家作りエッセイ


木造住宅の強さ.... 2006.8.11



「住宅はツーバィフォーが構造的に強いそうですね」と、ある方からの相談メールにあった。その方はそれを理由に、ツーバィフォー工法による住宅を選んだという。
 工法を最初に決めてしまうとそれ以降の選択肢は狭くなるが、それが必ずしも家作り全体の選択幅をせばめることにはならない。むしろあれこれ迷うより、望ましいケースも出てくるかもしれない。

 相談者が「構造的に強いこと」をこの時期に決断の第一理由にしたのは、おそらくいまだに世間を賑わす、いわゆる「構造偽造問題」への不安が背景にあるせいだろう。
「ツーバィフォー工法の住宅は強い」という論理に大きな誤りはないと思うが、「だから他の工法(たとえば在来工法)が構造的に弱い」ということにはならない。「ツーバィフォー工法がなぜ構造的に優れているか?」をよく解析し、そのメリットをうまく取込めば、古い伝統を持つ在来工法であっても、構造的には何らそん色ない住宅が建てられる。

 いろいろ良い面があるのは分かっていても、ツーバィフォー工法で確認申請を通したことは過去に一度もない。在来工法に比べると様々な面での自由度がやや下がるからで、確認申請では在来工法を選択しつつ、ツーバィフォー工法の良い部分を随所に取り入れる、という手法に落着いた。
 たとえば屋根梁にはツーバィ材と専用金物を取り入れているし、外壁下地材にはツーバィフォー工法と全く同じ構造パネル材を用い、耐力壁を兼ねさせている。床材や屋根野地板、天井材に至るまで、同様に構造パネル材を多用し、従来からある火打梁と併用して水平外力に供えている。


2005.12「光望む家」 設計/TOM工房


 在来工法では筋交いに代表される「軸組材」で建物全体を支えているが、対してツーバィフォー工法は、構造パネル材による「壁」で建物全体を支えている。外力を面全体で受け止めることで、荷重が分散されため、いわゆる「構造的に強い」という評価につながっていると思われる。
 在来工法でも筋交いだけに頼らず、構造パネル材を柱や梁に直接釘で打ちつければ、ツーバィフォー工法と同様の効果が得られるし、建築基準法でもこのことはちゃんと認められている。

 私の場合、上記のほかに、個々の建物毎にパソコンソフトで「偏心率」というものを計算し、構造パネル材だけでは軸組のバランスの悪い箇所を、筋交いをさらに加えることで補っている。
「偏心率」とはおそらく一般の方には耳慣れぬ言葉だろう。建物の形状による重心位置と、構造上の中心位置(剛心)とのずれのことで、このずれが大きい建物ほど、地震や強風などによる外力に弱く、壊れやすい建物となる。
 つまり、むやみに壁を増やしたり、壁の強度を増やしてみても、建物全体からみてバランスが悪ければ偏心率は大きくなり、強度は落ちるという皮肉な結果となってしまうのである。
「偏心率をチェックして、建物の構造的な弱点を補正してやる」という作業が大事なのだ。

 あまり知られていないが、通常の木造2階建住宅には、確認申請時に構造計算書を添付する必要はない。義務づけられているのは、建築基準法施行令46条に基づく「軸組計算」だけである。
 この軸組計算、やってみると結構面倒だが、それでも簡易計算であるらしい。この基準に基づいて耐力壁を配置してやると、各階のXY方向における遍心率がおおむね0.3になるという。この「おおむね」というあたりが、あくまで簡易である所以だ。

 きちんとした遍心率を出すには、きちんとした構造計算を建物毎にやるのが一番だが、手間やお金がかかるので、やっている設計者やメーカーはまだまだ少ない。
 私の場合、計算結果を軸組に反映させるのはもちろんだが、印刷してお施主さんにも提出する。自分に課している遍心率の基準値は、XY方向でそれぞれ0.1以下。建築基準法による概略値の1/3以下だ。
 遍心率はゼロに近いほどよいから、この数値なら構造的にはかなり安定する。だが、ソフトをまだ入手してなく、遍心率に関しては勘に頼った自宅の設計では、この自主規制値をやや上回ってしまった。しかし、その後手がけた物件では、すべて0.1以下におさめてある。

 このほか、一般論として木造住宅を強くする手法として、「凹凸のない総2階建て形状か、それに近い形状」「特に1階の出隅部分に開口部(窓)を設けない」「壁が何もない面を設けない」等々、いろいろと取沙汰されている。
 そのほとんどは私自身も現実の設計で取り入れている要素だが、最も肝心なのは先にふれた遍心率の計算を個々の建物毎にきちんと計算し、軸組全体に論理的に反映させることだと私は思う。