イベントライブ顛末記


歌酔倶楽部ありがとう・MJ "ネコニャ〜ゴ"/2010.4.25



 厳しい仕事のスケジュールを割き、「居酒屋ありがとう」の定例イベント「Musicジャンボリー」(通称MJ)に参加。この日は日曜だが、押し寄せる仕事の荒波にもまれ、心身ともにボロボロ状態。よほどキャンセルしようかと直前まで迷ったが、ブログは無理でもライブ予定は極力こなしたい。
 かなり前に予約してあり、予定よりも少し早めに作業が進んだので、わずかな時間を作ってアタフタ出かけた。

 開始はいつものように午後7時。時間の経過とともにジワジワと人が集まってきて、最終的には20人を超えた。私の出番は出演10組中の5番目。
 月末ライブなので歌えるのは2曲のみ。最近は月半ばに同じ店で実施される一人30分が持ち時間の「ミニライブサンデー」への参加が中心で、月末ライブにエントリーすること自体、およそ1年ぶりなのである。
 2曲だけとはいえ、練習をする時間的余裕がほとんどなく、仕事の疲れが溜まっていて、全体的に集中を欠いた。

 この日のテーマはずばり「ネコ」で、ネコにちなんだ歌を2曲そろえた。最初が六文銭の「ネコの歌」で、おけいさんこと、四角佳子さんが40年近く前にソロで歌っている。劇中歌で、摩訶不思議な歌詞に独特の雰囲気がある。以前から一度歌いたいと思っていたが、ようやく念願かなった。
 偶然だが、会場となった居酒屋「ありがとう」で、6月末に四角佳子さんと猫(70年代フォークグループ)のジョイントライブがあるらしい。ネコとおけいさん、まるでネラったような企画だが、こんなこともある。

 2曲目はオリジナル曲で、「黒い森の青いネコ」。1曲目に登場するネコが、お嬢さんが涙を流して別れを惜しむ「良いネコ」なら、2曲目に登場するネコは、ズルくて小賢しい「悪いネコ」である。
「ボクの大切に育てた小鳥を、勝手に奪って逃げてゆく」不届きなヤツなのである。まあしかし、それを「さあ、気のすむまでお食べ」と、笑って許してしまう、ナンジャクさなのだが…。


「ネコの歌」
「黒い森の青いネコ」(オリジナル)


 テーマはなかなか良かったと思うが、曲が難解すぎた印象だ。しかし、最近はだんだん難しい曲を歌いたがる傾向にある。ネタ切れというヤツだろうか。
 多忙な時間の隙間なので、出来はいまひとつだった。歌は気持ちにある程度の余裕がないとやれない。

 1曲目のアルペジオのピッキングはまずまずだったが、2曲目でBのコードが数カ所アヤしかった。BとBフラットは最も苦手なコードだが、オリジナルではなぜかBをしばしば使う。
 この曲でも構成上「B」が必須で、どうしても避けて通れない。比較的おさえやすいハイコードのBにすべきだったかと、いまごろになって反省。

 この日のもうひとつの目玉は、オリジナルの「黒い森の青いネコ」のラストに入れた、猫の鳴きマネ(擬音)である。この曲のリズムパターンは私にしては珍しい激しいロック調なのだが、ラストでアドリブ風のスキャットを長めに入れたあと、Emの短いストロークカットからメジャーのEに緩く転調し、最後に一瞬間を置いたあと、「ニャ〜ゴ」と擬音を入れる、という演出である。メリハリの効いた構成で、この部分は結構受けたと思う。
 この猫の鳴きマネ、1年前に同じ場で同じ曲を歌った際、会場の誰かが、アドリブで入れてくれたことをヒントにしている。最近聴いた30代のプロフォーク歌手が、この擬音をうまく曲に取り入れていた。
「スキャット」「口笛」「擬音」など、歌とギター以外で曲に変化をつける手段は、工夫次第でいろいろとあるものだ。

 歌う人数がいつもより少なめで、かなり早く終わり、2巡目を歌う雰囲気もあったが、仕事の残りを片づけねばならず、一人だけ早々に帰ってきた。

 11時半に家に戻り、シャワーを浴びて夜食を食べ、この日も明け方4時まで作業。多忙の中の音楽活動は、なかなかキビしいものがある。


 

百合が原地区センター アトリウムコンサート/2010.7.24



 近隣の「太平百合が原地区センター」でのアトリウムコンサートが無事に終わった。「無事に」というフレーズはライブレポの定例句のようになっているが、今回のライブにはちょっとしたいわくがあり、「失敗は許されない」という強いプレッシャーがあった。その意味ではまさに「無事に終わった」という表現が相応しい。
 実は今回のライブは予め決まった場があったわけではなく、誰かに招かれたわけでもない。いわゆる「持込み企画」で、自らが企画し、粘り強く働きかけて実現したものだった。話は4ヶ月ほど前にさかのぼる。

