番のようになっている風除室(玄関を二重に覆うガラス戸の囲い)がこの家にはない。風除室は玄関の出入り時に風雪から身を守るのでその点では確かに有り難いが、真夏は暑さで中が蒸し風呂のようになる。半端なスペースにはスコップやら自転車、植木鉢の類いが乱雑に放置され、物置き状態になってしまっている例が、街を歩くと多々見受けられる。いかにもとってつけたような二重のガラス戸が、デザイン的にも美しくない。
 出入りを風雪から守る手法は前述の「玄関一体型車庫」などのような手法で充分対応出来るし、玄関ドアの断熱性能が格段に進歩したいま、断熱の意味での風除室ももはや必要ない。古い住宅に対するリフォームは別にして、少なくとも新築住宅における風除室の役割は、すでに終わっていると私は思う。

「明るい玄関ってすごくいいわね!」と、来訪した複数の方がほめてくださる。この家の玄関ドアは断熱、コスト、防犯などの観点から窓なしの一枚ドアだが、玄関ホールの南側に大きなFIX窓を設けたのが大きい。反対に玄関をあえて薄暗くし、徐々に明るい居間へと導く建築的手法(トンネル効果)もあるが、この家では採用しなかった。北国では出来る限り多く太陽の恩恵を受ける手法がよいと思う。
 玄関ドアの配置や居間や階段との細かい位置関係に関しては、連載でも詳しいので重ねて触れないが、当初意図した通り、使いやすさとプライバシーのバランスのとれた満足いく結果が出ている。
 玄関収納に関しては、ありきたりの天井まである収納家具は避け、ごく低い靴収納と隣接する多機能クローゼットで対応したが、使い勝手は大変いい。

 玄関回りにあえて注文をつけるとするなら、土間とホールを含めたスペースをもっと広くすることだろうか。何といっても玄関はその家の顔である。狭苦しい玄関は貧相でいけない。
 この家ではあわせて3畳あり、取りあえず狭さは感じないが、土間とホールそれぞれ2畳、併せて4畳、予算が許せばもっと広くてもいい。土間の一部にベンチをしつらえ、簡単な接客をここでしたり、一部をギャラリーのようにして手作り品を飾ったり、屋内空間としての玄関をもっと多機能にすることも将来は考えたい。




階段の怪



 この家の階段は合計14段、一段が195である。踏面の寸法は220、角度で言うとおよそ42度となり、昨今では決して緩い数字とはいえない。有効幅も実測で約800、それほど広くはない。
 バリアフリーという言葉が合言葉のように世間で語られ始めてから、階段は手すりが両側にあり、広ければ広い程、また緩ければ緩い程いいと思われているふしがあり、「当社の階段は18段が標準で、高齢者にも充分配慮しております」などと、声高にセールスポイントにしているメーカーさえあるが、実はここに大きな誤解がある。
 住宅金融公庫のバリアフリー仕様では、階段勾配は確かに22/21(46度)以下という規準があるが、同時に段差と踏面寸法とが、以下の範囲に収まるよう基準がある。

●踏面寸法+段差×2の値が550以上かつ、650以下であること

 この計算をこの家の階段にあてはめてみる。220+195×2=610で、きっちり安全圏内である。仮に18段の階段で段差が160、踏面寸法を350、勾配25度の「超安全階段」で上記の計算をしてみると、350+160×2=670で、安全圏内を外れてしまう。
 要はあまりに勾配の緩過ぎる階段はかえってつまずきやすく、事故のもとになるからで、それを防ぐべく一定の基準がある。何事も「過ぎたるは及ばざる」というわけなのだ。

 実際に3年間この階段を使ってみての感想である。全く支障ない。ちなみに私の仕事場は2階にあり、昇り降りの回数は日に10度を下ることはない。やたらと段数が多いと上にたどり着くまで時間がかかり、気の短い私には全く向かないが、14段だとまあ我慢出来る数だ。若い息子にはこれでもまどろっこしいらしく、時に2段ずつ昇っている。
 有効幅も800で充分だと思う。動きながらの二人のすれ違いはさすがに出来ないが、どちらかが途中で止まれば、ちゃんとすれ違いも出来る。勾配42度も必要かつ充分な数値だと思う。私の父は88歳の高齢だが、たまに遊びにきたときも、介護なしでちゃんとこの階段を使う。(さすがに手すりにはつかまるが)

 階段の設計は住宅の中で大きなポイントを占める。階段は居住空間ではなく、単なる通路の機能しか本来ないものだ。ところが緩くて段数が多い昨今の階段は、平面に占める割合いがやたら大きく、他の空間を容赦なく圧迫する。有効幅を1000〜1100という半端な寸法にすることで、木材にも無駄な切り捨て部分が生じてしまう。予算とスペースに余裕のある計画ならこれでも問題ないが、ローコスト&コンパクト住宅ではこれが大きいのだ。
 階段の設計で私が重要視したのは、今風の流向にあわせてむやみに幅を広げたり段数を増やしたりすることではなく、階段そのものの安全性である。
 具体的には、万一の転落に備えて階段直下に窓やドアを設けないこと。回り階段をやめ、直行階段としたこと。昇り口にある踊り場には段差を一切設けず、完全な矩形を確保したこと。降り口には充分な平面スペースを確保したこと。夜間は足元を照らす常夜灯を1〜2階の両方につけたこと。(ちなみに、センサーで自動点灯する)等々である。いずれもプロでも時に見落としがちな、大事な階段設計のポイントである。

 同時に、階段にありがちな閉塞感を極力排除するべく、上部は屋根面まで高く吹き抜けとし、パッシブ換気の風の通り道とした。踏板と踏板の間は普通ふさぐが、あえてふさがずに同じく光と風の通り道とした。昼は昇降時に外の景色がこの踏板の隙間から居間のガラス越しにのぞけ、夜は居間からの光が放射状に階段を明るく幻想的に照らす。
 連載でもすでに触れたが、階段途中には壁をくり抜いたニッチ本棚を作り、踏板に腰掛けてスポットライトの下で読書にふけることもある。単なる通路の機能を越え、安全性と暮しの潤いまでも追求した欲張りな階段なのである。



トイレの位置



 トイレの位置とその弊害に関しても、連載で繰り返し触れた。この家のトイレの位置はごく普通の住宅のように玄関横にはなく、居間から続くユーティリティの一角にある。西洋のバスルームと同じような配置で、水回りがすべて集中しているので、使い勝手は大変よい。
 問題はトイレに至る二つの扉を全く閉めずに用を足すと、水音が筒抜けになることだった。戸を閉める妻と私の場合は問題ないが、3年を経ても閉めようとしないズボラな息子の使い方が相変わらず問題なのである。

 対策としては、ユーティリティに通ずる扉とトイレの扉を開け閉めのあいまいな引戸ではなく、オンオフのはっきりした開き戸に変えることがまず考えられる。開き戸であれば人は本能的に開けた戸を閉めるものであることは、我が家に二箇所ある開き戸の開け閉めの様子をじっと観察しているとすぐに分かる。だが、将来的なバリアフリー対策を念頭に入れた場合、開き戸よりも引戸のままのほうがいいに決まっている。
 もうひとつ試したいのが、トイレ内の明かり取りである。この家のトイレには窓がない。100ワットの白熱灯照明があるので何も問題はないはずだが、せっぱつまってトイレにかけこむとき、そのスイッチを入れるのが案外面倒なのかもしれないと、最近になって思い始めた。電灯をつけなければ中は暗い。暗いから戸は閉めない、という論理である。もしこの推測が当たっていたなら、トイレ上部天井近くの壁をくり抜き、比較的明るい階段ホールを介してトイレ内に上から光を落としてやれば、問題は解決するかもしれない。
 あくまでトイレなので、壁をくり抜いたあとには不透明プラスチック板などで二重にふさぐ必要はあるが、無窓のトイレの明かり対策としても、今後ぜひとも試してみたい手法である。

 たまに来る客がたまにトイレを使うとき、ふたつの扉のどちらかを必ず閉めてくれるので、来客時の問題は全くない。何やかやいいながら、子供たちがすべて家を出てしまえば、一気に片がついてしまう問題ではあるのだが。



ユーティリティの機能性



 トイレの話のついでに、ユーティリティ全体についても触れてみる。
 このページの「家作り相談」等でも一部触れたが、この家のユーティリティはコンパクト住宅の割には、かなり広いほうである。トイレと浴室を除いた部分の広さがちょうど4畳半あり、そこに洗面台と洗濯機、暖房と給湯用の二つのボイラ、そして家族分の下着用引出しと洗剤やトイレットペーパーなどを収納する棚が壁際に整然と並んでいる。とても広くて機能的である。
 壁際上部には長さ2600の洗濯ポールが3本吊ってあり、そのうちの2本は木枠にはめこむだけの構造で、来客時の脱衣カーテン吊を兼ねている。
 洗濯機横の洗面台はシンク容量21Lの大型多機能型で、バケツがすっぽり入るので、とても重宝する。洗濯の下洗いやウール物の手洗い、ときに子供たちのシャンプードレッサーに早変わりしたりもする。洗い専用シンクの余裕のない住宅には、お勧めである。
 これらの配置は設計段階で検討に検討を重ね、最終決定したもので、実際に使ってみての不満はほとんどなかった。特に気にいっているのが、洗濯作業のスムーズな流れである。下洗いや風呂の残り湯利用、洗濯干し、乾いた洗濯物の収納までも含めた一連の作業が、よどみなく進むレイアウトになっている。

 強いて不満をあげるなら、誰かが入浴中にトイレに入りたいとき、(このとき、ユーティリティは脱衣室に変貌していて、入口の引戸は閉まっている)ノックして一声かけなくてはならないこと。家族だけの場合は脱衣カーテンなど吊らないので、いきなり引戸を開けたとたん、無防備すっぽんぽんの裸身が目に入っては、やはり具合が悪いからである。
 さらに欠点をあげるなら、ボイラやその配管、干した洗濯物がいったんユーティリティに入ると、丸見えであることか。これらは壁際の目立たない場所に配置されてはいるが、来客がトイレを使うときに気になる人はいるかもしれない。ガラリ戸を手前に設けて隠せば一挙に解決してしまう問題だが、結局はコストとの格闘になる。ただ、隠し扉をつけると何もない場合と比べて、洗濯の作業性はやや落ちるかもしれない。

 もうひとつ不満をあげる。洗面台のシンクは大きくてたいそう便利なのだが、周辺に広めのカウンターがあれば良かったと思う。最近のカタログでは、カウンターだけのシンプルで安価な洗面台が発売されている。余分な収納等は一切ないが、シンク容量も大きく、実用的である。
 もし次回があるなら、このカウンター洗面台に特注の鏡を前面に張り、無垢材で作った小物収納棚を横の壁に作りつけ、丸いふたつの白熱灯で明るく照らすようにしよう。ありきたりの市販セット製品にはない、ユニークな洗面コーナーの誕生である。
(2010.1.24 洗濯ポールを本数に関する記述を変更)



眺める台所



 台所は一応妻の管轄下にあるが、毎日のように朝食や夜食の準備をし、食器洗いもいとわない私にも、台所のあれこれを論ずる権利はもちろんある。
 この家の台所の大きな特徴は、最近の特に都会の新築住宅ではあまり見られない4畳半という形状である。住宅の広告等や雑誌にある平面図で調べてみても、この大きさの台所はあまりみかけない。ユーティリティと同じで、作業空間にはやはり絶対的な空間の広さが必要だと思う。

