イベントライブ顛末記


歌酔倶楽部ありがとう・MLS "星月夜"/2009.6.14



 先月から始まった、一人の持ち時間が30分という「ミニライブSunday」(略称:MLS)は、今回が2回目。2ヶ月続きのせいか参加者が少なく、お流れになる危機も一時はあったが、蓋を開けてみると、歌い手は前回と同じ7組。聴き手も加えた参加人数は、お店スタッフ3名を含め、23名という盛況であった。
 不況だといいつつも、急な仕事に追われ、慌ただしく準備をしてこの日に備えた。この夜のテーマは「星月夜」で、星と月に関わる曲を交互につないだ。カバーとオリジナルのバランスも考慮し、さらに激しい曲と穏やかな曲も連続しないよう、苦心の構成である。

 セットリストは、以下の通り。


「空に星があるように」
「三日月の森」(オリジナル)
「天の川」
「黒い森の青いネコ」(オリジナル)
「惑 星」
「桃色吐息」
「夕凪わるつ」(オリジナル作詞)


 合計7曲をぴったり30分で終えた。ギターのモニター音がやや大きかったが、エレアコを使っているのは私だけなので、そういうこともある。あまり気にせずに歌った。あとで聞いてみたら、客席にはちゃんと聞こえていたようだ。

 いろいろと冒険、そして新しい試みをしたが、出来としてはまずまずで、大きなミスはなかった。暗闇の中にひっそり潜む23名の聴き手の気配は、なかなかよいものである。終了後に多くの方々から声をかけていただき、大変ありがたかった。
 先週の自宅ライブ「音の庭*歌の森」で歌った曲との重複は極力避けたが、評判の良かった2曲は入れた。さすがに「毎回すべてを新しく、すべてが冒険」というわけにはいかない。

 この夜の歌い順は7組中の1番で、いわゆる「オープニングアクト」ともいうべきもの。場がまだライブに馴染んでなく、開演に間に合わなかった客の出入りもあったりで、難しい順番である。ライブの気分を支配するという意味でも重要な役目だったが、早く歌ってしまうのはもともと大好きなので、気持ちの面での大きな問題はなかった。

 この夜の「大冒険」である4曲目のオリジナル「黒い森の青いネコ」は、作ってから4年間封印してあった。この歌、通称「ニャ〜ゴの歌」で、メッセージ性が強く、非常に難解。これが長年封印してあった大きな理由だが、コムズカシイ議論が大好きの妻からは、熱い支持を得ている。
 持ち時間が30分もあると、万が一の失敗があってもカバーが充分可能なので、いろいろ冒険ができる。つまり、危ない曲は持ち時間の中盤でやれる。この夜の手応えは、悪くなかった。終了直後、期せずして会場から絶妙なタイミングで、「ニャ〜ゴ」というかけ声。すかさず「効果音、ありがとうございます」と応じたが、曲の趣向として今後取り入れてもよいかも?と思った。

 ラストの「夕凪わるつ」は前回同様、クラシックの名曲に独自の歌詞をあてたもの。「盛り上げた熱をゆるゆるとさます」とい位置づけで、ラストにはこの種の穏やかな曲を選択している。「ワ〜ッと盛り上がるラスト」も悪くはないが、自分の年齢なども意識すると、人生の終わり方に対する願いと同じで、ライブはだんだんこういった穏やかな終わり方になってゆくのではないだろうか。

 参加者7組はそれぞれに独自の「色」があり、その色変わりをじっくりゆっくり楽しむのが、この新しい定例ライブの魅力と方向性になるかもしれない。今回は歌い順が1番だったので、なおさらゆったり聴けた。
「自分も歌えるが、ひとまず聴くだけ」という参加者が、この夜はかなりいた。確かに、ただ聴くだけでも充分楽しい。しかも、よい勉強とシゲキになる。
 こちらも定例化を目指す自宅ライブとうまく相互補完しつつ、今後も出来る限り参加したいと思う。


 

