イベントライブ顛末記


チカチカ・第10期オーディション /2016.3.12



 2年ぶりにチカチカパフォーマンス・オーデションを受けた。4年半、連続9期の長きにわたって活動を続けてきたが、このところチカチカパフォーマンスでは苦戦が続いている。
 合格した当初の集客や売上げは望むべくもなく、その背景にはマンネリからくる聴き手の飽きがあるように思われた。

 2年前に棚ボタ的に得た「特別枠活動者」の恩恵がこの3月でなくなり、今後活動を継続するには、他のパフォーマー同様にオーデションを受け直す必要があった。
 最近は若手ジャグラーによる精力的な活動が広場を席巻していて、ベテランのパフォーマーでも多くが不合格となっている。次はいよいよ自分が落ちる番か、もはや老兵は去るべきなのか…、と一時は弱気な気分にも陥った。

 充分に考えたが、パフォーマーとして適か不適かは自分が決めることではなく、あくまで事務局が判断することだった。冬場の路上系の場として地下通りの存在はやはり捨てがたく、現状の自分が果たしてどこまで通用するのか、最後は挑戦的な気持ちが勝った。

 今回から書類審査が新たに加わって、「公共空間でのパフォーマンスについて、あなたが考えることを述べてください」など、難しい記載事項もある。
 書類審査を通過したパフォーマーは21組。うちパフォーマンス部門は17組で、過去3番目の多さである。(過去最大出場数は、1期と2期の18組)
 更新パフォーマーは5組で、再チャレンジが2組、新人が10組という内訳で、私の出場順は4番。午前11:45開始という、苦手な早い時間帯が当たった。

 前回、息子とのユニットで受けて落ちているので、今回はゲンを担いで妻の同行は頼まず、事前告知も全くせずに、ひっそり一人で密かに受けることにする。

 地下鉄を一切使わず、都心から少し離れた量販店駐車場に車を停め、そこから2キロ弱の道のりをテクテク歩いて会場へと向かった。
 昨年12月の「チカ☆パ・コンペ」の際にも同じ手段を使ったが、3時間以内なら駐車料が無料で、ガソリン代だけで済む。地下鉄利用よりも経費が500円近くも浮く計算で、これは大きい。

 会場に入ったのは11時5分。トップのパフォーマーが始まったばかりで、受付を済ませて楽屋に荷物を置いたあと、トイレで額にバンダナを巻く。これまたゲンを担いで、合格した初回のオーデションスタイルをなぞった。
 その後司会や音響のスタッフと打合せ。今回もマイクスタンドは電子譜面付きのものを持参した。実際には使わないが、リクエスト用紙スタンドも譜面台利用のものを組み立てる。

 あっという間に出番がやってくる。久しぶりのオーデションということもあり、昨夜は緊張で眠りが浅かったが、直前の練習で声はよく出た。
 持ち時間は転換や審査員質疑を含めて15分。ラインケーブルの接続やボリューム調整などもあるので、計11分くらいで収めるべく、1週間前からMCを含めた練習を入念に重ねた。前日には本番と同じ開始時間で演るという念の入れよう。

 慣れた場なのでいざ歌い始めると、すっと腹が座った。音楽系のパフォーマーの多くは2曲しか歌わないが、「幅広いジャンル」が自分の持ち味である。タイプの異なる以下の3曲を準備した。


「大空と大地の中で」:フォーク
「エーデルワイス」:叙情系洋楽
「ブルーライトヨコハマ」「時の流れに身をまかせ」「また逢う日まで」
            :昭和歌謡(三択リクエスト)


「リクエストを積極的に受ける」が最近の演奏スタイルで、今回もリクエスト用紙を用意したが、オーデションという短い時間ですんなりリクエストが出るとは思えなかった。そこで昨年12月の「チカ☆パ・コンペ」で試し、いい手応えだった「昭和歌謡・三択リクエスト」をラストにもってきた。
 前回は圧倒的に「また逢う日まで」が支持され、今回もそうなるだろうと決め込んでいたが、いざ蓋を開けると、「時の流れに身をまかせ」と「また逢う日まで」が拮抗。しかし、「時の流れに身をまかせ」を強く支持する中年女性が数人いらして、それに押されるように想定外の「時の流れに身をまかせ」を歌うことに。