 それまで住んでいたマンションの台所が3畳しかなかったので、引越してきた当初は面喰らった。広過ぎるのだ。食器カウンターから振り向いてシンクにむかうとき、3畳ならば単に振り向いただけでそこにシンクがある。ところが4畳半だと、シンクまで一歩踏み出さなくてはならない。この一歩が慣れるまで時間がかかる。
 もっとも、いったん慣れてしまえば問題はない。我が家は「男子厨房にどんどん入るべし」という方針なので、時に妻と私と息子の3人が同時に台所に集合してしまうことが多々ある。マンション時代の3畳台所だと、二人でもお尻がぶつかって邪魔くさいことこのうえないが、この広さだと狭さを全く感じない。
 ユーティリティにも同じことが言えるが、4畳半という正方形状は、実際に使ってみると作業動線が短くて大変使いやすい。最近の部屋ではあまりみかけなくなったが、茶室の原形でもある由緒正しき形状でもあるので、もっと見直したい。

 この家の台所のもうひとつの売りは、暖かさと明るさ、そして眺めの良さである。設計段階での妻の唯一の注文がこれで、夫として設計のプロとして、長年の妻の労苦に報いたのは当然のことである。
 シンク正面は南西を向いていて、そこに横1240×高さ750の台所としては大きな窓がある。通風用として北側にも小さな窓があり、居間と台所を隔てる壁はこれまた妻からの要望で1800×1800という大きな寸法で切り開かれている。従ってこの窓と居間開口から一日中陽の光が溢れ、大変に明るく、そして暖かい。
 シンク前の窓からは四季の花々が咲き乱れる庭と、遠くには手稲連峰の山並みがのぞめる。とかく暗い片隅に追いやられがちな台所だが、思い切って陽のあたる場所にもってくるのも、北国の住宅では大切な知恵かもしれない。

 台所で悔いが残るとすれば、システムキッチンにごく普通の市販品を使ったことだろうか。山小屋風の内装に洒落た都会風のデザインは、どうもしっくりこない気がする。
 システムキッチンに既製品を使わない建築家も少しづつ増えてきたが、ある雑誌でレンガを積んでその上に集成材天板をのせ、キッチンセットにしつらえた大変ユニークな作品を見たことがある。そこまでやらずとも、枠を無垢材で組立て、ドアは建具屋に特注、カウンタートップだけに既製品を使えば、かなりユニークなエロコジーシステムキッチンになる。試算してみたら、エコノミータイプの既製品と変わらない値段で出来そうだ。使うにはかなりの勇気と決断が必要な気がするが…。
(2003.5.19 システムキッチンに関する記述を追加)



IHヒーター



 調理用熱源にはガスではなく、IHヒーター(電磁調理器)を取りつけた。この地区に都市ガスはなく、太いボンベを家の外壁に何本も並べなくてはならないが、そのみっともなさが嫌だった。予告なしにガス欠してしまう腹立たしい経験もアパート時代に幾度かある。50歳を過ぎ、値は張るが火災の心配の少ないIHヒーターに、この際変えてしまおうと妻とも話しあった。
 心配していた電気代は、思っていたほどかからない。石油代も含めた総光熱費は、面積がはるかに少なかったマンション時代と比べて、なぜか大幅に減少したのである。

●引越し直前1年の光熱費(電気、ガス、石油):190,147円
●引越し1年後の光熱費(電気、石油):163,900円

 家族数はいずれも4人で、生活形態に大きな変化はない。最新のデータ(家族数3人)では、光熱費がなんと130,910円にまで減少している。これらの数値をみると、電磁調理器は不経済どころか、エネルギー消費量の少ないローコスト熱源ということになる。

 電磁調理器からは電磁波が発生する。近年になって発ガン性との因果関係が取りざたされている。これを根拠に、「電磁調理器は危険だから使わない」と公言している建築家もいる。色々と調べてみると、安全性に関する確固たるデータは、一切得ることが出来なかった。しかし、「だから安全」とは断言出来ない。シックハウスや薬害問題だって最初は因果関係がはっきりしなかった。
 電磁調理器と並んで電子レンジも強い電磁波を出している。携帯電話からの電磁波も健康への懸念があるという。別コーナーのQ&Aでも触れたが、ほとんどの新築住宅やマンションで大量に使われている石膏ボードからでさえ、発ガン性のある放射性物質ラドンが放出されている。だが、こちらも健康との因果関係は現時点でははっきりしていない。

 現代人は実に多くの危険にさらされながら暮しているようだ。実験データによれば、電磁調理器や電子レンジも1メートル以上離れると電磁波は急速に弱まる。使用中はレンジから極力離れるのが取りあえずの防衛策だろうか。調理時間も早く、レンジ回りの掃除もガスに比べると格段に楽で、経済的な熱源でもあるのだが、健康に対する不安や懸念のある方にはあえてお勧めしない。



座る居間



 この家の居間には、世間一般の居間によく見られるソファセットや食卓セットのたぐいが一切ない。あるのはセルフビルドでこしらえた特大サイズの台形テーブルだけで、その周囲にありあわせ端切れで作ったざぶとんが数枚。妻の昼寝と収納を兼ねたベンチが窓際に1個。テレビ台を兼ねた長い収納ベンチが壁際にあるだけである。
 食事、団らん、接客などの一切を、この大型台形テーブルの周囲で行う。座るのは基本的に床の上で、ベンチに腰掛けるのは本当に気が向いたときだけだ。

 なぜ床の上なのか?と考えてみた。新婚時代には乏しい資金をやりくりして、人並みに二人分の食卓セットをちゃんと買った。家族が増えてからは最大7人が使える大形テーブルをランバー合板で自らこしらえた。
 ところが子供たちの成長につれ、だんだん家族が椅子とテーブルで食事をとるシーンが減ってきた。マンション時代のLDKには、テレビの前に別の専用座卓が置いてあり、ご丁寧にこたつ用のヒーターまで取りつけてあった。1階だったマンションは夏以外は足元が常に薄ら寒く、食事を終えた家族は、そそくさと暖かなテレビの前に移動してしまう。
 独り食卓に取り残されるのは、晩酌を長々続ける(といってもビール1本だが)私だけ、ということになり、元来子供や妻相手に能書きを垂れながらだらだら食事を続けるのが大好きな私にとっては、非常に辛いものがあった。
 そんな状態が日常化していたある日、「椅子とテーブルを解体して、大型こたつに改造するぞ!」と家族に宣言したのは、他でもないこの私である。かくして90センチ×180センチの大型特注こたつは居間の中央に鎮座し、食事はもちろん、子供の勉強やゲーム、ときには私の仕事の出張所として、多機能な役割を延々果たすことになったのだ。
 思い返せば、これが現在使っている多機能台形テーブルの原形である。

食事→団らん(オヤジのたわ言)→テレビ観賞→たまに読書→疲れたらうたた寝→起き上がって夜食→たまに仕事のアイデアスケッチ→ごくまれに接客

 これらの雑多な日常行動の一切が、すべてこの台形テーブルに座ったまま出来る。ずぼらな私たちの生き方暮し方にピタリ合った便利このうえないこの手法は、今後とも手放すことは到底考えられないのである。(人様にあえてお勧めはしません)



風水



 風水や家相に関してこれまでほとんど触れていないが、実は結構勉強していて、それなりに知識はある。自宅の計画においても充分に配慮したつもりだが、いくつかの不備はどうしても残ってしまった。
 風水や家相には建築学上の裏づけがあるものと、全く無関係なものとがある。「だから無意味だ」などとは決して思わない。絶対的価値観に乏しい現代において、こんなささやかなことで人が心の安静を得られるのだとしたら、むしろ積極的に活用すべきだとさえ思う。

 今回の計画で生じたいくつかの矛盾には、古くから語り継がれてはいるが建築学的根拠に乏しいものは、さまざまな「対策」を講じ、対処した。この家における風水や家相上の長所と短所、及びその対策を順に列記する。

《長所》
●家本体の形状が矩形の総2階で、いわゆる「欠け」がない。
 欠けのない形状は、構造、断熱、コスト面でも非常に有利。

●すべての部屋と収納の形状が矩形で、欠けがない。
 無理に収納を作ることによって部屋が不自然にいびつな形状になっている部屋が建売住宅や規格住宅によくみられるが、これによる「欠け」の部分は面積にこそ含められるが、有効空間としての意味はほとんどない。極力なくすべきだろう。

●南東の玄関
 いわゆる「辰巳の玄関」というやつで、家相上は最高である。建築上の根拠にはやや乏しいが、陽当たりのいい明るい玄関、という点では確かにいい。

●白い窓枠
 風水では白は邪気を払う最高の色とされている。コスト上やむなくだったが、外と内の境界にあたる窓枠にいまどき流行の暗色系ではなく、あえて白をもってきたところがミソ。

《短所》
●東側車庫&物置の増設による全体形状の欠け
 車庫&物置は付帯設備なのでそう気にすることもないが、全体形状で見ればやはり欠けとなる。そこで、北東の欠けの頂点に白い花(タチアオイ)を数本植え、なおかつ砂とレンガで小さな塚を作って対処。ちょうどここに汚水枡もあって風水上はあまり良くない。現在はタチアオイの枝が完全に汚水枡を覆うように成長した。

●家の中央にある階段
 中央階段は運気が逃げると風水では嫌われる。暗がりになりやすく、通風が悪くなりがちなのも問題のようだ。対策として、階段を上り詰めた正面に鏡を置いた。運気が逃げないよう鏡で反射させ、家に留まらせるという仕掛けである。明るさ対策として階段上部を吹抜けにし、上から光を落とした。通風に関しては階段最上部に排気口を設け、家全体の風の通り道にしているので問題なし。

●北東の浴室
 浴室に限らず、トイレや洗面所などのすべての水回りは北東(風水、家相上の鬼門)に配置するのはよくないとされている。だが、実際に平面プランを練ってみると、これら水回りは北東あたりに配置するのが最も都合がいいはずである。
 実はこの「北東の鬼門」には、建築学上の根拠がない。古来、中国で北方民族がしばしば襲撃してきた方向がこの北東ということから「鬼門」と呼ばれるようになったわけなのだ。命を守る重要な「水回り」(当時は井戸)や、敵の襲撃を受けやすい玄関出入口は特にこの方向に置くな、との言い伝えも、もともとはここからきている。
 従って現代ではほとんど無視していいはずだが、それでも対策は講じておくにこしたことはない。要は気分の問題だ。我が家では水回りの設備機器やカーテン、小物類に極力「白」を使って対処している。

 他にもさまざまなチェックポイントがあり、そのすべてをここに記すことはとても出来ない。最も問題になりそうなのは、たとえば「階段下トイレ」「玄関前真正面トイレ」「玄関前真正面階段」のように、風水上も建築学上も最悪で、しかも対策の講じようのない間取りの場合である。先に書いた「いびつな部屋」もそうだが、この種の間取りに限って巷に溢れかえっているから油断ならない。
(2003.7.7 この項目全体を追加)



収納全般



 日本人は世界中で一番モノをもっている(しばられている?)人種だと、NHKのドキュメント番組でやっていた。モノが好きで好きで買い漁り、なおかつ捨てられてない困った人種なのである。我が家では不要なものは極力買わず、「ひとつ買ったらひとつ捨てる」を合言葉に、何とかモノ達からの誘惑に立ち向かっているが、それでもある程度のモノは家の中に歴然としてある。
 新築を機に相当数の不要品を思い切って処分したが、それでも残った最低限必要な品々をリストアップし、新居の収納空間にそれらがきっちり収まるよう、綿密な計画をたてた。

 外の備品についてはすでに詳しく触れたので、屋内に収納したモノ達とその場所を列記する。

●衣類
・常時使うスーツやコート類:階段下多機能クローゼット(800×1350×高さ2400)
・下着靴下シーツ類:ユーティリティ内手作り引出し(700×600×深さ300×3個)
・セーターやズボン等:居間内既存のタンス
・布団、毛布類:2階押し入れ(2700×2400×奥行き900)
・古い衣類等:押し入れ内段ボール箱合計6個
・靴:予備も含めてすべて玄関内靴箱(600×1200×奥行き300)

●台所用品
・常時使う食器類:手作り食器棚(1800×1800×奥行き300)
・ほとんど使わないが、捨てられない食器や台所用品:台所床下空間
・鍋フライパン類:台所壁とシンク下収納
(ちなみに、「台所天袋収納」や「幅木収納」の類いはこの家にはない)

