1998...第4回入選
 STEAM RONDE 〜蒸気輪舞



 2度目の応募となるこの年のテーマは『雪の生活文化、雪の街に映えるパブリックデザイン』だった。正直いって、あまり得意な分野ではない。個人の家を彩るデザインなら何とかなるが、「パブリック」となるといささか心もとない。
 だが、大賞に輝いたわけでもないのに、一度だけで挑戦を止めるのも心残りだった。前回いただいた10万円というおいしい賞金の額も頭の隅にちらつく。何とか頭をひねっていい作品を考えだそうと思った。
 テーマを知ってから漠然と抱いたイメージは、前回に続いて「寒さ」「冬」「動くもの」というキーワードである。どの街でも使えるサインではなく、北国特有のもの、特に寒い冬にこそ真価を発揮するデザイン、そんなものをあれこれ考えていた。

 そんなある日、以前我が家にホームステイしたカナダの子供が置いていった本の中に、カナダのある街角のシンボルとして蒸気を使った時計があったことをふと思い出した。
(そうだ、蒸気は寒ければ寒いほど勢いが増す。今度はこれをエネルギー源にして何らかのサインを造り出してやろう…)
 前回と同じ閃きである。家作りや家具作りの場合もそうであるように、そもそも私のすべてのデザイン手法がこの「閃き」にあると言っても過言ではない。もちろんそれが出てくるまでには、長い「考え悩む時間」も必要不可欠だった。そして閃きの質を高めるための日常のたゆみなきイメージトレーニングも…。

 環境保護や省エネの世情を考え、蒸気は建物にあるボイラの余熱を使う。蒸気をパイプから吹出させ、パイプの先端にはリードをつけ、電気的にコントロールしてある種の「メロディ」を奏でさせる…。こうしてまたしてもイモづる式にアイデアは湧き出た。
 このときは仕事が暇でたっぷり時間があり、充分に検討を重ねた結果、下のようなプレゼンテーションが余裕をもって完成した。(文章とイラストは応募時のまま)



CONCEPT



 寒い冬の朝、人々の吐く息や車の排気ガスは白く凍り、微細な氷の妖精たちの優雅な舞いを大気中に繰り広げます。STEAM RONDEはこうした温暖湿潤空気から寒冷大気へのメッセージを利用したパブリックサインです。
 文字や絵を一切使わず、様々な形に加工されたパイプとそこから排出される圧縮水蒸気、そしてそれを使った音だけで対象物を表示します。標識というより彫刻のイメージに近く、街並や自然環境にもやさしくマッチします。

 圧縮水蒸気は機械的、電気的にコントロールされ、パイプ先端に取りつけらたリードによって、単純なメロディを繰り返したり、決められた時刻に定期的に奏でたりします。
 パイプの材質、形状、配置、そして奏でるメロディは、表示される場所や対象物にふさわしいイメージのものを選択します。外部照明などと組み合わせることにより、さまざまに変化する水蒸気の優雅なロンド(輪舞)が北の街角に繰り広げられます。



DETAIL



STEAM RONDE(スチーム・ロンド)は文字や絵を一切使わず、様々な形に加工された音階パイプ、そこから排出される圧縮水蒸気、そしてその水蒸気圧で奏でられるメロディとを使って対象を表示します。

音階パイプの先端にはリードが取りつけられ、笛吹きケトルや蒸気機関車の警笛のように、内部からの水蒸気圧でさまざまな音を奏でます。


圧縮水蒸気は機械的、電気的にコントロールされ、音階パイプ途中の電磁弁を開閉して単純なメロディを繰り返したり、決められた時刻に奏でたりします。この水蒸気は付属施設のボイラ余熱などを利用します。

音階パイプの数は2オクターブ分15本程度とし、材質、形状、配置、奏でるメロディは、表示される対象や場所にふさわしいイメージのものを選択します。


 充分に時間をかけたこともあり、このときのプレゼンには自分でも自信があった。パソコンやソフト、プリンタの扱いにもかなり慣れてきた時期で、これらのツールを駆使して作り上げたイラストの美しさは、いま自分で見てもほれぼれするほどだ。だが、皮肉なことに結果は前回よりもダウン。それでも入賞には違いないのだから、素直に喜ぶべきなのだろう。

 振り返ってみれば、前回授賞の「庭のクマゲラ君」に比べると、発想面での独創性にやや欠けていた。コンペはすべてそうだが、レベルが高くなればなるほど、この「まだ誰もが考えついていない独創性」が最重要視される。
 何かのアイデアを応用する場合でも、自分なりの独創的なアレンジがなければ高い評価は得られない。ジャンルはまるで違うが、文学賞などでの基準もおそらく同じだろう。
 それなりの結果は出せたが、ちょっとほろ苦い味、そんな印象の授賞だった。