 他の2曲の場合は事前に手拍子を会場に促すつもりでいたが、この曲は手拍子が合いにくい曲。しかしテレサ・テンには自信があるので、叙情性に重きをおいて歌いあげた。
 すると、間奏で会場から予期せぬ拍手と歓声が湧く。思わず「ありがとうございます」と曲間で頭を下げた。いわゆる「サクラ」は一切会場内にいないので、これぞ真の声援である。全く何が幸いするか分からない。

 終了後、顔見知りの審査委員長から、質問のような要望のような不思議な話が出る。
「会場の方々と一緒に歌うスタイルを、今後取り入れてはいかがでしょう?」と。
「今後」と言われたから合格が決まった、と考えてはいけない。そう甘くはない。浮かれずに「デイサービスでは、すでに一部その手法で演っています」と応ずる。

 実はラストを歌う前に「歌詞をご存じの方は、どうぞご一緒に歌ってください」と告げてあった。どうやら歌の途中で、「歌いたいけど、歌詞が…」という声が審査席後方であったらしい。
 リクエストを取り入れるのはよい進め方だが、歌詞カードなしの「曲間の口頭歌詞指導」という手法で、さらなる聴き手の参加を促しては?という提言である。30分の中でラスト1〜2曲なら、確かにそれもアリだろう。やってみる価値はある。

 いったん家に戻って遅い昼食を食べ、合格発表に備えて夕方に再度会場へと向かう。不合格も覚悟していたが、結果は合格だった。パフォーマンス部門の合格者は8組で、合格率は47%と相変わらずの狭き門。長く演ってきた方もまた一人落ちた。

 音楽系は弾き語り系が5組受けたが、合格は私を含めて2組のみ。もう1組が4年前に知り合った20歳の女性ユニットで、久々に若い音楽系パフォーマーの誕生となった。うち一人は実力派だが、数年前にソロで受けて落ちている。「良かったね」と声をかけたら、うれしそうに微笑んでいた。
 ただ上手いだけでは合格できないのが、このオーデションの難しさ。公的空間を使って演る以上、求められるのは周囲との爽やかなコミュニケーション能力のようだ。

 講評で審査委員長から名指しで声をかけられた。「菊地さんには歌を通じて《チカホ歌声サロン》のような場を作り上げて欲しい。ジャグリング系パフォーマーには演れない世界です」と再びの要望。難しい宿題だが、今度は合格発表後のハナシなので、本気で考えなくては。

 まだ構想段階だが、30分を3つに分け、前半を人集め目的でMCなしの自由なスタイルで歌い、中盤で声かけリクエスト、終盤を歌詞指導つきの歌声サロンふうに締める、という構成を考えている。
 思いがけず新しいことにチャレンジできそうだが、まずは無事にオーデションをくぐり抜けたことを喜びたい。


 

ちえりあロビーコンサート 83th /2016.4.9



 かねてから準備していた「ちえりあロビーコンサート」に出演した。場所は市内西区にある「札幌市生涯学習センターちえりあ」の1階ロビー。
 7年前から月1回ペースで実施されていて、今回が83回目。クラシック系の出演者が圧倒的に多かったが、「多ジャンルの叙情歌シンガー」を前面に押し出し、申込み資料にも工夫をこらしたのがよかったのか、初めての挑戦で何とか審査をくぐり抜けた。

 メールや面会での打合せを何度か繰り返し、事前提出書類も格段に多かった。大規模な公的空間でのコンサートということもあるが、その煩雑さとシビアさは、2013年に出演したクロスロードライブに匹敵するものだった。

 演奏時間は施設の昼休みを利用した12:30〜13:00。こちらも過不足は許されないので、MCこみで正味27分という持ち時間を厳守するべく、事前に提出した曲目リストに従って、何度も自宅リハーサルを繰り返した。
 11時に家を出て、11時40分に会場入り。すでにロビーには100席分の椅子が並べられていて、音響や撮影のスタッフが忙しく動きまわっていた。

 12時からPAのテスト開始。音響専門のスタッフが施設にいないので、音量やリバーブの希望はある程度こちらから伝えた。高い吹抜けがあるので、音の響きはまずまず。しかしモニタースピーカーがなく、メインスピーカーも離れた場所に左右1台ずつしかない。
 歌う条件としては厳しいが、弾き語りシンガーが出演する機会があまりないので、このあたりはやむを得ない。自分の感覚と経験で乗り切るしかない。