 町内会回覧板に「自分の特技を地域で発信したい方を求めます」というパンフを見つけた。3月下旬のことで、場所は近隣の地区センター。人生のあらゆる局面で、チャンスは向こうから突然やってくる。問題はそれを嗅ぎ分ける嗅覚と行動力だ。すぐに電話をし、その日のうちに責任者と面談した。
 自分のこれまでの弾き語り活動をざっと話し、経歴書などの提出書類をもらって、ひとまず登録だけはした。ところが新年度の活動概要が決まる4月中旬になっても、全く連絡がない。業を煮やし、自分なりのライブ企画書をまとめ、過去の音源CDと共に先方に送った。
 企画書は「叙情歌暦」と題したもので、春にちなんだ内外の叙情系の歌を18曲選び、前後半に分けて1時間半で歌うという代物。場所は何度か足を運んで音響の良さと空間の広がりがすっかり気に入っていた、ロビーを希望した。

 自分の企画と歌唱には自信があったが、その後先方から連絡はなく、じりじりしながら待つうちに、季節は初夏にさしかかってしまった。

 春を意識した企画書はすでに意味をなさず、一時はあきらめの境地に入りかけたが、ここでくじけてはならじと勇気をふるい、担当者に再度の面談を試みた。このあたりの経緯は、脱サラ時に自分の作品を売り込みに日参した行動に酷似している。時には強引さ、しつこさも必要なのである。
 担当の方いわく、歌は問題なく、実績も充分。しかし、ロビー内で単独ライブを開いて、果たして聴き手が何人現れるだろうか?その見通しが立たない企画の実施は、現実的に難しい、という見解。路上ライブのように、単に通りすがりの数人を相手にした気ままなライブを考えていた私は、愕然とせざるを得なかった。
 地域センターを運営し、多くの地域住民が集う場を提供する責任のある立場としてはごく当然の考えで、一介のアマチュアシンガーに過ぎない中年男に、1時間半も公的な場を提供してもらうこと自体に、無理があったのだ。

 正式登録はされていたから、いずれ共演などの無難なイベントが実施される時期がくるまでじっと待つ、そんな覚悟を決め始めた矢先、担当のMさんが、思いついたようにこんな話を持ち出した。
「夏に実施のフリーマーケットの共催という形なら、やれるかもしれません」
 しかし、どれだけの人が来てくれるかは未知数だし、そもそも買物と音楽とが共存可能なものなのか…、それでもやる気がありますか?と確認された。
「やります、やらせて下さい!」そう即答した。どのような形であれ、まずは歌わせてもらうことだ。

 こんな長いいきさつである。その後日を改め、ロビー(アトリウム)を実際に使ったリハーサルをやったが、このリハーサルが思いがけぬ反響。単なるリハのはずが、通りすがりの方がかなり集まってきて、ちょっとしたミニコンサートのような形になった。
 リハ終了後に声をかけてくる人が複数いたりし、この時点で(やれるかも…)という自信めたものが少し湧いた。その後さらに練習や構成の修正を重ね、ようやくこの日を迎えたのだ。

 あいにく当日は前夜から断続的に激しい雨が降り続き、ほとんど経験のない午前中のライブ、そして地域センターという初めての場に対する緊張からか、珍しく眠りが浅く、明け方近くに何度も目覚める始末。
 開演3時間前の午前8時に起き、入念に調整。幸いに声はまずまず出ている。休暇で家にいた妻と共に、午前10時半前に家を出る。傘を準備していったが、5分ほどで先方に着くと、なぜか雨はピタリと止んでいた。吉兆である。

 フリーマーケット開催のせいか、雨にも関わらず駐車場は満杯で、路上にまで車があふれている。やむなく機材だけをおろし、混雑時に駐車が認められている近所の土木センターに車を置く。
 事務所に挨拶をしたあと、すぐに設営にかかった。事前のリハーサルですべてチェック済みなので、5分ほどで終了。ステージは通行の邪魔にならず、ロビー内椅子や吹抜け通路から見通しがよく、音の返りがいい壁コーナー部を選択。高い吹抜け窓から光が落ちてくるので照明類はいらず、念のため持参したLED楽譜ライトも不要だった。