オーガニックコンサート "冬よ来い"/2009.11.6



 都心のカフェレストランにて、初めてのソロコンサートを開いた。しかも、これまた初めての企画となるシャンソンコンサートで、聴き手も半分以上が初対面という初めてづくしである。
 実はこのコンサート、日々のブログに「いつかギター弾き語りで、シャンソンコンサートをやりたい」と何気なく書いた一言が発端だった。そのブログを記した直後、ある方と、あるコンサートで5年ぶりにばったり出会った。
 顔を会わせるなりその方が、

「いま菊地さんのことを話していたところです。ブログにあったシャンソンコンサートは、いつどこでやるのでしょう?」

 と、驚いたように言う。この時点ではまだ何も決まってなかったが、「ぜひ聴きに行くので、やるときは必ず連絡ください」と念を押され、気持ちが大きく動いた。

 人生誰にも、ふと目の前を通り過ぎるチャンスというものがある。問題はそれを漫然と見逃すか、あるいは時を逃さず、自らの手でつかまえるかで、長年の想いを実現する時はきっといまなのだ…、と直感した。
 当時は10月上旬実施の還暦コンサートの準備にも追われていたが、併行して数ヶ月にわたる準備を精力的に続け、たくさんの新しい曲をレパートリーに加え、どうにか本番にこぎつけた。

 ずっと続いていた雪や雨、低温などの不順な天気は当日になってウソのように去り、暖かな晩秋の気候。今年のライブ企画は、天までも味方してくれる。
 コンサート当日は週末の平日だったので、まずは進行中の仕事を優先し、頃合いを見て簡単にリハーサルをやる。前回の還暦コンサートで、後半になって指がつった経験から、「練習のし過ぎ」に気を配り、フルコーラスは避けて要所だけを抑えめに反復練習した。

 機材の梱包を始めたとき、いっしょに行く予定だったの妻の友人から電話。家族が突然のインフルエンザになり、感染の恐れがあるので、急きょ行けなくなったとのこと。病気なのでやむを得ないが、ずっと私のライブを見届けてくれている方なので、ちょっと気落ちした。
 もう一人の友人は、スケジュールをうまく調整してくれて、何とかOK。妻と3人で、午後5時15分に家を出た。

 先方に6時過ぎに着く。すぐに車から機材をおろし、設営にかかる。お店が狭いので、ステージの設営場所が難しかったが、熟慮のすえ、聴き手にとって最も見やすく、聴きやすいと思われる出入口付近に決めてあった。背景になるガラス戸には持参したダーク系の長い布スクリーンを吊るして遮断した。
 2週間前にも機材を搬入し、リハーサルをやっていたので作業は15分ほどで終わったが、自宅では何も問題のなかった右側のスピーカーから音が出ない。最近ずっと調子の悪かった箇所で、いろいろ調整しても復帰しない。やむなく以前に試してあった「片方の端子に、両方のスピーカーをつなぐ」という裏技で凌ぐ。

 顔見知りのYさんが店内にいたので、音を聴いてもらいながら簡単なマイクテスト。ピーク時に音がやや割れるというので、メインボリュームを10%ほど落とすことにする。
 三々五々とお客様が集まり始め、小さなお店は、ほぼ満席に。時計はやがて開始時刻の7時を指したが、お店のオーナーが飲物等の準備に忙しく、開始を少し遅らせた。

 7時5分からコンサート開始。妻の友人がキャンセルとなったので、予約してなかったYさんが急きょ聴いてくれることになった。
 聴き手は14人。男性はこのYさんだけで、他はすべて女性という偏った聴き手となったが、これがおそらくシャンソンの特質なのであろう。

 正直に書くと、前半はいまひとつ気持ちが乗らず、集中力に欠けた。初めての場、多くの見知らぬ聴き手、友人の突然のキャンセル、弾き語りの名手であるYさんの参加、予想よりもかなり明るい店内等々、難しい条件があり過ぎた。
 声はまずまずだったが、ギターのピッキングには細かいミスが出た。後で妻に確かめたら、全然気にならなかったというが、分かる人には分かる。難しい条件下とはいえ、まだまだ修行が足りない。