マイクテスト中で席はまばら。このあと開始直前になって満席に。


 開始15分前くらいまでは席が1/3ほどしか埋まらず、ちょっと不安になったが、開始直前になって続々と人が集まってきて、あっという間に満席になった。座りきれない人が後方の予備椅子にもあふれ、一部には立ち見も。2階吹抜けテラスにもかなりの人が並んだ。
 予定ぴったりにコンサート開始。初めての場で100人を越す聴き手を前にし、久しぶりにプレッシャーを感じた。ステージが聴き手と同じレベルにあって距離が近いことも、逆に緊張する要因だったかもしれない。

 予定通り、27分で8曲を歌う。

「大空と大地の中で」…フォーク
「野ばら」…クラシック
「愛燦燦」…演歌系昭和歌謡
「ボラーレ」…カンツォーネ
「別れの朝」…洋楽系昭和歌謡
「時の流れに身をまかせ」…演歌系昭和歌謡
「荒城の月」…日本唱歌
「また逢う日まで」…POPS系昭和歌謡


 日頃から「多ジャンル」をウリにしているので、構成には知恵を絞った。内外のバランスや強弱のバランスも偏りがないよう気を配ったが、この試みはある程度成功したと自己評価している。

 歌い始めると、やはりモニターがないことが気になった。自分の声がよく聞き取れず、歌っていて不安になる。
 結果論だが、PAが比較的近い位置にあったので、小型の電池式PAを持参してモニターとして使う手段もあった。

 通りすがりに席に着く方は皆無で、大半が事前の告知を見てコンサートそのものが目的で集まってきた方々だったが、人数の割に会場は非常に静かだった。
 プログラム自体が普段デイサービス等で演っているものとは大きく異なり、いわゆる「聴かせる歌」が大半。聴き手参加型の曲はラストの「また逢う日まで」くらいなので、ある程度予想された反応だった。

 それでも1曲歌い終えるごとの拍手はまずまず。これといったミスもなく、ほぼ予定通りに淡々と歌い継ぎ、あっという間にラストを迎える。事前にMCで聴き手に手拍子での参加をうながし、最後になってようやく会場がにぎやかになる。
 全曲を手拍子系で構成する手法もあったが、それでは事前審査が通らなかった可能性が高い。何せここは「生涯学習」の場である。音楽にもそれにふさわしい静ひつな雰囲気があるはずで、クラシック系出演者が過去に多い背景も、おそらくそのあたりにあるのではないか。

 ともかくも初めての大きな場を無難にこなし、ほっと一息つく。手慣れた介護施設系やチカチカパフォーマンスの場に専念していれば楽だが、それではたちまち冗漫に流されてしまう。
 ただ場数をこなすだけでなく、常に新しいものを目指していきたい。その一点では、非常に意義深いコンサートだった。

 終了後、最前列で熱心に聴いていた40代と思しき女性が近寄ってきて、「素晴らしかったです。ぜひまた歌いに来てください」と握手を求めてきた。さらには並んでの記念撮影まで望まれた。
 モニタースピーカーがないことで、「歌った」という実感に乏しく、期待していたほどの手応えのなさに不安も感じていたが、この見知らぬ女性の言葉に救われる思いがした。

 その後、遠方から聴きに来てくださった知人のS子さん、友人夫婦のOさん、及川恒平さんの同級生Yさんとしばしの交歓。いろいろとお気遣いもいただく。
 今回、ブログ以外での個人的な告知は特にしなかったが、とても嬉しく思った。

 帰りの車中で妻から指摘があったが、途中で一部音が割れる歌があったという。おそらくはモニターがないことによるマイクバランスのミスであろう。
 最もよかったのは「ボラーレ」で、朝方の雨が一転して晴れに変わったこの日の気分によく合っていた、との評価。確かに吹抜けの窓からは青空がのぞいていた。ボラーレ!カンターレ!

 当日のライブ映像がYouTubeで公開されています。関心のある方は、下記にてご覧ください。(全30分のうち、15分の縮小版です)

《第83回ちえりあロビーコンサート/2016.4.9》


 

地域包括支援事業・ポピーの会 /2016.6.13



 チカチカパフォーマンスの聴き手として知り合い、その後いろいろな企画ライブに招かれているS子さんから、再び地域高齢者むけのライブを依頼された。
 S子さんは私より少し世代が若いが、民生委員を務め、地域のさまざまな社会活動に関わっている。活動の一環に好きな音楽を活かしたいと考えていて、たまたま路上ライブで私の歌を聴き、声をかけてくださった。