 ロビー内には、すでに20名近くの方々が集まっている。この日のライブは事前にセンター内パンフレットなどで告知されてはいたが、果たして座っている方々が、フリーマーケットが主目的でいらしたのか、ライブ自体が目的なのか、あるいは単に図書室などの帰りで休んでいるだけなのか、まるで見当がつかない。
 開演までは5分以上も時間があったが、マイクテストをかね、まずは1曲歌って様子をみることにした。

 楽譜は多めに準備したが、本番用の曲は歌いたくない。パラパラめくるうち、昨夜ボツにした「浜辺の歌」が目についた。本番1曲目はストローク系の曲と決めていたので、テストには叙情系の曲がよろしい。
 1番だけのつもりで歌い始めたが、会場の反応が予想よりもいい。(聴きにきてくれている…)という気配がすぐに伝わってきた。そこで予定を変更し、フルコーラスを歌いきる。
 終わると、ごく普通のコンサートのように、拍手が自然に起こった。やはり予感は当たっていた。

 時計を見ると、開始予定の11時にはまだ数分ある。しかし、場はあきらかに開演を急かしている。そこで係の方の了解を得、早めに始めることにした。
 練りに練ったこの日の構成は、順に以下の通り。


 〜マイクテスト
「浜辺の歌」

「カントリー・ロード」
「夏の思い出」
「赤い花白い花」
「上を向いて歩こう」
「夕焼け小焼け」
「北の旅人」
「手のひらを太陽に」
「宗谷岬」
「埴生の宿」
「切手のないおくりもの」
「いい日旅立ち」


 時間の経過と共に聴き手はじわじわと増え、終了時にざっと目で数えてみたら、30名を越えていた。開け放たれた大ホールで開催のフリーマーケットのざわめきが時折入り込んできたが、会場は静ひつで程よい緊張感に包まれている。静かだが、1曲終わるごとの拍手は熱くて強く、聴き手の後押しを感じた。非常に歌いやすい場だった。

 高い天井によるナチュラルリバーブのことも考慮し、この日は力まずに8分くらいの力で、ていねいに歌うことを心がけた。歌いながら会場を見回すと、下は7〜8歳の子供から、その母親とおぼしき若い女性数人。そして私と同年代の中年男女、さらには親のような年代の高齢者と、聴き手の幅は実に広い。
 事前にある程度の情報はあったので、選曲も広い聴き手に対応する柔軟なものにしてあったし、複数用意してあった予備曲も、その場の判断でうまく出し入れした。

 この日は椅子に座って歌ったが、ライブハウスや自宅スタジオ以外で椅子を使うことはない。吹抜けのある大空間なので、普通は立って歌うことを選択するし、そのほうが声は出る。しかし、「内外の叙情歌を歌い綴る」と案内パンフには書かれていたので、聴き手の目線により近い、座って歌う姿勢を選択した。
 この日のために加工、準備したマイクスタンド利用のミニアンプスタンドもうまく機能した。設営が簡単で、高さ調節が自在にできるところがよい。今後活躍の場が増えそうだ。

 これといったミスもなく終了。場の空気次第では省く気でいた「いい日旅立ち」を最後に歌ったので、珍しく3分ほど予定をオーバーした。合計で40分、12曲も歌ったことになる。一番高い2階の吹抜けから見ていた妻に確認したら、途中で席を立つ人はほとんどいなかったそうだ。多くの人が最後まで見届けてくれた。

 終了後、見知らぬ中年男性が近寄ってきて、「実は以前に菊地さんにお会いしたことがあります」という。後ろには奥様とおぼしき女性の姿。しばらく考えたが、思い出せない。
「どういった関係でしょう?」と降参して問い返すと、「設計関連です」とのヒント。それで思い出した。4年ほど前に住宅の設計相談で数回お会いしたことのある、K田さん夫妻である。聞けば私のブログを欠かさず読んでいるそうで、開催場所が近くであることを知り、わざわざ足を運んでくださったとか。
 ブログ掲載のYouTubeでは再生がうまくいかないとかで、歌を初めて生で聴けてよかった、素晴らしかったと喜んでいただいた。

 K田さんからは、ひとつだけ注文が出て、曲間のMCが早口で、高齢者には聞き取りにくい。そこをもっとゆっくりと明確に話すよう心がけては、とのありがたい忠告である。
 初めての場なので、短い時間にたくさん歌おうと欲張り、その傾向はあったかもしれない。それでなくても、早口は私の大きな欠点だ。来月同じ場で実施のミニ演芸会では、曲数を減らしてでも、その点を修正したいと思う。

 とはいえ、職員の方々を含めた評判は上々だった。「地域センター活用の弾き語りライブ」という、まるで手探りの体当たり企画だったが、今後の活動の基礎は確実に築けたと思う。


 