 7時45分で前半を終え、10分という長めの休憩を入れる。店のあるビルのトイレが、管理上8時までしか使えないというのだ。しかも、このトイレが1室のみで、10分でもギリギリの時間だった。

 7時55分から後半開始。休憩時に何人かの方が声をかけてくれ、そう悪い出来でもないことが分かり、かなり気持ちが落ち着いた。
 後半はシャンソンの特徴である「語り」を随所に入れた曲を中心に構成した。ピッキングが不安定なので、ギターの音量を落とし、ボーカル主体で歌う。会場からもかなりの手応えを感じた。

 開始が遅れ、休憩も長かったので、アンコール2曲を含めた終了が8時40分。予定よりも10分ずれたが、この日に限っては無理に時間内に収めず、場の自然な流れに任せた。これで正解だったと思う。

 終了後、未知の方ともいろいろ言葉を交わす。不思議なことに、心に残ったという曲は、「メガネを買う」「独り」「夕映えの髪」などのオリジナルが多かった。
 カバー曲では、「パダン・パダン」「ドミノ」「ほしのはだ」「詩人の魂」などが話題になった。

 数日経ってからも、メールなどでいろいろと感想をいただく。シャンソン系、叙情系の曲は、やはり自分に向いた曲であることを改めて知った。新しい自分を見つけ、今後進むべき方向が見えた気がした、貴重なひとときだった。

 この夜歌った全20曲のセットリストは、以下の通り。

《前半》
「奥様お手をどうぞ」
「パダン・パダン」
「メガネを買う」(オリジナル)
「わかっているよ」
「もっと」(オリジナル)
「愛しき日々」(オリジナル作詞)
「河は呼んでいる」
「水の中のナイフ」(オリジナル作詞)
「ドミノ」

《後半》
「冬よ来い」(オリジナル)
「雪が降る」
「ほしのはだ」
「宵待草」
「恋心」
「独り」(作詞:まりりん/オリジナル)
「夕映えの髪」(オリジナル)
「詩人の魂」
「サン.トワ.マミー」

 〜アンコール
「星影の小径」
「ラ・メール」



 

アルテ美唄 '09秋・森の広場の音楽会/2009.11.14



 アルテピアッツァ美唄という彫刻公園内にあるアートホールにて催された、「森の広場の音楽会」というクラシック系コンサートに参加した。
 この彫刻公園には先月初め、還暦コンサートにやってきた東京在住の友人の強い要望により、始めて訪れた。その際、現地を案内していただいたTさんからのお誘いだった。

「彫刻公園の中で歌う」という設定そのものに強く惹かれたが、問題は参加の大半がクラシック系の演奏者であること。フォーク系の弾き語りなど、果たして参加可能なのか?という、根源的疑問が湧いたが、その点に関しては問題ないとTさんは言う。
「ジャンルの垣根を取払い、音楽仲間の輪をさらに広げたい」という意向が主催者側にあるようで、それではと、ありがたくエントリーさせていただいた。

 会場は旧小学校の体育館を改装したもので、PAなどの音響設備はなく、生音で歌うことが条件である。参加費はないが、協賛するユニセフに、1組500円以上の寄付をすることが、参加条件といえば条件。
 会場がかなり広く、PAもないので声が届きやすいよう、そして遠くから見えやすいよう、路上ライブや介護施設のように立って歌うことに決めた。
 あいにく徹夜仕事続きの忙しさで、体調は最悪。しかし、すでにプログラムにも記載されているので、キャンセルなどはもってのほか。多忙のなかで必死に体調を整え、準備した。

 当日は朝からかなりの雨で、前回訪問時も雨に降られた。どうやら、美唄とは雨に縁があるらしい。開始は午後1時で、1組15分の持ち時間で、合計15組が参加する。私の出番は8番目で、およそ2時30〜45分あたり。
 早めの11時30分に家を出たが、途中でガソリンを入れたり、冬タイヤの空気圧調整をしたりして手間取り、着いたのは午後1時50分だった。