 2年前から町内会女性部や市民平和運動のイベントなどに呼んでいただいたが、今回は札幌市が手掛ける地域包括支援事業のイベントが対象。地域に住む高齢者が認知症を予防しつつ、住み慣れた地域で自立して暮らそう、という運動の一環である。
 これまで相続や遺言、介護などの勉強会を開いているが、一部に音楽イベントも取り入れていた。

 会場は2年前に町内会女性部サロンを実施した町内会館で、現地調査の必要はなかったが、問題は開始時間だった。
 午前10時にイベントを始め、お昼ごはんを食べて13時に終了、という進行計画である。対象が60〜70代の高齢者ということで、早めに始めて早めに終わりたい、という主旨は理解できた。

 イベントの1番手は私に演って欲しいとの意向で、過去にも一度だけ午前10時開始の地域イベントに出たことがあるが、声が途中で途切れるという大失態をやらかした苦い経験がある。
 しかし、最近はチカチカパフォーマンスの開始時間もじわじわと早まる傾向にあり、いつまでも逃げているわけにはいかない。何とか克服しようと前向きに考え直した。

 この日は朝からあいにくの雨で、当分止みそうにない。自分にしては早めの7時に起き、最近始めたばかりのプロ用ボイストレーニングを何度かやって備える。市内だが車で1時間近くかかる遠方なので、8時45分には家を出た。

 9時40分に会場到着。前回は座布団と椅子が半々だったが、今回は全席が椅子だった。予定通り10時に開始。
 予め提出済みのリストに従い、先方の希望通りぴったり1時間で17曲を歌った。(※はリクエスト)


「ボラーレ」
「愛の讃歌」
「パダンパダン」
「人生一路」
「空港」
「22才の別れ」
「山谷ブルース」※
「涙そうそう」

「恋の町札幌」
「赤い花白い花」
「ビリーヴ」
「鱒」
「夏の想い出」
「珍島物語」
「二輪草」
「365日の紙飛行機」
「この広い野原いっぱい」※


 聴き手は26名。会の主旨から、介護認定は全く受けてないか、介護度の低い方ばかりである。従って、事前に選んだ曲も懐メロ系は皆無。多ジャンル混在となり、洋楽から演歌まで多岐に渡った。
 つまりは私の得意とするパターンだったが、今回は「似たジャンルを続けて歌う」という新たな工夫をこらした。
「トークを交えて歌って」という希望が事前にあり、同じ傾向の曲を続けたほうがMCや時間の微調整はやりやすいだろうと考えたが、ほぼ思惑通りに運んだ。

 会場内は非常に静ひつだったが、1曲毎の拍手は熱くて長い。要所に入れた曲にまつわるトーク(MC)も効果的で、場を和らげるのに充分役だった。
 課題だった喉の調子は、1曲目からスムーズに声が出て、不安は吹き飛んだ。手探りで始めたボイストレーニングは、どうやら効果的のようである。

 8曲目の「涙そうそう」を終えて29分が経過。状況次第では休憩をはさむつもりでいたが、「どんどん歌ってください」との要望で、一気に突っ走ることに。

 外は雨が降り止まなかったが、歌詞に「雨」を含む歌が偶然3曲もあり、場の気分にはぴったりハマった。喉の調子は尻上がりによくなり、キーの高い難曲「珍島物語」は場の反応がよいこともあって、予定にないフルコーラスを歌った。
 実は最近になって「ビリーヴ」と「珍島物語」はキーを半音上げた。コードがそれぞれGとAmになってギターは弾きやすくなったが、ボーカルの難易度は増す。しかし、聴き手の反応は以前よりもよくなった気がする。キーはやはり限界まで上げるべきか。

 ラストひとつ前の「365日の紙飛行機」で、会場に手拍子での協力を求める。場がずっと静ひつなままだったので、賑やかに締めくくりたいという狙いだったが、これは当たった。
 最後は会のテーマソングにしているという「この広い野原いっぱい」を全員でシングアウト。11時からは終活関連の報告会が続くので、早めに退席させてもらったが、「素晴らしかった」「もっと聴きたかった」との声が多数。

 帰宅すると責任者のS子さんから、「力強い歌声が感動的。ぜいたくで幸せな時間でした」とのお礼メールが早くも届いていた。
 聴き手の感想と歌い手の感覚とが一致するライブは意外に少ないものだが、今回はそれが起きた。午前中ライブの苦手意識も払拭できた気がする。


 