百合が原地区センター ミニミニ演芸会/2010.8.28



 前月歌ったばかりの近隣の百合が原地区センターで、「ミニミニ演芸会」なるイベントに参加した。場所は広い体育室。4組のパフォーマーが出演するので、前回とはかなり趣きが異なる。
 開始は午後1時からだが、早めの午後12時半には家を出て、到着後すぐに舞台横で機材のセットをやった。

 キャパは150席と聞いていたが、実際に並べられた椅子を数えると112席。しかし、周囲には充分な余裕があり、椅子さえあれば軽く200席は確保できそうだった。

 この日の出演者と時間は以下の通り。時間ロスがないよう、セッティングや機材には充分気を配った。

・和太鼓 13:00-13:30
・私の弾き語り 13:30-14:00
・腹話術 14:00-14:30
・民 謡 14:30-15:00

 開始直前になっても席は閑散としていて、数えてみると20名ほどしかいない。この日は真夏のような暑さで、集客に影響したかもしれない。責任者のMさんが近寄って来て、「いつもは満席に近いのですが、少なくてスミマセン」などと恐縮している。
 しかし、路上ライブでは誰一人いない場で、延々歌うことも常。聴き手の多い少ないは、実はほとんど気にしないタチである。

 予定より数分遅れて始まったが、最初の和太鼓は1時25分に終わった。すぐに舞台横に行き、準備してあった機材をステージ上に運んでスタンバイOK。ちょっとだけマイクテストをし、予定より早い1時28分から演奏を始めた。

 この日歌ったの曲は以下の9曲で、前回よりも年齢層を高めに設定した。会場を見渡すと年齢層は介護施設に近く、正解だった。


「高原列車は行く」
「浜千鳥」
「瀬戸の花嫁」
「おおブレネリ」
「バラが咲いた」
「思い出のグリーングラス」
「さくら貝の歌」)
「時計台の鐘」
「花〜すべての人の心に花を」


 メリハリを考慮し、最初と中盤、そしてラストにストローク系の曲を配置したが、全体としては内外の叙情曲、という切り口でまとめた。前回との重複曲はない。

 いざ歌い始めると、久しぶりに上がった。理由ははっきりしないが、ステージ高さが1メートル近くあり、しかも立って歌ったので、聴き手がすっかり見渡せたせいかもしれない。アルペジオ系の曲でやや指の動きが悪く感じたが、大事には至らず、3曲目を歌った頃にようやく落ち着いてきた。
 時間の経過と共に聴き手はじわじわと増えてきて、ステージ上からざっと目で数えてみると、およそ50名ほど。これでも席数の半分以下だが、熱心に聴いてくださる方ばかりなので、感謝すべきだろう。
 前回同様、場はおとなしいが、手応えは非常にいい。曲の終わったあとの拍手が熱くて長いのはこの場の大きな特徴で、歌い手冥利につきる。

「浜千鳥」では曲紹介だけで小さな歓声と拍手が起きた。いわゆる「文部省唱歌」は、この種の場では非常に強い。「おおブレネリ」は50年前に小学校の卒業記念合唱会で歌った想い出の曲。初披露だが、叙情的なアレンジを加味して歌ったので、うまくおさまった。
 ラスト3曲は聴き手を意図的に懐に引っ張り込む意図で構成したが、ほぼ思惑通りに運んだと思う。会場からの強い反応を感じた。最近はいわゆる「手拍子シャンシャン系」の終わり方ではなく、聴き手の情に訴える「倒れ込み系」の終わり方を選択することが多くなった。これが一番自分に向いている気がする。

 予定より3分早く、1時57分に終わった。持ち時間をいっぱいに使ったが、オーバーしなかったので、よしとしたい。前回の宿題だった「MCをゆっくり話す」は、今回はうまくいった。30分で9曲なので無駄なMCは一切なく、時には曲紹介だけで進めたが、要所では短いエピソードを入れた。

 ボーカルのモニターを心配していたが、ステージ上でもまずまず確認できた。あとで妻に確かめたら、何ら問題なく聴けたそうで、及第点だろう。
 この日は音楽仲間のチロリンさんも応援に来てくれたが、「ボーカルはばっちりだが、ギターの音がやや貧弱だった」との辛い評価。チロリンさんは元プロなので、音作りに関しては厳しい。
 ボーカルはメインPAを使って高い位置の大型スピーカーから、ギターは歌い手横の簡易PAで、という変則スタイルがアンバランスだったろうか。しかし、最も大切なボーカルは良かったというので、こちらもよしとすべきだろう。

