家作りエッセイ


木壁の塗装補修.... 2006.6.20



 家は建てて終りではなく、住み手が慈しみ、育てるものだと考えている。日々の暮しに必要な家具を作ったり、庭や家庭菜園を手入れしたり、はたまた家の傷んだ箇所を出来る範囲で自分で補修したりすることがそれである。
 なかでも家の寿命に直結する補修工事は重要で、プロに頼むのは簡単だが、それを自分でやってみればコストが大幅に浮くのはもちろん、家に対する愛着度、暮しに対する思い入れが全然違ってくる。

 自宅を含め、設計した家の多くに無垢材を使っている。外壁ものその例外ではない。
 木材の外壁はかって日本中の家屋に広く使われていたが、防火規制やクレームの少なさなどの事情で、次第に安直な工業製品に取って代ってしまった。しかし、自己完結型の地球に優しいエネルギーサイクルを持つ木材の大きなメリット、そして工業製品にはない独特の風合いの魅力で、ごく一部の人々には見直され、熱い支持を得ている。
 このサイトにある家作り記録にも詳しいが、本当は自宅には全面的に木材の壁を使いたかった。1階南側だけで妥協したのは、防火規制とメンテナンスの煩雑さ、そしてコスト面の事情からである。

 外壁の防火規制について簡単にふれると、日本の都市部の大半では、前面道路の中心や隣地境界から1階で3メートル、2階で5メートル以内では、木材のような燃える材料は使えない、と考えたほうがいい。(これに関する詳細は、各地区の管轄部署でご確認ください)
 木材でも、通常の3倍くらいのお金を払うと、防火処理を施した木材が手に入るが、ローコスト住宅ではとても手がでない。苦肉の選択が、隣地からの距離を充分にとった「1階南側」というわけだった。この範囲ならば、ハシゴを使って傷んだ箇所の補修や塗装の塗り替えなども、比較的簡単に出来る。

 これまた家作り記録に詳しいが、1階南側外壁の木材はコスト削減のため、新築時にすべて自分で塗装した。木材部分は縦3メートル、横7.2メートルもあり、一人で全部塗るにはかなりの労力と根気が必要だ。しかし、苦労したおかげで、「木材をきちんと塗装する」という一点では、プロなみの技術とノウハウを培うことが出来たと思っている。
 この外壁、木材という「生き物」なので、雨雪や風、強い陽射しにはすこぶる弱い。毎年、長い冬の終わった春先には、こまめに点検してゆるんだ釘を打ち直したり、はがれた塗装を補修したりする「メンテナンス」が不可欠になる。
 私の自宅を見て住宅設計を依頼してくるお客様でも、同様に木材の外壁を希望される方が少なくないが、この「メンテナンス」に対する覚悟を、事前に充分確認してから設計に折り込むようにしている。単なる一時的な憧れだけで安直に木材の外壁を採用すると、あとでひどい目にあいかねないからである。

 今年の冬はいつになく厳しく、雪止めのない南の屋根からは大量の雪が落ち、直下にある木材の外壁をとことん傷めつけた。毎年こまめに補修をしているので、外壁そのものはそう傷んではいなかったが、日射をもろに受ける南側の外壁は長年の乾燥で、サネ加工をした継ぎ目部分に、かなり隙間が出来てしまっている。新築して7年目ということもあり、根本的な補修を施す必要があった。
 最近設計する家では、この乾燥収縮にも充分耐え、なおかつ交換補修も簡単である「大和張」という手法を用いている。この春に完成したお客様の家でも、1階南側の木材外壁はこの手法で張った。

 自宅の外壁の補修にあたっても、同様の手法を使おうと思った。つまり、いまの木材はそのままにして、隙間を塞ぐ形でもう1枚上に細い木材を重ね張してゆくのである。
 重ね張する木材は安くて仕上がりの美しい、松KD材の18×45を使うことにした。固定には釘ではなく、のちのち張り替えが楽なビス(亜鉛メッキスリムビス)を使用する。塗装は自然素材塗料で刷毛塗りのしやすいオスモのウッドステイン・プロテクターに決める。総予算は概算で18,000円前後となった。


補修直後の外壁の様子(色の薄い部分が重ね張の板)


 まず外壁の下処理を実施。へばりついているツタをすべて撤去する。補修のときはいつもはがしてしまうが、旺盛な生命力で、1年ですぐに復活する。
 次に既存の外壁で釘のゆるんでいる部分を再固定する。高い箇所の作業には「たたむと脚立、伸ばすとハシゴ」という便利な脚立を使う。1階部分の作業の場合、最低150センチの脚立(伸ばすと3メートルのハシゴになる)は欲しい。
 我が家の物は120センチしかなく、上部の補修には手製ハシゴを付け足して何とか間に合わせている。120センチと150センチの価格差はごくわずか。やはり、大は小をかねるのだ。

 下処理が終ると、重ね張する木材の加工をする。窓のある部分とない部分では長さが違うし、外部照明のついている場所等は、台座をうまくよける複雑な加工が必要となる。
 加工が終ると、いよいよビス止めである。およそ60センチ間隔でビスを止める。両端部と板のそっている部分は両側の板をまたぐように2本のビスで止めた。

 最後に塗料を塗って終了。今年は外壁だけではなく、車庫の柱やウッドデッキ等の木材もすべて塗り直したので、2.5Lの缶をすべて使い切った。
 新築時に使ったのは粘りの強い塗料だったが、今回は補修ということもあり、刷毛塗りが可能で浸透性の強い塗料に変えた。塗るときに力がいらないので、こちらの方が格段に楽である。
 これらのすべての作業は、仕事と天候の合間をぬって行ったが、延べ1週間はかかったと思う。すべて自分でやったので費用はプロの1/10くらいで済んだ。何より、家に対する愛おしさが全然違ってくる。家族の信頼関係もより一層強固になるであろう。時間と熱意のある方には、ぜひともお勧めしたい。