 会場の床には、彫刻家・安田侃の作品が、あちこちにさり気なく置かれている。雨ということもあり、室内は仄暗いが、スポットライトが随所に配置され、いい空間を作っている。
 到着時はちょうど5番目の演奏が始まったばかりだったが、その後の演奏者の時間が短めで、予想よりも早めの2時30分に出番が回ってきた。

 直前の自宅でのリハーサルでは、高音部の声が一部途切れた。喉の状態が悪いときにしばしば起こる現象で、本番でこれは避けたい。ショウガ湯や喉アメで必死に調整したが、まずは大きなミスを避けるべく、守りの気分で歌い始めた。

 この日のセットは以下の通りで、「大半の参加者がクラシック系」という特殊条件を考慮し、場にふさわしい曲を慎重に選択した。
 1曲目の作者及川恒平さんは、この美唄が生誕地。3曲とも愛や恋とは無縁の曲ばかりだが、「森」「鳥」が歌詞に登場し、会場の環境にもピタリ合致する。
 前回訪問時に生まれたオリジナル曲が実はあったが、エントリーに間に合わなかったので、またの機会としたい。


「りんご撫ずれば」
「コンドルは飛んでゆく」(オリジナル訳詞)
「永遠の木」(オリジナル)


 いざ歌い始めると、やはり声が遠くに届かない感じがした。PAがないのは承知だったが、聴き手はざっと60名近くもいて、反響音が吸収されてしまうのか、自然な音の返りも全くない。
「歌えど歌えど届かず」といった不安な感触のなか、歌は進んだが、不思議なことに聴き手の反応自体は悪くなく、ちゃんと聞いてくれているのが演奏中の身体の動きや視線、そして終了後の拍手などからわかった。

 ともかくも、無事に演奏終了。続いて同じ弾き語り系のTさんのステージで、持参の脚立を椅子代わりにした熱演が続く。二人合わせてちょうど30分という、絶妙の長さで歌い終えた。

 終了後の妻のコメントが、「Tさんのほうが、ずっと声が通っていた」という手厳しいもの。分かってますって。しかし、プログラムの構成は、よく場にフィットしていたそうだ。
 言い訳になるが、Tさんは私よりも一回り以上若く、場数やキャリアも私に比べて、はるかに豊か。今回のステージを二人セットとして考えると、後になるほど盛り上がるという、ほどよい流れになっていたはず。おそらく一般の聴き手に対しては、それなりの世界を築けたのではないか、と自己評価している。

 ほろ苦い反省はあったが、これまで一度も体験したことのない、独特の空気感漂う場であったことは間違いなく、その意味では貴重な経験をさせていただいた。

 声楽、室内楽、ピアノ、琴など、バラエティに富んだ演奏が続き、聴き手としても充分に楽しめたが、仕事の都合でコンサートを最後まで見届けることが出来ず、午後4時に会場を抜け出す。

 帰宅後、詰まっている仕事のスケジュールをさばくべく、すぐに仕事にとりかかる。予定分を仕上げて眠りについたのは、明け方4時だった。


 

歌酔倶楽部ありがとう・MLS
  "これまで&これから"
/2009.12.13



 たまに顔を出すライブハウス「歌酔倶楽部・ありがとう」の月例イベント〜MLS(ミニライブSunday)に、ひさびさに参加。歌い手としては実に6ヶ月ぶりである。
 今年は例年依頼される近隣のグループホームのクリスマス会が、引越し作業のため中止となり、おそらくこれが今年最後のライブとなる。(実はこの後、もう1本別のライブが入った)