赤れんがアーティスト・オーディション /2016.7.13



 2005年夏に合格し、それなりに活動はしたが、諸事情でライセンス更新しなかった「赤れんがアーティスト」のオーディションを11年ぶりに受けた。
 北海道が主催する大道芸人や路上ミュージシャンを対象にした文化活動で、合格すると赤れんが庁舎(旧北海道庁)前庭で活動ができる。東京都が主催するヘブンアーティストや、すでに合格して活動中のチカチカパフォーマーに位置づけが似ている。

 久しぶりに受けてみようと思い立ったのは、11年前に比べてはるかに経験値が増し、路上ライブに対する手探り状態も克服したことがまずある。
 さらには、活動を始めて5年になったチカチカパフォーマンスに、このところ頭打ち感があることで、来年以降のライセンス更新もどうなるか流動的だ。活動できる場所は多いに越したことはない。年頭に密かに掲げた目標「活動場所を広げる」の一環である。

 私は始まった年に合格したので、いわば一期生。しかし、いったん更新を怠ると、当然ながら受け直しとなる。
 経歴等を記した一次書類審査は無事に通過し、今日は二次実技審査の実施日。実施時間に関し、当局には第3希望までを提出したが、幸いに第1希望の午前11時台が割当てられた。

 早めに起きて喉の調整をする。11年前に合格したからといって、今回も合格する保証はない。気温はぐんぐん上がって、午前中から25度を突破。最終的には28.3度まで上がった。
 審査会場は合格後の活動場所となる赤れんが庁舎前庭。20分前に会場入りしたが、どこにも審査員の姿はない。

 とりあえず機材を組み立て、いつでも始められるようスタンバイする。3分前になってようやく3人の審査員(道職員)が現れた。直接の担当は朝9時に参加確認の電話があった20代と思しき女性。他に40代前後の女性と50〜60代の男性である。

 どこで歌うべきか確認すると、「このあたりどこでも結構です」とのこと。迷ったが、陽射しが強い建物側ではなく、太い木が心地よい木陰を作っている場所を選んだ。正面玄関から遠いので人通りは少ないが、立ったままの審査員にも涼しく、11年前に何度か歌ったことのある場所だった。

 11時ぴったりに開始。前回は3曲ともオリジナル曲で臨んだが、今回は冒険を避けて老若男女に受ける無難な曲を選んだ。


「ビリーヴ」
「エーデルワイス」
「時の流れに身をまかせ」


 電源や音響設備は一切なく、全て自前が条件である。以前は音響一式と専門スタッフがいたが、経費節減の流れか、あるいは機材設置まで含めたパフォーマンス能力を見極める意図があるのだろうか。
 チカチカパフォーマンスや小樽運河路上ライブで使い慣れた機材なので、あまり問題はなかった。

 歌い始めたとたん、どこからともなく人が集まってきて、一気に10人ほどに達する。スマホで動画撮影を始める人もいる。終わると盛んに拍手。
 事前の告知等はされてなく、私もネット等での告知は一切しなかったので、純粋に歌だけで集まってきた人々だった。前回はなかった現象で、歌い手としては非常にやりやすい。
 平日だが、行き交う人々に外国人の姿が以前より多くなった。東南アジア系のほか、欧米系も混じっている。11年の間に世情は大きく変わったようだ。

 思いがけない反応に勇気を得て歌い進んだが、2曲目の「エーデルワイス」の途中で、急に風が強くなった。電子譜面搭載のマイクスタンドが大きく揺れ、いまにも倒れんばかり。
 実は「ビリーヴ」の間奏で左手のセーハが甘くなり、一瞬音がブレるという失敗をしている。もしここでスタンドを倒したりすると、演奏のやり直しや電子譜面の故障など、まずい展開になりかねない。そうなれば合格はおぼつかない。
 危険を察知し、素早く右足でスタンドの脚を押さえつつ歌い続ける。足は終了まで離さなかった。

 オーディションなので、普段の路上ライブでは設置しない大型の看板をマイクスタンドにぶら下げたのが風を受けた大きな要因。万事ぬかりないつもりでいても、何が起きるか分からないのが修羅場としての路上ライブ、そしてオーディションである。

「エーデルワイス」でちょっと引いた人の流れが、「時の流れに身をまかせ」で再び戻った。この曲は東南アジア系の観光客が多い場所では特に強い。今年3月のチカチカパフォーマンス・オーディションでも最後に歌ったが、まさに私の最終兵器となりつつある。

 終わると通りすがりの観光客のほか、審査員の方にまで拍手をいただいた。短い時間だったが、久しぶりに歴史的建造物の前で歌う機会を得て、ちょっと気持ちが高揚した。
 小樽運河と同じ観光地だが、国の重要文化財ということもあって、そこに吹く風が微妙に違う気がする。(合格発表は今月末→無事に合格しました)


