家作りエッセイ
勘では決められない陽当たり.... 2005.12.11
自分で請負った設計物件のハード面にはかなりこだわるが、他にはない特徴がもしあるとすれば、物件毎に詳細に描く日影図はその代表だろうか。
大手ハウスメーカーでもかなり高名な建築家でも、家作りで極めて重要な要素を占める陽当たりの詳細な検討、つまりは日影シミュレート図を個人住宅レベルで描く例は稀である。
小住宅でも模型を作ってデザイン面での詳細な検討を重ねるケースは多いが、仕事としてはやや地味な日影図を描くことがほとんどないのは、作業がとても難しく、面倒だからだろう。小人数の設計事務所や日々の業務やノルマに追われているハウスメーカーがもし本気でやろうとすると、外注に頼らざるを得ない。経費やスピード面等の諸事情で、日照に関しては、結局は勘に頼っているのが現状である。土地が狭いという宿命的な課題を背負っている多くの日本の住宅地では、「陽当たりの心配は皆無」などという恵まれた敷地には、ほとんどお目にかかれない。
元請けとしてお客様から直接仕事を請負うようになってまだ日が浅い私でも、これまで陽当たりの配慮を全くしなくて済んだ物件は、南側に広大な土地があった「とわの家」だけだ。他の物件は自宅も含め、すべて陽当たり面での不安があり、詳細な日影図を描いて日照時間を正確にシミュレート。それを元に、家の配置や間取り、窓の位置や高さなどの細かい微調整を行ってきた。
私の住む北海道のような北方型住宅の地域においては、高断熱や高気密と同様に日照がハード面で要求される大切な要素であることは疑いもない。陽当たりが懸念される物件においては、論理的手法に裏づけられた日照計算を実施し、プランニングの初期段階で依頼主に明確に示すべきだろう。日本人は特に陽当たりに敏感のようで、これまで「陽当たりは気にしません」という鷹揚な依頼主には会ったことがない。誰もが大なり小なり陽当たりを気にしていて、時には「陽当たりを最優先で設計して欲しい」とまっ先に申し出る方さえいる。
大規模開発された土地などで、プライバシーに難があるにも関わらず、南側道路や角地がまっ先に売れ、結果として価格もこの種の土地が最も高い。この大きな理由がおそらく陽当たりにあると思われる。日本人、特に寒い地方に住む人々にとって、陽当たりはかくも重大事なのだ。諸事情でサイトにすべてを公表することは出来ないが、これまでネット経由で日影図だけの仕事を依頼されたことが数多くある。多くは土地を入手する以前の物件だった。この種の業務に迅速に対応出来る業者、安価で手掛ける業者がいないことが裏づけられる。
日照計算の具体的手法は以下の通りである。
敷地とその周辺の平面形状や高低差、敷地緯度や方位等のデータなるべく詳しく得る。
これらのデータを専用CADソフトに詳細に入力。
(周辺建物などの寸法や配置は、経験的にほぼ正確に分かる)
該当建物や周辺でまだ建っていない建物は、敷地の法的規制から建物を想定。
(このとき、周辺建物は法的規制ぎりぎりで建てられるものと考える)
北海道の場合、冬至の午前9時〜午後3時まで、およそ1時間毎に日影図を描く。
日照に問題がある場合、春分(秋分)から冬至前後までの日を数日きざみで細かく設定し、影が建物に影響を及ぼし始める時期を探り出す。
場合によっては、当初想定した建物の規模や床の高さ、部屋の配置などを変更して再度検討する。
目標とする日照時間は建築基準法の数値をひとつの目安とする。
敷地に余裕があり、陽当たりでかなり有利と当初思われていた物件でも、以上のようなシミュレーションを試みた結果、依頼主が日照時間の少ないことに驚き、計画の大幅変更を決意した例が過去にかなりある。
日影図の出力形態は上空から見たイラストになっているので、誰でも瞬時に理解できる。依頼主を動かし、納得していただくのに必要なのは、勘に頼った100の言葉より、理論に裏づけられた数枚の確かな図なのだ。