1996...第3回佳作
 庭のクマゲラ君 〜WOODPECKER IN THE GARDEN



 初めての挑戦となるこの年のテーマは『雪の生活文化、雪と楽しむ〜輝き・彩り〜』だった。テーマとしては絞り込まれていて分りやすく、素人にも取っつきやすい。
 要項を見てまず真っ先に頭に思い浮かんだのは、雪を使ったオモチャのようなイメージだった。「楽しむ」→「オモチャ」という実に単純な発想なのだが、この怖いもの知らずの単純さが、結果的に功を奏した。デザインを論ずるうえでインスピレーション、すなわち直感力は極めて大切な要素なのである。
 当時はまだマンション住まいだったが、冬になるとテラスの手すりの部分に木の台を載せ、小鳥たちの給餌場にしていた。ところが上に屋根のない構造だったので、雪の降った日はせっかく置いたパン屑がすっかり雪に埋もれてしまう。その都度雪を落として対処していたのだが、そんな手間暇をかけているさなかに、突然作品のアイディアが閃いた。

(煩わしいこの雪落としを逆手にとって、動くオモチャが作り出せないか…)
 生まれ育った豪雪地帯では、松の枝に積もった雪がやがて自身の重さに耐え切れずに落下し、枝は反作用で大きく上に跳ね上がる。そんな風景をいつも目にしていた。その力を応用すれば、自然の雪を使った動くオモチャが出来る!
 この閃きをいったん手にしてしまえば、もう作品は出来上がったも同然で、あとはイモづる式にアイデアは湧き出てくる。小鳥の給餌場を見て思いついたのだから、オモチャは鳥にしよう。動くついでに、何かにぶつかって音を出せるようにしてやろう。いわゆる「ししおどし」の雪国版だ。鳥→音となると、鳥の種類はキツツキ以外に考えられない。しかも、北海道固有の大型キツツキ、「クマゲラ君」に登場していただこう…。

 かくして締切前日という綱渡りのスケジュールの中、下のようなプレゼンテーションがわずか一日で完成した。(文章とイラストは応募時のまま)



CONCEPT



 キツツキの総称で知られるクマゲラは、この北の大地に住む、日本最大のキツツキ類です。激しく木の幹を叩く姿は、赤い帽子をかぶったそのひょうきんな風貌と相まって、森の人気者としての地位を不動のものにしています。そんなクマゲラ君がもし、私たちの庭先にいつもいてくれたら、きっとすてきでしょう。
 雪の降る日、庭の木の枝やバルコニーの手すりに山のように降り積もる雪を、部屋の窓から恨めしい思いで眺めた記憶はありませんか?積もった雪は、ある限界を越えたり、あるいは寒気が緩めば自然に落ちてしまいます。でも、この自然落下のパワーを放っておく手はありません。

 そこで庭のクマゲラ君の登場です。彼が力を持つのは冬の季節、それも、激しく雪の降る日に限っています。降り積もる雪が落ちるときの力を利用した音の出る庭のマスコット、それが庭のクマゲラ君のなのです。



DETAIL



 庭のクマゲラ君は、木製の胴体と胴体下端につけられた扇形のプラスチック板とで出来ています。このプラスチック板は尾羽根を模しています。

 庭の立木や人工のポールに取付けられたクマゲラ君は、その広く大きな尾羽根に降り積もる雪の重みで、次第にたわんできます。そしてそれがある限界に達した瞬間、降り積もった雪は一度に落下し、その反動で彼は一瞬で元の状態に戻り、その拍子に元の位置にあったポールに激しい打撃を与えます。その音は、静まりかえった冬の庭に、きっと心地よい音色として響き渡ることでしょう。

 彼は場所を選びません。猫がやってきても、決して逃げません。庭のないマンション住まいの方なら、バルコニーの手すりに彼を止まらせてみましょう。そして窓から降り続く雪を見ながら、いつ彼が打撃を開始するのかを子供たちと優しく見守ってあげましょう。
 おや?今日も雪ですね。また雪かきに悩まされそうです。でも、庭のクマゲラ君があなたの庭にいれば、この雪だって、まんざらじゃないと思いませんか?


 このときの賞金が10万円で、当時妻から借金して買ったばかりのパソコン(マック)の返済に全額あてた。閃いて形にするまでの時間はごくわずかだが、ツボにはまりさえすれば結果はかけた時間に必ずしも比例しない典型であろう。
 振り返ってみると、このときのプレゼン(デザインなどのイメージを文章や写真、イラストなどを用いて他に分りやすい形に表すこと)は実にシンプルなものだった。よくあんな稚拙なもので授賞出来たものだと我ながら感心する。
 デザインの専門教育を受けると、プレゼンのさまざまな手法を学ぶことが出来るが、機械科出身の私にそんな経験はもちろんない。しかたなく、娘の学校の卒業製作展などで見たプレゼンの記憶を頼りに、見よう見まねでそれらしきものを何とか作り上げた。

 作品の訴求力という点でプレゼンは極めて重要である。各種コンペではプロの広告かと見まがうような素晴らしいプレゼンに出会うことも少なくない。だが、結局のところデザインの本質は作品のコンセプトそのものにあり、プレゼンはあくまで脇役に過ぎないのだ。そんなことを考えさせられた最初の授賞だった。