 

光円寺・秋季彼岸会 /2016.9.22



 ネット経由で依頼のあった札幌市内のお寺で歌った。お寺で歌うのは昨年1月に続いて2度目。今回は「秋季彼岸会(ひがんえ)」という、檀家を対象とした彼岸法要での余興出演である。
 打合せの過程で知ったが、宗派が母の生家と全く同じ浄土真宗。(母は寺の娘である)ルーツも同じ北陸地方で、不思議な縁を感じた。
 場所はこれまた偶然17年前まで住んでいたマンションの近く。よく買物に行った大型スーパーのそばにあった。

 先方の希望は正味1時間のライブで、介護施設と比べると長い。年齢層は70〜80歳といったところだった。初めての場でもあり、季節感にこだわらずに無難な定番曲で構成することにした。
「全員で歌える曲をぜひに」との要望があり、最近急増している歌声喫茶ふうの展開である。打合せの中で、「リンゴの唄」「星影のワルツ」「上を向いて歩こう」「青い山脈」の4曲を歌うことが決まり、歌詞は先方で準備していただけることになった。

 法要は13時開始で、私の出番は14時過ぎ。自宅からはやや遠いので、早めに出て13時40分に先方到着。鉄筋コンクリート造り3階建ての立派なお寺に驚く。

 控室でしばし待機のあと、14時10分くらいにステージとなる本堂に入る。手早く準備し、14時15分から始めた。
 アンコールを含め、休憩なしのぴったり1時間で16曲を歌う。


「北国の春」
「瀬戸の花嫁」
「お富さん」
「二輪草」
「二人は若い」
「高校三年生」
「荒城の月」
「丘を越えて」
「小樽のひとよ」
「時の流れに身をまかせ」
「知床旅情」
〜全員で歌声喫茶ふうに
「リンゴの唄」
「星影のワルツ」
「上を向いて歩こう」
「青い山脈」
〜アンコール
「月がとっても青いから」


 聴き手は13名とやや少なめだったが、初めての場でも、昨春歌った市内のお寺でのコンサートと雰囲気に大きな違いはなかった。
 宗教的儀式の一環ということもあって、場は終始静ひつ。つまりは、「傾聴型」の場である。それを見越して、ニギヤカ系の曲は「お富さん」くらい。大半を叙情系の曲で貫いた。

 当初の予定では5曲目に参加型の「幸せなら手をたたこう」を準備していたが、場の雰囲気から難しいと判断し、「二人は若い」に差し替えた。かけ声での合いの手も、あえて求めずに歌う。
 前回も感じたが、お寺の本堂は天井高も含めて空間が大きく、歌っていてナチュラルリバーブが心地よい。

 静ひつではあったが、場の反応は決して悪いものではなく、純粋に歌を楽しんでいただけたと思う。後半に配置した歌声喫茶ふうの趣向も、共に歌う声がじょじょに増え、他のライブと変わりない一体感が生まれた。
 アンコールは特に打合せていなかったが、担当の副住職さんからの希望で、場の気分にも沿うものだった。

 あとで知ったが、弾き語りによる余興は、今回が初めての試みだったそう。お寺にも新しい時代の流れがきているように感じた。
 いくつかの不思議な縁に導かれたライブで、コツコツと長く活動を続けていると、道はしらずしらずどこかでつながっているのだと実感する。


 

白石イベント広場・チカっと叙情歌サロン01st
   「予想を超える手応え」
/2017.1.23



 かねてから準備していた白石区役所まちづくりイベント広場でのライブの日だった。広場は昨年11月に新規移転オープンした区役所地下2階にあり、何もかもが新しく、吹き抜けのある大空間は明るくて伸びやかな印象だ。
 事前審査も無事に通り、下調べも済ませた。似た施設では何度か歌っているが、ここで歌うのは初めなので、まずは手探りの進行になるはずだった。

 自分のブログで1ヶ月前に告知したほか、数人の友人に賀状の添え書きで案内しただけで、管轄する地域振興課のイベント告知はネットスケジュール表での数行のみ。告知としては控えめで、通りすがりの人をいかにしてつかむかに期待した。

 広場の使用時間は13〜15時で、ライブは休憩を挟んで13時15分〜14時45分を予定していた。設営等の補佐役として妻を伴い、12時5分前に家を出る。
 心配していた悪天候は回避し、温暖な陽気に恵まれた。12時30分には区役所に着き、駐車場にもすんなり停められた。幸先はよい。