 参加人数はお店のマスターとママさんを含め、12名。こぢんまりとした家庭的な雰囲気で、今回からライブ中は完全禁煙となり、タバコの煙がすっかり苦手となった私には、この上ない快適空間である。お店の英断に感謝したい。
 この1ヶ月以上、ずっと休みなしの徹夜状態の忙しさが続いているが、そんな悪条件でも、自分の趣味活動のことは忘れてはいない。仕事の合間にちゃんと歌の練習もし、備えてきた。
 忙しいからこそ、家庭や趣味にも気を配るべきで、それは結局生きる活力へとつながる。

 参加者は4組で、私以外はすべて2名以上の複数メンバー。全体の中でのメリハリという点では、やりやすい立場といえた。
 開始は7時の予定が、およそ15分遅れで始まった。参加者が少ないので、全体的に緩めの運営。しかし、演奏中は水を打ったような静けさであることは、この店の良き伝統である。

 この夜の私のセットリストは、以下の6曲。持ち時間は30分だが、無用なMCは極力省き、28分くらいで終わらせた。


「宵待人」(オリジナル)
「誰も知らない夜」(オリジナル)
「Teimi/丁未」 (作詞:ふじりん/オリジナル)
「メガネを買う」(オリジナル)
「蘇州夜曲」
「りんごの木の下で」


 最初の4曲がオリジナルで、最後の2曲がカバー。オリジナルの比重が高く、順番のバランスも悪いが、この日のテーマが「これまで&これから」という、今年1年の総括と来年に向けての抱負を時系列にまとめたものだったので、その流れに従った。

 久しぶりの場ということと、このお店では初めて使うオベーションのエレアコが、ややPAに合わない感じで、最初は感覚がうまくつかめなかった。
 そのせいか、たとえばトリルで処理すべきギター伴奏が普通の弾き方になったり、「りんごの木の下で」の間奏に使った口笛の出だしが、いまいち音が出なかったりした。

 最近の課題としている「ていねいに、心に寄り添うように」は、この夜もまずまずうまくいった感じだった。
「丁未/teimi」「蘇州夜曲」は自分でもかなりいい感触で歌えたが、終了後にも幾人かの人に声をかけていただき、ありがたかった。「蘇州夜曲」をメインタイトルにしたライブを、いつかどこかでやりたいと考えているが、たぶんいけると思う。

 ライブ終了は早めの10時少し前。その後2時間、マスターやママさんとゆっくり歓談。懐かしき良き時間、良き歌い納めであった。


 

ジャンゴ・セッションLive/2010.2.21



 多忙な時間を割き、かなり前から決まっていた自宅系ライブカフェでのセッションライブにゲスト参加した。誘ってくれたのは音楽仲間のNさん。近隣のカフェで開催されたシャンソンライブを聴きに行ったのが縁で、親しくなった。Nさん自身もアコーディオンでシャンソンを奏でる。
 午後6時開始なので、勤めから戻った妻を乗せ、途中でNさんを拾って札幌の南端まで車を走らせた。

 道は空いていて、50分弱で到着。あまりに早く着き過ぎ、かなりの時間待たされた。しかも参加予定者の到着遅れもあって、開始は午後7時過ぎだった。
 あとでよく確かめたら、6時はあくまで開場時間で、開演は最初から7時だったらしい。どうりでね。

 お店はごく普通の民家を改築し、ライブスタジオに仕立てあげたもの。ライブは月に一回程度しかやらず、そのときだけお店が開く。気ままにキブンだけで営業しているような、実に摩訶不思議な形態のカフェで、最近流行りの「家カフェ」というヤツである。
 カフェなので、コーヒーや軽食、ビールもある。うれしかったのは、ノンアルビールが置いてあることだった。ノンアルビールは発泡酒などよりも原価が高いので、置いてない店が大半。しかし、車で行く客の立場としては、大変ありがたいのだ。

 最初に通されたのは、スタジオとは引戸で仕切られた控えの間。開演になると戸が開かれ、そこにスタジオと10席分ほどの椅子が並んでいる。楽器はグランドピアノとウッドベース、そしてドラムセットがあり、PAも完備。機材が不明だったので一式を持参していったが、ギターアンプもちゃんと置いてあった。
 スタジオの正面には大きな禁煙マークが貼ってある。紫煙の苦手な人にはこれまたありがたい配慮で、ノンアルビールといい、時代の流れを確かに先取りしてる。