 終了後、機材をまとめて出口にさしかかると、見知らぬ女性が泣き顔で近寄ってくる。横には妻がいて、いっしょに泣いている。8年前に辞めた職場の同僚Mさんとかで、何も知らずにたまたま聴きに来て、私の歌で感激して泣いたという。
 妻の横には友人のNAOさんとSちゃんもいて、職場の帰りに立ち寄り、3曲目から聴いていたそうだ。なぜかNAOさんも目を赤くしていた。

 後から聞くと、Mさんはご主人を今年なくしたばかりで、その切ない心境が私の歌の何かとシンクロしたらしい。「今日の歌にはタマシイが入っていた。ラストの『花』では自然に涙が流れた」と、妻も同じようなことを言っていた。
「花」は別の介護施設でも多数の方に泣かれたことがある。今回が2度目。どうやらこちらも私の「決め歌」に育ったらしい。

 ライブ終了後、妻や立ち会ってくれた友人のNAOさんとあれこれ話し合ったが、4組の全くタイプの違うパフォーマーがいた、という部分がかなり新鮮だった。それぞれに特徴があり、それぞれにいい部分と改善すべき部分があるように感じた。
「見せる衣装や振付け」「場に応じた柔軟な話術」「年齢を超越した凛とした歌唱」など、おおいに参考になった。負の部分では、「聴き手の側に立ったパフォーマンス」という点で考えさせられたが、我が身に置き換えて省みたいと思う。
 細部と全体のバランスの取り方など、いろいろと反省や収穫の多いライブであった。


 

ジャンゴ・セッションLive/2010.9.12



 数ヶ月も前のことだが、2月にシャンソンを歌わせてもらったライブカフェのオーナーであるJUNさんから連絡があり、秋にまた同様のセッションライブをやるので、参加しませんかと誘われた。
 洋楽が中心のアコースティックな場で、普通のライブハウスとは雰囲気がちょっと違う。その「ちょっと変わった場」の持つアヤシイ雰囲気に惹かれ、すぐにエントリーした。
 実施までにかなりの時間があり、歌い手聴き手を含めた参加者は二転三転したが、直近になって仕事のやり繰りがついたと、妻も参加を表明。洋楽が中心で、グランドピアノとドラムセットが常備という話に興味を持ったのか、自宅ライブの常連であるNAOさんとSちゃんも聴きにきてくれることになった。

 当日は私以外は勤めがあるので、時間を見計らって勤務先まで迎えに行き、そこで落ち合った全員を乗せて札幌の南端にある会場まで車を走らせた。
 50分弱で現地到着。3時開始の25分前で、充分に余裕がある。ここではリハの類いは一切ないので、ステージ前の特等席に陣取り、開始を待つ。理由ははっきりしないが、予定より30分遅れの午後3時半からライブは始まった。
(余談だが、この「理由もなく開始が遅れる」という事態はライブハウスではありがちだが、何とかならないだろうか…)

 一番手はこの日のメインアクトの一人である赤間らんじゃさんで、3月のシャンソンライブで一度ご一緒したことがある。その際はアコーデイォン伴奏だったが、今回は普段ユニットを組んで活動しているオーナーのJUNさんのピアノ伴奏。その分息はピッタリ合っていた。
「ラビアンローズ」「真夜中の居酒屋」など5曲を歌い、悲しい女が主人公のシャンソンを情感たっぷりに歌い上げた。

 2番手はゲストアクトの一人、TUMEさん。70歳前後の方と思われるが、ハモニカのギター弾き語りに時折ボーカルを交えるという珍しいスタイル。「旅愁」「スワニー河」「テネシーワルツ」など、独特の世界観で場を魅了した。

 この日の出演者はメインアクトが2組、ゲストアクトが3組で、メインアクトの一人が最初に5曲歌い、続いてゲストアクト3組が各3曲ずつ。その後メインアクトのもう一人が5曲歌い、再びゲストアクト3組が各3曲ずつ2巡目を歌う、という構成である。
 聴き手は8名の演奏者も含め、20名弱。ほぼ満席である。

 3番手のゲストアクト、レッド&ブラックのBさんとは開演前に名刺交換し、いろいろ話したが、普段は介護施設訪問ライブが中心だそうで、私に似た活動である。基本的にボーカルはなく、マンドリンのRさんとギターのBさんによるインスト。
「普段はやれない曲を今日は演奏します」とのことだったが、経歴40年というRさんのマンドリンが絶妙。年齢は伺いそびれたが、おそらく80歳近いのではないか。しかし演奏に全くブレはなく、「ライムライト」「ジプシーの月」など、心に染みる演奏で喝采を浴びていた。

 4番手にようやく私が指名された。実は待たされるのは以前から苦手である。しかもこの日は私の前に達者なパフォーマンスが相次いだ。演奏前からいわゆる「場に飲まれた」という危険な状態だった嫌いがある。
 ともかくも、1巡目には以下の3曲を歌った。