 まず最初に1階防災センターで受付を済ませ、持参のオニギリを休憩コーナーで食べる。13時10分前に広場に下りたら、直前の販売系使用者の方が撤収中。地域振興課の係員やボランティアの方もいて、倉庫の鍵をその場で引き継ぐ。まだ13時前だったが、ただちに設営に入った。
 倉庫は広場横にあり、椅子はそこにしまってある。20脚を借りたが、3脚×3列を通路を挟んで左右に配置し、実際に並べたのは計18脚。そんなには来ないだろう…、との読みからだが、万一足りなくなったら追加しよう、ということなる。

 広場に隣接するカフェへの騒音を懸念し、スピーカーを向けない位置がステージとして望ましいとのこと。そこでカフェを背にして持参のマイクとPAを設営し、さらに背後には2メートル弱の衝立をびっしり並べて音を遮へいした。
 広場が大変寒いということで、先週から使用時にはヒーターが設置されたという。大小3基のヒーターが客席を左右から挟むように稼働。熱が逃げにくいよう、通路側には透明の衝立も置かれ、寒さ対策は万全だった。

 広場内にある騒音計のチェック(最大80dB)も無事に通り、事前にテストした音量値でOKが出た。係員やボランティアの方が手伝ってくれたこともあり、13時7分くらいには準備が整う。

 開演までの時間、集まってくれた古い友人夫婦やイベント仲間のTさんと歓談。見知らぬ女性が2人いたので声をかけたら、昨春にチカチカパフォーマンスで知り合ったSさんの友人だという。
 ネットをやらないSさんだが、先週たまたま寒中見舞いが届いた際にお知らせしておいたもの。ご本人もあとから来るそうで、結果として自ら告知した5人が開演前の聴き手、ということになった。

 予定ぴったりの13時15分に開始。歌い手として場を借りている立場だが、場所は公的空間なので、告知した時間は厳守が鉄則だ。
 第1ステージでは、およそ40分で10曲を歌う。(※はリクエスト)


「カントリー・ロード」
「エーデルワイス」
「雪が降る」
「小樽のひとよ」※
「男と女のお話」
「川の流れのように」※
「池上線」
「恋の町札幌」※
「糸」※
「ミネソタの卵売り」※



 リクエストを前提とした場でも、最初はリクエストが出にくいのが常。前後半を通して全くリクエストが出ないことも想定して準備したが、友人を中心に少しずつリクエストが出始める。

 一般通行者の動線としては、ステージ背面にあるカフェ前通路から右手前方にある地下鉄駅に抜ける経路と、反対に地下鉄駅からステージ正面通路を通り、左手にあるエレベーターに向かう経路の2本があったが、厳寒期ということもあって、行き交う人はまばら。
 それでも歌声を聴きつけて立ち止まる人も時折いて、すかさずボランティアの方が声をかけ、椅子に誘導してくれていた。チカホでは歌いながら自分で声掛けするしかないので、大変ありがたいシステムだった。
 終了間際にはそうした通りすがりの方も椅子に座るようになり、曲間で声をかけてリクエストをもらうよう心がけた。

 13時55分ころに第1ステージ終了。音量は小さめにしたが、PAの位置を高くしたので、まずまず歌いやすい。残響時間はチカホよりも短めで、リバーブはやや強めに設定した。

 歌うに従い、最初はやや硬かった場の反応もじょじょによくなってきて、後半にはリクエストも次々に出た。久しぶりに歌った「川の流れのように」では気持ちが入って、満足する出来。客席で聴いていた妻にも高評価を得た。
 リクエスト用紙は透明OPP袋に入れ、回覧返却方式にした。客席との距離が近いので、曲間に「○○を歌って」との声がかかると、ただちに対応できる。手探りながらも、まずまずの出だしだった。

 14時過ぎから第2ステージ開始。およそ50分で14曲を歌う。
(◎以外は全てリクエスト)


「銃爪」(初披露)
「石狩挽歌」
「アメイジング・グレイス」
「ラ・ノビア」
「季節の中で」
「さんぽ」
「空港」
「ダニー・ボーイ」
「君恋し」
「さくら(直太朗)」
「翼をください」
「蘇州夜曲」
「上を向いて歩こう」◎
「世界に一つだけの花」◎