●趣味雑貨
・本:仕事部屋と階段、居間などにある手作り本棚4ケ所に分納
・仕事用備品:仕事部屋にある手作り引出しと棚
・子供私物:手作りベット下にある棚と収納空間(900×1800×高さ600)
・ひな人形、端午の兜等:押し入れ最上段ロフト部分
・日曜大工備品:階段下多機能クローゼット下段
・日曜大工材料:押し入れ下段とロフト部分
・日用雑貨:居間ベンチ下手作り引出し(450×600×深さ300×3個)
・衛生雑貨:ユーティリティ内手作り棚(900×900×360)
・古新聞、ミシン、掃除機、裁縫箱、アルバム:階段下三角収納(900×900×奥行き600)
・スキー、キャンプ道具、卒業アルバム等:居間床下空間
・あまり使わない日曜大工備品:ユーティリティ床下空間

 実際に来て見ていただくと分かるが、整理に関与しない子供のコーナー以外はほとんどモノは外に溢れていず、実に整然としている。主に手作りで作った棚類に扉はほとんどなく、あっても端切れで作った暖簾だけである。モノは並んだまま目に入るものも多く、片づいてはいるが、クールで平坦な印象はしない。

「どうしてこんなにモノが少ないの?!」と初めて訪れた多くの方が驚くが、この家にモノが溢れていない大きな理由は、綿密な収納計画と「買わない増やさない」の家計方針につきる。それは私たち夫婦のめざすローコスト&シンプルライフにどこかつながっている。



屋外に使った木材



 ソフト面の評価が尽きたので、材料やシステムに関連するハード面の評価に視点を移そう。

 木材を屋内ばかりでなく、屋外にも多用したのがこの家の大きな特徴である。木材は自然素材の王者のような存在なので、根強いファンが多い。「癒し」を求める現代社会の潜在的ニーズとも合致しているようだ。計画的に植林すれば、石油系素材と違って資源の尽きる心配もない。焼却時に二酸化酸素を放出する可能性はあるが、生長時にそれ以上の二酸化酸素を吸収して酸素を放出するので、エコロジーな循環型素材でもある。
 だが、近年の日本でそれほど爆発的に普及しないわけは、メンテナンスの手間がかかるからだろう。木は生きている素材なので腐食や寸法狂いの心配が常につきまとう。多くの住宅が生産性を追求したハウス産業の商品として成り立っている日本の現状では、これらクレームの元になる施工者側にとっての「危ない」材料は、極力排除したいのが本音なのだろう。
 規格化された合板や石油系工業製品が住宅産業に根強く生きるわけは、些細な隙間や狂いに細かなクレームをつけるユーザー側の論理に、根本的な要因があるように思えてならない。

 3年を経たあとの木材の様子を屋外に絞って報告すると、厚みのあるツーバィ材を使った箇所はほとんど問題が出ていない。10.5センチの柱も全く問題ない。塗装はドイツのオスモ社製ワンコートオンリーの1回塗りだけだが、あと2年は再塗装なしでいけそうだ。
 厚さ17ミリの松パネル材を使った箇所は、塗装の禿げかかった箇所が多少ある。しばらくは部分補修で済むが、(禿げた場所に紙ヤスリをかけ、再塗装)いずれは全面張替えの必要があるかもしれない。補修や張り替えを考慮し、屋外に使う木材は足場を組まずに脚立程度で手が届く場所に留めておくのが無難である。
 傷む場所は強い日射しの当たる場所である。この家の場合、1階南側にある外壁と、ウッドデッキの床材の傷みが早い。どちらも日射しと冬の積雪や雨などのダメージを繰り返し受ける場所で、こういう条件下での木材の使用は要注意だ。特に南側外壁の松パネル材は本実加工のかくし釘で施工されているせいか、収縮して材料間の隙間が部分的に目立つ。反対に、日射しの弱い場所や水に濡れない箇所はほとんど問題がない。

 こまめな補修や全面張替え以外の対策として、値は張るが、木材そのものに耐候性の強いレッドシダ−系の材料を使うことがまずあげられる。施工方法としては、見てくれにこだわらず、ビス止めなどで耐力を強めたほうが狂いが少なくなる。
 塗料は顔料の色の濃いもののほうが傷みが明らかに少ない。塗装メーカーに聞くと、顔料が薄いとどうしても紫外線の影響で痛みが早いという。近所にほぼ同じ時期に完成した一部板張の家があるが、薄いパイン系の塗装色のせいで、傷みがかなり激しい。
 張り方としては、雨仕舞いのよい縦張りを基本とし、まず間隔を空けて張ったあと、もう1枚上から間をふさぐように張るやり方が狂いが少なくて安全である。(「大和張り」などと呼ばれ、北欧系住宅の外壁にも用いられている手法)南外壁の張替え時期がいつかきたとき、今度は文句なしでこの手法でいこうと思う。

 これら屋外に使われる木材のメンテナンスに関しては、木製サッシでも同じことがいえる。サッシの場合、手入れを怠って交換に至ると、手間と費用が外壁やデッキとは比べ物にならないから、よくよくの検討が必要である。およそ5年毎といわれる塗り替えが出来ないような状況がもしも想定される場合、木材の使用そのものを考えなおしたほうがいいかもしれない。
(2006.6 南側外壁を大和張に変更)




鉄板外壁



 外壁にあまり使われない鋼板の大波ぶきを採用したのもこの家の大きな特徴である。鋼板を外壁に使う例は設計時点ではあまりなかったが、近年になってかなり見られるようになってきた。雪や凍害に強く、雪に映える渋い材質感は、北国の住宅にはよく合うと思う。
 この家に用いたワインブラックの色と大波縦ぶきという大胆な組み合わせは、木材や三角屋根とよく似合っている。いまだに雑誌や街角で一度も見かけたことがない色とふき方というのも、結構自慢だったりする。
 見栄えのするけい酸カルシウム系やセメント系のサイディングが市場を席巻しているが、凍害に弱く、7年程度で塗り替えや吹き付け直しなどのメンテナンスが必要になってくる。石やレンガ、木材を模した製品も多く見られるが、本物のきらめきにかなうはずもなく、しょせんはまがい物のたぐいと言わざるをえない。

 使った鋼板は5%のアルミニウムが入った「ガルファン鋼板」と呼ばれるもので、3年を経てサビや塗膜のはがれなどは一切みられない。メーカーでは通常の使用条件下で、赤サビ防止10年の保証をしている。
 単位面積あたりの単価が数百円アップになるが、アルミニウムを55%含んだガルバリウム鋼板のほうがよりサビに強い。予算が許すなら、こちらを使ったほうがベターである。ただし、こちらも塗膜の保証は10年までで、ガルファン鋼板との差は明確でない。海岸や工業地帯にごく近い地域では、ガルバリウム鋼板のほうがより優れている結果が、過去のデータとしてはっきり出ている。これらの心配がない地域では、あまり大きな差はないかもしれない。
 いずれにしても、「永久にサビないことを保証する」という製品はあり得ないので、万一の塗り替えに足場の組立てが必要な外壁だけ寿命の長いガルバリウム鋼板を使うなど、予算と相談して使い分けるのも手である。

 鋼板ぶきの壁はほとんどのパーツが板金屋への特注となるため、意外に施工単価が高い。この家の設計段階ではまだなかったが、最近、比較的安価な工業生産品のガルバリウム鋼板製品がでてきた。石膏ボード下地などの防火対策が不要の防火認定を単体で受けている優れもので、各種パーツもそろっている。普及すれば街並みを一変させるかもしれない。

 鋼板を壁に使った場合、昼夜の温度差による収縮で壁から「パキン」という音がときどきする。音がするのは太陽の当たる南側の壁からで、夜12時前後と、強い日射しのあたる午前中である。これは鋼板の宿命のようで、眠りをさますほどの音ではないが、情報が何もないと最初は驚くかもしれない。
(2010.1 建築後10年を経ても、鋼板外壁部にサビ等は一切見られない)



落雪三角屋根



 都会や地方を問わず、最近の北海道の住宅の屋根は、「スノーダクト工法」と呼ばれるフラットな屋根形状が圧倒的に多い。20年ほど前から盛んになった工法で、屋根に積もった雪を落とさずに水平な屋根に留め、自然に溶かして建物内を通るダクトから流すという工法である。敷地が狭く、隣家との落雪トラブルに悩む人々の圧倒的な支持を得た。
 屋根はほぼ水平に施工されるので、家の外観は無愛想な立方体となり、デザイン的処理はかなり難しい。そのまま施工すると単なる「お豆腐ハウス」といった印象になりかねないのだ。デザイン的に見栄えを良くするには、外壁材や破風の材料選定、サッシの大きさや位置の調整、玄関や物置、車庫等の付帯設備とのバランスなど、卓越したセンスが必要となるが、街を歩いて「おっ、これは」という優れたセンスのスノーダクト住宅に出会うことは稀である。
 そんなスノーダクト工法だが、狭小地ならともかく、敷地が広くて落雪トラブルとは無縁な家にまで広く使われている。北海道人はよほど皆と同じがいいのか、はたまたデザインセンスそのものが欠落しているのか。

 この家の設計にあたって、このスノーダクトフラット屋根は全く構想になかった。敷地は54坪でそれほど広くなく、スノーダクト工法を採用してもおかしくない状況にある。だが、屋根は本来三角であることが最も利にかなっていると私は信じている。
 現在、50軒近くある近隣地区の新築住宅の中で、三角屋根の家は我が家を含めてわずか6軒しかない。家をスノーダクト工法のフラット屋根で建てたばかりの人が我が家にきてこういった。
「やっぱり三角の屋根って、家らしくていいわね。ウチも三角屋根にすればよかった…」

 三角屋根の利点を思いつくままあげてみる。

・家らしい外観で、デザイン的処理がしやすい。
・屋根裏をロフトなどに利用出来、遊びのある内部空間が演出出来る。
・雨や雪を無理なく、すみやかに建物外に排出可能。
・雪止め等を設けず、雪を落とす設定の場合は構造材が少なくて済む。

 反対に欠点は、狭い敷地では落雪の問題があることである。つまり、この落雪問題さえ解決すれば、重い雪を無理に屋根の上に載せ、ダクトからの漏水や凍結におびえることもないわけである。
 この家を建てた当初は、落雪対策として南北両方の屋根に雪止め金具をつけていた。初めて住む土地なので、雪の量や風の吹き方が読めなかった。設置方法は札幌市の規準に則ったもので、充分な数があり、バランスよく配置されたものである。おかげで最初の冬は落雪問題とは無縁だった。屋根を支える構造材も、当時の市の規準通りに積雪1mで計算してあった。
 だが、雪の積もり方を一冬じっくり観察したところ、強い北風の影響で、南側の屋根上に大きな吹きだまりが出来る。反対に北側の屋根の雪は風で飛ばされて、それほど多くない。雪は落ちないのだから問題はないのだが、建物に余分な負荷をかけるだけの無用な雪は、なるべく早く下に落としてしまったほうがいいに決まっている。
 考えたあげく、2年目からは南側屋根の雪止め金具をすべて取り外した。隣地との距離があまりない北側の雪止め金具は規則上外せないが、余裕のある南側は外しても問題なかった。

 その後3シーズンを経ての結果である。南側屋根は、積もるはしから雪がサラサラと少しずつ下に落ちてゆく。隣地に迷惑はかからない。落ちるきっかけは日射によって雪が溶け、滑りやすくなるからで、滑雪タイプで熱を受けやすい色の濃い鉄板を屋根に使ったことがよかったようだ。
 北側屋根の雪はもともと少なく、最大で40〜50センチといったところか。積もってもやはり日射で少しずつ溶け、流れ落ちる。もちろん隣地には落ちない。溶けた雪が夜間に凍結することは当初全くなかったが、入居6年目の冬、一時的に北側や南西角部にツララが発生した。長さは最大1メートルで、やがて自然落下したが、屋根断熱や通風をきちんとしても、ある条件である程度のツララがときに発生するのは、避けられないようである。
(その後、大きなツララは発生していない)
 屋根に積もった雪がときに重い氷解となって雪止め金具を引っ張り、屋根面を傷めてしまう事故がかってよくあり、スノーダクト工法普及の一因となったが、この手法に従えば屋根に負担はほとんどかからない。スノーダクト工法と何ら変わらない効果が、三角屋根でも得られるのだ。

