家作りエッセイ


家の形をシンプルにする.... 2006.1.22



「間取りプラン優先で家の形を決めるか」あるいは、「あくまで家の形状を優先させ、そこに間取りをはめこんでゆくか」は、家作りの初期段階における重要な問題で、もしかするとハウスメーカーや建築家の選択さえもこれで決まってしまうかもしれない。
 北方型住宅の場合、いくつかのハウスメーカーが完全矩形、あるいは完全総2階などの形状にこだわっていて、極端な場合、「ウチは完全矩形の総2階、フラット屋根しかやりません」などと、お金を出す施主にさえ一切の譲歩を示さないメーカーさえある。

 私の場合もそれほどかたくなではないにせよ、基本的に「矩形の総2階、落雪屋根」というパターンが最も北方型住宅の利に叶っていると信じていて、自宅にもそれは踏襲されているし、お客様にもまずその形状をお勧めする。
 ただ、これはあくまで「基本姿勢」であり、最終的にお客様が種々の条件を事前に受け入れ、納得していただいた場合は、このパターンを崩すこともある。これまでの実績でも、「矩形の総2階、落雪屋根」とそうでない家の比率は半々であり、1階と2階の床面積が異なってみたり、総2階だが屋根はフラットな無落雪屋根だったりする。唯一すべての家で守ってきたのは、「平面的に凸凹の一切ない矩形形状」だけなのである。

 施主の希望に基づいて間取りプランを優先させて計画をすすめてゆくと、普通は平面形状に凸凹が出来る。メーカーや建築家側に特にこだわりがない場合、デザインに変化をつけやすいこともあって、完成した家の平面や立面形状は間取りのツケをもろに受けた、かなり複雑な形状になってしまう。
 だが、単純に家の機能面だけで論ずれば、この複雑な家の形状は住み手にとってほとんど利益とはならない。

 まず、家の形状が単純なほど材料が少なくてローコストの家が出来る。予算がない場合、とにかく正方形に近い家を計画すれば、屋根も壁も床も表面積が最小となり、最小限の材料で済む。すなわち、安くて資源を無駄にせず、地球環境にも優しい家が出来上がる。

 次に断熱性能の問題がある。単純な形状の家は表面積が少ないので、エネルギーロスが少ない。同じ厚さで同じグレードの断熱材を使っても、家の断熱性能を示すQ値には、相当の開きが出てしまう。
 参考までに、過去に私が手がけた例で数値比較すると、1〜2階の床面積を変えた場合とそうでない総2階の家とでは、全く同じ断熱仕様でも、Q値が15%前後も違ってくる。Q値はほぼ冬の暖房エネルギー消費量に比例するから、ランニングコストの差はかなりなものになる。家計や地球環境にも影響する大きな問題だ。

 構造的な強さの問題もある。専門知識のない方でも、複雑な形状の家より、単純な形状の家のほうがより頑丈になることは理解出来るだろう。戸建住宅の構造的な強さで重要な要素を占める「偏心率」という数値を実際に計算してみても、単純形状の家は抜群に安定した数値が出る。
 丈夫な家は長持ちするから、建て替え頻度が少なくて済み、ローコスト。結局は省資源、地球環境にも優しいということになる。
 このほか、機能とは無関係だが、単純な矩形の平面形状の家は、風水で悪いとされる「欠け」が全くないことになり、そちらに強くこだわる方にとっては、大変有利な条件となる。

 単純形状の家はデザイン的変化がつけづらく、とかく見映えを重要視する向きからは反論がありそうだが、それは設計者のセンスで充分対応可能な問題であろう。仮に上記の問題と刺し違えて余りあるほどの素晴らしいデザイン的メリットがあるなら、最終的に選択するのは住み手の自由ではあるが。

 今年は全国的に記録を塗り替えるほどの豪雪に見舞われている。この雪に対しても、単純形状の家は非常に強い。
 下の写真は2006年1月21日の札幌市北区において、同じ地域を同じ日に撮影した写真である。家や屋根の形状によって、雪の被害の受け方が全く違うことがはっきり分かる。

 写真1は平家のフラット屋根(無落雪屋根)だが、平面形状に凹みがあり、なおかつその位置が風下にあたる東側なので巨大な雪庇が出来ている。この家の場合、デザイン的観点からつけたと思われる傾斜した屋上パラペットが結果的に雪を載せやすい形となり、雪庇の巨大化に拍車をかけている。
 写真2は2階建の同じくフラット屋根(無落雪屋根)。平家建よりも風の影響を受けやすいせいか、1よりもさらに巨大な雪庇が出来ている。2階のガラス窓は間近だし、下にある歩道にも近い。早く手を打たないと、事故につながりかねない。
 写真3は同じ家を北側から見たもの。やはり2階平面形状に凹みがある。雪庇がバルコニーに積もった雪と一体化してしまい、裏側にある2階の窓はもはや機能していない。

 写真4は私の住む自宅兼事務所を東側から撮ったもの。勾配0.5の落雪屋根で、雪止め金具を3列つけている。落雪に関しては、7シーズンを経たが全く問題になっていない。1階車庫はフラット屋根なので年に1回は雪下ろしをするが、建物本体は一度も雪下ろしをしたことがない。
 平面立面に凸凹が一切なく、余分な飾りのないシンプルな屋根形状なので、例年雪庇はあまり出来ないが、これでも今年は一番ひどい。ただ、万一雪庇が落ちても、下は車庫の屋根が固くガードしているので、事故にはならない。車庫は車を守り、雪よけになりつつ、単調になりがちな外部デザインに変化をつける多様な役目をしている。

 北国ではフラット屋根(無落雪屋根)がブームのようになっていて、「フラット屋根にさえすれば万事OK」のように吹聴する業者も少なくないが、これらの写真を見ると、肝心なのは屋根の形状や勾配ではなく、平面立面形状の単純化、無用な飾りのないシンプルな屋根形状にあることが分かる。
 業者の言い分をうのみにせず、何が真実かを自分の目でよく確かめることだ。