 開演前にライブリーダーでベーシストのTAKUMIさんが各テーブルを回り、今夜の演奏内容を確認にくる。そこでおよその演奏順が決められるという段取りだ。聴き手は15名前後だったが、うち9名が演奏者もかねている。
 オープニングはオーナーのJUNさんが弾くピアノとウッドベース、ドラムによる三重奏が数曲。続くゲスト参加者のトップが私だった。

「ゲストの1番で演奏することは厭いません」と事前に伝えてあったので、ある程度の覚悟はあったが、2時間近い待ち時間と空腹、慣れぬ場と調子のよくないPAのせいで、珍しく上がった。声はまずまずだったが、ギターのピッキングが不安定だった。まあ、多忙の中でのライブとなると、得てしてこんなもの。

 この夜歌った曲はすべてシャンソンで、以下の通り。


 〜1巡目
「メガネを買う」(オリジナル)
「詩人の魂」
「ドミノ」

 〜2巡目
「サン・トワ・マミー」
「オー・シャンゼリゼ」


 アンコールとして歌った2巡目の2曲は、その場にいたピアノ、ウッドベース、ハーモニカ、ドラム、そして私のギターとボーカルによる変則五重奏を試みたが、全くの練習なしなのに、なぜかピタリ決まった。非常に楽しいセッションだった。

 特に「サン・トワ・マミー」の出来がよく、「もう1曲」と言われて調子に乗って歌ったラストの「オー・シャンゼリゼ」がいまいち。本当は「ろくでなし」のリクエストが飛び出したのだが、あいにくレパートリーに入ってない。やむなく似た傾向の「オー・シャンゼリゼ」を選択したが、よく考えるとこの曲は人前で歌うのが初。ここは一瞬迷った「雪が降る」で締めるべきだったかもしれない。これが唯一の心残り。
 しかし、ジャズあり叙情歌ありの不思議な雰囲気のライブで、場としての気分は悪くない。

 他の演奏者はアコーディオン独奏、ハーモニカ独奏、ピアノとベース伴奏による歌のソロ、ピアノ独奏など。演奏曲で記憶にあるのは、「黒いオルフェ」「いそしぎ」(The shadow of your smile)「イパネマの娘」「パリの空の下」「グッド・ナイト・ベイビー」等々。全体としてポップ系の洋楽が中心である。

 一緒に行った同年代のNさんもアコーディオンで2曲弾いたが、演奏に詰まる箇所が数回あった。練習では完璧だったそうだから、いわゆる「場に飲まれた」というヤツだろう。私のギターピッキングが怪しかったのも、同じ理由。弾き語りだとボーカルでごまかせるが、演奏のみだとそうはいかない。
 Nさんの友人でハーモニカ独奏のUさんは私よりもかなり年上だが、場慣れしている印象で、無難にこなした。「サン・トワ・マミー」ではキーを知らせただけで、素早くアドリブで参加。さすがだ。

 翌日、カフェのオーナー、JUNさんから電話があった。ライブ参加のお礼と、昨夜の私の演奏に対する感想、そしてライブやお店に対するこちらの印象も尋ねられた。
 いろいろな場所で歌っているが、終了後にこんな丁寧な対応をしてもらった記憶はない。初回の客には次回以降の案内用にと、住所氏名等を記す顧客名簿のようなノートが渡される。それを元に、こうした細かいフォローをしているのだ。気まぐれな営業形態といえども、経営面では大切な気配りだろう。

 あれこれ話したが、「お互いに異業種交流のような楽しいライブでしたね」というのが結論。JUNさんの 奏でる曲は、ジャズとシャンソンが主で、私とはかなり世界が違う。東京の銀巴里で弾いていたこともあるそうだから、かなりのツワモノである。
 アドリブ演奏も非常に多く、きっちり決まったスタイルで歌うタイプの私には、そこがとても新鮮だった。