 屋根勾配は熟慮の結果、0.5(26.6度)とした。あまり緩すぎると雪が速やかに落ちないし、デザイン的にもつまらない。かといってきつ過ぎると、内外壁材や構造材が余分にかかる。だが、勾配がきついほうが室内空間を面白く演出しやすい。ころあいが実に難しいのだが、この0.5はこと落雪に関すればほどよい数値だった。デザイン的にはもう少しきつくてもいい気がする。コストをにらんだぎりぎりの数値は、0.5〜0.7の範囲ではないだろうか。
 雪の落ちる南側は落雪による傷みに備えてほとんど庭木は植えず、完全無農薬有機農法の家庭菜園にしてある。冬に積もった雪の山が春には溶け、地面下に水として充分貯えられるので、種まきの直後以外に水やりを全くしなくても野菜がすくすく育つ。落雪三角屋根の隠れた効用なのである。
(2010.2 ツララに関する記述を追記)



あばれるハードボード



 近頃は忘れられた存在であるハードボードに再度光をあて、仕上げなしで内壁に使ったことは連載でも繰り返し書いた。再生紙や木材チップを原料とし、ホルムアルデヒド放出量ゼロのエコロジー素材であることがその最大の理由で、その意味での当初の目的は十二分に果たせたと思う。(ホルムアルデヒド濃度の室内測定値については後述)
 ところがハードボードは湿気に弱く、寸法安定性が悪い、すなわち狂いやすいという大きな弱点があった。湿気に関しては室内湿度を低く保ち、使う場所を限定すれば済むが、狂いやすいという欠点はカバーが難しく、前述の木材の収縮と同じでクレームの元になるだけなのだ。最近の住宅でほとんど使われなくなった理由も、ある程度理解出来る。

 この家ではすべての内壁にハードボードを使ったので、特に水がかかる場所に問題が起きた。具体的にいうと台所回りと洗面台の側壁で、これらの場所はただちに化粧スレート板やパインパネル材で上をおおい、水や油から保護するようにした。
 水ががり部分は石膏ボードにクロス張などの仕上げでも、やはり数年で汚れやはがれの元になる。これらの場所は多少の支出増を惜しまず、タイル張か化粧スレート板(または化粧けいカル板)、あるいはステンレス板などの水や油に強い素材を最初から選択すべきであることを思い知った。

 第二の問題である寸法安定性の悪さに関しては、24時間パッシブ換気と全室セントラル暖房の安定した室内環境に大いに期待していたが、現実には場所によってかなりの狂いが出た。
 JIS規格ではこの寸法変化率が0.5%以下と定められている。この家のほとんどの壁に使われている2400の長さだと12ミリ、相当の量である。最も狂いの出た南側の壁で測ってみると、床との隙間が最大で8ミリあった。計算すると0.33%で規準内なのだが、設計者である私でも目に入ると気になる。3年を経て収縮は収まったが、あまりにひどい場所は幅木(床と壁の交差部分にあてがう帯状の木)の打ち直しなどの対策を、いずれ講ずる必要があろう。
 この家の幅木は、コストを下げるために壁と同じハードボードを細く切って使用した。収縮の可能性のある場所には、壁や床の収縮にあわせて収縮を10ミリくらいまで吸収できる特別な幅木がある。値は多少張るが、もしもけちらずにこの製品を使っていれば、問題はなかったに違いない。
(30坪クラスのこの家でこのスライド幅木を使った場合、約5万円の価格アップとなる)
 幅木部分はどんな工法の場合でも狂いの出やすい木造住宅の危険ゾーンのひとつで、住宅相談などでも結露の次くらいにこの種の相談が多い。床下を居住空間と同じ温度にする「床下暖房」の場合、乾燥による寸法狂いは特に出やすいようだ。

 ハードボードは収縮による目地ずれが気になる箇所も部分的に出た。下地の不都合で施工時に波がうったように変形している箇所も一部ある。エコロジーという一点から論ずれば大変素晴らしい材料だが、家の体裁が気になる方にはあまりお勧め出来ない材料である。
 エコロジーとコストの両面で現時点でお勧め出来る素材は、ホルムアルデヒドの問題がないごく普通の石膏ボードに、無害の接着剤で貼ったエコクロス(再生紙と木材チップで出来た製品)ということになろうか。クロスには一切塗料を塗らず、汚れが気になりそうな場所には無垢材の腰板を張り、水がかり部分には前述の材料を使う。
 ただし、石膏ボードにもラドンという放射性物質の放出問題の危惧がつきまとう。何らかの形での24時間換気は必須だろう。エコロジーとコスト、そしてデザインの三者共存は、プロでもなかなか難しい命題なのである。
(2003.5.16 スライド幅木コスト試算を追加)
(2005 南側1〜2階幅木を無垢材幅木に変更)



無垢材の床



 思い切って壁用の安いパイン材を使った1階床について報告したい。平米あたりの単価が4000円以下という破格だったが、厚さは17ミリあり、無垢材であることに変わりはない。暖かく、柔らかい足触りは年中スリッパなしの素足で過ごせる心地よさで、一度その感触を味わうとほとんど病みつきになることうけあいだ。台所やユーティリティなどの使用条件の厳しい場所の床は、本来水や汚れに強い化学製品が向いているが、委細構わず全面的に使った。
 ただ、やはり壁用なので、乾燥による経年変化が激しい。価格が壁用の倍近くする床専用の無垢材は、含水率が10%以下に調整されていて、乾燥による経年変化に極めて強い性質を持っている。壁用の無垢材の場合、含水率はツーバィ材と同様の17〜18%で、ある程度の狂いは覚悟しなくてはならない。その分安いわけである。
 壁用の無垢材の場合、この収縮による狂いを目立たなくするため、材料と材料の横の継ぎ目をあらかじめ斜に削ってある。ところが、床に使用して収縮が進むと、この部分の隙間がかなり目立つ。床に落ちたこの溝にゴミが詰まりやすく、美感上もよろしくない。

 ただ、だからといって狂いの少ない合板フロアーを使う気にはならない。美しく塗装されていて見た目も美しく、キズやへこみにも強いが、本物の木材は表面数ミリ程度。その下はしょせん合板である。
 ユーザーの当初のうけはいいが、長い目で見たクレームは、無垢材のほうがはるかに少ないという施工者側の話を、数多く聞いたことがある。無垢材なら仮に重いものを落としてキズやへこみが出ても、ヤスリで均して塗料を塗りなおせば、ほとんど気にならなくなるが、表面と中身の異なる合板フロアーの場合、修復作業がかなり難しく、直しても必ず痕跡が残ってしまう。

 この家の場合、塗装は入居直前にドイツのリボス社の自然塗料を一回だけ塗った。本当は2回塗るのがいい。だが、予算と時間がそれを許さなかった。その代わり、同じリボス社の汚れ落とし兼用ツヤ出しワックスを購入し、手入れ用として時々塗っている。
 特に汚れが目立つときには、クレンザーを雑巾に薄くつけ、こすればすべて落ちる。これだけの手入れで、床は当初よりもかなりツヤが出て輝いている。収縮による隙間を我慢出来るなら、安価で快適な無垢材床として、断然お勧めである。ただ、台所だけは汚れが目立つので、布のマットを全面に敷いて対処している。

 かなり割高になるが、床専用の乾燥無垢材で自然塗料をあらかじめ塗っている床材がある。手元にサンプルがあり、家の床と同じ条件にして経年変化の様子を見ているが、乾燥による狂いはほとんどみられない。30坪の床で試算すると約30万円割高になるが、塗装手間が不要になるし、床下暖房のような乾燥しやすい条件下では、お金に見合う満足度が得られる材料だと思う。
(2003.5.15 材料単価に関する記述を訂正)



OSBの床と天井



 2階床と天井に使ったOSB構造用パネル(OSB合板)の評価に関しては、すでに連載でも詳しく触れた。重複するが、ホルムアルデヒドやラドン等の放出の危険性が極めて少ない、安心して使える数少ない合板のひとつである。
 吸水による厚さ方向への膨張率が12%(12ミリ厚の場合で13.4ミリ)、長さ方向への膨張率0.3%(1820ミリ長で5.5ミリ)という規準がある。「OSB合板なんか内装に使うと、湿気でブクブクに膨らんじゃうよ」と、建築前にいろいろな人からさんざ驚かされたものだった。

 ところが3年半を経たあとの様子を各所で観察すると、懸念された厚さ方向への膨らみはほとんど確認出来なかった。長さ方向への狂いは天井板の一部で見られるが、最大で1ミリ程度。よくよく注意しなければ分からない。用心して板相互に5ミリの目透かしをとったので、板本体の歪みも全くない。
 床に使った部分では、この膨らみや狂いは全く見られない。連載の1部でも書いたが、床材の固定には業者が釘の補助用に専用床ボンドを使ったので、頑強に固まっているのだと思う。使用条件の厳しい床材に使った場合、木材チップのはく離等が心配されたが、表面は極めて平滑でへこみもほとんどなく、床材としては合格点を与えていい。ただ、足ざわりは無垢材にかなわない。冬はスリッパなしだと足がひんやり冷たい。平米あたりの単価が1000円以下と超破格だが、ある程度の代償は払う覚悟がいる。

 OSBには「刷判」と呼ばれるスタンプが平滑な面にでかでかと押されている。等級や生産地、JAS規格に合格していること等が記されている安心のしるしなのだが、内装に使おうとするとこれが邪魔になる。スタンプのない裏面はざらついていて、天井などの高い場所なら問題ないが、人肌が触れる可能性のある場所では使いにくい。
 ところが、これらの問題を一掃する製品に先日偶然出会った。仕事帰りによく立ち寄る大形DIYショップで、何か面白い材料はないかとぶらついていると、「ユーロストランドOSB」と書かれた大きな看板が目に入った。近寄ってみると、これまでの北米産OSBとはどことなく色合いや肌触りが違う。さらに調べると、どうやらドイツで生産された全く新しいOSB合板らしかった。
「安全なFC0合板」「両側が平滑で、内装材に最適」とあり、価格も北米産よりむしろ安い。スタンプをわざわざ消す「サンダーがけ」などの手間と費用が不要になるのが何よりありがたい。JAS規格適合品なので、従来通り構造パネルとしてももちろん使用可能だ。
 自宅でさらに調べると、昨年末に国内大手建材メーカーが、独占輸入契約を結んだらしい。品質・膨張に対する精度も北米産より優れていて、さすが環境先進国のドイツだと思った。塗料には内外ともドイツ製を使ったが、今後はこの「ユーロストランドOSB」を積極的に設計に取り入れたいと思う。



プラスチック窓



 コスト面の制約から木製サッシを泣く泣く断念し、プラスチック窓を全面的に採用した顛末は連載でも詳しく書いた。塩化ビニール製のプラスチック窓は廃棄時にダイオキシンが発生する可能性があり、エコロジーな素材ではないと声高に言われている。
 原料の塩ビモノマーに発がん性の可能性があり、製造工程でダイオキシンを発生させてしまう等の問題もあるようだ。断熱性能も木製3重サッシに比べるとやや劣る。しかし、現実に3年半使ってみて、そう悪い評価ばかりではないことが分かってきた。