「水の中のナイフ」(オリジナル作詞)
「独り」(作詞:まりりん/オリジナル)
「さくらんぼの実る頃」


 3曲とも過去に評判のよかったシャンソン系の曲でまとめたが、1曲目の途中で会場の演奏とは無関係の話し声が耳に入り、ちょっと集中を欠いた。別のシンガーがお目当てだったらしい、と後で聞いたが、前回はなかったこと。開始が昼間で会場が明るく、暗めの曲がマッチしない、という事情もあったかもしれない。歌いながらいまひとつ気が乗らない自分を感じた。
 2曲目の前に意図的にMCを長くとり、次に歌う曲のエピソードをジョークを交えて披露する。普段はほとんどやらないが、場と自分の気分を変える手段だった。これで場の集中度が少し高まり、じょじょに自分のペースに持ち込んだ。
 あとで妻から「場のさばきが随分うまくなった」と、お褒めの言葉をいただく。何事も場数を踏めばそれなりに、である。

 終了後、同じギター弾き語りのTUMEさんが近寄ってきて、「いい声だ。《南こうせつ》ばりだよ」と声をかけてくれた。MCで経歴のことには一切ふれなかったが、最近ときどき同じことを指摘される。
 実はかぐや姫はときどき歌います、と応えると、結構好きで自分でも歌う、とTUMEさんはいう。かぐや姫と拓郎のファン層は実に広いと、またまたその人気を再認識。

 1巡目が終わって短い休憩ののち、ジャズシンガーの西野あけみさんが2巡目のメインアクトとして5曲歌った。「A列車で行こう」「フライミートゥーザムーン」など、すべて洋楽を英語で軽々とこなす。赤間らんじゃさんもそうだが、西野さんも一切楽譜は見ない。いわゆる「暗譜」しているわけで、その技量には恐れ入る。

 その後、再びゲストアクト3組が各3曲ずつ歌った。よく考えてみると、メインアクトよりもゲストアクトのほうが曲数が多い。店側の配慮かもしれないが、1曲でも多く歌いたい貪欲な客の立場としては、正直うれしい。
 2巡目の開始直前、赤間らんじゃさんから声がかかり、「菊地さん、ラストに『ろくでなし』を一緒に歌いません?」と誘われた。この「ろくでなし」は、3月に別のシャンソンカフェで私がソロで歌ったもの。そのとき参加していた彼女は、ちゃんと覚えていたらしい。
「ろくでなし」は3曲目に歌うので、よろしかったら一緒に歌いましょう、ということになった。変則セッションを交えた2巡目に歌ったのは以下の3曲。


「僕の胸でおやすみ」
「童神」
「ろくでなし」


 実は2巡目があるかどうかは、当日まではっきりしなかった。場そのものが流れで進行する部分があり、それに合わせて2巡目は持参した楽譜の中から、その場で適当に選んで決めた。
 この日の雰囲気でオリジナルはいまひとつの感触がしたので、1曲目はTUMEさんのリクエストに応え、かぐや姫を歌った。フォークの楽譜は一切持参しなかったので、暗譜で歌える中から最も得意なこの曲に決めた。この選択は正解で、曲紹介だけで場がどよめいた。その後の「童神」も知っている人が多数いて、非常に受けた。洋楽が中心でも、フォーク系ならぎりぎりセーフかもしれない。
 レッド&ブラックさんも「予定を変えてシャンソンを弾きます」と、「パリの空の下で」を2巡目の頭に演奏したが、同様に受けていた。場の空気を読んだ臨機応変な選曲も、時には必要である。

 2巡目ラストの「ろくでなし」は、ボンゴの方にも急きょ参加していただき、会場全体が大きな手拍子に包まれた。歌のメインは赤間さんに譲り、私は伴奏と抑えめのボーカルに徹したが、最後にふさわしい楽しいパフォーマンスだった。
 3人とも一緒にやるのはこの日この時が初めてだが、前回の同様なセッションに続いてピッタリ合った。

 ラストにレッド&ブラックさんのリードで、「ラ・ノビア」「川の流れのように」を全員で演奏し、全員で歌う。まさかシャンソン&ジャズライブでシングアウトがあるとは思いもしなかったが、2曲とも私のレパートリーで、ほぼ問題なくやれた。