「昨夜は"ギター弾き語りのシャンソン"という、いままで聴いたことがないものを体験できた」と私のステージを評価していただいた。自分でもそれなりの手応えを感じていたので、その言葉がうれしかった。
 ギター弾き語りでフォークを歌う人はプロアマ含めてたくさんいるが、シャンソンをやっている人は極めて少ない。そこが結構オイシイかもしれない、と最近思い始めた。
「久しぶりに遊んだ、って感じ」と、同行の妻もすっかり気に入った様子。呼ばれたらまた参加するかも。


 

歌酔倶楽部ありがとう・MLS "叙情歌暦01"/2010.3.14



 フォーク居酒屋「歌酔倶楽部ありがとう」での定例ライブ・MLSに3ヶ月ぶりに参加。多忙だった仕事はうまい具合に事前に全部片づけたが、この日は最近知り合ったシャンソン系の音楽仲間、Nさんも一緒に行くことになっている。早めに家を出て、途中でNさんを拾い、少し遠回りしてお店に向かった。

 この日の私のテーマは、去年の終わり頃からずっと考えていた「叙情歌暦」というもの。いろいろなジャンルの叙情歌を、季節感を交えて歌い紡ぐという新企画で、大半が初披露かそれに近い曲。フォーク系の歌が多い場でやるには、かなりの冒険といえた。
 しかし、もしうまくいけば、60歳を迎えた今後の自分のライブ活動の太い幹となるはずである。

 予定より少し遅れ、7時20分あたりから開始。この日の正式エントリーは3名で、定例ライブ成立ぎりぎりの参加者。聴き手も少ないらしい、という事前情報が流れていたが、時間の経過と共にじわじわと増え、最終的には13名という盛況だった。

 この夜の私のセットリストは、以下の7曲。持ち時間は30分の中で7曲歌うのはけっこう難しいが、無用なMCは極力省き、3番ある歌は2番を飛ばすなどし、うまく収まるよう、事前に入念に調整した。
 歌った曲は、順に以下の通り。(末尾記載はジャンル)


「詩人の魂」/シャンソン
「荒城の月」/日本唱歌
「YELL」/J.ポップス
「菩提樹」/クラシック
「そこにあります」/オリジナル
「めまい」/フォーク
「太陽を背に受けて」(オリジナル訳詞)/カントリー


 介護施設では受けるが、場に合うかどうかは懐疑的で、捨て歌のつもりで歌った「荒城の月」が、予想外の手応えだった。この歌は以前にも「菊地さんに向いている」と言われたことがある。やはり名曲には普遍的な味があるということか。
 その他もまずまずの出来で、猛特訓のかいあって、声もよく伸びた。大冒険のつもりでやった初の試みだが、いずれ別の時期にどこかの場で、第2弾を企画したい。

 この日のもうひとつの課題だった、最近不調のギターピッキングに関しては、ほぼOKだった。昨日調整したサムピックの形状変更が、かなり効果的だった。ちょっとしたことだが、ライブという緊張の場では、この「ちょっとしたこと」が意外に効く。

 反省点は、ラストの「太陽を背に受けて」でのチューニングミス。途中で6弦の狂いに気づき、中止してやり直そうかと一瞬迷ったが、時間の余裕がなく、そのまま押し切った。しかし、演奏後に耳の肥えた数名の方に指摘されてしまった。
 言い訳になるが、直前に歌った「めまい」の終了間際、突然原因不明の強烈なハウリングが起きた。そのまま歌は終わらせたが、「叙情歌」という切り口にハウリングはキツい。ライブではよくあることだが、やや動揺してしまい、ラストの曲で歌う前に必ずやるチューニングチェックをつい怠ってしまった。
 カポをすると6弦あたりが狂いがちで、事前に落ち着いてチェックすべきである。まだまだ修行が足りない。次回以降の課題としたい。