 まず、最も問題視されている環境面に対する悪評である。合板のホルムアルデヒド問題と異なり、サッシとして使っている限りでは、素材そのものからの直接的な有害物質の拡散はない。廃棄時の焼却や埋め立てによる環境への悪影響が最大の問題点なのだが、最近になって業界が自主的に塩ビサッシのリサイクルに取り組み始め、試作品の制作や廃棄サッシの拠点作りの具体的な行動にすでに取り組んでいる。(2002.12「PVC News」より)
 建物解体時に出る廃材を規制する「建築資材リサイクル法」(2000年秋施行)では、塩化ビニール製品については現時点では検討課題のままで対象外である。しかし、業界のこの自主規制が本格化し、塩ビサッシのリサイクルが確立すれば、少なくとも塩ビサッシに対する環境面での罪悪感の一部は払拭されることになる。
 本来塩ビサッシは強い耐候性、耐久性、自己消火性があり、この面に限れば木製サッシよりも性能的にははるかに優れている。断熱面ではLow-Eペアガラスを使えば木製と同等で、アルミよりもはるかにいい。

 最近、知り合いの建築家が、自宅に使った木製サッシを新築後10年も経たぬうちに一部交換した。トリプルペアガラスの高級品だが、木部の老朽化が激しく、交換を余儀なくされたという。
 どうして?と尋ねてみると、「トリプルペアグラスの木製でも、条件によっては結露するんですよ」と、知人も歯切れが悪い。どうやら結露による木部の劣化が直接の原因のようだが、いわゆる紺屋の白袴で、こまめなメンテナンス(再塗装)を怠ったことも遠因になっているようだ。
 耐候性の向上とメンテナンスフリーをねらい、外部面だけにアルミニウムを使った木製サッシも最近はよく見かける。だがこの場合、室内から木部に浸透してきた水分が木部とアルミニウムの接合面で結露し、内部から黒カビを発生させて劣化を速めることがあるという話を、ある人から聞いた。かっては私も木製サッシ信奉者だったので不安になり、ある木製サッシメーカーにそのことを詰問したところ、「その情報はどこから?」と戸惑いの表情を見せただけで、多くは語らなかった。
 あちこち情報を探し求めたところ、確かにそういう不安もあるらしい。ひそかに防カビ材を浸透塗布しているメーカーもあると聞いたが、その場合、防カビ材の環境面での影響がどうなるのだろうか。

 木製サッシは柔らかな風合いが美しく、環境にも優しく、設計家や建て主のこだわりやあこがれの象徴にもなっているが、決して万能選手ではないことだけは確かである。プラスチックサッシに比べて倍以上もする価格に見合うものかどうか、長いスパンで冷静に判断する必要がありそうだ。



窓雑感



 窓の話が続く。窓の色と質感、大きさや高さのバランスは、建物にとって非常に重要である。デザインと機能両面でのチェックが必要なので、窓をどう扱うかは、設計者やハウスメーカーのセンスを問われる大きな要素だと言っていい。
 この家ではそれらに充分配慮したつもりだったが、すべての面で及第点というわけにはいかなかった。

 窓の色はプラスチックそのものの色である白にした。物は素材そのものが本来持つ色が最も美しい、というのが私の持論で、レンガはレンガ本来の赤茶色、コンクリートはコンクリート本来の灰色、木は木そのものの茶色が最も素朴で美しいと思う。(余談だが、おそらく人間もそうではないだろうか?)この倫理からすれば、化成製品であるプラスチックサッシも、プラスチック本来の無着色の色が最も美しいはずである。
 プラスチックサッシの色はあまり多くなく、白の他はグレー、黒、茶くらいのものだが、それでも迷いだすときりがない。しかし、割に早い段階で色は白と決めてしまったので、他の作業、特に外壁と内壁の材料と色の選定は比較的楽に進んだ。

 外壁は最終的に白によく合うダーク系のワインブラックにしたが、この色が夏には緑に包まれ、冬は白い雪にすっぽり覆われるこの地に、実によく似合う。当初は北欧系の住宅を意識した明るめのワイン系色の予定だったが、施工業者のアドバイスで暗めの色に変更して、大正解だった。
 外壁に一部使った木材にも、この白はよく合う。白は本来どの色ともけんかしない無個性の色だと思うが、もし相性の悪い外壁があるとすれば、「白に極めて近いが、白ではない色」あたりだろうか。白に限らず、この「似ているようでちょっと色合いが違う」という色は、合わせ方が難しくなる傾向にある。
 内壁に使ったハードボードは、色が段ボールの色とほぼ同じなので、これまた白とよく合う。もしも塗装仕上げやクロス張にするなら、同じ白にするのがいいだろう。珪藻土の柔らかい色も似合うかもしれない。
 木製サッシに根強い人気があるのは、とにかく風合いがよく、上品で、外壁でも内壁でも合わせやすいからだと思う。その意味では、メンテナンスを考慮して外部をアルミで覆ってしまうと、せっかくの雰囲気が台なしになり、なんとももったいない気がする。

 風通しと窓の位置は密接に関係がある。基本的には各階とも南北に窓を通してやり、建具の位置にも工夫して、すみやかに風を家の中に通してやることである。この家では東西にも窓を通し、さらにふたつある吹き抜けを通した上下の風通しまで考慮した。

「ずいぶん涼しい家ですね」
 盛夏にカタログを届けにきたある業者から真顔で言われたことがある。昨今は北海道でも夏にクーラーを使う家が急増しているが、夏に暑さを感じたのは連日37度を越す記録的猛暑に襲われた入居2年目の夏だけで、あとはクーラーいらずの快適さである。
 特に冬は太陽熱の恩恵を十二分に受けるよう、窓の位置と高さは日影ソフトを使って慎重に割り出した。暖まった空気は床に開けたパッシブ換気用の通気口から、間接的に床下全面に打ったコンクリート床と基礎壁に蓄熱される。いわゆる「パッシブソーラー」の概念で、高価な設備は何一つ使ってないが、冬でも太陽の出ている日中はボイラ不要の室内環境で、暖房用石油の消費量も極めて少ない。(数値は後述)

 窓でひとつだけ失敗したのは、高さと大きさのバランス配分で、このことは連載でもすでに触れた。機能一点張りでデザイン的統一感のない1階西側の窓群と、西と東の吹き抜け上部にそれぞれ対になっている明かり窓の大きさが微妙に違っているのがどうにもいただけない。
「別にこれでいいじゃない、明るくて」と、妻は頓着しないが、設計者としては出来るなら外して取り替えたいくらいの気持ちでいっぱいなのである。


吹抜けから1階テラス出入り口付近の見下ろし



ブラインド&スクリーン



 窓と室内を必要に応じて遮断するカーテンやブラインドのたぐいの取扱いもこれまたやっかいな課題である。ここには普通カーテンを吊るす。一般的な建売り住宅や、マンション等では窓には必ずカーテンレールとカーテンボックスがついているだろう。
 ところが、高名な建築家ほどこのカーテンを嫌う傾向がある。家の設計は建築家任せだが、カーテンの色や柄にまで立ち入る建築家は一般的にはあまりいない。これらはその家の奥様か、百歩譲っても専門のインテリアコーディネーターの仕事ということになり、いずれにしても設計者の関わる余地はない。
 こうしてしつらえたカーテンがその家の雰囲気やコンセプトとぴたり合っていれば問題ない。だが、せっかくデザインに工夫をこらした家の雰囲気が、カーテンひとつでぶちこわしになってしまう可能性もゼロではないのだ。
 この問題を避けるため、設計者は比較的口をはさみやすいロールスクリーンかブラインドのたぐいを使う傾向にある。ロールスクリーンやブラインドはカーテンに比べて「建築設備」の要素が強いからで、色や材質も建築家主導で進められることが多い。

 我が家ではカーテンの色決めも私の仕事なのでこの心配はなかったのだが、主に機能面から1階窓はすべてロールスクリーン、2階窓はアルミブラインドで統一した。1階ロールスクリーンに使った無地のレンガ色は、夜に暖かな雰囲気を内外に投げかけてくれるし、日射しの強い2階では、角度で微妙に光量を調節出来るブラインドが、これまた好都合である。
 しかし、何も問題がないわけではない。2階南側にある私たち夫婦の寝室が、明る過ぎるのである。安眠にはある程度の暗さがやはり必要で、夜明けの早い夏の朝などは、普通のロールスクリーンやブラインドでは光を完全に遮断出来ない。
(遮光タイプのロールスクリーンもあるが、試していない)

 実はいま、この2階寝室部分の窓だけに手製の分厚い布カーテンを取り付けるべく、準備中である。色や柄のイメージはほぼ固まっているので、生地を探しに手芸店にいってみたが、春なので残念ながら厚い生地は品薄である。秋まで待つしかない。カーテンレールとカーテンボックスは、自然素材を多用したこの家の雰囲気に合うよう、ツーバィ材を使ったオリジナルデザインのものだ。完成のあかつきには、このページでぜひ報告したいと考えている。
(2003.5.19 遮光ロールスクリーンに関する記述を追加)
(2006.6 2階寝室部窓を布カーテンに変更)



照明



 この家の照明は基本的に暖かな色合いの白熱灯が基本である。本当はすべて白熱灯にしたかったのだが、種々の事情でやむなく蛍光灯を使った部屋が6箇所ある。

●2階個室(コーナー)4箇所
●1階台所メイン照明(サブは白熱スポット灯)
●1階洗面台照明

 このうち、2階個室と台所の5箇所は、工務店の紹介で世話になった友人の建築家から新築祝いとしてプレゼントされたものだ。「これから年をとって目が弱っていくんだから、断然蛍光灯だよ」というありがたいアドバイスもあったから、断るのは礼儀に反するというものだ。洗面台は照明とセットになった製品だから、選択の余地がない。
 マンション時代の照明は、居間や台所、寝室、仕事部屋等はすべて蛍光灯だった。明るさと経済性では抜群だが、陰影の乏しさや温もりのなさで、大いに不満が残る。その不満は新居に引越したあとも、結果的に引きずることになった。家族も同じ気持ちだったのか、たとえば3つの照明がある台所などは、常時使われるのはサブ照明であるはずの白熱スポット灯ばかりで、メインの蛍光灯はほとんど使われない。

 両方の欠点を補う「電球型蛍光灯」という製品がある。白熱灯や普通の蛍光灯に比べるとかなり高いが、消費電力は蛍光灯なみ、色合いは白熱灯とほとんど同じという利点がある。残念ながらまだすべての照明器具には使えないが、試験的に居間のペンダント照明に、この電球形蛍光灯を全面採用してみた。以下、その総合評価である。

●電球型蛍光灯100W形
・消費電力:22W/寿命:6000h(メーカー推奨値)
・価格:¥1,780(量販店実勢価格)
 実際に使ってみた結果、年平均で一日7時間使用し、約1100日の寿命だった。(7700h)
・電気代:7×1100×22W÷1000×25円(円/KW)=4,235円
・合計コスト:4,235+1,780=6,015円/1100日

●普通電球100W形
・消費電力:95W/寿命:1000h(メーカー推奨値)
・価格:¥150(量販店実勢価格)
 電球型蛍光灯と同条件で試算すると、
・電気代:7×1100×95W÷1000×25円(円/KW)=18,288円
・製品価格:7×1100÷1000(寿命)×150=1,155円
・合計コスト:18,288+1,155=19,443円/1100日

 結果として、100Wタイプ1個で、13,428円/1100日となり、年に換算すると4,456円もの差となる。我が家では現在100Wタイプ4個を使っているから、年に18,000円近くもの節約になっている。
「私はすべてごく普通の蛍光灯で結構です」という方にはまるで意味のない試算だが、「白熱灯の暖かさは大好きだけど、電気代が心配で…」という方には断然お勧めである。
 電球型蛍光灯は点灯時の発熱量も白熱灯の1/4という利点もあるが、スイッチの入り切りを頻繁にすると極端に寿命が短くなり、上記の試算が成り立たなくなる。具体的には、点けて20分以内に切ると寿命が短くなり始める。トイレのような入り切りの激しい場所の場合、最大1/5位にまで寿命が下がるというデータがあるから、使う場所や使い方には充分な吟味が必要だ。