 出だしから見知らぬ女性のリクエストで「銃爪」を歌う。好きな歌だが、なぜか今回が初披露。テンポのよい曲調にも救われ、会心の出来映え。これで一気に場が乗った。
 以降、未知既知の聴き手からランダムにリクエストが飛び出す。過去の地域センターにおける同種のライブでも同じ傾向だったが、後半に進むにつれてリクエストは増え、それに比例して場も乗ってくるもので、この日もその例外ではなかった。

 途中で1〜2歳くらいの男の子を抱えた若いお母さんが最前列に座った。すかさず声をかけ、子供向きの歌をお勧めした。
 最終的に決まった「さんぽ」をその子に向かって歌ってあげると、じっと聴き入っている。この日、最年少の聴き手だった。

 後半になってじわじわと人が増え、用意した椅子が足りなくなった。どうしようかと客席中ほどの妻を見たが、気づいていない。するとすかさずボランティアの方が椅子を追加してくれた。助かった。
 追加した椅子に座ったのは、私のライブでは珍しい中学生か高校生の若い男性2人組。うまい具合に「さくら」「翼をください」などの若い人むきのリクエストが続く。そのまま最後まで残って聴いてくれた。

 14時45分でリクエスト受付を終え、ラストの全員で歌える曲へと移る。いわゆる「シングアウト曲」で、5曲を用意していたが、場の雰囲気から「上を向いて歩こう」「世界に一つだけの花」のどちらかと考えたが、絞りきれない。そこで座興として場に結論を委ねることにした。いわゆる「二択リクエスト」である。
 すると、それぞれを推す強い声と拍手とが拮抗し、1曲に絞るのが困難な状況。これは両方歌うしかない。
 時間の都合で一部の歌詞を省略したが、2曲ともギターに合わせて歌う声と手拍子とが広場内に響き、エンディングにふさわしい盛り上がりとなった。

 終了後、ただちに撤収し、倉庫内内線電話で防災センターに報告。係員に現状を確認してもらい、倉庫の鍵を渡して使用人数や感想を記した使用報告書を提出する。その後、1階防災センターまで再度行って、駐車料の軽減措置を器械でやってもらった。(5時間まで無料)
 実際の撤収作業は設営と同様に、係員やボランティア、そして聴き手の方々までが手伝ってくださって、あっという間に終わった。

 最後まで聴いてくれた方が次々に声をかけてくれたが、既知の方はもちろん、未知の方にも大好評。身に余る言葉のほか、食べ物を中心に差し入れもたくさんいただく。ありがとうございます。
 若い男性2人が近寄ってきて「加山雄三も歌えますか?」と尋ねてきた。「君といつまでも」の一節をアカペラで歌ってあげると、とても喜んでいた。なんでも、おじいちゃんが大好きなんだそう。そういう世代なのだ。

 最後列中央に座っていた女性に見覚えがあり、「どこかでお会いしてますか?」と声をかけたら、なんと私のブログの10年来の読者だそうで、私が設計した家のオープンハウスで一度だけ会っていたらしい。自宅が偶然白石区にあり、足を運ぶ気になったという。
 古い友人を含めて「近所なので来る気になった」という人は他にも複数いたので、こうしたライブを各区でやってみる価値はありそうだ。

 イベント仲間のTさんが集客数をメモしてくれていて、延べ集客数は25人だったそう。途中で帰った人が3〜4人いたが、大半の方が最後まで見届けてくれた。初めての場で手探り的進行だったにも関わらず、いろいろな方の支えもあって、予想外の盛況だった。
 歌った全24曲のうち、70%強にあたる17曲がリクエストによるもの。ラスト2曲も聴き手に選んでもらったので、「聴き手の意向に沿う」という一点では、街づくり系の場として大変意義あるものだった。
 反省としては、新しく席についた方へのリクエスト用紙案内が、必ずしもスムーズではなかったこと。チカホと同様にマイク横にスタンドを置いたが、この位置では取りづらい。会場入口に相当する客席後方に置くか、最初から椅子の上に並べておくなど、改善が必要だ。

 イベントライブと路上ライブの両方の要素を持つ不思議な場、というのが初回を終えての率直な感想。チカホと違って営業行為は一切できず、通行する人も格段に少ないが、椅子があって明るく、決まった時刻に長時間じっくり落ち着いて歌えるのが最大の利点。駐車料も含めて、会場費が一切発生しないのも魅力だ。
 2回目以降は初回の結果次第と思い保留にしてあったが、年に2〜3回ペースなら、今後もやれそうな気がしてきた。