 終了は5時45分で、2時間強の中身の濃い時間を堪能。同行した妻やその友人はもちろん、オーナーであるJUNさんまでもが「楽しかった」と喜んでいた。昼間の時間帯でのこの種のライブはあまり前例がないが、夜の苦手な高齢者には向いている。団塊の世代が高齢化を迎える今後の、狙い目の時間帯だ。
 新しい多くの出会いと、いぶし銀のパフォーマンス、場をうまくおさめる極意まで見せていただき、学ぶことも多い貴重なひとときであった。


 

ジャンゴ・ハロウィンLive/2010.10.31



 今年の2月と9月に歌わせていただいたライブカフェから、三たび誘われた。今回の実施日はちょうどハロウィンと重なる10月末日。前回終了後すぐにお誘いがあったので、しばらくお会いしてなかった知人にも声をかけ、構成には充分な時間をかけて臨んだ。
 開場は前回より少し早まって午後2時30分。自宅でのリハと機材の準備を済ませ、勤務先に妻を迎えに行くと、予定になかった同僚のNAOさんも急きょ参加とのことで、3人で会場に向かう。

 この日の演奏者は前回のゲストアクト3組4名で、私とハモニカ&ギター弾き語りのTUMEさん、そしてマンドリン&ギターユニットのレッド&ブラックさん。全員がメインアクトという位置づけである。
 この日は私とオーナーのJUNさんのピアノとで、2曲一緒に演奏することになっていた。打合せはネット音源を使ったものだけだったので、早めに会場に入り、少しだけ音合わせをした。
 あいにく出演を予定していたJUNさんの友人ピアニストが不幸があって来られず、JUNさん一人で準備進行、飲物の接待、演奏の3役をこなすのは厳しい様子だった。開演は午後3時を予定していたが、あれこれ手間取って、結局3時20分過ぎまでずれこんだ。

 出演者を含めた参加者は11名。くしくもこの日は、6年前に私が主催した及川恒平さんの時計台コンサートと全く同じ日である。当時、スタッフとしてご尽力いただいた方2名とその友人の方にもご参加いただき、ちょっとした記念のライブとなった。

 演奏順はJUNさんの負担を早めに減らすべく、1番に私が立候補。2番にレッド&ブラックさん、3番にTUMEさんという順になった。
 私のセットリストは、以下の通り。


《1巡目》
「秋の日に」(オリジナル)
「菩提樹」
「さくらんぼの実る頃」

《2巡目》
「切ない夕暮れ」(オリジナル)
「懐かしい暮らし」
「雨が空から降れば」
「Top of the World」(オリジナル訳詞)


 全体的に秋から冬への季節の移ろいを意識した曲でまとめた。「菩提樹」と「さくらんぼの実る頃」はJUNさんのピアノとコラボという初の試み。ピアノとのコラボはもちろん、ピアノ伴奏のソロで歌うこと自体が中学校の音楽の時間以来である。しかも一発勝負に近く、かなり不安だったが予想以上にうまく合って、辛口評価の妻からも及第点。

 前回と唯一重複した「さくらんぼの実る頃」は本来ワルツで歌うが、JUNさんのピアノイントロが思いのほかスローで、ワルツでは歌えない。直前のリハでもこの曲は互いのテンポが合わなかった。私は早いリズムで歌いたいが、JUNさんはゆったり弾きたいらしい。

 中断してやり直しすべきかと一瞬迷ったが、歌い直しや言い訳は場を白くするのは自明の理。咄嗟に4/4拍子に転拍子し、スローなペースでそのまま歌った。結果として前回とは全く異なるアレンジとなり、「災い転じて福」である。
 久々にピアノ伴奏で歌ってみて感じたが、ピアノの音は本当に大きく、迫力がある。歌のペースをつかむためにギターは一応弾いたが、なくてもよかった感じだ。これは妻も同意見。実際に「さくらんぼの実る頃」のラストはギターを全く弾かずに終えたほど。

「雨が空から降れば」は予定には全くなかった曲だが、6年前の及川恒平さんのコンサートの1曲目というメモリアルな曲でもあり、MCの中でふと思いついて歌った。演奏者が少なかったので、進行にはかなり余裕があり、この種のワガママが許される。
 オリジナルでは「切ない夕暮れ」に手応えを感じた。当初は1巡目の最初に歌うつもりでいたが、当日になって気が変わり、夕暮れ時と重なる2巡目の最初にもってきた。前回、明るい時間に夜のイメージの曲を歌って失敗した反省からだったが、この判断は正しかったと思う。

 他のパフォーマーも前回同様に熟練の演奏を披露していただき、最後にシングアウトとして「若者たち」を参加者全員で歌った。リード役は今回もレッド&ブラックのBさんで、休憩時に用意した楽譜で全員に歌唱指導をし、完全二重唱でやるという念のいれよう。
 本番では私がギターとボーカル、JUNさんがピアノ、TUMEさんがハモニカと、各自得意のパートを担当したが、これが見事に決まった。
 終了後にNAOさんが、「ただ聴くだけでなく、自分もライブに参加した気分になれた。もっと歌いたかった」と喜んでいた。いにしえの歌声喫茶風だったが、私が企画構成するライブでは、まずあり得ない手法。非常に参考になった。