 新築3年半を経て義理も果たしたので、家中の蛍光灯をすべて白熱灯か電球型蛍光灯に変えるべく、目下プロジェクトが進行中である。

●寝室、台所:白熱レフランプに変更予定(スポット照明で安価)
●息子部屋:白熱レフランプに変更済
●仕事部屋:電球型蛍光灯の手作りペンダントに変更済(60Wタイプ×2個)
●洗面台:100W白熱ボール球に変更予定

 基本的には既存の蛍光灯をレセップかコンセントに変え、電球や手作りペンダントに変えるだけだから非常に安上がりである。
 これに限らず、この家の既存の照明器具は大変安い。一番高価なのが居間の無印良品のシンプル布製ペンダントで、電球こみで1個10,500円。内外5箇所に使ったスポットライトが電球こみで5000円弱、玄関の内外に使った防湿照明は浴室用で、これまた4000円弱である。トイレやユーティリティに至っては数百円のレセップに白熱ボール球をねじ込んだだけで、プレゼントされた蛍光灯を加えても、照明器具の合計価格は70,000円に満たない。
 それでも住み手は暖かな雰囲気と経済性に大満足。照明器具の取捨選択は、コストダウンの大きなポイントだと思う。



パッシブ換気の問題解決策



 パッシブ換気の功罪に関しても連載で繰り返し触れたが、以前に問題点として書いたいくつかの項目のうち、未報告の項目も含め総合的にその対応策と今後の方向づけをしてみたい。

●1〜2階温度差
 1〜2階に温度差が出来てしまうこと、具体的には暖房時期に1階よりも2階が1度ほど低い温度になってしまうのは、パッシブ換気の宿命と言われていた。道立寒地住宅研究所が作成したパッシブ換気マニュアルにも同様の記述がある。これに関して、(なんとかならないか…)といろいろ推考をめぐらし、部屋の温度をあちこちで測ってみたりしているうち、ある考えにたどりついた。

「2階温度が低いのは、2階床(1階天井)の温度が1階室温より低くなっているせいではないか?1階から2階床下への空気の流れを促進してやれば、この問題は解決するかもしれない…」

 そのためには1階のどこかの天井に穴を開け、2階床下へ積極的な空気の流れを作ってやればいい。空気はより暖かいものが上に行きやすい。温度の条件がよく、天井裏を開けてもそれほど目立たない場所、その場所は台所だった。うまい具合に2002年暮にADSL配線の隠ぺい工事をすることになり、工事用の穴をかねたものを台所冷蔵庫上に開けた。

 結果は大成功だった。それまで3シーズン、常にあった1〜2階の温度差がついにゼロになったのである。穴の場所を台所に決めた理由は、南西にあって陽当たりがよく、床下にかなり大きめのパネルヒーターがあって、どちらかといえば「暖か過ぎる」傾向にあったからである。調理の煙が居間に流れないよう、居間との境界に50センチの下がり壁があったことも、熱がこもりやすい理由のひとつだったかもしれない。
 おかげでこの冬は深夜2階で独り仕事に勤しんでも、あまり寒さは感じられなかった。同様の手法で、2階に居間をもってくることも容易だろう。
 独自の手法なので、天井の穴をどれほどの大きさでどの位置に開けるか何も指針はないが、経験的に分かる。これに限らず、パッシブ換気は実際に設計し、そして暮してみた経験が物を言う手法だと思う。

●排気筒の騒音
 節約して排気筒を屋根に設けず、壁上端に設けた結果、強風時に排気筒から生ずる船の汽笛のような異音に悩まされたことはすでに書いた。その後、室内内側から緩衝材を排気筒内部に詰め込んだり、外側からサヤ管を差し込んでみたり、はたまた外部排気筒カバーに木片をはさんで風の通り道を狭くしたりと、考えられるあらゆる手立てを講じてはみたが、いずれも失敗に終わっていた。
 対症療法として、長いひもで操作するリモコン式の手製蓋を室内側につけ、強風時には閉じるようにした。これは抜群の効果があったが、就寝中に突然吹出す風には効果がなく、安眠を妨害される不愉快さは相変わらずだった。閉じっぱなしで風が止んだのに開けるのを忘れてしまう弊害もある。なんとか根本的解決策はないか…?

 そう考えつづけるうち、ある換気扇メーカーのカタログに「消音ダクト」という製品がふと目に入った。問題に行き詰まっても、思考することを止めない限り、必ず最良の解決策が見つかるものだ。室内に響く換気扇の音を低減するための機材だったが、直感的に思った。これなら使えそうだ。
 すでに工事が終わってしまった排気筒を交換するには、莫大な手間とお金がかかる。だが、既存の排気筒を同じ構造に近づければ、音は消えるかもしれない。
 既製品は内側にグラスウールが貼りつけてある。柔らかい材料を排気筒の内側に貼ってやれば同じ効果が得られるはずだ。グラスウールは排気筒面積が狭くなるので使いたくない。高い梯子に昇ったままの危険な姿勢で、内側に固定する作業も難しそうだ。接着剤を使わず、内側にぱちんとはめ込むだけで済む代用材料はないか…?

 あった、カーペットである。さっそくDIYの店に行き、たまたま売り場にあった切り売りカーペットの端材を購入。毛足の長い高級品で、消音効果もよさそうだ。直径150ミリの円周分を2本切り取り、入口から奥まで差し込む。カーペットは腰が強いので、予定通り接着剤なしにぴたり収まった。
 はてさてその効果のほどは?大成功である。外に通じているのだから、音がゼロになることはないが、強風時に眠りを妨げられるほどではない。用心のためにリモコン蓋はつけたままにしてあるが、この冬はごく寒い時期に換気過多になるのを防ぐために数日閉めた程度で、ほとんどお役御免となったのである。

●プライバシー問題
 家全体の空気の流れを重視するあまり、プライバシーがなくなってしまうのはパッシブ換気の大きな欠点である。現実に3年半暮してみて、生活時間帯の著しく異なる息子たちと中年夫婦の同じフロアーでの個室共有は、ナーバスな私のような者にとっては、少々辛いものがあった。
 この問題の対策は極めて困難なものと思っていたが、「音を消しつつ換気は促進する」というパッシブ換気向けの北欧製換気機材があることが最近になって分かった。(ちなみに、パッシブ換気は北欧が先進地である)
 まだ具体的に試してないが、この製品を効果的に使えば、プライバシー問題は一気に解決しそうな予感がする。換気機材のほかに、建具を引戸にして必要のないときには開け放っておくとか、開閉式の欄間を間仕切り壁に設けて必要に応じて開閉するなどの工夫を併用すれば、パッシブ換気とプライバシーは間違いなく共存可能である。ただ、壁や建具を何も設けない場合に比べて、コストは多少高くなることは覚悟しなくてはいけない。

●床梁の乾燥収縮
 基礎断熱を施し、床下には全面コンクリートを打ち、パネルヒータなどの暖房器を床下に置いて家全体を床下から暖めるいわゆる「床下暖房」はパッシブ換気の必須暖房システムである。
 床下が居住空間のようになり、結露対策としては抜群である反面、床下が常時暖房されていることにより、木材の乾燥収縮が促進されるという弊害がある。この家でも「あばれるハードボード」の項ですでに触れたように、床と壁との間に大きな隙間を作る要因にもなった。
 対症療法としては先に書いたスライド幅木の採用のほか、1階床梁に寸法安定性の高い集成梁を使うことが考えられる。構造用集成材には接着剤が使われているが、JAS規格品を使う限り、ホルムアルデヒド拡散量はFc0レベルである。
 また、いっそ梁をやめて太い根太のみとし、同時に広い床下空間確保する方法もある。あるいは束を設けて梁寸法を小さく押さえ、収縮対策と床下空間確保の一挙両得をねらうことも考えられる。どれをどう使うかは、ケースバイケースということになろうか。

●土間コンクリートの隙間
 同じ床下の高温弊害として、乾燥によって土間コンクリートと基礎壁との間にわずかな隙間が出来てしまうことがある。これは完成後1年を経たあたりに床下を点検していて発見した。
 施工時には土間コンクリート内部に4ミリのメッシュ鉄筋を150ミリ間隔でちゃんと入れてある。それでも隙間は出来た。最大で3ミリくらいだが、場所によって全くない箇所もある。対症療法として自分でコーキング処理を施して塞いだ。

 この程度の隙間は家全体の断熱性能に影響を与えるようなものではない。土間コンクリート下には全面に防湿シートを敷いたので、湿気の上昇に関してもあまり懸念はない。一番心配なのは蟻のような昆虫がここから室内に入ってくることだ。
 大騒ぎするような問題は現段階では起きていない。床下には常時蜘蛛が巣を張っていて、彼らがたまに侵入してくる虫たちを勝手に退治してくれているようだ。だが、隙間はないほうがいい。対策は基礎施工時に壁に鉄筋を差し筋しておき、土間コンクリート鉄筋と壁鉄筋を一体化してしまうことだ。施工費は多少上がるが、やったほうが万全である。

●室内温度設定
 パッシブ換気による温度の調整は、今回はボイラにタイマーを取りつけ、予想される室温に応じた間欠運転を実施することによって行った。一度コツをつかんでしまえばわけもないが、あまり知識のない人には、少し設定が面倒かもしれない。予想を越えた低温や、予想を越えた高温のときに、いちいち温度設定を手動で変えなくてはならない煩わしさもある。
 今回はぎりぎりのコストダウンを図るため実現出来なかったが、パネルヒータ1個あたり6000円程度の差額を出せば、温度を自動的にコントロールする「サーモバルブ」という機材がつけられる。タイマー運転と併用すれば、ほとんど人の手を煩わせることはなくなるはずだ。

●強制換気装置の設置義務
 建築基準法の一部が改正され、2003年7月からシックハウス対策としてどんな住宅にも1時間あたり0.5回の能力を持つ24時間強制換気装置の設置が義務づけられることになった。パッシブ換気を採用した家といえども例外ではなくなるので、たとえば2本ある排気筒の片方に、能力に見合う換気装置をつけるなどの対策を講じることになりそうだ。
 延27.5坪のこの家で試算してみたところ、5W程度の安価なパイプファンをつければ済む。いわゆる自然換気と機械換気のハイブリッド方式というわけで、パッシブ換気が有効に働く冬はスイッチを切ればいいし、夏は補助換気装置として充分機能するだろう。維持費、設備費とも、そう大きなものではない。

 高価な24時間セントラル換気システムしか認めない、といった行政指導が行われないか、ということが気がかりだったが、換気経路の圧損計算をきちんとやり、1時間あたり0.5回の換気能力があることを図と計算式で確認できれば、上記のような安価なシステムでも問題ないことが判明。ひとまず胸をなでおろした。
 私としては、今後とも安価で無動力、地球にも優しいパッシブ換気を積極的に設計に取り入れたいと考えている。パッシブ換気単体での換気システムは個別に大臣認定が必要とのことで、申請に要する手間や費用を考えると、個人の設計事務所では難しい。上記ハイブリッド方式のほうがはるかに安価で現実的ということになる。

(2003.5.20 集成材に関する記述を訂正)
(2003.6.30 24時間強制換気建築基準法改正に関する記述を加筆訂正)



構造強度と偏心率



 2000年5月に建築基準法の大改正が実施され、特に構造面でさまざまな規制が強化された。この家の建築確認申請提出日は1999年5月だから、こと構造に関すれば、旧基準による規制しかクリアしていない。これに関してかねてから一抹の不安があったので、「家作り総括編」のアップロードを機に、構造強度に関する詳細な検討を試みた。