 

わっか・シャンソンライブ/2010.3.20



 近隣のカフェでのシャンソンライブに参加した。昨年春に開店したばかりの店だが、夏に実施されたシャンソンライブを聴きにいったのが縁で、主催者のNさんと懇意になった。その後何度か行き来しているうちに、3度目の開催となる今回、歌い手の一人として出演を依頼された。
 ライブ前夜は妙な時間にうたた寝をしたので、なかなか寝つけず、その反動で朝が眠かった。しかし、午後2時開始なので、早めに起きないと声がでない。飛び起きてすぐにリハーサルその他の準備をする。

 案内状を送ったまま、しばらく返信のなかった遠方のK子さんから前日連絡があり、体調が回復したので、急きょ参加とのこと。最寄りの駅はカフェのすぐそばなので、まずはその方をJRの駅まで迎えに行った。

 会場のカフェに着くと、出番の早い方がすでにリハーサルの真っ最中。私も機材を運び込んだが、調べてみると照明は充分で、セットの必要がないことが分かった。事前調査がやや甘かったことを反省。
 Nさんの依頼で今回はPA担当だったので、いろいろ準備してきたが、マイクを使う方も結果として私一人。何だか拍子抜けしたが、邪魔なので使わないものはすべて車の中に片づけてしまった。

 ほほ予定通り、午後2時過ぎからライブ開始。店内は満席の25名強の聴き手で熱気に包まれている。主催のNさんは私よりやや年長だが、いつも時間はピッタリ正確に合わせてくる。几帳面な私に運営法がよく似ていて、好感がもてる。
 最初は赤間らんじゃさんの歌とOさんのアコーディオン伴奏で、ややマニアックなシャンソンを4曲。アコーディオンがNさんに代わって、さらに2曲。5分の休憩後、Sさんによるエレキアコーディオンの不思議な音色が4曲続く。
 最初に伴奏したOさんは今年83歳になるそうだが、非常に達者である。60歳の私など、まだ若造に過ぎないかもしれない。よい刺激になった。

 2時55分から私の出番になり、以下の6曲を順に歌った。


「奥様お手をどうぞ」
「蘇州夜曲」
「パダン・パダン」
「ろくでなし」
「ラ・メール」

 〜アンコール
「さくらんぼの実る頃」


 持ち時間は25分だったのでMCは極力少なくし、歌唱中心でトントンと歌った。6曲中5曲はシャンソンの定番曲で、メリハリと季節感の都合で、1曲だけ日本の曲を入れた。
 大きなミスはなく、途中ピッキングが怪しくなりかけた「蘇州夜曲」は、2番を飛ばしてうまく凌いだ。

「パダン・パダン」と「さくらんぼの実る頃」には、かなりの手応えを感じた。終了後に身に余る言葉を見知らぬ方からもかけていただいたが、中でもこの2曲はやはり評判がよかった。
 実は「さくらんぼの実る頃」は2週間ほどしか練習していない。さくらんぼの実に人生を重ね合わせた、いかにもシャンソンらしい歌で、最初はなかなかしっくりこなかったが、数日前になって突然いい感じになってきて、急きょセットに入れる気になった。こんなこともある。

「ろくでなし」は、先月のシャンソンライブでアンコールをもらった曲だったが、レパートリーになく、断念したいわくつきの曲。その後練習し、今回初めて人前で歌ったが、会場から自然に拍手の出るノリのいい曲だ。もしかすると、場を選ばず使えるかもしれない。

 途中の進行に多少もたつく印象もあったが、終了はピタリ3時30分。さすがである。大半が見知らぬ聴き手で、しかも店内が均一に明るく、かなりの緊張を強いられたが、最初の場としては、まずまずの出来ではなかったか。

 終了後、最寄りの駅までK子さんを送る。車中でK子さんから、「菊地さん、"さくらんぼの実る頃"は大切に歌い続けてくださいね」と言われた。またひとつよい歌に巡り会った。