 ほぼ予定通り、午後5時半過ぎに終演。「今年中にぜひもう一回」と、JUNさんから提案があったが、年末は別のライブ予定がいくつかあり、仕事や雑事にも忙しい。ひとまず今年はこれで締め、次回は年明け早々にでも、ということに落ち着いた。
 人数は少なめだったが、参加者同士の顔や名前も覚え、和気あいあいとしたアットホームな雰囲気が場に流れていた。秋の深まりと共に、交流の輪が一段と広まった感のハロウィンライブである。


 

歌酔倶楽部ありがとう・MJ "ひっそり賑やかに"/2010.11.28



 7ヶ月ぶりに、なじみの居酒屋ライブハウスでの定例ライブに参加。この夜のエントリーは13組で、私の出番は9番目。今回は音楽仲間の西やんと二人で洋楽を2曲やった。
 ビートルズの「オブラディオブラダ」とオールディズの「カレンダー・ガール」で、フォークが主体のライブハウスではちょっとした冒険だが、過去に洋楽を歌った人は皆無ではなく、ニギヤカ手拍子系が似合う場なので、それに相応しい選曲とした。

 歌詞も英語はサビの部分だけとし、他は聴き手に親近感をより多く持ってもらうべく、原曲に沿ったオリジナル訳詞で臨んだ。


「オブラディオブラダ」(オリジナル訳詞)
「カレンダー・ガール」(オリジナル訳詞)


 この日は昼間に別の高齢者対象のライブをこなしていたので、気力体力の維持には厳しいものがあった。買いたての新しいデジカメで動画を記録したが、よく見ると頬がゲッソリしているのが分かる。出かける前に妻にもそのことを指摘された。しかし、本番が始まると、うまく気持ちが乗った。喉の好調が持続していたことも幸いした。
 西やんとは事前に自宅で音合わせをしていたので、大きな問題なくやれた。いつのもように練習と本番とでは微妙に音の作りが違う。場の空気で自然に変わってしまうのだ。しかし、それでいいと思う。

 2曲とも出だしからいきなり手拍子をいただいたが、この日は全体的に手拍子の出る歌が多かった。昼間のライブもそうだったが、多くの場では明るく楽しい手拍子系の歌を求めていることを悟った。
 私の得手とするナキの入った叙情系の歌も決して悪くはないと思うが、時と場を選ぶべきであろう。歌い手としては場の空気を敏感に感じ取り、時に応じた臨機応変なさばきが不可欠である。

 YouTube動画を見ていただくと分かるように、今回は実戦で初めてブルースハープ(ハーモニカ)とフットタンバリンを同時に使った。いわば初の「マルチ演奏」だが、短い準備期間の割には、だいたいうまく運んだ。
 ハーモニカは自分では失敗と思っていたが、動画を見る限りでは大きなミスはない。フットタンバリンは出だしとハーモニカの部分がなぜか「前打ち」(小節の始まりにリズムを切ること)になってしまったが、多くは会場の手拍子に合わせて「後打ち」でやった。
 ちなみに、昼間の高齢者対象ライブで歌った「真室川音頭」では場に合わせ、ちゃんと前打ちでやっている。これまた場に応じた臨機応変な対応か。

 ボーカルでの反省点は、ラストのサビで思わず力んでしまい、やや音程がブレたこと。まだまだ修行が足りない。反省点はさておき、大きな冒険を重ねた今回のライブは、今後の新しい方向性を確認できる有意義なものだった。

 この夜は換気の死角ゾーンになっている店のステージ側が禁煙席に設定されていて、紫煙の苦手な私にはありがたかった。「飲み放題」の飲物にノンアルビールもあったりし、全体的に昨今の幅広い嗜好に対応しようとする店側の誠意を感じた。

 特筆すべきは、初参加の男性二人女性一人の変則ユニットで、まるでバズーカ砲を思わせる迫力ある女性ボーカルに圧倒された。歌はなんと拓郎の「落陽」で、そもそも女性がこの歌を歌うこと自体が稀。長くプロのボイズトレーニングを受けているそうで、伸びやかで確かな声量はその成果かもしれないと本人が語っていた。
 学ぶべきことは数多く、そして果てしない。少しばかりの賛辞で勘違いし、向上心を失ってはならない。いろいろな意味で刺激になった一夜であった。