 家の構造強度は家の形状、壁の量とその強度、そして壁の配置バランスなどの複雑な要素がからみあって決まる。一般的に家の形状は単純な矩形が有利で、1、2階は同じ面積の総2階が有利、立面形状は縦長よりも横長のほうが有利となる。「TOM-CUBE」と名づけたように、この家の特徴である立方体に近い総2階形状は、構造的には非常に有利なはずだった。
 しかし、そう単純に片づけられないのが構造力学の難しさだった。改正建築基準法では建物XY方向それぞれについて、必要な壁量と実際の壁量とを比率でチェックし、全体的にバランスよく配置されているかを簡易手法で算出させている。難しい言葉で書くと、「偏心率がおおむね0.3程度」となるよう配慮されているのである。

「偏心率」とはおそらく一般の方には耳慣れぬ言葉だろう。建物の形状による重心位置と、構造上の中心位置(剛心)とのずれのことで、このずれが大きい建物ほど、地震や強風などによる外部力の影響に弱く、壊れやすい建物となる。つまり、むやみに壁を増やしたり、壁の強度を増やしてみても、建物全体からみてバランスが悪ければ偏心率は大きくなり、強度は落ちるという皮肉な結果となってしまうのである。
 建物の壁量(壁の長さと壁の強度の両方を加味したもの)は建築基準法で計算を義務づけられているので問題ないが、この偏心率は改正基準法でも算出を義務づけられていない。あくまで「おおむね0.3程度」となるような簡易計算式によるチェックだけなのである。つまり、個別に偏心率を計算しながら建物形状や壁の強度、配置などを検討しなければ、本当の意味で安心出来る強い建物は出来ないということになる。

 構造専門家によると、偏心率の数値は小さい程よく、建物XY方向それぞれ0.3が最低限度、理想は0.2以下で、人によっては0.15以下と自主規制している人さえいる。ある素人の方が作っている家作りホームページで、「私は偏心率0.15下で設計してくれることを業者に対する条件のひとつに入れた」とあり、正直いって驚いた。素人でさえこれだけの知識がある。プロとしても当然、偏心率を考慮した設計を取り入れるべきであろう。
 偏心率の計算は非常に難解なものだ。かといって、勘に頼るのは論外だ。あちこち調べてみて、国土交通省のお墨付きのある簡易な「構造計算ソフト」をようやく見つけだした。さっそく自宅の形状や壁と床の各種数値を詳細に設定入力し、偏心率を算出した。以下、その結果を記す。

●X方向(東西方向)偏心率:0.11
●Y方向(南北方向)偏心率:0.20

 陽当たりを最重視したために、この家の南東角は1〜2階とも全面窓になっていて、そこが構造上の弱点だとかねてから思っていた。ところが算出した偏心率は、最低基準の0.3以下をXY両方向とも満たしていた。特にX方向(東西方向)の0.11はどこに出しても恥ずかしくない。Y方向(南北方向)の0.20にはバランス面でやや不満が残るが、特に算出根拠なしに勘だけで決めた当時の手法としては、よしとすべきだろう。
 参考までに、法的に義務づけられている壁量は、XY両方向とも基準の2.7倍前後とバランスがよく、数字にも充分な余裕がある。これだけの余裕をみても、壁の配置によっては上記のような偏心率の差が出る。勘や建築基準法だけに頼った設計の恐ろしさが身に染みた。
(2003.7.7 この項目全体を追加)



結露



 北国の住宅で結露は大変重要な問題である。ことハード面に限れば、「結露の生じない暖かな住宅を作れば、北国の家作りは成功」と断言してしまってもいいかもしれない。だが、「こうすれば結露は解決」と言い切れる手法はない。結露がその家の気密断熱手法はもちろん、換気や間取り、住み手の暮し方にまで深く関わっているからで、そこに結露問題の難しさがある。
 結露と一口にいっても、目に見える窓や内壁、天井などの結露から始まり、目には直接見えない床下や天井裏、果ては壁内部の断熱材にまで結露は生じるから始末が悪い。
 前述のパッシブ換気や窓の項目での記述と重複するが、この家には現段階では結露はない。床下はすべての場所に自由に入って点検出来るようになっているので、年に数回はもぐりこんで調べている。グラスウール断熱材はその床下等から点検しているが、いずれも異常はない。

 入居当初は窓はもちろん、北側外壁に面するコンセントの一部、そして予備につけた2階換気扇からも結露が生じた。原因の多くは新築直後の木材やコンクリートから蒸発する水分からで、湿度計で条件をあてはめてみても、外気温がかなり下がった場合は、理論上でも結露することになっていた。
 しかし、2年目の冬からはほとんど結露はなくなり、4年目の冬にあたる今年の冬は、私自身は一度も見ていない。早起きの妻に確認してみたところ、「外がマイナス15度くらいに下がった早朝に、北側の窓の下がうっすら曇っていたわよ」とのこと。それもボイラの温度上昇と共にやがて消滅したそうで、建物や室内環境に悪影響を与えるようなものではないことが分かる。この家の場合、たまたま結露に対する総合的な条件が整っていたのだろう。

 結露の多くは防露線図によってするかしないかが推定出来る。具体的にはその土地の予想最低気温(札幌の場合は-15度程度)、そのときの室内温度(一般的には20度)、そのときの湿度、そして対象部材の熱貫流率の数値が分かればよい。部材のうち、窓などの熱貫流率はカタログに掲載されているし、温度関係は容易に想定出来る。問題は室内湿度である。これは住む人によってかなりの差が生じる。乾き過ぎると健康に良くないし、多すぎると理論上でも結露してしまう。おおざっぱな目安は、冬で45〜50%くらいだろうか。
 この家では3年目以降はほぼ安定して湿度45%、室温19〜20度を保っている。(冬期)この数値は床下や押入れでもほとんど変わらない。(床下温度だけはパネルヒータを入れている関係で28度)記録によれば、入居最初の冬は室内湿度65〜70%だったから、理論上も現実でも結露して当然である。新築1年を経た2シーズン目の冬には室内湿度が50〜55%まで下がったが、それでも外気温が-10度以下になった朝は窓がうっすら結露している。これまた理論通りだった。

 このように、結露は室内環境(温度と湿度)にむらがなく、施工に手抜きがなければ、ほぼ推定出来る。多くの住宅で結露がクレームになっているのは、室内環境のどこかにむらがあるか、施工監理に甘さがあるからだろう。湿度45%の高断熱住宅でも、部分的に結露が生じているという話を聞いた。どんなに頑丈な気密断熱設計をしていても、その通りに施工されていない場所があれば、たちまちそこが弱点になる。
 消極的な手法だが、充填断熱の場合、コンセントやスイッチ類の位置は外壁にあたる箇所はなるべく避けたほうがいいかもしれない。露出型なら問題ない。また、設備配管類が外壁を貫通する部分はどうしても弱点となるので、入念に気密断熱処理しなくてはならない。外気に直接接する換気口や換気扇の数も最小限にするべきだろう。
(2010.1 建築後10年を経て、冬期室内湿度は35〜40%。結露問題は解消された)



ユニバーサル



 高齢者や障害者ばかりでなく、老若男女、右利き左利き、背の高い人低い人等々、多様な人々に等しく優しい家作りを住宅設計の目標のひとつにしているが、この家での具体例を反省もふまえて列記してみたい。

●床段差
 1階玄関ホール〜居間〜ユーティリティ〜トイレ〜台所〜階段下収納、以上の床はすべて段差がないか、あっても3ミリ以内である。2階4室〜押し入れ、以上の床はすべて段差がゼロ。
 アプローチ〜玄関土間、玄関土間〜玄関ホール、10センチ程度の段差がある。ユーティリティ〜浴室には5センチ程度の段差がある。もし将来的に問題が出たら、玄関回りは簡易移動スロープ、浴室はスノコで対応予定である。現時点で特に問題はない。

●出入口幅と手すり
 有効幅は実寸で玄関90センチ、浴室49センチ、トイレ58センチ、その他のドアは80センチある。トイレは袖壁を取り払うことが可能な構造になっており、その場合は開口寸法が120センチとなる。将来的に問題がもしあるとすれば、浴室ドアの寸法か?
 手すりは階段以外にはついていないが、間柱の位置がはっきりしているので、増設は容易である。

●スイッチ類の高さ
 照明用のスイッチや各種リモコン等の高さは、中心部分で床から80センチの箇所(腰壁部分)と、118センチの箇所とがある。両方使ってみた感じでは、80センチでは低過ぎるが、118センチでは少し高いかもしれない。子供や高齢者には、100センチがよいという説がある。次回は105〜110センチあたりに設定しようか。
 コンセントは冷蔵庫、洗面台、台所カウンター、ボイラ等はそれぞれの必要な高さにあわせ、750〜120センチの範囲で設定し、特に不都合はない。他は床から30センチにした。こちらも高齢者には40センチがいいという説がある。だが、この位置だとベンチ下などに配置した場合、コンセントが隠れて使いにくい。車椅子だと多少使いにくいが、私は30センチでいいと思う。

●設備機器の高さ
 室内外の洗濯ポールの高さは、あまり低いとうっとおしいし、高すぎると作業がしづらい。身長157センチの妻に実験台になってもらい、床から190センチに決定。これで問題ないはずだったが、外テラスに設置の洗濯ポールはその都度外して汚れを拭き取ってから使うため、上にあげる方式の着脱がやりにくいらしい。着脱の手法をもっと楽な方法にするべく、検討中。

 収納の高さに関しては、台所天袋収納がないので、妻を煩わせることはない。多機能クローゼットの上のパイプにある物を取り出すのが、下に置いてある工具箱を踏み台にしなくてはならないので少し辛い。また、ほとんど使うことはないが、押し入れ最上段にある季節用品を万一取り出すときは、踏み台に乗らなければならない。
 キッチンカウンターは妻の身長に合わせて85センチで支障なし。洗面台はマンション時代は71センチだったが、これでは背の高い息子や私には低過ぎ、いつもあたりの壁を水で濡らしていた。妻と話しあい、9センチ上げて80センチの高さにした。これで洗顔時の水濡れは解消した。妻の使い心地にも問題なかった。

 ドアの取っ手の高さは床から90センチだが、この高さが使いやすいと思う。高過ぎても低過ぎても使いにくい。ドアそのものの高さは190センチである。昔は182センチが普通だったが、最近は200センチの家も多い。
 札幌市の場合、台所の下がり壁が天井から50センチ以上という規定があるため、窓やドア、開口部の高さをすべてそろえるべく、天井高240センチ−50センチ=190センチにした。

 設備機器の高さは使う人(家族)の構成によってかなり変わると思う。基本的にはその設備を最も頻繁に使う人の都合で決めてよいと思うが、不特定の家族が使う設備の場合、最適寸法の決定には、充分な吟味が必要となる。



石油消費量の評価



 この家のエネルギーは、石油と電気の2種類だけである。石油は給湯と暖房のふたつのボイラで使用している。使った分は両方合算されて請求されるので、暖房にどれくらい石油を消費したかを知るには、かなり綿密な計算が必要となる。
 引越し当初は暖房用石油消費量を、年間およそ1000リットル程度と予想していた。(第2部〜その1参照)新築当初は室温を保つ以外に、コンクリートや木材に含まれる水分を蒸発させるためにかなりの石油が消費される。(いわゆる潜熱)安定するのは3年目あたりからで、この3年目以降にならないと暖房用石油消費量の正しい評価は出せない。
 業者の伝票による全石油消費量は以下の通り。

●1シーズン目(家族4人):1311L(暖房用854L、給湯用457L)
●2シーズン目(家族4人):1327L(暖房用865L、給湯用462L)
●3シーズン目(家族4人):1083L(暖房用662L、給湯用421L)
●4シーズン目(家族3人):1101L(暖房用674L、給湯用427L)
●5シーズン目(家族3人):1164L(暖房用737L、給湯用427L)

 10月中旬にタンクを満タンにする業者の伝票から逆算し、非暖房時期(5月中旬〜10月中旬の約160日間)の給湯用石油消費量は平均1.05L/日となった(家族4人の場合)。暖房時期は水温低下による熱量増大を加味し、1.51L/日という計算値が出ており、これらを累計すると上記の数値となる。

