Soccer Coaching/Ver.5  キック編

 今回はインステップキックを中心にした、キックの練習方法について書いてみます。



ボールを足の中心で捕らえる



 止める蹴るはサッカーの基本中の基本ですが、「蹴る」すなわち、より遠く、高く、強く蹴るためには、まずボールを足の中心で正確に捕らえることが最も大切であると、最近になってつくづく思います。
 そのために、まず蹴る瞬間にボールを良く見ることはもちろんのことですが、足が自然にボールの中心を捕らえられるような空気感覚を練習で身につける。それが出来れば最高です。そして、その感覚を養うには、地味でもインステップでのリフティングを数多くこなすことが、結局は近道なんだとも思います。

 競って数だけをこなすリフティング練習はあまり好きではありませんが、「一回一回ていねいに足の中心でボールの中心を捕らえる」という目的意識を持ってリフティングをこなせば、比較的短期間で効果は上がると思います。
 かって私の女子チームでは、「学年数」×10を目途にノルマを課し、インステップでのリフティングを消化させていました。

 同じ練習を二人一組でやるのも、練習の効率は落ちますがより実戦的です。


●二人一組で向かい合い、一人がもう一人の足元に向かってボールをトス。

●もらった方は軽く足踏みしながらインステップキックで相手の胸に向かってボールを蹴り返す。

●受け手は後ずさりしながらボールを受け取る。蹴り手は少しずつ前に歩きながら繰り返す。


 歩きながらやるのは、より実戦に近い形に身体の動きをもってゆくため。小さい子ではトスがうまく出来ないことも多いので、大きい子と組ませるなり、ワンバンドでトスさせるなりの工夫が必要です。



蹴る瞬間に足首を固定する



 ボールを正確に捕らえる以外に、「足首を固定する」ということもキックの大切なポイントです。特に小さな子や初心者はここが出来ていません。前述のリフティング練習の中で、足首固定も同時に会得させることも可能でしょうが、なかなか難しい。
 私自身がサッカーを始めた頃も、ここが全く分かっていませんでした。インステップ(足首を水平に伸ばして固定した形)で蹴っているはずが、すべてトゥーキック(足首を曲げたまま、つま先で蹴る)で蹴っていたわけです。

 私の場合、ある方に「足の親指を前に伸ばし、足の裏で靴の底をつかむ感じで蹴ってごらん」と言われ、その通りにやっているうち、自然に足首が固定されました。
 なるほどと思い、同じことを子供に言って覚え込ませようとしたら、どうもうまくいかない。どうやら「靴の底をつかむ」という言い回しが子供には理解出来ないようです。そこでいろいろ言葉を工夫して、何とか理解させようとしてみました。

●壁などの近くにゆき、「足の先で壁をつついてごらん」と言う。つつく瞬間に足首は固定されているはずなので、その感覚を覚えさせる。

●芝生などの柔らかい地面に連れてゆき、「君はバレリーナだ。つま先立ちで立ってごらん」と言う。同様に足首は自然に固定されるはず。


 足首を手で持って強引に固定させようとしたこともありますが、全く無駄でした。ある方に、まずは蹴りやすいトゥーキックでどんどん蹴らせ、だんだん遠くに飛び始めたら、少しずつ足首を水平に(つまりインステップキックの形に)もっていくと上達が早い、と言われ、試したこともあります。これは特に男子の場合、なかなか効果的でした。



最後の一歩を広く



 足首が固定され、ボールの中心を正確に捕らえられたら、次はより遠くに飛ばす技を身につけさせたいもの。要はキックのときの足のスイングを大きくしてやればボールは遠くに飛ぶのですが、これが子供にはなかなか分かりにくい。
 一番簡単な覚えさせ方は、「蹴るときに最後の一歩を大きくしてごらん」と言ってあげることです。そうすることで、自然に足の振り幅が大きくなります。
 かって私のチームでは、「持ち蹴り」と称して、この感覚を養うための二人一組でのキック練習を欠かさず行っていました。


●二人一組で20〜50mくらい離れる。離れる距離は学年数×10mがおおよその目安。

●ボールを持ちながら2〜3歩あるき、ボールを軽くトスしてからノーバンド(ダイレクト)で相手に向かって大きく蹴る。

●もらった方は落下点に素早く走り、手で受け止める。

●左右5本ずつ、合計一人10本行う。同様の練習をワンバンド(以上)でも行う。やってみると分かりますが、地面にバウンドさせた方が難しくなります。


 なんだかキーパーのパントキック練習のようですが、これでもサッカーの色々な基本動作を含んだ、奥の深い練習なのです。
 まず、走りながら前にボールを蹴らせるので、より実戦に近い。走りながらだと「最後の一歩を大きくする」という感覚も養いやすい。受ける方は「より早く浮き玉の落下点に入る」という感覚が、自然に養える。(このとき、足や身体でボールを止めさせるのも一考)ボールが浮いている状態で前に蹴るので、インステップで確実にボールを捕らえる感覚を養える。
 スコ〜ンとボールが空高く上がったときの感触が爽快らしく、「この練習、大好き」と、子供たちには大評判の練習でした。

 余祿として、この練習の中から自然に「僕(私)キーパーやってもいい」という奇特な子が出てきたり、隠れていたキーパーの資質を見つけたりすることもあります。とにかく、昨今は子供たちにキーパーの成り手がいないので、選手の中からキーパーを見つけ出す(あるいは指命する)のは、コーチとして大切な仕事なのです。



膝下のスイングを鋭く



 ボールが遠くに飛び始めたら、残る課題はボールのスピードです。特にシュートにはある程度のスピードが必要です。
 ボールのスピードはその子の持つ筋肉が大きく影響しているようで、筋肉が強い子のキックには年齢や身体の大小にあまり関係なく、スピードがあります。

 筋肉の条件が同じであれば、キックのときに膝をあまり上にあげず、インパクトの瞬間に膝を中心にして膝から下の部分を鋭く前に振ってやれば、よりスピードは出ます。しかし、この感覚を子供に覚えさせるのは、容易なことではありません。
「膝から下を時計の振り子みたいに振って蹴ってごらん」などと、いろいろな方法で試してみましたが、あまり効果的ではありませんでした。自転車の古チューブの一方を木の幹などに巻きつけ、もう一方を足首にひっかけて前後させ、感覚を覚えさそうとしたこともあります。
 しかし、小学生の時期に過度の筋力負荷をかけることには問題があることを知り、この練習はすぐに中止しました。

 年齢が進んで筋肉がつけば、ボールのスピードは自然に増すはずなので、幼少年期にはこうした練習は不要だろうと思います。


 素人なりに手探りでいろいろ工夫してきた練習方法をつれづれに書き綴ってきましたが、今回でこの講座を終了させいただきます。連載中、みなさまからいただきました数々の励まし、共感のメール、大変ありがとうございました。