 24時間全室セントラル換気なので、家族数による暖房用石油消費量の変動はない。つまり、この数値をこの家の暖房床面積92.4平米と建物暖房容積245立米に対する消費量として評価していいことになる。
 北海道内の公的機関の調査による石油消費量のデータに、以下のものがある。
(1996年北海道消費者協会調査)

●北海道南部地区平均1628.0L(暖厨房用灯油消費量調査)
●北海道南部地区平均1958.9L(全灯油消費量調査)

 これらの数値には暖房用、給湯用、厨房用の内訳がないが、厨房用に灯油を使用している家庭が19.2%、給湯用に灯油を使用している家庭が85.1%であることから考え、給湯に占める割合いが暖房に次いで多いはずである。
 毎日入浴する我が家の年間給湯用石油消費量から推定し、給湯用は評価としての安全側で400L程度と考えていいと思う。すると上記数値のうち、暖房用石油消費量は約1500〜1600Lとなる。これも安全側で1500Lと仮定しよう。
 1993年の調査で、北海道の住宅の平均床面積は116平米である。これによって家の断熱性能を推し量る最も重要な数値である「床面積あたり暖房用石油消費量」が、以下のように算出される。(厳密に数値を比較検討するには単なる床面積ではなく、「暖房空間容積」で比べなくてはならないが、公的な平均値がないので、現時点では確認申請用床面積を使用する)

●北海道南部地区平均:1500L÷116平米=12.93L/平米
●TOM-CUBE:691L(3〜5シーズンの平均)÷92.4平米=7.48L/平米

 実はこの結果は計算ミスではないかと最初疑った。あまりに数値が良過ぎるからである。だが、何度確かめても間違いはなく、データの過大評価もない。算出に使った公的な平均床面積には、非暖房室の面積も現実には含まれているはずである。この家の場合には、床面積には加算されない2階傾斜天井空間も実際には暖房している。それを考慮すれば差はさらに広がる。
 最近の高断熱高気密住宅の「床面積あたり暖房用石油消費量」はおしなべて小さいが、この7.48という数値は北欧住宅なみの素晴らしい数値だと思う。
 設計当初の予想を大きく越えたわけを考えてみた。

1)徹底した現場監理により、気密断熱工事の設計値と実践値の誤差がほとんどない。
2)前述のパッシブ換気が安定し、うまく機能している。
3)窓の位置と大きさ、高さを綿密に検討したため、日射の恩恵を十二分に受けている。

 冒頭部分でも触れたように、引越し前と引越し後の光熱費、つまりエネルギー消費量は、マンションから熱的に不利な戸建住宅へ、床面積も34%増大という悪条件にも関わらず、逆に30%以上も減少している。うれしい誤算だ。地球環境保全に対する、ささやかな寄与になるだろうか。
(2003.5.17:評価に関する記述を訂正)
(2003.5.23:暖房空間容積に関する記述を追加)
(2003.10.29:4シーズン目の石油消費量データを追加)
(2005.4.24:5シーズン目の石油消費量データを追加)



ホルムアルデヒドの数値



「エコロジー住宅」をうたい文句にしている以上、室内の化学物質濃度はぜひとも測っておくべきだろうと考えた。代表的なホルムアルデヒド濃度を外注に出すと、当時一回一箇所だけで1万円もした。家作りで金を使い果たしているので、入居当初はなかなかその金が工面出来ない。安いレンタルの機器をようやく探し当て、計測にこぎつけたのは、築後1年半を経た2001年8月のことだった。
 機器は公的機関が貸し出している2週間で5000円のものを使った。夏に測ったのは、気温の上昇によってホルムアルデヒドの放出量が最も多くなるからで、自然の温度差を頼りにしているパッシブ換気が最も働かなくなる最悪の時期でもある。
(冬に比べて夏はパッシブ換気の効率が1/4程度に落ちると言われている)
 以下、計測データを列記する。

●計測機器:ホルムデジタルキャッチャーミニ(エンバイロメンタルセンサー社)
●測定年月:2001年8月
●測定場所:すべて1階居間中央、床面+1500の位置(三脚に固定)

・8/28 PM11:45、24度60%:0.04ppm
・8/29 AM11:15、24度60%:0.06ppm
・8/29 PM6:30、24度68%:0.02ppm
・8/29 PM7:30、25度68%:0.06ppm
・8/29 PM8:30、25度67%:0.07ppm

・8/30 AM0:45、25度67%:0.09ppm
・8/30 AM2:40、25度67%:0.08ppm
・8/30 PM1:15、29度63%:0.04ppm(強風の日)
・8/30 PM9:10、26度65%:0.11ppm

・8/31 AM9:45、25度68%:0.06ppm
・8/31 PM1:30、26度67%:0.07ppm
・8/31 PM7:00、25度68%:0.04ppm
・8/31 PM8:45、25度69%:0.09ppm

・9/3 PM12:35、26度59%:0.09ppm
・9/3 PM9:00、26度59%:0.08ppm
・9/4 AM3:00、25度68%:0.03ppm
・9/4 AM11:30、25度68%、F2合板箱の中:0.05ppm(参考値)
・9/4 AM11:45、25度68%:0.00ppm
・9/4 PM12:00、25度68%:0.01ppm

・9/6 PM6:10、26度45%:0.00ppm(強風の日)
・9/6 PM11:40、25度52%:2.10ppm(F2合板カット直後→参考値)
・9/7 PM12:00、24度59%:0.08ppm
・9/7 PM2:00、23度67%:0.04ppm

 測定は規準に準じて30分間以上窓を開放し、その後閉じて数時間を経てから行った。特別な条件で行った参考値を除いたデータの平均値は0.055ppmとなり、WHOの基準値0.08ppmを下回る。4年前に設計された住宅としては、おそらく合格点を与えていいだろう。だが、驚くような素晴らしい数値というわけではなく、限りなくゼロではないかと甘い期待を抱いていた私をがっかりさせた。
 予想を裏切った理由はいろいろと考えられる。

●測定誤差
 借りた器械がかなり使い込まれていて、吸着剤が古くなっていた可能性がある。また、飲酒後はアルコール呼気が数値上昇に関わると言われているので、晩酌の習慣のある私の場合、この影響も考えられる。

●以前作った手作り家具に残っているF2合板の悪影響
 これは比較のためわざとF2合板の箱の中で計測してみたり、F2合板をノコでカットした直後に得た高い数値から明らかなことで、時間を経てもなかなか消滅しないホルムアルデヒドの怖さを再認識する結果だった。

●キッチン、洗面台からのホルムアルデヒド拡散
 当時はまだまだ環境への配慮が甘い時代で、この家に使ったこれら製品も、E1レベル(平均ホルムアルデヒド濃度1.5ppm)のMDF合板を使ったものだった。OSB合板や無垢材に比べるとかなり格が落ち、これらの製品が数値に影響を与えた可能性は高い。

●材料にF2合板が紛れ込んだ可能性
 こと化学物質の拡散に関すれば、この家で使った材料は吟味に吟味を重ねたものだった。だが、それでもF2合板のたぐいが紛れ込む可能性がゼロではない。最も疑わしいのは、1階天井に使った構造用合板である。
 北米産の構造用合板を使えば、ホルムアルデヒドの拡散はほとんどゼロに近い。特記仕様書にもその旨をはっきりうたってあった。だが、当時国内を流通していた構造用合板の多くは、F2クラス(平均ホルムアルデヒド濃度5ppm)だった。現場に搬入された材料はすでに工場でプレーナー加工され、北米産であることを刷判で確認することは出来なかった。
「シックハウスってなんですか?」という当時の社会環境と、それでなくとも厳しい予算の枠内で業者が材料の選定にどれほど気を配っていたのか、もはやすべては霧の中である。
 今後の材料の選定にあたっては、悪い製品が紛れ込む可能性のある材料(ランクづけのある合板製品)は極力排除すべきだろう。いくら建築基準法が代わり、使う合板の面積が制限されようとも、設計通りの材料が使われなかったり、現場でそれが確認出来ない状況があるようでは、問題はいつまでも解決しない。

 データを見ると、同じ日でも時間の経過と共にホルムアルデヒド濃度が上昇しているのは当然といえば当然か。強風の日は数値が極端に低いのは、夏でもドラフト効果によってパッシブ換気が有効に働くからだろう。同様に9/3、AM3時のデータが前夜9時の数値よりかなり下がっているのは、明け方の外気温の低下により、温度差によるパッシブ換気が有効に働いたためと思われる。
 以上の結果から、材料に気を配って計画してやれば、最悪の条件下でもとりあえず健康な住環境を確保出来ることが分かった。今後は先に書いた材料や製品の吟味にさらに気を配り、パッシブ換気の夏の換気不足を補うべく、夏の昼間だけは強制換気扇を24時間タイマー運転させるなどの対策が必要だろう。




終わりなき家作り



 エコロジーやセルフビルドと並んで、ローコストもこの家の大きな売りだった。売りと言うより、ただ単に必要に迫られただけだったと言い換えるべきだろうか。一度でいいから、何の予算制約もない家作りをやってみたいものだが、そんなおいしい話はほとんど期待出来そうにない。
 そんな苦しい家作りだったが、結果的に多くの知識と知恵を得ることが出来た。どうやら私の性分として、色々と制約が多いほうが気持ちに熱が入り、より独創的でより良い解答にたどり着けるようだ。

 長い家作り記録の最後に、入居後3年半を経た現段階での自己採点をしてみよう。ずばり、80点と出す。減点はエコロジーに関する少しの後悔と、幅木の選定や窓の位置などに代表される小さな失敗があったからで、家作りでいきなり100点はプロでもなかなか難しいのではないかと思う。
 座興として妻にも同様の質問をむけてみた。すると妻は100%満足しているという。入居当初はあまりにもユニークでちょっと気後れしたが、暮すうちに陰影のはっきりした所が好きになってきた、年月とともに木の表情にも味が出てきて、3年たっても飽きない、だんだん好きになってくるわ、などと泣かせることを言ってくれる。
 考えてみればこの家は土地資金の8割を義母の遺産で調達し、半分は妻のために建てたようなものだった。その妻に喜んでもらえて、プロとして夫として単純にうれしかった。

 家作りに終わりはないとつくづく思う。家を改築して反省点を修正する気はいまのところ全くないが、たとえば北側外壁横にある石油タンクを隠す木材カバーをつけたり、外周を低い木製の塀で囲ったり、非常時のための薪ストーブを居間の一角に設置したりの小さな手直しは、これから少しずつ手がけたいと考えている。
 私のプロとしての家作りのドラマは、実は偉大なる「リハーサル」だったのではないか、とこの頃よく考える。この考えが的を射ているとすれば、本番はいよいよこれからだ。
 建築は社会的行為だとよく言われる。公共建築はもちろん、一市民が関わる住宅建築もその例外ではないと私は思う。その一角を担う建築家が、社会から目をそむけて拝金主義や売名行為に走ってはならない。微力だが、これまで培った知識と知恵、そして元来の粘り強さをフルに活かして、これから様々な形で自分らしい家作りを目指す人々のために尽くして行きたいと考えている。

〜完〜



あとがき



 4年近くにわたって連載してきました『本音で暮す手作りハウス』、一部二部合わせて膨大な量となりましたが、今回にてひとます完結とさせていただきます。長期間のご愛読、どうもありがとうございました。文中の記述やデータには充分下調べをし、気を配りましたが、もしも何らかのご指摘がありましたらメールにて私までご連絡ください。
 内容が内容だけに、他の連載のような多数の方々からの反響はありませんでしたが、家作りを具体的に検討なさっている方々からは、非常に熱いご支持をいただきました。この連載を読んで大いに共感され、我が家を直接見学にいらっしたご家族までいます。物書きと建築家のはしくれとして、大変ありがたいことだと思います。

 今後、家作りの発展、進化状況は何らかの形でこのサイト上で発表する予定でいます。新しい家族の新しい家作りドラマが、またここで発表出来たらいいな、と考えています。